一橋大学「連合寄付講座」

2010年度“現代労働組合論I”講義録

第7回(5/21)

課題と取り組み③労働時間、ワーク・ライフ・バランス

ゲストスピーカー:加藤大典(生保労連中央書記長)

 みなさんこんにちは。生保労連の加藤と申します。出身は第一生命労働組合(第一労組)です。いま36歳です。1996年に第一生命に入社して、15年目です。2003年6月に第一労組中央執行委員になって、組合の活動に本格的に携わることになりました。そして2006年8月から生保労連の副書記長、2008年8月から書記長になりました。家族構成は、妻は私より年上です。職場結婚で、小学校1年生の長女と2歳児という家族構成です。
本日の講義では、生保労連を紹介した後、ワーク・ライフ・バランスについて、生保労連と第一労組の具体的な取り組みをお話しします。

1.生保労連とは

 生保労連の正式名称は、全国生命保険労働組合連合会です。一般に生保労連と呼んでいます。結成は1969年10月で、かれこれ40年、活動しています。前身は全生保、全外連です。生命保険を営業する人たちが全外連という組合を組織していました。全生保は事務職、内勤職の組織でした。それらが1969年に合併して生保労連を結成していまに至っています。組合員数は、内勤職員が57,844人、営業職員が200,393人で、合計258,237人です。連合に加盟している産業別組織のなかで8番目に大きい組合です。生保産業唯一の産別組織です。男女比は2:8で、女性が非常に多い組合です。
いま生命保険会社は日本に47社あります。そのうち18社の20組合で生保労連は組織されています。残りの会社の組合は、損害保険会社系の生保会社、例えば東京海上日動あんしん生命といった会社は損害保険会社の産別組織の損保労連に加盟されています。そのように損保系の会社は損保労連に入っています。また外資系の会社、例えばアフラックはそもそも組合がありません。かんぽ生命は、ゆうちょ銀行や郵便局の方々と一緒に日本郵政グループ労働組合で活動されています。それ以外の会社の組合については、みんな生保労連に入っているとご理解いただければと思います。保険の募集活動をしているときは商売敵ですが、組合活動においては、みんなで業界のことを考えて、少しでも良い産業にしようと取り組んでいます。

 スライド6に基本目標と5つの行動理念と書いてあります。生保労連という組織が目指す社会をまとめてあります。生保産業が健全に発展していくように、そこに働くわれわれが生き生きと働けるように目標と理念を立てています。
次のNEW・チャレンジ宣言(スライド7)は、昨年、生保労連が結成40年を迎えたところで、これを機に、今後どんな活動をしていくべきなのかを議論してまとめたものです。生保労連運動の今後の3つの方向性として、「社会に『貢献』し、社会『信頼』を得る」「安心と働きがいのもてる職場・ルールを作る」「共感のもてる組織や新しい仲間づくりを進める」を打ち出しました。

 次は、2009年度運動方針です(スライド8)。労働組合は必ず運動方針を掲げて取り組みを進めています。生保労連も、ご覧いただいているような8本の柱を掲げて取り組みを進めています。1つ目の「生保産業の社会的使命の達成に向けた取り組み」は、そもそも生保産業は何のために存在するのかということをしっかり労働組合の立場から考えよう、というものです。生命保険というのはいざというときに保険金や給付金をお支払いすることが産業の最大の目的です。そしてまた日本がこれから間違いなく突き進む少子高齢社会や日本の公的保障の限界性を考えると、生保産業の果たすべき役割は小さくないと思います。そう考え、しっかり私たちの役割を果たしていこうと、運動方針の1番目に掲げて取り組んでいます。
次の「総合生活改善闘争の推進」は、春闘の取り組みを指します。賃金を上げようとか労働条件を改善していこうということを春の時期に集中してやります。3つ目の「総合的な労働条件の改善・向上の取り組み」はワーク・ライフ・バランスなどをしっかり推進していこうということです。5番目の「お客さまとともに発展する営業職員体制をめざす取組み」は、お客様と接してがんばっている営業職員の頑張りがなくては産業の発展はないということで項目として掲げています。6番目は、産業別労働組合として、例えば、生命保険に関する税制の問題について国会や監督官庁の金融庁や財務省などに働きかけて、少しでも生保産業が発展するような活動をしようと取り組んでいます。また最近、郵政改革の議論がなされていますが、郵政改革がどうあるべきかについても私たちなりに考えて発信しています。

 写真をいくつか掲載しています(スライド9)。中央執行委員会は、各組合から代表者に集まってもらって生保労連としてどんな取り組みを実行していくのか考えて決定する場です。意思決定をする前にはいろいろ勉強をするために研究会を開いています。有識者をお呼びして、いろんなことを教えてもらって自分たちの取り組みに活かしています。生保協会との労使協議会では、生保業界の経営側の団体である生命保険協会に対して、毎月1回、労働組合として私たちの考えていることを伝えています。生保産業がどういった課題をいま抱えているのかについて、協議をしています。生保労連は結成40年ですが、労使協議会は35年間やっています。回数は311回を数えています。産業別組合レベルで、労働側と経営側の団体がこれほどの回数定期的に協議をしてきているところはそうそうないのではないかと自負しています。右下は生命保険料控除制度を拡充しようと決起集会を開いたときの写真です。
次のスライド(スライド10)は、郵政改革に関する取組みについてのもので、右側の人は生保労連の委員長です。左側はみなさんご存知の人です。私たちは郵政改革に対して組合員や職場の非組合員に署名活動をしました。86万件の署名を集めて、それを亀井大臣や原口総務大臣にも届けたり、民主党の幹事長室にアピールしにいったりしています。左下は、地方の消費者団体の方々と意見交換を行って、生命保険営業やサービスのあり方について、こんな所に苦情があるといったことを聞いています。右上は連合の集会です。アピールするために街を歩いたときの写真です。勉強会も実施しています。

2.ワーク・ライフ・バランスとは

 ワーク・ライフ・バランスについての話に入ります。みなさん、ワーク・ライフ・バランスという言葉も内容も知っているという方は、手を挙げて頂いて良いですか。けっこういらっしゃいますね。言葉は聞いたことがあるが内容までは知らない方。言葉も内容も知らない方は、少しいらっしゃいますね。
ワーク・ライフ・バランスの認知度について、内閣府が定期的に意識調査を行っています。2010年2月に公表されたデータによりますと、知っている方が増えてきていますが、言葉も内容も知っている人は2割弱ぐらいです。より一層の周知が必要でしょう。他方で半分ぐらいの方はまあ聞いたことあるよという結果です。一橋大学の学生のみなさんは、9割ぐらいはご存知だったと見て取れました。ワーク・ライフ・バランスは人それぞれですので、私が今日お話しをすることを少しベースにしながら、一緒にワーク・ライフ・バランスを考えていければと思います。

(1)なぜ今ワーク・ライフ・バランスなのか
なぜ今ワーク・ライフ・バランスなのか。よく言われていることをいくつかご紹介します。まず人口です。これ(スライド13)は年齢別人口分布です。2005年と2055年の推計値です。50年間で人口の分布が相当変わってきます。働く人が少なくなってきます。50年間で1億2千万人が9千万人ぐらいまで減ります。今から3000万人ぐらい減ります。県でいうと、一番小さい鳥取県から29番目の群馬県までの人口合計分の3487万人ぐらいが減るというようなインパクトといわれています。65歳以上を老齢人口といいます。現在は、老齢の方と現役の割合が、1:3.3と言われていますが、それが1:1.3となります。長妻厚生労働大臣がよくいわれる「騎馬戦が肩車になる」状況です。かなり人口の分布が変わっていきます。働き手が減れば経済力も衰えて、今まで維持してきたインフラや道路などだけでなく社会保障制度なども含めた日本全体のインフラを維持することが難しくなります。

 2つ目は共働き世帯の増加です(スライド14)。国民の意識がだいぶ変わってきていて、既婚女性もずっと働くのだと思う方が増えてきている。みなさん方とご両親やそれ以上の人と、仕事に対する感じ方が変わってきているのではないかと思います。
なぜ今ワーク・ライフ・バランスなのかと、働く者や企業、政府という立場で課題を示してみました(スライド15)。働く者の立場からは、長時間労働が深刻で、気持ちが参ってしまって、うつ病になってしまう方々が少なくないという実態があります。企業側は、人口が少ない中、優秀な人材がたくさん集まって欲しい、生産性を向上させたいという思い。政府は、少子高齢化に少しでも歯止めをかけたいという思いがあります。それぞれの立場からワーク・ライフ・バランスが必要とされています。

(2)社会全体の主な動き
こうした背景を受けて、2007年7月に、「仕事と生活の調和推進官民トップ会議」という組織が立ち上がりました。メンバーはスライドに記載の通りです(スライド16)。自民党に属されている方々は最近露出が小さくなっていますが、有力者が名を連ねています。真ん中には労使代表として日本経団連の御手洗会長や連合の髙木会長が、一番右側には有識者と呼ばれる方々の名前が並んでいます。このような人たちがトップ会議を構成して議論していこうということになりました。また、政労使のそれぞれから実務者が集まって、議論を進めていきました。
そうした取り組みの結果、2007年12月に「仕事と生活の調和憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が政労使の合意としてとりまとめられました(スライド17、資料)。具体的な数値目標を掲げて、2017年にはこういった数値目標を実現していこうということを確認しています。かなり意欲的な目標数値だったといえると思います。

3.生保労連のワーク・ライフ・バランスの取り組み

(1)生保業界の労働実態
生保労連としても、これにうまく乗じて労働実態を改善していこうということになりました。そもそもどういう労働実態にあるのかということを少しご紹介したいと思います。
2009年度の数字があります(スライド18)。長時間労働は残念ながら生保業界にも存在しています。みなさん方がもし生保会社に就職すれば総合職という立場になる方が多いと思います。総合職の方が1日8時間を超えて働く月平均残業時間(法定時間外労働)を見ると15?30時間と回答した組合が最も多いです。しかし、それ以上、60時間も働いているといった組合も結構見受けられるのが実態です。また、営業現場で働く職員は、営業というのはどうしてもお客さん商売ですから、土日にしっかりお話しに来てよといわれてしまうと出ざるを得ないので、土日に仕事をすることも多いです。1か月あたり3?4日以上出勤する組合が6割以上あります。有給休暇がとりづらいということも実態です。

(2)生保労連のこれまでの主な取り組み
これではいけないということで、生保労連としての取り組みを進めています。2007年以降の主たる取り組みを表にしてみました(スライド19)。2007年頃あるいはそれ以前はセミナーや研究会を開催して私たち自身が勉強していました。どんな人に来てもらったかというと、先ほどトップ会議にありました東京大学の佐藤先生とか慶応義塾大学の樋口先生などに生保労連の会議に来てもらって、取り組みについて検討を進めました。そして、2008年の1月に、「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた宣言」を確認しました。2008年8月から中期方針として、向こう3年ぐらいを目途として取り組むことを決めて、あとは着々と取り組みを進めてきました。労使協議会での申し入れや組合員向けの毎月発行している新聞などでワーク・ライフ・バランスを訴えかけるなどをしてきました。

(3)ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた宣言
「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた宣言」(スライド20)に生保労連の考えがかなり凝縮してあります。2つ目までは世の中の動きや取り組みの意義について書いてあります。3つ目は生保産業ならではというところです。生保産業の社会的使命は、いざというときに保険金、給付金をお支払いすることです。生命保険契約は、ご契約いただいてすぐに保険金や給付金が支払われるような場合もありますが、10年後・20年後だったり30年後にお支払いするといったことも多い、契約の長期性というのが特徴です。長きにわたってお客さまをしっかりフォローしていくような体制が業界としては求められるわけです。そのためには従業員が、営業職も内勤職も長らくイキイキと働き続けて、お客さまに対するサービスに努められることがとても大切だとして、この項目が入っています。自分たちの働き方も見直して、より生産性の高い取り組みをやっていかなければと、この宣言をまとめました。

(4)中期方針の策定
次に、中期方針を策定していくにあたっての議論の経過をご紹介します(スライド21)。労働組合はみんなでしっかり議論をして物事を決めていきます。中期方針を決めるときにも十分な議論をしました。例えばこのワーク・ライフ・バランスについての積極的な意見としては、現状から発想するのではなく、望まれる働き方や労働実態をイメージして設定すべきであるという人がいました。かたや慎重な意見では、到達目標が高すぎるといけないのではないかと、現状を踏まえてより現実的な発想をすべきではないかという人もいました。生保労連として中期方針を定めることが、単組(第一生命や日本生命などの企業別労働組合のこと)の取り組み支援になるから、みんなでやろうと決めることが大切だという人もいれば、事情が違うのだから同じ目標設定はしんどいという人もいました。しかし、世の中の動きを考えると魅力的な産業を作らないといけない、ある種の危機感を共通の認識として、何とかとりまとめをすることができました。
私は書記長という立場ですから、みなさんにたくさん発言してもらうように行司役をやりました。私は個人的にはかなりの積極派です。できるだけ高い目標を設定してみんなでやっていくことが大事だと思っています。組合幹部にはいろいろな方がいます。そもそも組合幹部はどんな人たちかというと、基本的に仕事でかなり頑張りのきく人たちです。朝から夜遅くまで頑張ることができるし、労苦をいとわないでやれる人たちが組合幹部には多いと思います。そしてまた、経営側にものを毅然と言っていくためには、自分自身がまず仕事を一生懸命やるということを当然のように考えている人たちが組合幹部をやっていると思ってもらっていいと思います。自分自身がどう考えるかということを当然持っていますが、同時に、組合員のみんなさんはどう思うかなということを思いながら活動しています。
私がその時感じた印象を並べてみると、まず中期方針として掲げる以上、しっかり達成しないといけないという思いの強い人が結構いました。これはもしかしたら成果主義の行き過ぎで、高い目標を立てるより低い目標を立てて達成したほうがいいのではみたいな、あべこべな発想をする人も残念ながらいたかなと思います。ワーク・ライフ・バランスの実践は、成果主義下では出世競争に遅れるのではないかと思う人もいるのではないかという人もいました。朝から晩まで一生懸命頑張って上司や会社に認められなければいけないと考える人もいました。営業の場合は、たくさんのお客さんに会ってたくさんのご提案をしないと成果に結びつきません。営業の彼女たちは歩合給で仕事をしていますから、たくさんの契約を取ったり、サービスをしないとお給料に跳ね返りません。そうなると、ある水準に達するまではしゃにむに働かなければいけないと発想してしまいます。そういうことも議論の背景としてはありました。
ワーク・ライフ・バランスの議論の最初の頃は、仕事と生活のバランスをとっていこうという議論をすること自体が仕事をさぼりたがっている奴の議論だという人もいました。しかし個人的には、それは違うのではないかと感じていました。ワーク・ライフ・バランスを推進しようと思えば、やるべき仕事は一定量あるわけですから、業務の効率化を図っていかなければいけません。それは組合員・働く者にとっては仕事に対する厳しさをより追求されることであって、決して甘いものではないと思います。できるだけしっかりと計画を立てて着実に遂行していかないと、求められるものに応えられないわけです。
また、会社業績が上がらないと、月例給与も臨時給与も上がらない。これも労使協議をやっていて直面する現実です。一生懸命に働いて成果を出して業績を上げないと。そんな休んでいる暇ないよ。給料が下がってしまうではないか。こんな議論をしました。
中期計画を策定する時は大変だったなという思いがあります。

(5)中期方針の内容
以下の「中期方針策定にあたって」は方針策定の経過と趣旨をまとめたものです。

中期方針策定にあたって~「中期方針」より~

  • ワーク・ライフ・バランスの重要性がますます高まる中、政府が「ワーク・ライフ・バランス憲章」や「行動指針(数値目標)」を策定し、また連合も「時短方針」や「考え方」をとりまとめるなど、政労使の取組みはいよいよ本格化している。
  • 生保労連としても、2007年度より「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取組み」を総合生活改善闘争の大きな柱の1つに掲げ、これまで以上に積極的な取組みを推進している。
  • 先の中央委員会では、「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた宣言」を採択し、ワーク・ライフ・バランスの重要性や意義を組織的に確認するとともに、これまで以上に積極的・具体的に取組みを推進していく決意を示したところである。
  • 既に「宣言」でも確認したように、「生保産業における社会的使命の達成」や、「お客さまとの長いおつきあい」を基軸とした営業職員体制の構築といった課題に取り組む上でも、組合員一人ひとりがそれぞれのワーク・ライフ・バランスを実現し、働きがい・生きがいをもって働き続けることが極めて重要になっている。
  • こうした状況を踏まえつつ、生保労連では、向こう3年間の取組み方針・目標を定める「中期方針」を策定し、ワーク・ライフ・バランスの取組みの推進強化を図ることとする。

 中期方針は、行動目標と到達目標の大きく二つに分けて定めました。
行動目標の1つ目はなによりもまず推進していく体制づくりが必要だと、これを早期に着手して確立しようということ。2つ目には両立支援制度、仕事と生活を両立できるような会社の制度を整えていくこと。そして、3つ目はその制度をしっかり使えるように活用、促進していく取り組みが必要だと。4つ目は労働時間対策が必要だと行動目標を定めました。
到達目標は3つです。1つ目は希望するすべての組合員が法を上回る育児・看護・介護支援制度を利用できること、2つ目はすべての組合員の年休取得日数が10日以上になること、3つ目はすべての組合員が週2日(最低でも週1日)定時退社できることです。
みなさんは、このレベルはどうご覧になるかわかりませんが、私たちにしてみると精一杯の目標設定をしました。これは先程来見て頂いている、世の中の2017年の到達目標を、生保業界に置き換えて、向こう3年位をイメージして、どのぐらいの山の高さまで行けば、2017年に世の中の水準に負けないかな、あるいはそれを少しでも上回るような魅力的な産業になるかなと逆算し、現状も踏まえながらまとめたものがこの到達目標です。この括弧書きの最低でも週1日定時退社できるというところは、かなり折衷案のような目標設定になっています。みんなで十分に議論した結果の産物です。現状が違うので、山の登り方はみんな違います。ただ、ある高みに3年後にはいようねということで設定しました。

(6)具体的な取り組み
2010年の総合生活改善闘争では、ワーク・ライフ・バランスを統一共闘課題に設定して、各単組の取り組む課題を2つ決めました。そのうちの1つがワーク・ライフ・バランスの到達目標の達成に向けた取り組みの推進です。到達目標を達成するために、より具体的にはどうしていくのか。例えば、有給休暇を10日以上とるためには夏休みを何日ぐらいとるか。誕生日や結婚記念日を休みにするアニバーサリー休暇などを何日か組み合わせて10日間とろう。このようなことを具体的に考える。もう一つはモニタリング体制の確立です。到達目標を達成するためにそれがしっかり遂行されているかどうかをチェックできるような体制を整えよう、この春の時期に確立しようという取り組みをしてきました。
以下の図(スライド31)は「到達目標」達成に向けた単組の取り組みです。3つの到達目標について、主な取り組みを一覧にしています。

 「単位組合との取り組み」を紹介すると、担当者に集まってもらって会議をしたり、アンケート調査をとりまとめたものを組合の幹部だけが見える仕組みで情報提供したりしています。労使協議を行うときのマニュアルを生保労連として作ったり、各組合の好事例を一冊の本にまとめたり、一枚もののチラシを作って随時発行したりしています。
「業界全体や他業界との取り組み」は、生保協会へ申し入れたり、100人・200人規模のシンポジウムやフォーラムなどに有識者に来てもらって、意識の醸成し、取り組みを広めることをしています。
「組合員との取り組み」では、組合員25万人に呼びかけて、標語コンクールをやりました。2009年8月のとりまとめで1634件集まった中で、「仕事・家族・自分 メリハリつけて時間エコ」という標語を最優秀として選びました。また組合員向けの機関誌にワーク・ライフ・バランスを紹介したり、ポスターやPC用の壁紙などを作って各職場に配布して意識を高めてもらっています。

(7)到達目標の進捗状況
「到達目標」の進捗状況はというと、2009年6月時点では、まだ着手できていないところが多く相当しんどい状況でしたが、それから1年経ってみて、この春の取り組み状況のとりまとめを今まさに行っているところですが、だいぶ進捗が図られたのかな、というのが私の直観的な感想です。
「到達目標」達成に向けた諸課題とは何なのか。「ワーク・ライフ・バランスが実現できる職場風土にまだない」「所属長あるいは所属間において意識の差がある」「制度に関する理解が不足している」「まだ活用事例が少ない」「恒常的に長時間労働になって休日出社が多い」このような課題があります。本社と支社ではだいぶ事情が違って、仕事の性質も人員の数も違うので、一様な取り組みでは改善がなかなか難しいのではないかというのが分析していて思うところです。本社では結構進んでいるけれども支社では進んでいない。なぜ進んでいないのかをしっかり考えなければいけない。職種で見ても営業に携わっている人と事務職では違います。そんなことを今整理しながら進めています。

4.第一生命労組の取り組み

(1)第一生命労組の概要
第一生命労働組合(第一労組)の前身は戦後まもなく内勤職と営業職がそれぞれ結成した第一内組(内勤職)、第一労組(営業職)です。営業と内勤が別々に経営側に対するより、同じ働く者の立場から力を合わせて取り組むほうが、会社をよりよくし自分たちがハッピーになっていくことができるだろうということで、1991年に1つになりました。組合員数は4万7000名強。内勤職は6700名、営業職は4万名。生保労連加盟の中では2番目に大きい規模です。ちなみに5万名近くいるのは、日本の労働組合の中では有数の大きさの組合です。「組合員の幸せのために、自らを高め、お互いを磨き合う」ということをスローガンに掲げて取り組んでいる組合です。2010年度の運動方針案はまさに今議論している最中で、5つの柱(①総合的労働条件の維持改善に向けての取り組み、②営業職員体制充実に向けての取り組み、③経営問題への取り組み、④組織強化の取り組み、⑤生保労連活動への積極的参加)を掲げています。
①の総合的労働条件の維持改善では「より豊かで明るい生活を目指し、やりがい・働きがいのある環境を実現することは、全組合員の願いであり、組合に課せられた大きな使命である。賃金、労働環境、福利厚生等の諸課題に取り組み、総合的労働条件の維持改善をはかっていく」としています。少し飛ばして⑤の生保労連活動への積極的参加の項では、第一労組単独では達成できない産業の課題や、「社会全体で取り組むべき課題であるワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、生保労連の果たすべき役割はきわめて重要」なので、私たち第一労組も生保労連傘下でしっかりやっていくとしています。手前味噌な言い方になりますが、生保労連として方針を定めて取り組みを進めて、それを受けて加盟組合である第一労組もこのように運動方針の中できちんと定めて取り組みを進めているというふうにご理解下さい。

 第一労組はどんな活動をしているか。まずは会社組織について説明します(スライド36)。

 日比谷にある本社、全国各地にある支社、この近くでは立川支社があります。そして営業オフィスは、みなさんのお住まいの街中にある事務所です。この営業オフィスには営業職員が20名ぐらいいます。支社は営業オフィスをだいたい20個ぐらいを束ねているイメージです。支社の単位では400人ぐらいの営業職と、規模に拠りますが内勤職が40?50人います。組合組織は会社組織に対応して、分会、営業職支部、内勤職支部、地区、本部と設置しています。支社は、400名ぐらいの営業職の単位が1つのかたまりで営業職支部として活動しています。内勤職支部は支社ごとや、本社のフロアごとぐらいで組合活動をしています。地区というのは、北海道地区、大阪地区・・・と置いています。
組合本部と本社、支部と支社レベルでそれぞれ協議をしています。どんな協議をしているかというと、全社レベルでの協議、例えば全職種に係わることは経営協議会でやるし、営業職固有のこと、内勤職固有のことは小委員会という枠組みでやっています。あるいは支社は支社で協議をしています。スライド(スライド37)の右側にあるのは、本社レベルの協議実績です。年間あわせて50回以上はやっています。1年間は52週しかないわけですから結構な頻度で労使協議をしています。特に、今日のテーマに関連すると、例えば内勤職の勤務について20回規模でやっています。毎回というわけではないですが、人事制度や勤務に関する協議があります。かなりの頻度で協議しているということがわかって頂けると思います。支部では、例えば立川支部のエリアで働く人たちの日々の仕事ぶり、朝から晩まで働いているとか、タイトなスケジュールで働いているとか、そういったことを少しでも改善するように申し入れたりしています。

(2)第一労組のワーク・ライフ・バランスの取り組み
第一労組のワーク・ライフ・バランスの取り組みについて、特に労働時間について触れます。大きな流れはなんといってもまず実態を把握することです。その上で、経営側に働きかけをしていく。組合は組合員に対して伝えていく。組合として自分たちでできる取り組みを自発的にしていくということです(スライド40)。

まず勤務実態の把握は、組合として、全組合員5万人にアンケートを年2回やっています。それを集計して、勤務実態がどうなっているか、組合員がどう思っているかということをまとめます。年に2?3回、職場で組合員に集まってもらって意見交換する場である職場集会(オルグ)で直接生の声を聞きます。これらの実態把握の内容に基づいて、先ほど見て頂いたようなスタイルで労使協議をします。本部、支部それぞれの職場に応じた申し入れをします。組合本部役員による所属長との意見交換・申し入れは、例えば立川の支社長に、「おたくの勤務時間は非常に悪い、アンケートの結果によるとほかの支社の平均と比べて著しく悪いから改善してください」といったように申し入れることです。それ以外には「残業パトロール」を取り組みます。定期的な申し入れの機会を待てないような恒常的に悪い勤務実態にあるような職場に対しては、夜7時とか8時に私たち本部役員が職場に踏み込んで、支社長ら経営側に対して「改善するための取り組みはされているのですか」というようなことも必要に応じてやっています。私も第一労組の時に何カ所か行きました。今はさすがにだいぶ改善されてきて、実施はしていないようです。
組合員に対しては「フレッシュ・アップ作戦」を取り組んでいます。名前は第一労組が勝手に決めているものですが、4つの柱だてをして、組合員に呼びかけています。「メリハリある勤務をしよう」「週に1回早帰りをする『ビッグウェンズデー』を取り組もう」「土日は休もう」「公休も取得しよう」この取り組み自体はかれこれ20年ほど前から、ワーク・ライフ・バランスがいわれる以前から、組合では、言い方こそ違え取り組んできているものです。
内勤職の勤務に関する労使協議について具体的に触れます。第一生命では2009年度に経営側が大きく二つの方針を示しました。1つは新たな勤務管理、もう1つは業務量の削減です。勤務管理として、終業時刻を設定して、どんなに忙しくてもこの時間に帰って下さいということとなりました。勤務時間を強制的に設定しました。転勤がある立場の人は19時半まで、転勤がない立場の人は18時半までです。パソコンの電源をON、OFFする時間の情報を勤務管理に活かすこととしました。勤務時間控除ルールも導入しました。例えば、ちょっと病院に行きますとか、銀行に行きますとか、タバコを吸いたいですとかで職場を離れた時間については10分単位で勤務時間を控除して、きちんと勤務管理をしようということになりました。
これらは、組合として勤務管理をしてもらいたい、メリハリのある勤務をするためにはこうしてもらいたいものだと長らく言ってきたことでして、ようやく実現しました。第一生命は今年(2010年)4月に株式会社化することになっていたので、より経営効率や生産性を高めなければいけないという経営の判断が働いたのだと思います。
こうした方針が出されてから3か月が経過する中で課題が出てきました。例えば業務見直し。業務量削減の取り組みが掛け声だけになっているとか、時間管理をガミガミいうのに、その原因となっている業務量の調整をちっともしてくれない、といったようなことです。早急に対処してもらいたいと申し入れをして、会社は今後改善していくと回答しました。
労働実態がどうなっているかを年に2回、6月と9月に調査しています。2009年1月から終業時刻を設定したことにより、2008年9月と2009年6月の調査結果を比較すると、劇的に改善しました。

  少し話が飛びますが、第一生命の経営方針について触れます。左の図(スライド43)は第一生命の中期経営計画や経営理念をひとつの体系として示しています。このグループビジョンのところを見て下さい。「いちばん、人を考える会社になる」とあります。お客様のこともそうだし、従業員の活気があふれるような会社にしていかなければいけないと打ち出されています。こういった考え方のもとにワーク・ライフ・バランスをしっかりと遂行していこうということが具体的に示されています。
右の図(スライド44)は、ワーク・ライフ・バランスの社内的な仕組みです。上段は、仕事と家庭の両立支援、ファミリー・フレンドリー制度の充実に関することです。例えば、妊娠、出産、育児、介護に関連して各種の制度を充実させていこうとか、子育て支援、職場復帰にむけた環境整備などといった施策を社内的に整えて、それを一冊の冊子『両立支援ハンドブック』として従業員に配布して活用してもらうなどしています。また、新たな取り組みとして、休みを取りやすくする運営を進めています。

おわりに

 ワーク・ライフ・バランスを推進していくためには、「お互い様」の精神がとても重要だと思います。例えば、「働く者と働く者」。職場に20人ぐらいいたとして、私が今度○○休暇で休みますとか、有休を取得しますといったことがあるときに、「何だよ。あいつ休んで」なんて言っていてはいけない。「どうぞお休みください」「じゃあ今度は私ね」というふうにありたい。そうでなければ職場全体でワーク・ライフ・バランスを推進することはできない。「妊娠して出産しました。1年間休みます」というと、「なんだよ。あの人のためだけの制度か」と思ってしまうかもしれませんが、そう考えずに、いろんな人が使えるようにメニューを増やすことが重要です。それぞれがお互いに自分たちのワーク・ライフ・バランスの実現に向けて協力し合おうと思うことが非常に大事なことだと思います。働く者と職場というのも意識し合わなければいけないところです。「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」に「企業とそこで働く者は協調して生産性の向上に努めつつ、職場の意識や職場風土の改革とあわせ働き方の改革に自主的に取り組む」とあります。従業員は生産性を高め、そして企業はそれが高まるようにお互いに取り組んでいくのだということです。そこでもお互い様です。
「職場と職場」。これはすべての職場で取り組まなければ社会的なワーク・ライフ・バランスは難しいということです。旦那さんが働いている会社ではワーク・ライフ・バランスが進んでいるけど、奥さんが働いている会社では進んでいない、ということだとしたら、旦那さんと奥さんが共に何かをしようと思ってもうまくいきませんよね。例えば旅行しようにも片方は休みが取れないということでは旅行に行けません。すべての職場が社会的なワーク・ライフ・バランスの実現に向けて努力をしていくことが必要不可欠です。
「消費者と働く者」という立場も考えてみてほしいです。私は働く者であり、消費者でもあるわけです。消費者として求めるサービスの裏側にある働き方に配慮する。例えば、消費者の側面だけを強く押し出すと、コンビニは24時間開いているにこしたことはないわけです。コンビニ側は何人か分担して働くにしても、とにかく何とか24時間働かなければいけないわけです。何か物が欲しいというときに、「明日でもいい」と思えるかどうか。今すぐほしいと思えば、誰かが働いていなければならない。もしかしたら働く人に対して相当な無理を強いているかも知れない。それが合理的なサービスレベルならいいけれども行き過ぎはいけないのではないか。相手の立場も考えてみようということです。
そして、個人の中で生活と仕事というのがうまく調和するように自分の時間配分をしっかり考えられたらいいなと思います。また企業と従業員、あるいは他の関係者にとっても、お互いさまの気持ちになるように取り組みを進めていけたらと考えています。
みなさんはどのような職業に就くかわかりませんが、22歳で卒業、就職して60歳の定年まで考えても38年、65歳で定年ならさらに数年ありますから40年ぐらいは働くわけです。人生の半分ぐらいを職場で過ごすわけです。その働く職場と生活の時間の配分は、100人いれば100通りあるでしょう。1日単位もそうですし、1週間単位でも1か月単位でみても、時としてものすごく働かなければいけないこともあるでしょう。また20代30代は全般的にグーッと働かなければいけないそういう時期かもしれませんが、家族構成や社会的立場が変われば、働き方も変わってきます。人それぞれです。みなさん方がよりよい自己実現をしていけるためにも、また隣に座っている人がハッピーな生活を送れるためにも、「ワーク・ライフ・バランス」ということを常に考えていけたらいいのではないかと思います。ありがとうございました。

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