一橋大学「連合寄付講座」

2009年度“現代労働組合論II”講義録
労働組合の課題と取り組み

第7回(11/20)

正規・非正規労働
【中間まとめ】パネル:積極的雇用政策の確立にむけて

司会:林 大樹(一橋大学)
パネラー:濱口誠(自動車総連事務局次長)、
中村善雄(UIゼンセン同盟政策局長)

林(一橋大学)
  後期のプログラムでは、正規・非正規労働の事例研究を2回にわたって行いました。そこでは、自動車総連の西原会長、UIゼンセン同盟の中村政策局長に、それぞれの労働組合として、非正規労働者の問題をどのように取り組んでいるか、報告していただきました。本日はこれらの講義を前提に、学生から寄せられた質問への回答もまじえながら、自動車総連の濱口事務局次長と、前回講義していただいたUIゼンセン同盟の中村政策局長に、非正規労働者の問題の解決と雇用の安定に向けて何が必要か、について議論をしていただきたいと思います。

濱口(自動車総連)
  こんにちは。自動車総連の濱口です。私は1988年に筑波大学を卒業して、トヨタ自動車に入社し、工場で4年ほど働いた後、本社で生産管理の仕事を5年ほどやって、トヨタ労働組合の専従になりました。それから13年間労働組合の仕事をしてきました。先々週の自動車総連の西原会長の講義が終わった後で、みなさんからいろいろご質問をいただきました。その質問のなかからいくつかお答えします。

1.自動車メーカーと下請け(部品企業)との関係

 まず、1点目は「メーカーと下請けとの関係で、いろいろ対立することがあるのではないか、またそういったときに組合はどう対応するのか」というご質問についてです。
  トヨタや日産、本田だけが儲かって、下請企業がそのあおりをくっているのではないかというイメージがみなさんのなかにはあるかもしれません。しかし、自動車産業は熾烈な国際競争にさらされています。こういう国際競争に打ち勝っていくためにはメーカーだけでは勝てません。メーカーと仕入れ先(下請の部品企業)は原価低減にしても、新製品の開発にしても、お互いに連携を取りあいながらやっています。メーカーも仕入れ先もWIN-WINの関係をつくり、トータルにこういう厳しい競争を乗り切らないと、日本の自動車産業は成り立たないという状況になっています。
  その一方で、メーカーの部品調達の考え方、あるいは原価低減の方針などが仕入れ先に与える影響が大きいのは事実です。この状況で労働組合としてどういう役割を果たすか。各仕入れ先にも労働組合があるところが多いです。大手でいうとデンソーやアイシン精機、もっと小さなところにも労働組合があります。トヨタ系でいうと、全トヨタ労連が、トヨタグループの各企業を組織する組合を束ねる組織としてあります。全トヨタ労連が、トヨタ自動車の原価低減の方針がグループの企業にどのような影響を与えているか、それを職場はどのように受け止めているか、トヨタの施策によって仕入れ先のほうが困っていないかを仕入れ先企業の労働組合に尋ねて、その情報を吸い上げます。もし「大きな影響が出ています」という話があれば、トヨタ労組を通じてトヨタの経営に「こんな状況になっていますよ」「各グループ仕入れ先に誤って伝わっていますよ」と伝えます。
  こういうことのフィードバックを、組合同士もグループという1つの枠の中で連携を密に取り合いながら対応する取り組みもやっています。我々は我々の立場でそういうフォローを経営に対して行っています。これも労働組合の役割の1つです。
  経済産業省は、2007年に、自動車産業における適正取引のガイドラインをとりまとめました。下請けいじめにならないように、ガイドラインに基づいて、メーカーと仕入れ先が連携して、適正な取引をし、この厳しい自動車産業の競争を乗り切ってほしいという思いを込めて制定されています。我々自動車総連は、このガイドラインに則った取引がメーカーと仕入れ先部品企業との間でなされているかについて、各組合にヒアリングをして、実態を確認しています。
  自動車業界には日本自動車工業会や日本自動車部品工業会など自動車メーカーや部品企業で作っている経営者団体があります。自動車総連は、経営者団体と産業別労使会議を設置し、年に3回ぐらい意見交換を行っています。労働組合は、このような場を通じて、ガイドラインに照らして、問題点があるかどうかを伝え、産業全体として適正な取引がなされるようにチェックをしています。

2.製造業派遣が問題となっている背景

 2点目は、「派遣にはいろいろな業種にあるのに、なぜ、最近、製造業派遣にばかりスポットがあたっているのか」という質問についてです。
  2008年秋のリーマンショック以降、労働者派遣が社会問題化しました。年越し派遣村が日比谷公園にできてマスコミからも脚光を浴びました。その時に一番問題になったのが、解雇や雇い止めでしたが、解雇や雇い止めになった多くの方が、製造業に従事していた方でした。厚生労働省の調査によりますと、2008年10月から2009年12月末までの間で解雇や雇い止めになった人、その見込みの人は、全体で14万人ぐらい、そのうち製造業に従事していた方が13万7000人で、全体の約97%にあたります。更にその中で、中途解約された方、すなわち契約期間がまだ残っていたのに、その契約期間が満了する前に途中で解雇された方が14万人のうち、約6万2000人で、うち製造業が6万1000人でした。
  また、製造業派遣には、安全衛生の面でもいろいろ問題があります。厚生労働省の資料をみると、労働災害で怪我した派遣の方について、どの産業に多いかというと、製造業が一番多いです。4日以上の怪我をして休業した人の約65パーセントが製造業です。派遣労働者を職場できめ細かく見切れない、指導できない結果、安全衛生の面でも問題が起きています。
これらの結果、製造業派遣に法的規制の動きが加速しています。

3.自動車産業の社員の待遇

3点目は、「自動車産業の社員の待遇はどうですか」というご質問についてです。
  自動車総連が持っているデータは、自動車産業全体ではなく、自動車総連に加盟している約1100組合のデータです。35歳の正社員の標準的な月例賃金は、メーカー部門が約30万円です。メーカーとは自動車の組み立てメーカーです。メーカーでも規模の大きいところ、トヨタや日産、本田技研は35万円前後の賃金になっています。
  部品メーカーは27万円ぐらい、販売は25万円、輸送部門はだいたい24万円、自動車総連全体の平均は、32歳で約26万円の月例賃金です。
  一時金(ボーナス)の2009年の妥結結果は、例年より厳しい結果だということを前提に聞いていただきたいのですが、メーカーの平均で年間約4.1か月です。月例賃金の1か月はメーカーの平均で35歳で30万円ですから、4か月は120万円です。それが夏と冬に分けて支給されます。メーカーが4.1か月、それ以外の部品や販売がだいたい3.5ヶ月というのが一時金の2009年の妥結結果です。
  他方で厚生労働省が調べた派遣労働者の時給があります。「登録型派遣」(派遣先との派遣契約が終了すれば派遣元との雇用契約も終了する働き方)の労働者の場合、時給は1246円です。1日8時間で、たとえば20日間働いたとして月給換算すると、20万円ぐらいです。常用型派遣(特定の派遣先との派遣契約が終了しても派遣元との雇用契約が継続する働き方)の労働者はそれより若干高くて1322円です。同じように月給換算すると21万円です。派遣労働者の場合は通常一時金がありません。

4.自動車産業の特殊性が労働問題に与える影響
  4点目は、「自動車産業の特殊性が労働問題に与える影響とはどのようなものがあるか」というご質問についてです。
  これは非常に難しい質問です。自動車としての特殊性は、大きく3つあると思います。1つ目は、極めて厳しいグローバル競争に晒されていることです。中国、韓国、アメリカ、ヨーロッパ、日本で、様々な自動車メーカーが競争しています。2つ目は生産変動を避けて通れないことです。必ず生産変動があり、これに対応しないといけません。3つ目は生産拠点がグローバルに広がっているということです。世界中に日本の自動車メーカーの生産拠点があり、トヨタでは53拠点ぐらいあります。
  今回の製造業での派遣切り問題も大きな需要変動の波に翻弄されました。「需要が蒸発したのではないか」という表現が使われるぐらい国内・海外とも販売が一気に落ち込みました。その結果、国内生産は半分になりました。大型と二輪はもっと大きな影響を受けました。短期間に急激な減産に対応せざるを得ず、結果として、非正規労働者の雇止めで減産を乗り切らざるをえませんでした。この生産変動にどう対応していくのかが、労使の本当に大きな課題です。この生産変動に迅速かつ適切に対応していかないとグローバル競争に勝てません。需要に応じてタイムリーに生産していくということは競争条件の大きな要素の1つです。それをどうバランスよく両立させていくのかが今後の課題です。
  もう1つは、やはり国際競争力を保たないといけません。国内の生産で国際競争力が維持できないと、どんどん企業が海外に生産拠点を移す可能性がでてきます。既に海外に生産拠点を展開していますから、国内で作っても国際競争に勝てない場合は、生産を海外にもっていきます。そうすると国内の空洞化が起こります。国内でモノづくりがなくなってしまうかもしれません。そうすると日本の雇用が大きくゆらぐ可能性があります。こういう条件のなかで我々自動車産業としては生き残りをかけて、対応していかなければいけません。こういう産業特性のなかで雇用や労働者派遣の問題にどう対応していくのか、労働組合はどうするのかを考える必要があります。

5.UIゼンセン同盟の多様な業種をまとめるメリット・デメリット

中村(UIゼンセン同盟)
  みなさんこんにちは。前回11月13日の講義では、流通産業のパート従業員の組織化の話を中心にお話ししました。その前段で、UIゼンセン同盟という一種特殊な産業別組合について話しましたが、UIゼンセン同盟が多様な業種を組織する労働組合になったのは、意図的というよりは結果的としてそうなりました。
  今いくつか振り返ると、多様な業種がまとまることについては、メリット、デメリットがあります。そこで私なりに感じている点を4、5点お話したいと思います。
  まずメリットの1点目は、数です。労働組合は大衆組織だと申上げました。組合の交渉力というのは数です。数は力です。労働組合の組織率が非常に低下し、非正規労働者の組織化も容易ではありません。しかし、組織化を進め、組織率を上げれば、労働組合を作るとき、あるいは経営者団体と様々な課題を交渉する時、交渉力が高まり、大きな影響力をもてます。
  UIゼンセン同盟は、戦後初期には繊維産業を組織していました。当時、繊維はまさしく日本の基幹産業でありました。しかし産業構造の変化によって、繊維産業の労働者数は減少していきました。その結果、1つの業種だけを組織していると、組織人員は減少していきます。したがって、いかに組織人員を維持していくかが非常に大きな課題となってきました。
  同時に最終的な労働組合の評価は、労働組合が何をやっているのか、社会的にどういった意義を果たしているのかによって、社会的に決定をされるものだと思います。1つの衰退産業を組織しているだけでなく、新たな産業や多様な業種を組織化することによって、産業別労働組合としての交渉力、発言力というものも維持されます。
  メリットの2点目は、産業別労働組合の役割に関わります。基本的には日本の労働組合は企業別労働組合ですから、交渉主体は企業別労働組合にあります。ただ、企業別労働組合には情報量が少ない、労働組合のリーダーとしての知識や経験は属人的な要素に左右されるといった、様々な欠点もあります。そこをサポートするのがまさしく産業別労働組合の役割です。UIゼンセン同盟は全国47の都道府県支部に専従スタッフを抱えて、中小労働組合の指導や地域における交流の場を設定しています。小規模な業種では専従スタッフを抱えられませんが、業種にかかわらず団結すれば専従スタッフを置けます。
  メリットの3点目は、産業別組合による企業別組合へのサポートです。例えば企業の倒産や合理化といった局面においては、労働者は場合によって雇用を失います。この場合組合としてどのように対応するか。これには様々なパターンがあり、経営者の性質や労使関係を判断して、やっていかなければならない局面が多くあります。それは、ある種経験の世界です。私も以前にそのようなケースに対応をしたことがありますが、マニュアル的には対応できない部分です。企業別組合にとっては、問題を解決してしまえば、それで終わってしまい、それ以上のノウハウが蓄積されませんが、産業別労働組合が専従スタッフを抱えて、経験をノウハウとして蓄積することが、重要です。個別企業の事情を超えた問題に対処しなければならないときに、蓄積された経験とノウハウでサポートをするのが産業別労働組合の大きな仕事の1つとなります。
  メリットの4点目は、多業種の企業別労働組合のリーダーたちに対して、労働運動の思想などを理解してもらう場を作っていく役割を産業別労働組合が果たせるということです。
  UIゼンセン同盟では、企業別労働組合のリーダーに対して現場でさまざまな交流をさせています。とりわけ地域が拠点になりますが、まったくの同業ということの経験交流だけではなくて、様々な組織化、あるいは様々な労働運動の取り組みのなかで、それぞれの経験交流を行います。そこに非常に魅力を感じている組合の方々が多いと思います。パート従業員についても同じです。同じ業種以外のところに広がる。様々な違う業種の人たちと話をすることは、何か新しい革新を生み出す場合に重要なポイントになると思います。企業別労働組合で組合運営をしていくとそれぞれ悩みがあります。そういうときに、どうしたら良いのだろうと経験や交流を行うことは非常に意味のあることです。
  デメリットはあまりないと思います。あえて1ついうと、UIゼンセン同盟として運動を進めていく上での統一性の維持と求心力の低下が克服しなければいけない課題です。トップレベルの中央執行委員会では、それぞれの業種の代表の方がUIゼンセン同盟の方針などについて議論します。そこで融和を図っていくのに大変苦労します。労働条件は業種によって様々です。賃上げについて、同一の要求はなかなか難しいのです。UIゼンセン同盟として統一的な数字を出して、それを各業種で具体化して、組合員の感覚にフィットするものにします。「芯は一本」ということです。「中央の縛り」というと言い過ぎかもしれません。そういう点を苦労しながら組織運営をやっています。最終的には全体の合意で行います。その合意のベースに、いかにして統一的求心力を保っていくかが重要です。特に、中小企業の労働組合にとって、統一的にやることに非常に大きなメリットがあります。

林(一橋大学)
  一般的に考えて、たとえば小回りがきかないとか、機動性がないとか、あるいは時代の変化についていくには不利ではないか、そういうデメリットはないでしょうか。

中村(UIゼンセン同盟)
  統一性と多様性はセットです。業種ごとで部会を開きます。産業の変化に対する具体的な対応は、業種部会のところで多様性を図り、独自のものを入れながら、対応していく仕組みにしています。問題は業種ごとの多様性と本来芯を通さなければいけない統一性の部分とのバランスをどうとるかです。

6.派遣労働に対する労働組合の対応

林(一橋大学)
  常用型派遣、登録型派遣、製造業派遣にいろいろな問題があると思うのですが、労働組合として、どのように考え、対応をしているのでしょうか。お二人それぞれお答え下さい。

濱口(自動車総連)
  自動車総連としての考え方を紹介します。登録型派遣は極めて不安定な雇用形態です。登録型派遣では、派遣先との派遣契約が切れれば、そこで雇用契約が終了します。そういう不安定な雇用形態は、禁止をしていく方向で見直すべきです。他方、常用型派遣は、登録型と比べて、相対的に雇用の安定性が担保されています。しかし、常用型も問題がないわけではありません。短期の細切れの連続派遣でも1年を超えれば常用型と見なしても良いという抜け道があります。たとえば2か月単位の契約を更新して12か月過ぎたような場合は、常用型と見なします。したがって、派遣元の雇用責任をもっと強化をさせないといけないと思います。
派遣という雇用形態の問題は、常用型、登録型に関係なく、職業能力が蓄積されないことです。派遣労働では仕事内容がどんどん変わりますので、ご本人の能力開発が置き去りにされてしまいます。常用型においても派遣元が労働者の職業訓練や能力開発をしっかりできる環境を整える必要があります。こういうことが条件として成り立つのであれば、常用型については登録型のように即禁止しなくても良いと考えています。
  一方、派遣労働者本人の意識については、厚生労働省の「平成19年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると登録型の人は今の派遣を続けたいと思っている人が、45%ぐらいいます。半分以下ですが、見方によっては半分近くもいるという見方があるかもしれません。常用型の人は約5割です。他の雇用形態に代わりたい人が半分います。他の形態に変わりたい人の9割以上は正社員になりたいと思っています。正社員になれなかったから、やむなく派遣という働き方にならざるをえなかった人です。その働き方から抜け出せない人が多く、固定化しています。若い人たちが非正規の働き方で固定化することは非常に問題があると思います。そこから抜け出して正社員になりたい人はちゃんとなれる、そういう社会を作っていかないと日本全体の活力がどんどん失われていきます。若い人たちが力を発揮できない社会は、先々しぼんでいくだけだと思います。そうならないために、若い人たちが社会に貢献できるような社会づくりを、労働組合の立場からもしっかりとやっていきたいと思います。

中村(UIゼンセン同盟)
  派遣制度をどう考えるかは、基本的には日本の大きな雇用政策の枠組みをどう決めるかということだと思います。連合を中心にして、基本的には、労働者の雇用の安定がはかれるような仕組みをつくり、派遣について規制を強化していこうとしています。
  UIゼンセン同盟では、登録型はいろいろ問題があると考えています。加えて、それでは常用型は問題がないのか、という議論をしています。労働者派遣契約は、派遣先と派遣元の会社間で結ばれた契約です。その契約を途中でやめたら契約違反になります。これは民法上の問題です。契約自由の結果として、派遣という形で働いている労働者は、雇用が不安定であり、同時にキャリアを形成することができません。本質的に不安定なのです。
  労働者の雇用安定を考えると、派遣先が労働者保護に一定の責任を持つことが当然必要です。しかし、今の法律の枠組みでは、派遣労働者の雇用責任は、基本的には雇用主である派遣元が責任を持つことになっています。
  競争自由の中でさまざまな派遣契約が行われ、契約条件が下がってきました。とりわけ1999年の派遣対象業務の自由化以後は、競争促進的な契約が広がり、結果的にはダンピングが起こっています。本来、派遣元が派遣労働者を守らなければならないことになっていますが、現実には守れていません。派遣元がしっかりした交渉力を持たないとだめです。その交渉力が成立する基盤は何かといえば、基本的には業務の専門性です。専門的な業務であれば、当然派遣先に対して派遣元が一定の交渉力を持ちえます。この場合には、派遣元は労働者の保護責任を担保できます。
  1999年の派遣対象業務の自由化で、専門的な業務以外に、臨時的・一時的という枠組みで派遣が認められました。その結果、臨時的・一時的な登録型派遣が非常に多く増やされてきました。派遣制度の改善の方法はいろんな案があります。たとえば、派遣先にきちっとした責任を課すなどです。派遣元でしっかり保護ができて、なおかつ派遣労働者のキャリアが担保されるような枠組みを作っていかなければなりません。
  登録型に比べれば、常用型の雇用はたしかに安定はしています。本来的には臨時的・一時的業務の部分であっても、常用だったら大丈夫ではないかという議論があります。しかし、細切れでも1年を超えれば常用雇用になります。ところが、仕事がなくなれば派遣会社として雇用を維持できません。形の上で、常用、あるいは無期の雇用契約であっても、現実には、派遣の仕事がなければ雇用は維持できません。そこで、業務上やむを得ざる理由による解雇になってしまいます。これが現実です。形式上常用だから安定をしているかといえば、そうではありません。結局、派遣元が派遣労働者を守るような競争力の基盤が社会経済的に成立しないところに、形式だけ常用型だから安定ですといっても、問題は決して解決しません。
  もう1つの問題は、現実に派遣労働者として働いている人がいるという事実です。派遣を禁止したからといって、その方たちの雇用が安定するか否かはまったく別の問題です。この10年間、規制緩和がどんどん進められた結果、派遣労働者が増えました。苦しくて職がなくて、それしか仕事がないという人たちがたくさんいます。そういう人たちの職をどうするか。一方では、安定的な雇用の枠組みを社会的にどのように作っていくかが大事です。また同時に、現実の問題としては、派遣で働いている人たちの雇用や再就職をどのように支援していくかも重要な課題です。これは派遣会社を組織化している立場から組合員の雇用を現実問題として考えなければいけません。禁止すればそれで良かったという話ではありません。しっかりしたステップの切り方が重要だと思っています。
  UIゼンセン同盟傘下の派遣会社の労働組合もそういう視点でいろいろ取り組んでいます。本来あるべき姿は基本的には連合と違いがありませんが、具体的な進め方や方法について、現実に働いている人たちをどう守っていくかのところでは若干発言のトーンが連合と異なります。

7.製造業派遣と偽装請負

林(一橋大学)
  製造業派遣と偽装請負について、組合としてどのようにお考えでしょうか。

濱口(自動車総連)
  自動車総連としては、自動車産業の生産変動は避けて通れないと考えています。その生産変動への対応の選択肢として、やはり非正規労働者の力を借りざるを得ないというのが基本スタンスとなります。
  しかし、非正規労働者の雇用形態をどう考えるか。この点では、我々は直接雇用がより望ましいと考えています。派遣というのは間接雇用です。直接雇用というのは期間従業員やパートです。
したがって、製造業派遣は、登録型については禁止する方向です。ただし、登録型派遣は、即禁止ではなく、一定の条件を整えた上で猶予期間をおくべきです。その上で直接雇用の期間従業員等をベースに対応するのが自動車産業としては望ましいと考えています。
  今、民主党、国民新党、社民党が3党で合意した派遣法の改正案があります。この内容は、製造業派遣は禁止、ただし専門業務だけは除きます、となっています。要するに、登録型も常用型も製造業は禁止するというのが3党合意の派遣法改正案でした。そうすると常用型も禁止ということになりますので、自動車総連としては、現実問題を見据え留意しなければいけない点があると思います。
  その留意点の1つとしては、中小企業の経営者のみなさんとお話すると、「派遣を禁止されると辛い」とおっしゃいます。法が変わったといっても、ここまで派遣が浸透しているなかで、急激な変化には対応できないので、ソフトランディングさせることを労働組合としても考えてくれないかというご意見をいただくことが多いです。我々としては、派遣法が改正されて製造業派遣が禁止になるとしても、ソフトランディングをできるよう政府に働き掛けていく必要はあると思います。
  2つ目として、「専門業務は良い」と言っています。しかし、専門業務とは何かという議論は一切されていません。何をもって専門業務だと思っているのか、これは全然明らかになっていません。この専門業務の定義は非常に難しいです。国家資格があればいいのか。経産省が認めた資格が必要な業務を専門業務とみなすのか。この辺が定かになっていません。この専門業務のところを緩くしてしまうと、派遣法を見直ししたとしても、なし崩しになってしまう懸念があります。我々としては専門業務のところについてはあまり間口を拡大させないスタンスで取り組んでいく必要があると考えます。
  3つ目は、派遣会社の中にも様々な会社があります。派遣会社が増えすぎています。派遣元として雇用責任を感じて、あるいは派遣労働者本人への教育もしっかり行って派遣先に送り出していく会社もあれば、雇用保険すら入っていない、電話一本で絶えず人を右から左に動かしているような派遣会社もあります。いい加減な派遣会社は淘汰されるような規制をかけるべきだと思います。
  4つ目は、製造業の中には、登録型や常用型で働いている派遣のみなさんがいます。こういった方の雇用をどう守っていくのかが大事です。そういう人たちがスムーズに次の雇用に移れるような対応をしっかり取っていかないといけません。
  5つ目は、偽装請負の問題です。これはコンプライアンス違反ですから、労働組合としてもしっかりと職場をウォッチして、偽装請負にさせない取り組みが大事だと思います。これまで偽装請負で目立っていたのは、指揮命令権が請負会社になく、発注先や注文先の人が指揮命令をしているパターンです。そこの部分をしっかり対応しないと、また偽装請負が増えてしまう懸念があります。
  先ほどの派遣法との関連で言うと、派遣法が変わると直接雇用か、請負か、この2つの選択肢しかなくなってきます。中小企業は直接雇用しようと自分のところで採用活動をしても人が集まらないところが多いです。そういう中小企業の経営者が今考えていることは請負です。そうすると偽装請負にならないような労使のフォロー体制、チェック体制がますます重要になってきます。この点は法改正の動きをしっかりウォッチしながら我々労働組合としての対応を考えるべきです。

中村(UIゼンセン同盟)
  派遣が悪いというのは簡単ですが、今の日本の産業は、ある種の麻薬をやってしまった中毒患者です。これをどうリハビリさせるかという局面に似ています。感情的に悪いとか、おかしいという部分の議論でなくて、冷静な議論を求めていくスタンスが必要です。労働者のキャリアができるような仕組みをどう作っていくかを考えないといけません。
  派遣法の99年改正と2004年改正で、臨時的・一時的業務の派遣期間1年の上限は、3年までに伸ばされました。そうすると2009年ぐらいにちょうど3年という期限が回ってきます。そうなると合法的に派遣という形態は使えなくなる事態が予想され、とりわけ製造業等に派遣をしていたところは派遣から請負に切り替えるような活動をし、そこで偽装請負の問題が発生しました。
  経営者は先を読みながら行動しないと生き残ってはいけません。1年ぐらい前から法改正もあるだろうということで、派遣からいかに合法的に請負に切り変えられるかが問題となりました。しかし、派遣元がそこのところを理解していても、派遣先は、派遣と請負の区別がなかなか分からないという実態があります。労働組合としては、派遣法の遵守のチェックをしっかりするようにしています。
  それから、派遣業は様々です。私たちが最初に派遣を組織化して何をしたかというと、いわゆるコンプライアンスです。派遣で働く人々の雇用、労働条件を守っていくために、派遣というビジネスが一種ダーティビジネスみたいなイメージもあるなかで、コンプライアンスを高める活動を、協会、経営者団体を含めて、きちっと行っていく必要があります。
傘下の派遣会社が、いわゆる社会的な認知を得られるような正統なビジネスを行い、コンプラに取り組み、労使チェックを行い、努力していくことがまずは必要です。

8.中小企業の労働組合

林(一橋大学)
  中小企業の労働組合の実情について簡単にお答えいただければと思います。

中村(UIゼンセン同盟)
  中小企業の組合は交渉力が弱いです。それに対して、労働組合が支援していくことが非常に重要だと思います。賃上げ要求では、組合員の意見を聞き、きちっとした要求を組み立てて、企業別労働組合として自決して交渉してやっていくことが大切です。しかし、実際には中小企業の労働組合ではなかなかできない部分があります。中小企業の賃金実態も中途入社が多く、かなり様々です。そのような状況の中でいかに交渉力をつけるかですが、なかなか厳しいものがあります。そこで、全体を底上げする仕組みとして、賃上げ闘争という全体の枠組みを作り、産別として方向性を出して、現場の人に受け入れられる要求を出して、ひっぱっていく必要があります。
  最終的に現場では理屈などない世界です。なぜ、要求額まで賃上げしなければいけないのかといえば、乱暴な言い方をすれば、(上部団体である)UIゼンセン同盟がそれ以下の金額では認めないと言っているからなのです。その要求基準はさまざまな業種全体での議論のなかで整合性を持って作るものです。様々な水準が混在している中小企業に対して、きちっとした統一的な物差しを出してあげることが、中小の賃上げをやるときには非常に重要です。
  UIゼンセン同盟は、多様な業種を組織していて、中小企業が多いという中で、統一要求にかなりこだわってきました。賃上げの議論は、大手も中小も一緒にした場の中で議論していき、その相互理解の前提に立って、中小の労働組合の要求を出していきます。

濱口(自動車総連)
  中小企業の労働組合の場合は人的リソースの面で大手と差があります。例えばトヨタ労組で専従役員、つまり職場の仕事から離れて、組合の活動だけをやっている人が60人います。中小企業では仕事をやりながら組合活動をやります。そこで、産別なり、企業連で、統一要求を掲げて、みんなで目標に向かってやっていく方針を出していくことが中小企業の労働組合活動を下支えする1つの大きな力になります。中小の場合はみんなの顔が見える組合運動はできますけども、その一方で時間も、お金も限られたなかで組合運動をやらざるを得ない実態です。

林(一橋大学)
  今日は大変ありがとうございました。

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