一橋大学「連合寄付講座」

2009年度“現代労働組合論II”講義録
労働組合の課題と取り組み

第10回(12/11)

【中間まとめ】パネル:男女平等参画社会実現に向けて

司会: 木本喜美子(一橋大学)
パネラー: 片岡千鶴子(連合・男女平等局長)
  井上久美枝
(国公連合・書記次長、政労連・書記長、連合・中央執行委員)

木本:今日はジェンダーの中間まとめです。今日のパネラーとして2人の方に来ていただきました。前々回に来ていただいた連合男女平等局長の片岡千鶴子さんと、今回初めてお出でいただいた国公連合書記次長で連合中央執行委員の井上久美枝さんです。
 前々回の片岡さんの講義と前回の山口さんの講義に対して、いくつかの質問が寄せられていますので、今日は最初に質問に関わる説明も含めて片岡さんから、そして、井上さんには自己紹介も含めて国公連合の男女平等参画の取り組みについてお話していただきたいと思います。その後、みなさんから出された質問にお応えしていただきます。

1.M字型労働をめぐる連合の見解

片岡:女性のM字型労働の実態についての質問から話します。ご質問は、「M字型曲線という働き方の谷の部分で女性労働者がいったん労働市場から離れたら戻る必要があるのか、谷は埋めるべきなのか。または、離職するということをやむを得ないと考えて、再就職のハードルを下げるのか。連合はどちらの考え方に立っているのか。具体的な法整備はどんなことを考えているのか」ということでした。
 連合は、M字型ではなくて、逆U字型で働き続けられるようにすべきだと考えています。そのために、どのような法律や職場環境の整備が必要なのか。女性が7割辞めているという現状から、男女労働者への両立支援のための法整備は絶対に必要です。もう少し大きなテーマとして、日本の税制や年金などの社会保障制度は、女性がずっと働き続けることを前提にしてはおらず、男性片働きモデルとなっていますので、税制や社会保障制度を変えていくことが必要です。つまり、世帯単位から個人単位への税制や社会保障の内容に変えていくことが女性にとって必要です。最後に肝心なのは、前々回の講義で非正規雇用の増加についてお話しましたが、M字型の2つめの山つまり再就職の問題の解決です。ほとんどの女性が非正規という雇用形態で職場に戻り、M字の山となりますが、働き方は不安定で処遇が不当に低いという実態があります。どのような働き方でも均等な待遇を受けられる法整備、つまり多様な雇用形態の均等待遇原則が必要であると考えています。これが、M字型に関わる私の用意した回答です。

2.男女平等参画をどのように進めるのか

  2つめのご質問は、「女性役員が少ない」と申し上げたことに関わるご質問です。「連合は男女平等参画をどのように進めるのか。方針はどうなっているのか」というご質問でした。
 労働組合の男女平等参画をめざし、女性役員を増やすためのアクション・プラン「連合第3次男女平等参画推進計画」です。第1次と第2次もありましたが、状況はあまり変わっていません。もちろん計画をつくっただけでは進まないので、ポジティブ・アクションを活用して女性役員を増やしていく予定です。連合本部の女性役員の割合を示したグラフがありますが、今日のパネラーの井上さんも連合中央執行委員として女性の視点から様々な意見を連合活動に反映されています。そのような女性の役員を増やすために、4つの産業別グループから2人ずつの女性の中央執行委員を選ぼうという、通常のルートでは考えられない方法を用いて、連合本部の女性役員の増加を図っています。連合の女性役員の比率は全体の役員数の25%で、女性組合員率が30%ですので、ほぼ女性組合員率に近い役員率になっています。
 同時に、女性組合員をどのように増やすのか。いまそれが連合のメインの課題です。日本の組合の組織率は18.5%です。2008年の18.1%から0.4%上がりました。女性組合員は必ずしも多くはありません。増加の多くは、連合の加盟組合によるパート労働者を中心とする組織拡大の結果と言えます。連合だけの組織率を見ると12.1%から12.5%に上がっています。まだ十分ではありませんが、非正規労働者の多くは女性であり、パートで働く人の圧倒的多数は女性です。連合は非正規労働者の労働条件改善と組織拡大を通じて女性組合員を増やす取り組みを進めています。

3.諸外国における差別救済のしくみ

  3つめの質問です。前回の講義のなかで私が「均等法に差別救済の仕組みが弱い」と申し上げたところ、「諸外国ではどうなっているのか」という質問がありました。その資料として、「性差別に係る諸外国の実効性確保措置の概要」、「諸外国の国内人権機構」を配布しました。諸外国の資料を見ると政府から独立した救済機関で、調査権を持っていること、差別の是正命令が出せること、場合によっては訴訟を支援しています。差別を抑止する意味でも実効ある仕組みを持っていることがわかります。

4.子育て基金の構想について

  前回の山口副事務局長の話の中で、子育て基金構想の一部をご紹介しましたところ、もっと全体像を知りたいというご質問がありましたので、今日はリーフレットを配らせていただきました。次回の講義で担当責任者の小島連合総合政策局長が参りますので、さらにご質問をいただきたいと思います。

5.国公連合について

井上:私自身が国の機関で仕事をしていますので、国の機関における女性の採用・登用、両立支援についてどのような状況になっているのか、その課題を含めてお話しさせていただきたいと思います。
 まず、国公連合の正式名称は「国公関連労働組合連合会」で、国家公務員や、独立行政法人や特殊法人など公務公共部門で仕事をする職員の労働組合です。加盟の組合は6組合で、そのほかに正式加盟ではありませんが、国会職連という参・衆議院や国会図書館の職員の組合がオブザーバーとして加盟しており、全体で11万人の労働組合です。国公連合組合員の身分は、公務員の身分を持っている組合員と、非公務員の組合員に分かれますが、公務員型が約7万人です。国税や農林水産省、国土交通省、財務省、それから独立行政法人で公務員の身分を持っているのは特定独立行政法人といいます。一方、非公務員型は約4万人で、駐留軍で働く労働者や、特殊法人から独立行政法人に移行した組織、こちらを非特定独立行政法人といいますが、私の出身の政労連は非公務員型の独立行政法人の労働組合です。
 政労連とは、「政府関係法人労働組合連合」で、いま申し上げた独立行政法人や特殊法人、公益法人などの職員を組織する労働組合です。マスコミ等で天下りという言葉を聞かれたことがあると思います。世間からは組織自体が批判されていますが、66の独立行政法人や特殊法人、社団法人、民間法人の組合が加盟しています。いわゆる公益法人といわれる団体は4000以上あり、独立行政法人も100余あります。特殊法人については、JRやNTTがまだ特殊法人のくくりになっているので、それらも合わせれば20〜30ありますが、政労連はそのうち2万5000人を組織しています。皆さんがよくご存知の組織は、成田空港やJICA、高速道路です。東、中、西、首都高速、あと四国にも私どもの加盟単組があります。
 私は、文部科学省所管の独立行政法人の「日本スポーツ振興センター」の出身です。主な業務は、サッカーくじtotoの販売で、その収益金でスポーツ選手の育成をします。例えば、北島康介さんやマラソンの選手などの世界的に活躍している選手に助成金を出したり、学校でけがをしたときに医療費を給付している団体です。私は今年9月末に職場を退職して、組合の仕事に専念しています。公務員は、組合の専従は7年間という制限があります。独立行政法人に制限はありませんが、事業費や人件費は国から出ていますので、退職して組合の仕事に専念することにしました。そういう人生もあるということも含めて、皆さんに知っていただければと思います。

6.公務で働く女性の労働環境

 先に述べたように、国公連合には公務員型と非公務員型がありますので、両方の観点から女性の働き方について話をします。
 公務員は、国家公務員法27条で男女平等を規定しています。国家公務員の数は現在、21〜22万人だと思います。そのうち女性の比率は3割ぐらいで、女性の職員数はまだ半数に至っていません。
女性国家公務員の採用・登用について、人事院は採用・登用の拡大とメンター制の導入をおこなっています。国家公務員にはⅠ種、Ⅱ種、Ⅲ種と試験がありますが、その試験を取り仕切り、採用や労働条件を決めているのは人事院です。
 現在は、採用試験の合格者に占める女性の割合を計画的に増やしていくため、合格者数の3割を女性にしようと取り組んでおり、とりあえず第一段階はクリアしたという状況です。 しかし、役職者に占める女性の割合というグラフを見ていただくとわかりますが、係長級、本省課長補佐、本省課室長なども年を追うごとに増えてはいますが、わずかに17.0%、6.0%、2.2%です。本省の課室長や地方機関の局長という民間の部長クラスの女性比率が低く、目標枠を立てて女性の登用をしていますが、管理職へはほど遠い状況です。その原因は、国家公務員の場合、地方へ転勤することでポストが変わるという実態があります。そのためにどうしても女性で結婚して子どもがいると、地方に転勤できませんので、昇進・昇格しづらいという悪循環が起こっています。
 そこで、女性管理職を増やすために、メンター制を導入しています。これは、先輩の女性職員が後輩の女性職員を育てるための制度で、民間ではすでにIBMや外資系の企業がこれを取り入れていますが、要は人材育成の取り組みです。人事院は民間の状況を調査して、2005年(平成17年)頃よりメンター制を導入しました。毎年少しずつ研修をおこない、2008年(平成20年)度の受講者数は全国で688人となっています。

7.国家公務員の両立支援策

  国家公務員は、子どもがいても仕事が続けられるような施策がとられています。例えば、育児休業については3歳未満まで取得でき、短時間勤務や夫と妻がそれぞれ交代でとれる制度があります。女性の対象職員のうち9割以上の人が育児休業を取得し、ほとんどの人が復帰しています。また、男性も育児休業をとれる仕組みになっていますが、いまは1%にも満たない状況です。男女がともに育児に関わる目標の下に制度がつくられていますが、結果的に子どもを育てるのは女性の役割となっているのが現在の職場実態です。
 独立行政法人の職場では、それぞれの職場で試験を受けます。基本的に公務員の身分を持っていませんので、民間と同様に組合と使用者との労使で交渉をして、さまざまな労働条件を決めていますが、国の予算で運営されているため、労働条件はほぼ公務員と同じです。国家公務員で制度をきちんと整えて、それを民間の制度に反映させようという考え方があるので、国家公務員は制度的に整備されていると思います。その後に続くように、民間が法律を改正して、いろいろな整備をしてきました。
 いま公務員批判がされている中で、「税金を使って民間よりも良い労働条件で良いのか」という意見があります。例えば、3年間の育児休業や短時間勤務に対しての批判がありますが、私たちとしては大変に残念です。「水準を上げるためにまず国の職員の働く環境を整え、それに民間のみなさんにも続いて来てほしい」として環境整備に向け取り組んできました。いまこうした経済状況になり、バッシングを浴び、「公務員だけが良い制度でずるい」と批判を受けるのは残念なことだと思います。

 木本:どうもありがとうございました。国家公務員を目指している人たちが少なくないと思いますので、良いお話をいただいたと思います。国家公務員の女性についてデータをみると、先進的です。例えば、女性の係長職が17%となっていますが、民間では12%ぐらいで、5ポイントぐらい高くなっています。職場復帰の状況についても良いので、先進的なモデルとして目指すべき職場です。それがいまバッシングの対象として特権職のように言われているのは、非常に複雑な問題を含んでいると思います。
 これからは前回、前々回寄せられた質問にお答えいただく時間とします。まず、1つめの質問は、間接差別の規制について、片岡局長からお答えください。

8.間接差別とは

片岡:男女雇用機会均等法は、性による差別を禁止する法律ですが、皆さんからは予想以上に、現実社会や職場には、まだまだそうした差別や偏見が多くあるという感想をいただきましたので、今日は間接差別についてご説明します。誰もが差別はよくないとわかっていますが、企業は労働者が働くことにより収益を上げていますが、働く人の処遇に格差を付けることで人件費が安く済むなら、それに越したことはないと考えて差別的な雇用管理を行なっています。私たちは、意欲的に働くため、直接差別・間接差別ともになくしていきたいと考えています。
 まず、直接差別についてお話します。例えば、井上さんを男性とします。男性である井上さんの初任給は20万円で、女性である私の初任給は15万円です。この5万円の差はなぜでしょうか。これは性差別です。なぜ5万円も違うのか、その理由をはっきりしてもらって、性差別なら私も井上さんと同じ20万にして、直接差別を解消してもらう必要があります。
 間接差別というのは、その差別がはっきりわからないので、とらえにくいものです。まず、外見上は性に中立な基準があり、それを会社が運用します。例えば、人事制度や賃金制度です。その結果、一方の構成員、現実的には多くの場合女性に相当程度の不利益が生じるとき、不利益が生じている原因は何かを検討します。その原因が、仕事や職務との関連性で本当に必要な基準なのか、使用者に立証させます。
 直接差別では、差別を訴える側が立証責任を負うことになります。間接差別の場合は職務との関連で、身長や体重、体力の要件について立証でき、それに代わるほかの方法がないことが立証できれば、差別とは見なされません。しかし、立証できなければ、間接的な性差別に該当します。そして、性差別と認定されると、当該者全員の不利益是正が必要となります。
 直接差別との違いは、差別の意図があるか否かは問われません。結果で見ます。そして、集団への影響に着目して、相当程度の不利益が女性たち、あるいは男性たちのどちらかに生じている場合に、職務との関連性が立証されなければ差別となります。
 間接差別は、直接差別が形を変えて、一見中立的な基準となって出てきました。これまでは気づかずに、女性たちがおかしいと思っていたにもかかわらず、女性の多くが排除されている基準などが、会社の男性中心の雇用管理や職場の暗黙のルールから性差別としては見なされず、職場の中に形成されてきたのです。
 ものさしに当ててみて、男女どちらかにバランスが悪く、職務関連性の立証できなければ差別になります。厚生労働省の審議会では労使の綱引きの結果、3つが日本の男女雇用機会均等法には入りました。今日はこの点について詳しくご紹介します。
 募集・採用に当たって、一定の身長・体重・体力を要件としたことにより、女性の採用が男性に比べ相当程度少ない場合、使用者の立証責任が果たせない場合は性差別に当たるとして、2007年の改正均等法で禁止されました。「総合職の募集・採用に当たって、全国転勤を要件とすること」についても改正均等法に入りました。3つめは、「募集・採用に当たって一定の学歴・学部を要件とすること」です。4つめは、「昇進に当たって転居を伴う転勤経験を要件にすること」についても改正均等法で禁止されています。
 いま労働組合が春期生活闘争で変えようとしているのは、5つめの家族手当や住宅手当など、いわゆる生活に関わる手当の支給要件についてです。住民票上の世帯主はもちろん女性にもなれますが、女性が会社に世帯主として子どもの扶養手当などを申請すると、別の証明書を出すように、女性にだけさらなる資料を出させようとするケースがあります。また、連合は、春季生活闘争で、基本賃金に家族手当を組み込もう、本当に必要なら公平にだれからも納得いくような手当に変えていこう、と取り組んでいます。

木本:ありがとうございました。間接差別についての理解が深まったでしょうか。
 次は、労使協定や労働協約という言葉がわかりづらいということで、その点について事例を用いながら井上さんにご説明いただければと思います。

9.労使協定と労働協約

井上:前回の山口さんは「労使協定が法律につながるとか、長時間残業を規制するために労使協定を結び、その協定を守らないケースがある」という話をしましたが、「組合員自身が協定を守らないケースは労働時間の規制以外にもあるのか」という質問がありました。
 労働条件の決定には、すべてに根拠があります。1つは法律、2つめは働く者と会社側で結ぶ雇用契約(労働契約)です。3つめは就業規則で、10人以上の職場では就業規則を労働基準監督署に届け出て、労働者に周知することが義務づけられています。4つめは、労使慣行で、明文化されていなくても、認められるものが労使慣行です。5つめは労働協約で、労働組合と会社が合意したことを文書にしたものです。最後は法律に基づく労使協定で、簡単に言うと、法律を破っても罰せられないものです。
 労働基準法では、労働者は1日8時間、週40時間、4週4休で働くことが明記されています。一般的に普通の会社では残業が多いので、1日8時間ではとても仕事が終わりません。そのときに、労働基準法第36条に基づいて労使協定を結び、1日8時間以上働けることにします。この場合、会社は労働組合が協定を結びますが、労働組合がなければ従業員の過半数代表が結ぶことになります。
 法律を基準として、労働条件が法律より下回るときには労使協定を結びますが、法律より上回る場合は、労働協約を締結します。労働協約は労働組合だけが締結することができますが、ほかの5つは労働組合を必要条件としていません。労働組合の存在意義の第一は、労働協約です。

10.日本社会でなぜジェンダー平等が進まないのか

木本:次は、なぜ、日本社会でジェンダー平等が進まないのか、という質問です。とても大きな問題です。お二人にお応えいただければと思います。まず片岡さんからお願いします。

片岡:なぜ日本でジェンダー平等が進まないのか。端的に言うと、この国の目指す方向、あるいはその施策を決める意思決定者が圧倒的に男性であるからです。これが、ジェンダー平等が進まない大きな要因だと考えています。
また、日本ではジェンダーによる偏見があり、性別役割意識に基づいてつくり上げられた社会意識は従来からあまり変わっていません。期待できるのは、若い世代にその考え方は、おかしいという人の割合が増えてきていることですが、いま日本の意思決定をしている層の男性たちの生活スタイルのなかに、性別役割意識が根強く残っていますので、暗黙のうちに性的役割を押しつけてきました。これが、2つめの理由です。
 さらに、自分が働きながら組合活動をするなかで、多くの女性たちと出会いましたが、その女性たちがいかに差別的状況におかれているかがわかりました。3つめの要因として、日本では一般的に人権意識が欠如していると思います。差別を受けている女性たちがなかなか差別を受けていることを言い出しにくく、我慢をして、あきらめてしまいます。あきらめないで労働組合に相談しても、労働組合の対話がまずかったり、取り合わなかったりすることがあります。労働組合のない会社もありますので、その場合、差別を解消するには裁判で解決するしか方法がありません。労働審判制度もできて、スピーディーな解決ができつつありますが、女性差別の裁判の場合、10年または長いので20年もかかっているケースもあります。自分の差別を次の世代に残したくないと思い、裁判をする女性たちが未だ多数いるのは現実です。女性たちは自分を一人の人間として認めてほしいと闘っています。
 また、日本社会には被害者を責める風潮があり、女性に対する暴力が典型的な例だと思います。セクシャルハラスメントを女性が訴えると、「あなたに隙があったのではないか」と言われて孤立し、自発的に退職する女性たちが多いというのも現実です。人権問題への関心が低く、差別を訴えることが非常に厳しい日本の現実が、日本でジェンダー平等が進まない大きな原因でないかと思っています。

井上:ジェンダー平等については、進んでいる点と、なかなか進まない点があると思います。進んだ点は、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントについて職場の中で声を出して言えるような状況ができてきたことです。私が入職した当時、労働組合は男性ばかりで女性はほとんどいませんでした。公務公共の職場でも多くの組合役員は男性で、セクハラがありましたが、今では、「それはおかしい」と公務公共の職場では認められるようになりました。
 私が勤め始めた頃とは明らかに状況が変わってきていると思います。
 しかし、管理職への登用は公務も民間もなかなか進みません。日本社会は戦後、高度経済成長の時代をへて今に至っています。その間、日本の仕組み、家族の仕組み、会社の仕組み、社会の仕組みが変わってきたと思います。昭和30〜40年代は高度経済成長の時代で、夫は外で仕事をし、妻は家で家庭を守り、子どもを育てるという家庭が大半でした。それに対して会社は、扶養手当や子ども手当を支給しました。税金上でも、妻や子どもの分は扶養控除という仕組みをつくりました。社宅もできました。家族のパターンが国の中で「あるべき姿」としてつくられました。
 ところが、男女雇用機会均等法ができて、女性の高学歴化に伴ってだんだんと時代が変わってきています。女性も仕事をするようになり、法律で男女平等がうたわれるようになりました。しかし、仕組みは変わらず、税制も変わっていません。女性が子育て後、働きに出るようになっても、結果として仕事も家事も育児も女性に負担がかかっています。そこをきちんと包容するだけの力が、いまの社会にはないと思います。
 あるセミナーで聞いた話ですが、日本の街づくり自体が男性の健常者の視点でつくられてきたといいます。しかし、いまそこは少しずつ変わってきました。地下鉄にはエレベーターができ、バリアフリーで車いすでもスムーズに進行できるようになっています。それは女性が社会に出て、女性が街づくりに関わることで、街が変わってきたのだと思います。
 団塊の世代が退職を迎え、若い世代が増えていますので、社会であるいは組合で女性も一緒に考えて行動していけば、自然と社会も変わっていくし、法律も変わり、女性も働きやすい社会になると思います。

11.私たちが目指す女性と男性の平等とは何か。

木本:最後の質問です。私たちが目指す女性と男性の平等とは何かということです。

片岡:いま井上さん言われた、男性健常者の目線から多様になったというお話は大事なポイントだと思います。働く女性の裏側には、いわゆる男性の働き方や生き方の実態があります。まずは女性の抱えている問題を解決しながら、全体の働き方をワークライフ・バランスのとれた働き方にしていきたいと思います。これにより、男性にとっても働き方の選択が広がってくると思います。私たちは、男女平等を通じ、男女だけでなく、障害の有無や年齢の違いなどを超えて、互いの違いを認め合い、尊重される社会づくりを目指しています。

井上:それぞれの生き方が尊重され、守られる社会でなければいけないと思います。海外では男女だけでなく、マイノリティの人たちの人権を守っていこう、という運動が進められています。そしてLGBT(レズやゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の人たちの人権を含めて守っていこう、平等を認め合っていこう、という動きになっています。これから社会に出るみなさんには、そういう広い視点も持っていただきたいと思います。日本の中の海外企業や外資系企業では、ダイバーシティな企業を目指しましょう、というポスターをつくり、企業の中で啓発活動をしてる会社があります。そういう時代に来ています。日本の企業をみると、男女平等等もなかなか進まない現状の中で多様性の尊重にはまだまだ時間がかかると思います。
 日本は以前から排除の社会で、障がい者はだめ、部落はだめ、女はだめ、という排除の歴史でした。その歴史をこれからの若い力で変えていかなければいけないと思います。私の目指す平等は、男女というよりは多様性のある、一人一人の人権が守られる社会です。

木本:ありがとうございました。片岡さんからは人権意識の欠如を、井上さんからは日本の排除の歴史という視点からお話していただきました。非常に重要な論点を出していただいたと思います。大変ありがとうございました。みなさん拍手したいと思います。

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