一橋大学「連合寄付講座」

2009年度“現代労働組合論II”講義録
労働組合の課題と取り組み

第6回(11/13)

正規・非正規労働
事例研究②UIゼンセン同盟の取り組み

ゲストスピーカー:中村 善雄(UIゼンセン同盟政策局長)

はじめに

 こんにちは。本学を出て、UIゼンセン同盟に職を得て現在に至ります。本日は、非正規労働者問題に関するUIゼンセン同盟の取り組みについてお話しします。私は学者でもないし、あくまでも一労働組合の実務家です。労働組合やパート従業員など非正規の人たちが今どういう状況であるかをみなさんにイメージしていただきながら、直面する課題と労働組合はどのように取り組んでいるかをお話しします。
  非常に分厚い資料をお手元に配らせていただきました。これは『UIゼンセン同盟新聞』という組合員に配布しているニュースです。一般のパート従業員に読んでいただけるものとして、そういう方たちの考え方や意識がにじむようなものを出しています。そのような素材として見ていただければと思います。みなさん、私たちUIゼンセン同盟という労働組合が、現場でどういった取り組みをしているか、非正規労働者として働く人たちの感覚や、彼ら彼女らを組合としてどうみているのかを、雑誌ふうに目を通していただきながら、今後どうしていくべきかを考えていただければありがたいと思います。

1.労働組合とは何か

 労働組合は「社会的な存在」であり、かつ「歴史的な存在」だと思います。産業革命以来、労働組合が作られて活動してきました。構造と機能などいろんな分析の議論があります。労働組合は社会変革を進める労働運動の主体だという特徴を持っています。もちろんこれは歴史的に作られてきたし、労働組合は社会正義を追求していく使命を本来的に持っています。パートタイム労働者など非正規労働者や、様々なところで組織化されていない、権利をおびやかされている人たちに対して、労働組合としては何を行っていくのかを問われています。
  2つ目の大きな特徴は、労働組合は社会的存在として、役割や社会的に為すべきことをやるのだと期待され、位置づけられている存在だということです。憲法や労組法によって、労働者の権利として、団結権、団体交渉権、ストライキ権が与えられています。日本社会の枠組みの中で、労働者の権利が与えられて当たり前だと労働組合の社会的な役割が認知されています。このことを自覚することも必要です。
  様々な企業で不祥事があります。食品の偽装が多発しました。そういうことが起きたときに、現場で一番わかっているのは労働組合の組合員です。なぜ労働組合はそれらをチェックできないのか。ある会社がつぶれて、会社更生法という、生き残りのための法的手続きに入るということになりました。もちろん、その会社とはふだんから労使協議を行い、組合としては経営チェックも行っていました。会社は本業以外のところで大きく焦げ付いて、会社更生法を申請しました。その時に、会社更生という法的手続きは、債権者の方々に債権をまけてもらうということで、さまざまな取引先も含めて迷惑をかける制度です。それによって企業として生き残るというものです。では本当に支援するかどうか。裁判所から労働組合が呼ばれます。会社更生を決定するかどうかを裁判所として判断するために、労働組合の意見を聴きたいと言われました。私たちは労働組合の上部団体なので、裁判所に行って、組合員の雇用を守っていくために再生をしていただきたいとお願いに行きます。そこで裁判官から「労働組合として、会社がこういう事態に立ち至ったことについて、どう思っていますか」と問われました。あなたたちはどういうことをしてきたのですか。どのような責任があると思っていますか。1つの企業を続けていくのは企業だけの責任ではない。組合として社会正義を追求していく存在であることを前提とした上で、組合の役割についてどうするのだと。単に労働三権が権利としてあって、頑張ってきましただけではない。その裏腹のものがあるということを強く教えられました。労働組合は社会からその役割を期待されているからこそ社会的に認知もされ、労働三権の保護が与えられているのだと思った記憶があります。
  3つ目が、労働組合は大衆組織です。大衆というと、ちょっと古い時代のようなものと思うかもしれません。労働組合は弱い人たち、労働者の集まり、一般の人たちの集まりです。一番重要なのは数。数は力。当たり前です。労働組合に力があるのは最終的には数のまとまりです。不当な使用者と対抗することができる。もちろん法律違反として裁判をすることも重要な闘いの方法の1つですが、基本的に労使対等の交渉力を持つことで、公正な社会を作っていけるのです。労働基準法で決められているのは、労働者としての最低限の労働基準ですね。労働時間や最低賃金は決められているけれども、働いていくのに賃金をどうするか。それは労働組合の交渉力、対等な力によって、適正なものを決めていく。そうやって社会の公正さを維持していく。少なくとも戦後の日本の労使関係、労働法の体系は、そういうことを前提にして作られている。これが、歴史的社会的な存在であるということです。
  もう1つは企業別労働組合。日本で労働組合は企業ごとに組織されています。企業に組合があり、ユニオンショップ協定というのがあれば、入社すると組合員です。そうすると自分は労働組合員であるか、社会的な存在としての労働組合の一部分を担っているかという意識はまったくないと思います。労働組合に入りたくて組合員であるわけではなく、会社に入ったら、労働組合がそこにあったということがほとんどだろうと思います。企業別組合というのは、本来的に労働条件を高めていくためには非常に有効な組織だろうと思います。しかし、弱いところがある。それは会社が倒産するとか、経営状況が悪化したら賃上げも主張できないかもしれない。正社員以外の人が増えているところでは、パート従業員の人たちが不当に低い条件だといってもなかなか手が出せないこともある。それは1つの社会的な事実だと思います。
  私たちがしている産業別労働組合の仕事は、こういう企業別労働組合に対して、いかに労働組合としての社会的な役割を自覚しながら取り組んでいくかをサポートしていくことです。

2.UIゼンセン同盟の概要

 資料の1ページ目に「UIゼンセン同盟とは」があります。UIゼンセン同盟は日本の中ではちょっと変わった産別かもしれません。繊維・衣料、医薬・化粧品、化学・エネルギー、窯業・建材、食品、流通、印刷、レジャーサービス、福祉・医療産業、派遣・業務請負など、国民生活に関連する産業の労働者が結集して組織した産業別労働組合です。業種別部会の構成を見ていただきますと、繊維関連や化学などの業界が掲載されています。非常に多様な業種です。その中で、流通部会やフードサービス部会、生活・総合産業部会などが組織・人員で見ると大きくなってきています。UIゼンセン同盟の特色は3つあります。
  1つ目は、ごらんのように多様な業種であることです。多様であるが故に、労働組合としての統一性をどうするかを非常に意識して取り組みをしています。運動のあるべき姿や役割をアイデンティティにしながら、多様な業種で働く人たちの労働組合としてまとめていく宿命を持っています。組織上の要請としても、運動論を非常に重視しています。現在、これだけ多様な業種があると、それぞれ労働条件が産業によって違いますので、賃上げをどう考えるか、働く者として最低限のものをきちんとみんなで取りましょうね、一緒にやりましょうと統一闘争をしていこうという指向性をかなり強く持っています。
  なぜこんなに多様な業種を抱える組合になってしまったか。ゼンセン同盟はカタカナで書いてありますけれど、戦後になって労働組合ができたころは、全国の繊維産業の労働組合でした。その後、産業構造の変化によって、繊維産業は衰退していったので、繊維から衣料やアパレル関連業種に組織化を進めていきました。同時に川下の流通小売業やチェーンストア、スーパー、ダイエーやマイカル、イオンなどを組織をする。そういった経過の中で、多様な産業、国民生活に関連するかなり内需型に近い産業を組織している労働組合となりました。
  2つ目の特徴は、先ほどの部会組織の表の下に、地方部会とあります。1370組合と、数が飛び抜けて多くなっていて、組織人員は10万名弱です。これは地場の産業で、中小企業の労働組合です。昔は繊維の組合だったので繊維の産地で集合的に組織していました。今は中小企業の多様な業種を地域でまとめています。全国47都道府県に地域支部を持っています。地域支部が中小企業の労働組合の世話をしています。そのために人をはり付けています。したがって、UIゼンセン同盟は専従者、つまり会社を休職して組合活動だけをしている人だけではなく、私のように、労働組合に就職しての組合活動を専門にしていく人を非常に多く抱えています。
  3つ目の特徴は今日の本題です。非常にパートの組合員が多いです。これが大きな特色になっています。短時間(パート)組合員の割合というのを見ていただきますと、正社員56%、短時間組合員44%。組織人員だけで見ると、実にもう半数近くがいわゆるパート従業員という短時間勤務の人たちの組合です。この多さは、当然、業種特性を反映しています。流通部会の加盟組合を見ると、ダイエー、イオン、マイカル、ヨーカドー、マルエツ、このあたりは一般のスーパーや食品小売り。あとは専門店、アルペンはスキー用品。Joshin、ベスト、ヤマダは家電。マツモトキヨシはドラッグの小売り。しかも、合計すると組合員数は40万名程となります。これらの業種は非常に短時間労働者が多いところです。もちろん最初は、パート従業員は組合員ではありませんでした。正社員を中心に組合は作られてきました。しかし、2000年前後から力を入れてきて、パート従業員の組合員化を進めてきました。その結果、現在ではおよそ半数強は組合員という構成になっています。

3.パートタイム労働者の組織化・労働条件向上に向けた取り組み

(1)パートタイム労働者の組織化の経緯
  今回のテーマとの関係で悩みを1つ言います。現在、私たちの直面している課題は働く側のニーズが変化をしていることです。ダイエーやイオンなどのスーパーマーケットはパート従業員なしでは職場は成り立たないです。以前のパート従業員の主力は主婦パートでした。近隣の地域で手近に働けるような場を見つけて、家計の補助のために働いていました。そういう就業意識の人たちが多数でした。したがって、組合として、そういう人たちと一緒にやっていくかというと、「ちょっと別のカテゴリーだね」というところがありました。空いた時間というと失礼になりますが、その時間働いて、稼ぎたい。そこそこで良い。そんなにのめり込みたくないという、家計補助的な部分の方たちが主流だった。しかし、この間、非常に大きな変化がありました。世間では労働分野の規制緩和が起こりました。新卒の方や20代、30代の人たちが正社員に就きたくても職がない。そういう中で、パートなどさまざまな非正規の仕事に就かざるを得ない。そういう人たちが非常に多くなってきました。流通の現場でもそういった人たちがパートで働くことが増えています。その結果、パート従業員の人たちの関わり方、置かれている状況が大きく変わってきました。ここにどう対応していくかを考えなければいけません。
  最近、会社がつぶれそうだということになって、希望退職でやめてくださいとか、人件費を削減しなければならないので、一度正社員をやめてパート従業員という形で雇用をつなぎますから、ちょっとこれでやってくださいといったことも結構多く起きています。もちろん、これは身分格差としての日本的なパート従業員。フェアということからすると決して許すことができないとことです。事実として、1990年代後半から現在にかけて、このような動きが出てきました。
  これらの結果、働いているパートの人たちの意識が変わってきました。これに対してどう対応していくかが問われています
  ここで1つの特徴は、ここが企業内労働組合らしいと思いますが、労働組合としてパート従業員を組織化すると決断をしました。それは流通業という特殊な事情があるのも事実です。それは現場ではパート従業員が半数以上で、企業が活動を続けていくためにパート従業員という存在がなくてはならない。逆に言うと、生産量調整があって、臨時的一時的に必要な労働力ではなくて、会社活動の生命線そのものに関わるところを担っている。そういった特徴があります。したがって、ゼンセンの流通業の労働組合の選択は、働く者はパートや雇用形態はなんでもみんな組合員として一緒ではないか。むしろ労働組合として、組織して、全体の中で自らの雇用と労働条件を守っていきましょう。そして、会社側からも一定のニーズがあり、2000年から多くの組合でパートの組織化が進みました。
  パート従業員を組織化しなければいけない。身分格差だけのパートを組合として許すことはできない。きちんと組織化をするか、正社員として入れる。生産調整のような臨時労働者は最低限に規制する。そういった取り組みは昔からしてきました。特に、1973年のオイルショックの頃に、ゼンセン同盟として、臨時雇用労働者の組織化方針を打ち出し、臨時工やパート従業員の組織化を取り組みました。
  1988~89年、日本でパート労働法が成立した頃、臨時パートタイム労働者の対策方針を設定して、基幹的な仕事をしているパート従業員を組織化しましょうと方針を決めました。具体的には、1日6時間以上働いているパート従業員で、週30時間以上働いている社会保険の加入義務がある人たちについて、組織化をすることとしました。労働条件についてはパート従業員でもきちんとした資格制度を作って公正な処遇を求め、パート従業員にも資格制度が入っていきました。企業側からも戦力化をしたいという発想が常にありました。それを前提に、戦力化の対象となる基幹的な人たちをまず組織化しましょうと進めてきました。1990年代から組織化の下地を作ってきました。1998年に臨時・パートタイム労働者、そして、中間管理職も含めて組織化方針を出しました。結果としては、それが2000年ぐらいからパート従業員の非常に大きな組織化につながってきました。
  1998年から2000年頃の時代的な特徴は、バブル経済がはじけて、日本は非常に不況に陥った時期です。失業率が4%を超えました。以前は1%台の失業率でした。グローバルな競争となって、国内市場が飽和してきました。従来のような経済成長を持続する社会的な期待がなくなって、国内型産業、とりわけ流通業においては非常に厳しい競争環境が出現します。現に2001年には、流通大手のマイカルという一部上場企業で大店舗もたくさんあったところが破綻するなど、国内の流通産業は非常に厳しい状況でした。
  現在でも日本の労働組合組織率は低迷していますが、この頃から組織率の低下ということが社会的にも大きな問題となってきました。リストラが進み、正社員が減らされる中で、個別の企業別労働組合の組織率もどんどん低下していきました。日本全体の組織率も下がりました。そういった事態の中で、労働組合としての組織率、とりわけ企業内の組織率を高めなければいけないということで、あらためてパートタイムの組織化方針を出しました。不況で、市場環境が厳しければ、賃上げや労働条件の向上のための交渉力は落ちるし、労働条件は悪化します。しかし、その中で、組合員の生活を守り、条件を向上させていくには、労働組合として団結して交渉するしかありません。ところが、1つの企業内において労働組合はあったとしても、最終的に会社側が嫌だ、できない、労働条件切り下げを飲めといわれたときに、闘う手段がなければ、結果的に組合員の雇用や労働条件を守ることができません。職場の中で、パート従業員が多くなって、しかも組合員ではない方たちが多くなっている。しかも基幹労働力ですから、パートだけで一定の仕事が流れます。労働組合は伝家の宝刀といわれるストライキ権を持っています。実際やってごらんよ。何が変わるの。このような究極的な危機感がありました。流通産業は先行きが非常に不透明でしたから、今後はどうなるかわからないという中で、組織化方針を大々的に打ち出しました。
  会社側にも理由がありました。会社は、今後あまり成長が見込めない市場の中で、しかも地場のスーパーで稼いでいかないといけない。そのために、どこで他と差別化していくのか。企業の競争力の源泉は現場にあって、その現場で勝たなくてはならない。パート従業員はそれを担う基幹的労働力。まさしく企業の経営戦略でも追いつめられていたという状況にありました。その結果、組織化が進んだのだろうと思います。

(2)パートタイム組合員の意識
  UIゼンセン同盟は組合員のために5年ごとに調査を行っています。この中で、パート従業員がどのような意識で働いているかについても調査を行いました。2006年の調査が、UIゼンセン同盟として、パート従業員にかなり網をかけて行った意識調査の最初になります。
  回答したパート従業員の数は3600名ぐらいで、流通関係の店舗で働いている人たちがほとんどです。そのうち多くが女性で、独身の女性社員と、従来の流通スーパーの主力であった既婚女性で配偶者が正社員で働いている人たちが、だいたい拮抗しています。女性独身パート社員は、年齢が36歳ぐらい、既婚の人は流通業も年数が経ってきたので平均年齢が45歳ぐらいです。
  この調査の項目で「生活意識」があるのですが、女性の独身パート社員は他の方たちに際だって生活の満足度が低いという結果が出ました。これは先程申し上げた非正規化が進む流れの中で、正社員の職がなくて相当の人たちが入ってきているということの現れです。
  「今後2~3年における失業の不安を感じているか」という項目について、不安を感じている方の割合が、女性の独身パート社員の中で非常に多くなっています。この人たちのことをどう考えるかは、今現場でつきつけられている1つの大きな問題だろうと思います。
  パート従業員を対象に「労働組合をどう思っているか」を尋ねた調査は、組合からしか調査データはないと思います。パート従業員の「組合活動への評価」は正社員より低いです。不満・満足が拮抗状態、4割強ずつで、これはあまり年齢には関係がありません。「組合への帰属意識」も正社員に比べれば65%弱、と低くなっています。「賃金・一時金について」も、労働組合としてよくやっているという評価は少ないです。これはこれまで正社員中心でやってきて、賃上げも正社員に準じてやってきたためです。特にパート従業員の人たちの特徴は、労働組合ができたということは、賃金や労働条件を上げる期待が非常に強いです。しかし、企業の状況では苦しいわけです。そこでどうするかが大きな課題です。いま変化が進んでいるところで、連合も旗を振って、ここ数年パート従業員の賃上げを取り組んでいます。UIゼンセン同盟は、毎年賃上げをこれぐらい一緒に要求しようと決めます。3年前からパート従業員の組合員の要求基準を具体的に決めて、統一要求して、妥結も3月の一定の期間内に決めましょうと取り組んでいます。パート従業員について特別に要求基準をたてて、それを重点的に交渉しろという方針に切り替えて、交渉しています。結果的には、正社員を上回る率でパートタイムの賃上げ、時給の引き上げを獲得しています。といっても、15円。要求でだいたい時給30円から40円、獲得で13円から15円ぐらいということです。そこに重点を置いた活動をするようになっています。

(3)企業別組合における組織化
  もう1つ大きい問題はパート従業員の雇用不安です。雇用がきちんとつながるのかが大きな問題です。ダイエーユニオンが行った意識調査の内容を紹介します。ダイエーユニオンは、パート従業員1万853名を組合員化しました。正社員は1万2000~3000名です。すぐには組織化できないので、2年間かけています。その前段でダイエーユニオンが組織化していないパート従業員対象に意識調査を行いました。意識調査の内容を見ると、パート従業員の9割が労働組合を必要だと思っています。UIゼンセン新聞の見出しに「雇用、労働条件、ベースアップに強い関心」とあります。やはり雇用の安定が4割でトップです。ダイエーが組織化した調査時点、新聞の日付が2002年6月、まさしく雇用状況、組織化のインセンティブが大きく働いた時期です。
  当時のダイエーユニオンの委員長が、ダイエーユニオンパート従業員組合員化の取り組みについて、今申し上げたようなこと整理して書いています。これを見ると一番のポイントは、「労使ともにその目的の共有化ができたから」労働協約改定によって組織化を行えた、ということです。現場では、主たる基幹労働者であるパート従業員が8割という実態の中で、会社を支えるのはやはりパート従業員だ。そういうパートの人たちの働く意欲、あるいは情報のスムーズな交流をいかに高めていくか。パート従業員の能力や意欲、正社員も含めた上位にチャレンジをする道をつくるということが重要だと目的を共有化して組織化を進めました。私たちの運動、民主的な労働運動は労働条件を上げるためには、組合員の生産性を高めて、労働者の地位を高めて、同時に従業員としての配分の交渉に対する影響力を強めて、きちんとした成果の配分を獲得して、自らの条件を上げる。そういう役割を果たしていく。会社と目的の共有は進みました。
  同様の取り組みがUIゼンセン同盟加盟の様々な単組で行われています。パートタイマーの方たちが現場の基幹的な労働力だということ、その方たちの条件、働きがいをいかに高めていくかということを中心にしながら会社との話し合いの中で組織化を進めました。これをさまざまな業種の企業で行いました。

(4)パートタイム組織化の意義と組合運営、職場環境整備

 組合は、新たに組合員となったパート従業員たちのコミュニケーションに気を遣っています。ファミレスのジョイフルの例でいうと、コミュニケーションをとるのに組合の執行部が行っていることは、それぞれ職場にオルグを行い、みなさんの気持ち、意見はどうですかと率直に聞いて、組合活動に反映しています。その情報を集めるということに最大限の努力をしています。パート従業員の退職の一番大きな理由は人間関係です。人間関係のもめ事も職場のトラブルの一種です。組合としては、組合員の相談にのり、さまざまな職場の問題を会社との労使協議を通じて改善していく取り組みを進めています。店長とパート従業員との問題やパート同士の問題を解決していくということが一番のメリットではないかと思います。会社としても、現場のパート従業員たちにしかるべき正確な情報をきちんと伝えられるかが、重要だと認知し、その点での組合の役割を認識しています。その中でいかに生産性を高めていくかだと思います。
  パートを組織化することにおいて一番重要なことは、組織化したパート組合員が主体となって組合活動に参画していくこと、自らの問題を自ら解決していくように積極的に関わっていただく、そういった仕組みを組織として作っていくことです。職場改善のプロジェクトにパート組合員の代表が入って問題に取り組むなど活動しています。いつでも相談しに来てくださいとうスタンスでやっていくということです。
  ここで非常に重要なことは、労働組合としては、パートも正社員も関係ないということです。同じ職場で働いている人たちをいかに統合してやっていくか。そういう組織運営を考えているということが非常に大きな特徴です。それだけ聞いていると、これは労働組合なのかというところがあるかもしれません。会社との話し合いの中で、職場環境の改善のほかに苦情処理もあります。しかし、重要なのは、働きがいをどういうふうに高めていくか、身分格差だけのパートは全部変えていかなければいけない。パートであろうと、正社員であろうと、同じ仕事をやっている。どういうキャリアを積ませるのかをはっきりした上で、時間の長さは違うかもしれないけれども、自己実現を進めていける仕組みを作っていく。これが現場での労働組合の重要な仕事です。
  会社の進める統合的人事管理、ダイバーシティマネージメントを労働組合としても積極的に認めながら、流通関係の労働組合は職場の働きがい、そして組織率を高めるといった方向を、2000年ぐらいから進めてきました。パート労働者の職場環境の整備ということに重点をおいたことと、パートであろうが、正社員であろうが、同じ職場で働く従業員で、かつ組合員であって、組合員には時間の差も就業期間の差もなく、働きがいの追求が重要だということです。

4.パートタイム労働者の雇用労働条件の向上

(1)均等・均衡待遇確立へ向けた取り組み
  UIゼンセン同盟は均等・均衡ということを基本的に進めるのが当然だし、身分格差としてのパートは許さないと取り組みを進めてきました。どういう人事制度を作るか。ベースは公平で納得性の高い処遇制度を作る。1980年代から均等・均衡待遇方針で出しています。現場でなかなか一足飛びには均等・均衡待遇とはいかないので、徐々に賃金を上げながら、資格制度の確立を進めてきました。正社員とパートで入口が違うのではなくて、実際の仕事で、正社員は全国転勤がありますが、一定の地域エリア等も括りながら、パート従業員でも意欲のある人については、活躍もできるような資格制度の整備を進めています。さらに正社員への登用制度でパートと正社員をつなぐ架け橋のような制度をつくろうとしています。流通の現場では正社員登用制度を作ることが現段階の非常に大きな交渉課題になっています。もちろんすぐに全部というわけにはいきませんが、単に有期雇用だという理由だけで不利になるような条件を変えていく。ヤマダ電機が2~3年かけて、契約社員の正社員登用制度を作り、正社員化すると同時に組合員化する取り組みを進めています。その中で、契約社員の方たちの問題は雇用の不安定、1年、2年の単位で契約が切られてしまうことが問題です。雇用を安定化すれば、安心から意欲が向上し、職場内のコミュニケーションも向上していきます。現段階ではそこが重点です。
  将来的には、先ほど言ったダイバーシティの考えを進めて、統合的人事管理を進めていきたい。正社員もパート従業員も一切関係ない。すなわち人材の活用や処遇の仕方で、正社員、非正社員と雇用形態の違う人に対しては異なる扱いをするのだという発想はもう捨てようよ。従来は、パートだから低い仕事で、棲み分けだという発想でした。主婦パート前提の時と今は違うのです。もうそういう差ではない。正社員、非正社員を分離して管理して、しかも非正社員の処遇を正社員と比べて低くする。そういった分離型の人事管理はやめよう。均等・均衡待遇という観点では決して理解できない。働き方の違いを超えて多様な従業員がいる1つの集団としてとらえて、適材適所の配置と公正な処遇をする仕組みを目指していきましょうよ。このように労働条件等の改善に取り組んでいるということです。

(2)雇用の安定と再就職支援
  雇用の安定に向けて、正社員登用制度の話をしました。しかし、実際には、流通業では店舗の閉鎖や売上げが非常に落ちて他の場所に店を出さないといけないとか、あるいは業態を変えて新規の顧客を取り込みながら付加価値を得るなど様々な動きがあります。閉店の場合、正社員については転勤で対応しますが、パート従業員は地場の人たちなので、そういう訳にはいきません。パート従業員も労働基準法の適用対象ですから、少なくとも1か月前に「店を閉めますので、次の契約はありません」と予告する必要があります。もう少し気の利いたところは、この人たちは地域の顧客でもあるので、少なくとも労基法上の解雇予告手当1か月分ぐらいの退職餞別金を支給して、「申し訳ありませんね」というのが、たぶん組合のあるところのスタンダードです。それに対して、パートの契約期間はだいたい半年や3か月なので、店舗撤退については、少なくとも6か月前までに計画について組合に話し合うこと、それから3か月前までに、具体的に店舗撤退に伴う労働条件、再就職のあっせん、さらに異動できない場合のプレミアム等について組合と交渉をする。これはUIゼンセン同盟の合理化対策統一方針です。近隣店舗への異動、さらに同じ会社でなくても他の店舗に引き継いで職を確保する。店舗撤退に伴って、労働組合はパート従業員の1人ひとり、場合によっては組合員でないパート従業員を含めて、全員再就職ができたか、全部確認しながら、極力組合員の雇用を確保することと、プラス1か月、それでも受けない時は、これは勤続年数によっても違いますけれども、だいたい2か月から3か月分ぐらいの退職金を支給して、少しでも雇用を安定させようと対応をしています。パートを組織化すると会社にとってはその分のコストがかかります。それでも、やはりパートを組合員とし、差別をしないで扱うということのメリットのほうが会社としても大きいです。ダイエーもやっと組織化したのですが、その後、ご覧のように産業再生機構に支援申請をして、2004年以降、多くのスクラップ&ビルドをやりました。基本的に労働組合との合意事項、労働協約事項はきちんと維持されました。

5.様々な課題への取り組み:社会正義の実現のために

 UIゼンセン同盟は、最高裁まで8年にも及び争われた山田紡績裁判闘争の支援を一貫して行ってきました。重要なのは社会正義という観点です。いざというときに企業別組合だと弱い。弱い企業別組合を助けるのは産別の仕事です。社会正義に照らして許せないものは許せない。ゼンセン同盟として力を入れてサポートしました。山田紡績の闘争は、100人ぐらい解雇されたのですが、解雇の時に初めてパート従業員を組織化しました。パート従業員をその場で組織化して、組織されている従業員全体で不当解雇だということで闘った。会社に対する抗議行動で非常に頑張ったのはパート従業員の方々でした。ものすごく頼りになった。同じ立場に立てばものすごい力になってくれるということを実感しています。多様な活動の1つです。
  パート従業員は地域の方なので、NPO活動や多様なチャネルを持っています。労働組合として、みんながまとまることでそういう活動の幅が広げられるということがあります。パート組合員の組合リーダーに、一番よかったことは何かと尋ねると「幅が広がった、多様な経験ができた」ということです。北朝鮮の拉致問題に対してもこれは社会正義の観点で許せないと運動として取り組んでいます。難病指定について、「今は難病に指定されていないけれども、こういう組合員の方がいらっしゃって大変なのだ」とみんなの署名を集めて、政策的に難病指定の運動を行ったりしています。選挙の投票率アップについても、投票場まで行くのが大変だから、もっと便利なところでできるようにしようと取り組んだりしています。これは特に昼間から投票に行けない人たちや時間制約のある人なども含めて、現場の発想を重視して組合運動に採り入れようという努力をしています。
  企業別組合とのバランスをとり、常に労働組合としての役割を果たしていくのが、連合と産業別労働組合全体の役割であると思います。

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