一橋大学「連合寄付講座」

2010年度“現代労働組合論I”講義録

第9回(6/4)

課題と取り組み⑤ 組織強化・拡大

ゲストスピーカー:水谷雄二(連合総合組織局長)

 みなさん、こんにちは。
私は1977年にジャスコ(現在のイオン)に入社しました。当時は、組合が結成されて8年くらい経っていました。組合は、社員が入社と同時に組合員になるというユニオンショップ協定を会社と締結していましたので、私は入社と同時に組合員になりました。そして、半年後くらいから組合活動に関わるようになりました。新入社員のときに受けたセミナーで、「若いうちは仕事も組合も頑張らなきゃだめだ」と話されました。労働者は、会社の業務命令で動いていますが、組合は業務命令ができない組織です。みんなで協議して活動を行なっています。組合員に納得していただかないと、活動が進みませんので、マネジメントの勉強にもなるというお話でした。また、「仕事だけして管理職になっても、物の見方が一元的だ」というお話も印象に残っています。労働組合の役員をしていますと、経営的な視点だけでなく、労働者の視点でも発言できます。いわゆる多元的にものが見えるということでした。いま振り返ってみますと、自分のために労働組合活動に携わってきたような気がします。
今回は、私が体験してきましたパートの組織化と仲間づくり、仲間の拡大、そして処遇改善の取り組みをお話します。まず、非正規労働者の現状と連合の取り組みについてお話しし、その後に、ジャスコでの経験を話したいと思います。

1.非正規労働者の現状

(1)非正規労働者とは
非正規労働者は、多くの方が有期契約で働いています。短時間勤務の方も対象に入ります。間接雇用の方も非正規労働者です。これは派遣や請負など、当該企業が直接労働契約を結ばずに、他の企業と雇用関係のある方で、当該企業で働いている方です。
「非正規」と言う呼称については、パートのみなさんから、「なぜ私たちが非正規と呼ばれるの」という苦情をいただいこともあります。連合もどんな呼称が良いか、色々と検討しましたが、良い呼び方がありませんので、今は「非正規」を使っています。これは雇用形態が正規か非正規かということであり、働くということについては何の違いもありません。これを常に意識をしながら活動をしています。

(2)急増しつつある非正規労働者
非正規労働者は、この10年間で大変増えました。1997年にアジア通貨危機が起こり、日本では金融危機が起こりました。1997年以降はデフレの時代になっていきます。正社員の絶対数が減少していきます。2000年初頭から景気が回復してきますが、減った分の正社員を増やすのではなく、派遣やパートなどの非正規労働者を採用してきました。
2008年当時の調査では、2003年から2008年の5年間に初めて就職をするときに、非正規で働いた方が43.8%いました。その後、そのまま非正規だったという方は51.4%です。

(3)急増の背景
非正規労働者が急増してきた背景は、グローバル化のなかで新自由主義経済や市場万能主義などとアメリカの価値観が日本に浸透してきたことがあげられます。それを遂行したのが小泉さんや竹中さんです。日本的経営の良さだった中・長期的な利益追求や、終身雇用慣行をなくし、短期の利益、株主の利益を優先させようとしてきました。
そして、労働分野の最大の規制緩和は労働者派遣法の改正でした。それまで、派遣対象業務は専門業種に限られていましたが、原則自由化され、2004年には製造業にも派遣が認められるようになりました。
厚生労働省の2008年に調査によると、非正規を活用する理由は、賃金の節約(コストカット)と仕事の繁閑への対応です。日本では、なかなか解雇ができないので、派遣や有期契約で働いていただき、契約期間が満了したら、「はい、ありがとうございました、お辞めください」と言える人たちの採用を増やしてきました。当時、「自己責任」「流動型」「勝ち組」「負け組」「ヘッドハンティング」などの言葉が流行しました。イオンの社長も「優秀な方はヘッドハンティングで入れたらよい」という発言をしていました。私の周りにもヘッドハンティングされて他の会社で働いている方もいましたし、逆にヘッドハンティングでイオンに入ってこられる方もいました。
派遣を活用する理由に、正社員を確保できないということもあります。景気が回復してくると、中小企業は正社員を雇いたくても、募集してもなかなか来てくれないということです。
私の出身のイオンでは、新店舗を出すときに社員だけでなく、パートも募集しますが、100人募集しても50名くらいしか集まらないときがあります。店の開店が迫れば、残りの50名については派遣の方にお願いするしかありません。その企業がコスト削減のためにだけ派遣労働者を雇っているのだけではなく、やむを得ず派遣を使わざるを得ない場合もあります。

(4)非正規労働者の質も変化
ひとつ目の変化は、非正規労働者の基幹化です。これまで非正規の方々には補助的な業務が多かったのですが、非正規労働者が増えることによって、基幹的業務をされる方も多くなってきました。以前は、スーパーマーケットや外食レストランの店長は社員がしていましたが、最近は、イオンも一部では、パートの店長がおります。リンガーハットやスカイラークでもパートが店長の店舗があります。
パートであっても、やる気、能力のある方は店長として働いていただいた方が、やりがいが出てくると思います。そのような仕事に就いていただいたときに、仕事にふさわしい処遇や労働条件になっているかどうか、そこが大きな課題だと思います。
2つ目の変化は、稼ぎ手が多くなったということです。以前、パートは、ちょっと空いた時間に自分の小遣い稼ぎ程度に働くという家計補助的な方が大半でしたが、2008年の調査で初めて「私がこの家庭の稼ぎ手です」「私の収入で生活します」と言う方が、補助的な方を上回り、全体の45%に達しました。これは母子家庭や若者が増えたということが理由です。勤めた会社の倒産やリストラで辞めざるを得なかったとき、正社員の募集がなかったので、やむなく非正規という雇用形態で働くこととなった方もいます。したがって、税制上の扶養になれる103万円以下で働く方よりも、稼げるだけ稼ぎたいという非正規が増えてきました。
3つ目の変化は、労働者派遣の質の変化です。専門的な能力を持った人を臨時的一時的に使用することが本来の派遣労働でした。しかし、どんどん規制緩和された結果、本来直接雇用して、従業員として働いていただかなければならない仕事を、派遣労働者や期間工などの非正規で対応するようになりました。いわゆる常用労働者の代替です。日雇い派遣は、労働者が登録しておいて、企業の必要な日に呼び出されて、働くという派遣の形態です。
偽装請負は一時期大変問題になりました。本来の請負は、工場の1つのラインをA社に丸ごと請け負ってもらうことです。請負会社が自社の従業員を使って仕事をし、指示命令権はその請負会社が持ちます。ところが偽装請負は、形式は請負にしながら、実際は、その工場の管理監督者が請負企業の労働者に直接指揮命令をしている場合を偽装請負と言います。
ある日本の大手メーカーも、この偽装請負で訴えられました。なぜ、直接採用できないのでしょうか。従業員を雇えば、労務コストが掛かり、雇用責任を負わなければなりません。請負であれば、コストを低減でき、雇用責任も負わなくてもよいということです。

(5)非正規雇用問題は、社会全体の問題に
有期契約は、いつ雇用契約が打ち切られるかわからない不安定な雇用です。格差、貧困、ワーキングプアという言葉がブームになりましたが、高学歴ワーキングプアという言葉もあります。大学や高校の非常勤講師の方からの相談を受けることがありますが、大学や高校の正規教員になれず、非常勤講師として就職すると、1コマ教えていくらですから、学校の都合でコマ数が減れば収入が減ります。コマ数がどんどん減り、月7万円では生活できませんという相談でした。大学院を出て、教える場に立ちたいと思っても、講師のポストはなく、仕事がなくて、空いた時間にはコンビニでアルバイトをせざるを得ないということになります。
税や社会保険は収入に合わせて払いますから、収入が減れば、税金や社会保険料も少なくなります。その結果、日本全体では、財源が問題になってきます。それは労働問題だけでなく、社会全体の問題です。また、労働災害が急増しています。企業は、労働者をあまり教育もせずに、現場に出すので、労働災害が2000年から2008年で約8倍増えています。収入がなければなかなか結婚できません。子供も生むことができませんので、ますます少子化が進みます。
若年労働者は、精神的にも居場所がなくなってきています。秋葉原の無差別殺傷事件は記憶に新しいと思いますが、あのような事件を許してはいけないし、あってはなりません。彼のブログには、自分は会社では部品のように扱われて、「おい、派遣、これやっとけ。おい、派遣、あれどうした」と言われた。私にも名前がある。人間として扱われなかった、自分がいなくなっても誰か代わりの人が来てすぐに対応できる、まるで、部品の入れ替えのようだ----、このような思いが書いてあったそうです。
私が各労働組合のみなさんに呼びかけているのは、職場で花見をするのであれば、派遣やパートのみなさんにも、職場の仲間として呼び掛けてください、ということです。労働組合は、やれることをしっかりやっていくことが大切です。

(6)さらに低い労働組合組織率
パート労働者数は、2008年から84万人増え、2009年は1300万を超えました。2008年はリーマンショック後の景気が大変落ち込んだ時です。企業は、正社員を減らし、パートを雇ったことがこの数字からも読み取れます。パートの組織労働者数(組合員数)は70万人で、組織率は5.3%です。労働者全体の組織率は18.5%で、10人いれば2人が組合員ですが、パートは100人いても組合員は、5人しかいないということです。パートの組織化は大きな課題です。

2.連合の取り組み

(1)パート共闘会議の設置
連合の取り組みの1つめは、パート共闘会議・パート共闘連絡会議の設置です。2006年に設置をしたパート共闘はパートを組織化している産業別組織が力を合わせて、処遇改善や組織化に取り組むことを目的としています。連合としては、以前から非正規問題を認識していましたが、議論ばかりでなかなか進みませんでした。「もう議論ではなく、とにかく行動しよう」と立ち上げたのがパート共闘でした。
パート共闘は14の産別(産業別組織)が集まってスタートしました。もう1つのパート共闘連絡会議は、年間を通じてパートの課題について取り組む場として、23の産別でスタートしましたが、何をめざすのか、どういう運動をしていくのかということが不十分なままのスタートでした。1年間かけて中期的な取り組み指針(ガイドライン)をつくりました。連合や産別が旗を振っても、単組のみなさんがその気持ちにならないとなかなか進みません。パートの処遇の改善や組織化など具体的にめざす道しるべとしてのガイドラインを単組の目線でつくり、取り組みを進めました。

(2)非正規労働センターの設置
連合は1989年に結成されました。マスコミからは、正社員クラブ、大手の集まり、男中心の社会などと揶揄され、連合は非正規問題に取り組んでいましたが、なかなか理解していただけませんでした。そこで、2007年に、非正規労働センターを設置し、非正規問題を連合の中心課題として取り組んでいくことを内外に意思表示しました。取り組みの大きな柱がパート共闘とパート共闘連絡会議の強化です。

(3)パート労働者の実態把握
パート労働者の実態を把握したうえで、問題や課題を発掘していこうと、2つのことを取り組みました。
1つは「パート労働者の集い」です。パートのみなさん100名くらいに集まっていただき、生の声を聞き、意見交換をしました。「みなさん、正社員になりたいですか」と質問しますと、なりたい人もなりたくない人もいます。なりたくない人は、「まだ子どもが小さいので正社員のように8時間働けない」、「親の介護があるので正社員のように働けない」、「正社員のみなさんは毎日、残業して、責任を負わされて、あんな大変なら正社員になりたくありません」ということでした。
また、賃金についての不満もありました。「みなさん、今の賃金についてどう思いますか。不満のある方は手をあげてください」と言うと、何人かが手をあげました。「何が不満ですか」ときくと、「私の時間給は800円です。この10年間で20円しか上がっていません。どうしたら時間給は上がるのですか」という質問でした。その企業のパートの時給は一律でした。10年勤務しても時給は同じです。賃金相場が上がらない限りパートの時間給が上がりませんので、やる気の出せる賃金制度をつくる必要があるという議論になりました。私たちは、こういう場でパートの問題や課題を発掘しています。
もう1つは、2年に1回の「非正規労働者生活アンケート」の実施です。事情があって仕事ができない方は、生活保護制度があり、給付金が受け取れます。生活保護の給付水準よりも、一生懸命子どもを育てながら働いている母子家庭のお母さんの収入が少ないという事実が明らかになりました。そして、なぜ、働いている人の収入が生活保護の給付金よりも低いのか、議論になりました。

2.今、なぜ単組が非正規労働問題に取り組むのか

(1)単組が取り組む意義
今、なぜ単組が非正規労働問題に取り組むのか。企業内労働組合ですから、その企業の従業員の幸せを実現するためには、企業が健全に成長をしていかなければなりません。そこで働く従業員が、社員やパートだという雇用形態の壁を乗り越えて自分たちの職場を守っていくために、スクラムを組んでいかないと、こんな厳しい時代は乗り越えられないということです。従業員が抱える不平不満を解決し、働きがい、やりがいを阻害している要因を取り除いていくということです。従業員が抱える不平不満は何も賃金や処遇面だけではありません。上司との人間関係もあります。セクハラとか、パワハラの問題もあります。こんなに一生懸命働いているのに、なぜ、評価されないのかという不満もあります。仕事だけでなく、プライベートな問題もあります。個人のプライベートな問題は関係ないということではなく、安定した家庭がなければ良い仕事はできませんので、労働組合は真剣に組合員のプライベートな問題にも向き合って解決を支援していきます。
家庭で奥さんともめて離婚しそうだという人は精神的に落ち着きませんから、なかなか良い仕事ができません。労働組合が離婚の調停をするわけではありませんが、そういうプライベートな問題も含めて取り組み、問題を解決して、良い職場を守っていくことにしています。

(2)単組の視点での課題
それでは、単組レベルでどういう視点で取り組んでいくかということについてお話します。
1つは雇用区分ごとの労務管理です。今までは社員は社員、パートはパートという労務管理でした。これからは職務内容を中心にして、一体的な労務管理をしていかなければいけません。店長ならば店長職に応じた労務管理を、社員であれパートであれ、関係なく労務管理をしていくということです。
2つ目は、前にお話しました「非正規労働者の基幹化、稼ぎ手や非自発的な増加」です。自分の空いた時間に進んで働きたいという方は自発的パートです。しかし、本当はフルタイムの正社員で働きたいのに、社員の募集がないので、やむなくパートで働いている方を非自発的パートといいます。今、非自発的パートが増加をしています。そうしますと、職務に見合った処遇や正社員への転換制度をつくっていかなければなりません。どうすれば正社員にチャレンジできるのか、透明化された制度をつくらなければなりません。
3つめは正社員との処遇格差です。同じような仕事をしている社員とパートの処遇格差は大体10対6だと言われています。職務内容や人材発掘の視点から均等均衡待遇をしなければいけません。パートであっても店長であれば、正社員の店長と均等均衡処遇にしなければいけません。他方、転勤しない人と、全国に転居を伴う転勤をする人とでは差があって当然ですから、その点は制度のなかで活かしていくことが必要です。
4つめは雇用・収入の安定です。長時間労働の正社員か、不安定な非正規雇用労働者かの二者択一ではいけないということです。
5つめは長期的視点での人材育成や技術伝承などの希薄化です。有期雇用契約が増えてきますと、長期の視点で人材を育成していくというシステムが壊れていきます。かつては新卒で入社して定年まで勤める終身雇用が日本の企業で一般的でした。定年まで勤めますから、長期の視点で人材育成ができました。しかし、いつ辞めるかわらない有期雇用労働者を長期的な視点から育成することはできません。これが企業の大きな課題になっています。せっかく持っている技術が継承できないという課題もあります。要員配置や、正社員と非正規労働者の構成は、会社の専権事項です。しかし、そのことによって、企業がうまくいかなくなり、従業員の働きがいが阻害されるのであれば、労働組合は会社の専権事項にも関与をしていかなければなりません。
6つ目は組織率の低下です。組織率の低下に対して、これからは、正社員だけの労働組合から非正規労働者を含めた従業員全員が主体的に参加する労働運動を進めていかなければならないと思います。

4.組織化への具体的取り組み

 こういう課題をクリアにしていくためにも、具体的にどういう取り組みをしていくのかということが今日の本題です。

(1)組織化の取り組み~仲間づくり
まずは組織化です。組織化は、仲間づくり、仲間の拡大です。流通やサービス産業で国際的な産別があります。UNI(Union International Network)と言います。世界各国の1500万人の仲間が集まっています。フィリップ・ジェニングスというイギリス人が書記長ですが、彼は私に会うと「オー、ミズタニ、ソシキカ、ソシキカ」と言います。日本の労働組合の組合づくりは、「組織化」という日本語が国際的にも通用しています。
私は、組織化は、ただ単に組織率を上げたり、組織を拡大することだけでなく、自分が働く職場を守り、働きがいのある職場をつくることだし思っています。家族に、「お父さんが、お母さんが働いている会社ってすごいね」と言われ、誇りが持てるような職場をつくるために、社員やパート、アルバイトなどの雇用形態の壁を乗り越えてがっちりとスクラムを組むことだと思います。
パート共闘連絡会議のガイドラインでは、全労働者を組織化することが最終目標ですが、当面中期目標として、パートの半数以上の組織化を設定しました。

(2)組織化の具体的ステップ
どのように組織化を進めていくかという具体的なステップについてお話しします。
まずはじめは、自分の企業にどれくらい非正規労働者がいるのか、実態を把握することです。まず、正社員以外の非正規労働者がどれくらいいて、どんな労働条件でどんな働き方をしているのかということを、しっかりと知ろうということからスタートします。
続いて、方針の決定です。どういうステップで、いつ頃組織化をしていくかの方針を決めます。そして、事前準備です。組合規約(権利と義務)を見直します。組合費をいくらにするのか、選挙権をどうするのか、委員長に立候補できるのか、組合規約で規制があればそれを見直します。労働協約も見直します。労働協約の組合員の範囲が正社員だけという内容になっている場合は、その見直しもしなければなりません。
オルグ器材は、実際にパート1人ひとりに、「組合に入って一緒に活動しましょう」と呼びかけていく時に活用するパンフレットやビラです。加入を呼びかけていくと、「組合に入ってどういうメリットがあるのですか」など当然質問も出ます。そういう時にどう応えるかというQ&Aもつくります。
経営者への説明も大切です。本来、労働組合の活動は、会社の了解は必要ありません。しかし、「経営者が分かった。良いことではないか」と理解を示すか、理解を示さないかでは、その後の活動内容が全然違ってきます。
私はイオンで2001年にパートの組織化に取り組み、グループ全体で10万人くらいの組織化をしました。1年間かけて会社を説得しました。当初、会社は「組合員になったら、労働条件の引き上げを要求するだろう。そうなればコストアップになる」と言って、なかなか理解してくれませんでした。しかし、「社員とパートとの間に意識の壁があっては、職場は良くならないでしょう。そういう意識の壁を取り除くには同じ労働組合に加入していただき、自分たちの職場を良くする活動、働きやすい環境をつくるために力を合わせなければなりません」と説得を続けました。その結果、組合がパートの方に仕事中に1人ひとり売り場から後方ストックに来てもらって説得を続けることに対して会社は理解をしてくれました。会社の食堂や会議室を借りることもできますし、電話を借りながら加入活動を進めることができましたので、非常にやり易かったです。会社の理解があるかどうかは大変重要です。
加入活動は1人ひとりに組合加入について説明し、説得していく活動です。大変な作業です。なかなか理解していただけない方もいます。そういう方には2回、3回、5回と足を運んで説得をします。「私は宗教上入れません」と言う方もいました。「私の旦那は警察官ですから、私は入れません」という方もいました。仕事であれば業務命令ですむことが、労働組合の活動は、1人ひとりを説得しなければなりません。

(3)組織化に成功するために
私は、連合の非正規労働センターを担当していた時に、パートの組織化に成功した20単組のリーダーにヒアリングをしました。「パートを組織化しようとした決断の背景は何でしょうか」「どういったご苦労、乗り越えなければならない壁があったのですか」と尋ねました。
ヒアリングをしながら感じたことは、組織化に成功した最も大きな要因は、リーダーの断固たる意思や決意だと思いました。いろいろ理由をつけて、やらないリーダーもいますが、リーダーがやらなければならないという決意と信念を持ったときに、初めて成功すると感じました。
ヒアリングをしたリーダーたちの組織化の決断の背景には、仲間意識と処遇格差があります。一緒に働く仲間、同じ職場にいて同じ仕事をしている人が、たまたま契約社員だから自分と労働条件が違って良いのだろうかという思いです。そして、人材の確保です。処遇が悪ければ、人材が他に行ってしまいます。また、職場に非正規労働者が増えて、自分たちの労働組合がすでに過半数代表ではないという状況になったときに、過半数代表を維持するために決断をしたリーダーもいます。
そして、組織化で越えなければならない壁は、組合リーダーや正社員の組合員の意識です。正社員はパートを組織化し、パートの処遇を良くしていくと、企業の中の経費を使うので、自分たちの労働条件が切り下げられるのではないかと思う方がいます。自分たちの労働条件を維持・改善するために、非正規を組織化しない方がよいのではないかと思う正社員の組合員がいます。そういう組合員をいかに説得していくか。組合員の中にも、「そんな手間暇がかかることに手をつけるのか、正社員だけでも運営が難しいのに、その二倍、三倍の人を組合員にして運営ができるのだろうか」という組合員もいます。そういう意識を持っている人たちを説得していくのは大変な労力ですから、また、経営側から異議が出ることもありますから、組合のリーダーが強い決意と信念を持っていないとなかなかやれません。
このようなステップで組織化を進めています。お金もかかります。組合活動のなかで、他の組合活動を一時停止してでも、組織化に取り組み、他の予算を削っても組織化に費やしていくというような気持ちがないと、なかなか組織化が進みません。パートの組織率は全体で5.3%、1300万人のうちのまだ70万です。今後、それぞれの労働組合が取り組んでいかなければならない大きな課題です。

5.処遇改善への取り組み~均等・均衡待遇にむけ~

 それでは組織化をした後、どういう処遇改善に取り組むのかということですが、2010年、パート共闘で具体的にどのような処遇改善への取り組みしたかを説明します。

(1)時給の引き上げ
時間給30円の引き上げ、もしくは絶対額1,000円以上を統一の目標にしました。みなさんは、なんだ1,000円かと思うかもしれませんが、沖縄や九州では629円とか630円です。「時給1,000円」と言っても、実現不可能な地方もありますので、時給30円の引き上げを目標として掲げました。

(2)人事処遇制度
パート共闘で目標として掲げた人事処遇制度の6つの重点項目についてお話します。これらの項目をみんなで力を合わせて改善しましょうというものです。
1つ目は正社員への転換制度の導入です。正社員になりたいパートや契約社員など方が一定の条件を満たせば正社員になる制度をつくりましょうということです。
正社員に職能資格制度や職務給制度など様々な制度があります。しかし、パートは一律で時間給800円というところがあります。そのような職場は、まずは賃金制度をつくり、パートでも頑張って能力もアップして、資格登用試験を受けて合格したら資格が上り、正社員にチャレンジできる、そのような立体的な制度をつくっているところもあります。
どういう制度にしろ、どういう条件があれば正社員になれるのかという透明化された制度をつくりましょうと、2001年から統一目標として取り組んできました。
2つ目が通勤費です。正社員であれば通勤費は全額支給され、パートだから通勤費は出ないという条件を設けているところがあります。こんな不公平なことがありますか、通勤費は正社員と同じ基準にしようとしています。
3つ目は慶弔休暇です。慶弔休暇は、結婚や親が亡くなった時に、有給で与えられる休暇制度です。これも雇用形態で差をつけるのではなく、同じ基準でやりましょうということを統一項目に掲げました。
4点目が昇給ルールの明確化です。正社員は定期昇給制度があり、例えば25歳から26歳になったときに、いくら上がりますと定められています。しかし、パートには、そのような制度がないところが大半です。昇給制度を賃金制度のなかにつくるのが良いのですが、制度化がなかなか進まないのであれば、昇給のルールを労使でつくろうということを統一項目にしました。
5点目は一時金です。パート共闘で、パートのみなさんに集まってもらったときに、あるパートの方が「私は1年間で辛いのは7月と12月です。正社員には賞与や一時金が出る時に、私には賞与も一時金も出ません。しかし、この会社の業績は、社員が頑張ったから上がったのでしょうか。私たちだって頑張ったのです。金額が違っても良いから、私たちにも成果配分があっても良いのではないでしょうか」と話していました。確かにそうです。ということで一時金の目標を掲げました。
6点目は時間外手当です。残業した時の割増賃金です。法律では25%ですが、企業によっては25%、30%、35%と様々です。正社員が30%であれば、パートも残業した時の割増率は同じにしましょうということです。
企業や単組の状況によっては、6項目全部は無理でも、できるところから目標に向けて頑張りましょうということです。

最後に

 みなさんは、これから就職活動をされていくと思いますので、私なりに思うところを最後に申し上げて終わりたいと思います。
いかに、素晴らしい企業をつくっていくかということが労働組合の役割の一つであると思います。私は、素晴らしい企業は、大きく5つの尺度で測られるのではないかと思います。
1つは収益性です。これは経常利益や営業利益です。投下資本に対する利益率も注目されています。2つ目が安定性です。3つ目が成長性です。この3つは経営指標として良く言われることです。私はこの3つ以外に満足度と貢献度、この2つを足した5つで総合的に見て、素晴らしい企業かというのを測るべきだと考えています。
満足度と言うのは従業員のみなさんがどのように思っているかということです。いかに利益を出して成長性があっても、その企業で働いている従業員が不満を抱えて働いているとしたら、素晴らしい企業とは言えないと思います。「自分の企業さえ良ければよい」という企業は素晴らしいとは言えません。環境問題や社会貢献、いかに地域に貢献している企業なのかどうかが大切です。この5つを総合的に見て評価すべきであり、労働組合は、これらに、いかに関与していくかを考えるべきです。皆さんは、これからいろんな企業に入っていかれると思いますが、入った後、それぞれの企業を素晴らしい企業にしていくように、頑張って取り組んでいただけたら幸いです。
ご静聴ありがとうございました。

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