一橋大学「連合寄付講座」

2009年度“現代労働組合論I”講義録
Ⅰ労働組合とは何か

第6回(5/15)

労使交渉の現状と課題[2]-処遇とキャリア形成-

ゲストスピーカー:加藤 大典(生保労連中央書記長)

はじめに
  皆さんこんにちは。
  本題に入る前に自己紹介をします。

 私は都内の私立大学を卒業後、第一生命に入社しました。就職活動中に、経済大国の日本で少子高齢化社会を避けては通れないと思ったこと、職業人生を踏み出すにあたり、生保業界はその課題に正面から携わることができる業界だと思ったからです。
  入社時、会社の研修を受けると同時に組合の研修があり「ご入社おめでとう。さて、ユニオンショップ協定がありますから、組合員として組合活動もしていただきます」と組合幹部から説明されました。こうして職業人生、組合員人生がスタートしました。
  入社後は、神奈川県の大井本社にある企業年金に関する部署に配属されました。仕事の内容は、企業年金契約の受託に関する事務を行うことでした。第一生命だけで引き受ける年金契約もあれば、他の生命保険会社と協同で引き受ける契約もありました。入社間もない時期ながら、個社を超えて業界横断で行う業務に係わっていることに大変やりがいを感じました。組合活動はというと、当時、私がいた職場には約50人の従業員がいましたが、その職場の支部委員といって、50人の組合員の意見を集約する連絡役になりました。
  入社4年目に、新宿支社に異動しました。第一生命の中でも大きな支社で、異動直後には会社の組織再編もあり、約700名の従業員がいました。そこのスタッフとして、支社長や副支社長の経営判断を補佐する仕事や、日々のスケジュール管理、諸会議の運営と資料作成、あるいは支社としての売上げ目標やお客様に対するサービス目標の立案や保険の募集をしている営業職員の支援など、様々な仕事を必死にしていました。
  3~4年が経ち、労働組合の支部委員長を補佐する役割の支部事務局長をやりました。入社8年目の2003年には組合の本部役員になり、専従になることを当時の組合幹部から打診されました。専従は、もっぱら朝から夜まで組合活動をするのですが、現場を離れていいのか、と相当に戸惑いました。しかし支社長に相談をすると「加藤くん、ぜひやりなさい。君を支社から抜かれるのは相当痛いけれども、君にとっていい経験になるはずだ。会社のために、組合のために頑張ってくれ」と背中を押していただきました。
  組合の幹部になることについては、正直言って、周りからやっかみがありましたし、職場を離れることに対する不安もいっぱいでした。しかし、それを乗り越え組合員のために精一杯取り組むことが今の私に求められている責務だと思うようになりました。
  その後、第一生命労組から推薦され、生保労連という産業別労働組合の役員として、現在に至っています。労働組合という立場ではありますが、業界全体の仕事に携われるということで、企業年金の仕事の時に感じた気持ち同様、大変誇らしい良い機会だと思いました。いずれは社業にもどり、その時は今の経験を生かして会社の業務に専心することになります。
  本日は5つの流れで話をします。生保労連、第一生命、第一生命労組、第一生命労組の具体的な労使協議について、最後に質疑応答、という流れです。

1.生保労連の概要

 生保労連の正式名称は、全国生命保険労働組合連合会です。その前身は内勤職の全生保(全国生命保険労働組合連合会)と外勤職の全外連(全国生命保険外務労働組合連合会)です。営業職と内勤職が別々に活動するよりも、一緒に力を合わせて活動したほうがよりよい業界づくりができると、1969年10月に1つの組織になり、生保労連を結成しました。今年10月で結成40周年を迎えます。生保産業唯一の産業別労働組合であり、組合員数は25万6000人、連合の中では8番目に大きい組合で、女性と男性の比はおよそ8:2です。パートや有期契約労働者の組合員数(4700名)は、生保労連の規模からすると少なく、今後、組合員になっていただけるよう取り組んでいくことが課題だと思っています。
  2009年4月現在、日本には生命保険会社が46社あります。そのうち19社21組合が生保労連で活動しています。商売の世界でいえばライバル会社ですが、労働組合の世界ではともに同じ業界の労働組合として、労働者の立場から力を合わせて活動しています。ちなみに、損保系生保子会社は、親会社のほうの産業別労働組合である損保労連さんに加盟して活動しています。外資系の会社では、組合を組織していない会社もあります。また、かんぽ生命は、ゆうちょ銀行や郵便の会社と一緒に日本郵政グループ労働組合で活動しています。

 生保労連は、「基本目標と五つの行動理念」を約15年前につくりました。40周年を節目に、活動を総点検しているところですが、これらの考えは今日的にもふさわしいものだと整理しました。

  これは2008年度の運動方針です。運動方針とは、会社に例えると経営計画・事業計画といったものです。若干補足しますと、1は、国民生活を支えるという生保産業の役割をしっかりと果たしていくことができるよう、労働組合の立場として努力しようということです。2の総合生活改善闘争というのは、いわゆる春闘をはじめとした統一取組みををしっかり推進していこうというものです。3は、ワーク・ライフ・バランスの推進等も含め、幅広く賃金やそのほかの労働条件を改善していこうというものです。また、5は、営業現場でがんばっている組合員が多いので、そういう方々の体制や労働条件を良くしていこう、という取り組みです。6は、生命保険に関する税制や、銀行等による保険販売について、どうあるべきなのか、労働組合の立場から意見をまとめて、金融庁や国政などに、働きかけようというものです。
  生保労連では、毎月1回、各加盟組合から代表者が出席して中央執行委員会を開催しています。そこで生保労連としての意思決定をします。また、いろいろなテーマに関する研究会を設け、学者の方にもご参加いただいて議論を行い、活動に生かしています。
  業界団体である生保協会とは月に1回程度、生保産業全般について労使協議を行っています。
2年前には、生保税制の拡充に向けた集会も約2000名を集めて行いました。また銀行等による保険販売について、当時の渡辺喜美金融担当大臣に生保労連としての要望書を手渡し申し入れを行ったりもしています。このほか、日本各地で消費生活相談員と意見交換を行ったり、ワーク・ライフ・バランス推進のためのシンポジウムの開催、若手の組合幹部向けの勉強会などの活動を進めています。

2.第一生命の概要

 詳しくは、第一生命のホームページを見てもらいたいのですが、現在、森田富治郎会長は、日本経団連の副会長です。ワーク・ライフ・バランスの推進において日本国内では第一人者です。斎藤勝利社長は一橋大の卒業生です。契約者数は837万人で、保険料等収入は3兆985億円、保険金等の支払金は2兆6480億円(1日あたりでは72億円)です。現在の組織形態は相互会社ですが、2010年4月には株式会社化します。
  本社は日比谷にあります。本社ビルの本館は8階建てで、戦後GHQが庁舎として接収し戦後対応を行いました。6階にはマッカーサー記念室があります。その真上の7階に第一生命労働組合の事務所があります。

3.第一労組の概要

 第一生命労働組合(略して「第一労組」)の結成は1991年4月です。その前身は、戦後、自然発生的にできた内勤職の組合と営業職の組合です。その2つが1991年に統合しました。生保業界の多くの組合で、この10~20年の間、同様に統合の動きが進んでいます。組合員は約5万人で、国内の組合では大きな組合だと言えます。生保労連の加盟組合のなかで2番目の規模です。営業職員と内勤職員の割合は、およそ85:15です。「『組合員の幸せのために』~自らを高め、お互いを磨き合う」というスローガンで活動しています。
  第一労組の2008年度運動方針は5つあります。1つめは、総合的労働条件の維持改善です。賃金はもとより福利厚生制度等の充実をめざし、運動方針の1つめに掲げています。2つめは営業職員体制の充実、3つめは経営問題への取り組みです。これは、組合という立場から経営に対して「おかしい」とか、「こうしたほうがいい」という点検や提言機能をしっかり発揮していこう、ということです。4つめは組合員を増やして、組合活動を充実・強化していくこと。5つめは、生保労連に参画することで、第一労組という企業別労働組合だけでは解決できない課題の解決をしていこう、ということです。また、第一労組は産別のなかで2番目に大きな組織ですから、責務を果たしていこうという意味も含んでいます。

4.企業別労働組合が目指すもの

 企業別労働組合が目指すものは、平易にいえば「組合員の幸せの実現」です。会社で働くことが前提なので、やりがい感を持って前向きに仕事に取り組んでいこう、と思えるように、労働条件や労働環境を整備していくことが企業別労働組合の目指すところだと思います。
  その前提として、対等な労使関係であることが大切です。労使間で主張が対立することもありますが、組合は対立のためだけの活動はしません。重要なのは、労使が対等な立場であろうと互いの立場をしっかりと尊重し合い、真摯に協議する姿勢であると考えています。第一労組と第一生命は、双方を認め合っています。
  組合は、会社にきちんと思いを伝えるためにも、組合員同士が1つにまとまっていることが大切です。それによって、会社側が、組合に対して集団として話をすれば、従業員の意見をしっかりと聞くことができる、また会社の考えを従業員にしっかりと伝えてくれると、メリットを感じて、対等な関係をつくれます。そうすることで、経営側との信頼関係を築くことができるのです。
  組合として大事なことは、「組合は神経系」であること、すなわち、現場感覚をしっかりと持つこと、現場を知っていることです。人間に例えて言うならば、指先やつま先で何が起きているのか、営業現場ではどんなことがお客様との間で生じているのか、各職場でどのような労働実態にあるのか、ということを敏感に感じ取って、組合がそれをしっかりとつながった情報として集約することが大切です。それができなければ、組合として存在する意味がないといっても過言ではないと思います。

5.組織形態

 労使が対等であるために、神経系という意味を発揮するために、第一労組として、どのような組織形態を取っているのかについて説明します。

 右側に対応する会社機構を書きました。まず支部についてです。街の第一生命として、そこに営業職員が20~30名います。全国に約1,560か所あります。まさに、保険募集やお客様サービスの最前線です。10~20支部を束ねる形で支社という組織があります。日本各地に90支社あります。主要な都市の駅前にあると考えていただければいいと思います。支社は、400人(20支部×20人)ほどの営業職員と、事務員、内勤職を合わせ、総勢450名ほどの組織が平均的な大きさです。
  これに対して組合は、営業職関係で分会という組織をつくっています。20名規模の職場単位です。ここには分会長がいて、営業職の組合員の活動上の悩みや組合への要望をすくい上げていく立場です。それをまとめる形で営業職支部があります。会社の支社の機構でいうと、営業職と内勤職でそれぞれ支部を構成しています。内勤職では118支部ありますが、日比谷等の本社ではフロアごとに支部をつくって活動しています。それぞれの支部を17の地区にまとめ、支部間で情報交換をする枠組みをつくって活動しています。
  第一労組の本部には34名の役員がいます。このうち15名は、もっぱら朝から夜まで本部で組合活動をする常駐者です。それ以外の19名は、地区ごとに1~2年間、その地区を代表する本部役員に選出されて、会社の仕事をしながら本部の会議のあるときに東京に集まってきます。この34名で、組合活動の本部レベルの意思決定をする中央執行委員会を構成しています。本部では、月に2回程度東京に集まり、会社との協議や本部としての議論をしています。支社レベルでは、営業職支部や内勤職支部がそれぞれの職場レベルの協議をしています。分会にカウンターパートはいません。会社との協議には、全社や支社レベルがあります。全社レベルでは、全従業員に関わる特に重要な問題については、会社の役員クラスと経営協議会において協議します。営業職や内勤職に固有の問題については、営業職経協小委員会、内勤職経協小委員会でそれぞれ労使協議を行います。このほか、実務担当者の部課長クラスと組合の役員が意見交換をする場もあります。支社レベルでは、営業職の職場協議会や内勤職の支社懇談会があり、毎月1回話をしています。
  第一労組では、「言った・言わない」というトラブルを避けるために、必ず文書でやりとりをします。経営側も組合側も8~9人ほどが参加して、文書を読み上げる形で協議をします。
  会社との協議は、全社レベルの協議実績は、ここ3年間で年間約50回です。後ほど触れますが、2008年度は人事制度改正の協議を集中的に行ったために、58回と回数が多くなりました。平均してみると、毎週1回程度の割合で労使協議を行っていることになります。

6.年間活動スケジュール

 第一労組の主な年間活動スケジュールです。会社の方は4月~3月を事業年度として運営しています。人事異動の多くは4月1日付けです。会社でいう支社レベルで、多くの人の入れ替えがあります。そのため4月に、各支社レベルで、組合の幹部を選び直すとともに、今年一年の活動内容を確認するための大会を開きます。そのあと5月に、そこで選ばれた組合役員が地区の活動をスタートさせます。そして6月に、本部役員の選出、運動方針や報告を確認する全国大会が開かれ、本部レベルの活動をスタートさせます。
  全国大会は全国90支部から1、2名ずつ代表者が集まり、350人規模の大会を2泊3日で行います。本部としてこの1年間の活動報告を行って、それに対して出席者から質問や意見をもらい、役員選挙をして、次年度の体制や方針を決めます。大会では、17地区の出席者からそれぞれ5、6件、計約100件の質問が出ます。質問の内容は、例えば営業現場であれば、子ども向けの保険商品を早急に開発してもらえないか、お客様に説明するためのパソコンの機能を充実してほしい、内勤職からは、人員を増やしてほしい、あるいは業務量を少なくしてほしい、などです。
  本部役員はそれに対して、経営側との協議内容、あるいは組合内部の議論内容などについて報告をします。本部役員としては、しっかりと答弁できるかどうか、大変なプレッシャーです。本部役員に成り立ての頃は、大勢の人を前にして報告するのはとても不安でした。しかし「現場の人たちから出される厳しいご意見はしっかりとした本部活動をしてもらいたいからこそで、本部活動の支援のためだ」と先輩の役員に言われたのを覚えています。
  大会で出た意見は、大会後に直ちに、経営側と日々接点を持っている担当者を通じて会社側に申し入れを行います。その上で、課題別に整理して、経営協議会に申し入れをして、会社からの回答を引き出します。
  8月と9月に地区オルグや支部オルグをやります。「オルグ」というのは組合用語で、オーガナイズ(organize)という単語の略です。組織化・組合員化することを指しますが、一般的には、組合活動や組合員との意見交換などの場を総称してオルグと言っています。34人の本部役員が、ペアになって全国の地区や支社に行きます。現地の組合員と意見交換をして、現場の状況をヒアリングしたり、本部での協議状況の説明などをやりとりします。地区や支部では、現場での課題はなにか、現地の幹部が常に意見を集約して、本部役員のオルグの時に伝えていく、というような活動をしています。
  より具体的には、例えば支部オルグでは、本部役員が支部を訪ねて、まず会社側の支社長や副支社長と話をします。組合のアンケートで、勤務実態や人事面談が適切に行われているかどうかについて調査をしているので、それに基づいて、「きちんと人事面談をしてほしい」「勤務実態が全社平均より悪いから、経営上の工夫をしてほしい」といった話をします。さらに支部の幹部に伝えて、支部の活動に生かしてもらうようにしています。
  先ほども少し触れましたが、支部の意見を集めて、現場のことをより詳細に知っていることが、本部役員にとっても組合にとっても大事なことです。例えば、新宿支社と琵琶湖のある滋賀県の支部では、お客様のところへ行くのでも勝手が違います。電車で1時間程度で行くのと、車で2~3時間をかけて行くのでは、全然労働環境が違います。生の声を聞いて、互いのデータを確認しあって、どうしたらよいか意見交換をすることが非常に重要です。また夏休みひとつとっても、某大手自動車メーカーのある地域にある支社は、第一生命全体の夏休みのスケジュールではなく、その企業の夏休みにあわせたりします。そのような事情・実態を本部役員がしっかりと知っていることが、会社と協議をするときの力となります。支部オルグは、組合活動のなかで非常に重要なものです。

7.人事制度改正と労使協議

 2008年8月から、人事制度改正のための労使協議がスタートしました。会社によれば、人事制度改正の主たる目的は、人員の効率化と、人財が成長を支える態勢の確立です。具体的には、よりマーケットを意識した「株式会社時代に相応しい課題解決型人財」をコンセプトに、「求める人財像」を明確化し、ダイバーシティマネージメントを推進するということです。主な改定内容としては、総合職と一般職というコース別に分かれていたものを「基幹職掌」に一本化します。それにあわせて、職責グレード制を導入し、個々の職員のミッションを明確にした給与体系の改定をします。職責グレード制というのは、一人ひとりが担当する職務遂行上の責任と、その職責に見合った実績・行動に応じた処遇を行うものです。
  人事制度改定に関する労使協議については、2008年8月~2009年4月までの間、実に18回もの協議を重ねました。9月と12月に組合の支部オルグが予定されていたので、会社側は、組合組織を通じて現地の従業員の声を聞いてほしい、という期待から、そのオルグのタイミングにあわせて、提案してきました。
  提案を受けた当初は、そもそもなぜこの人事制度改正が必要なのか、ということについて労使で喧々囂々(けんけんごうごう)確認をしました。12月の支部オルグでは、本部としては、会社側の提案理由について一応確認はしたが、支部ではどう考えるか、意見を求めました。それ以降、具体的な各論について会社側と協議をしました。組合員からの意見を求めながら、1月の中央委員会などを経て、労使協議を進めました。
  組合員の関心事は、総合職と一般職に共通するものとしては、職掌を一本化することで自分たちの働き方や評価がどのように変わるのか、という不安でした。特に一般職について言えば、一般職だけに設けていた職位や休暇制度が廃止されることについて大変残念だという声がありました。そして今後は総合職と同様の業務が求められるために、特にベテランの一般職のなかで不安が拡がりました。
  このような組合員の不安や不満に対して、労使協議を重ねることで払拭していくとともに、いくつかの点で修正提案がなされました。これが労使協議をやることの意味です。
  1つには、なぜこの人事制度改正が必要なのか、ということに対する理解が深まりました。また、組合員に十分に制度に関する理解を深めてもらい、よりよいスタートを切ろうと実施時期が見直されました。臨時給与などのテーブルについても一部見直しが行われました。また、制度移行にあたっては、直ちに新制度に変えるのではなくて、段階を踏んだ経過措置を実施しながら、できるだけ組合員が変化に順応していけるよう会社側に対応させました。
  第一生命の場合、労使協議では、会社は「これがベストだ」という提案をしてきます。しかし組合は、現場の組合員の不安や生の声を伝えることによって、ねばり強く主張していくわけです。そうすることによって、会社も、「なるほど組合の言っていることも理解できないわけではないな」「少し歩み寄ろう」という思いに至るのでしょう。今回の人事制度改正協議も同様でした。真摯な労使協議の結果として、一部見直しがなされて妥結に至ったということです。

8.人事評定調査制度の運営

 組合員の人事評定調査制度への関心は相当高いです。これまで数時にわたる人事制度改正の結果、実際に成し遂げた仕事の「実績」に対する評価を高めきており、それが処遇すなわち給与により跳ね返るような仕組みになっているからです。第一生命では、年度始に目標設定の面談を行い、中間時にフォローの面談、年度末に振り返りの面談を行っています。これに対して、組合としては、組合員の人事評定調査制度やその運用に対する納得感がより高まるよう、繰り返し改善の労使協議を行っています。
  具体的には、組合の諸会議やアンケートを通じて制度の実態把握を行ったうえで「人事面談では被評定者側の納得感が高まるような工夫をしてほしい」とか「よりよい面談を行うため、評定者の研修を実施してほしい」といった内容の申し入れ・協議を行います。支部オルグのときにも、組合として所属長に直接申し入れをします。
  加えて、実際の評価・処遇について、人事面談を行った上でも納得ができない場合に、人事調停委員会に申し立てを行うことができるという仕組みもあります。一人でも申し立てができますが、なぜ会社がそのような個人評価をしたのか、組合が第三者として関与して、確認することができる仕組みです。

9.企業別労働組合の悩みや課題

 最後に、第一労組の活動を通じた悩みや課題についてお話しします。
  1つめは、組合員の幸せが「個別化」していることです。組合は、組合員の共通性を前提にして、集団で活動するのが基本です。そうした中で、組合員の思いやニーズが多様化、個別化してきており、集団としての合意形成が難しくなってきています。例えば、会社には様々な部署があって、専門家として業務を行っています。すると、専門家として立場の違いが際だってくるため、なかなか自分の立場を超えて他者を理解しよう、ということにまで考えが及ばなくなってきます。
  このため、労使協議で、組合としては十分に協議をして妥結したつもりでいても、人によっては「なぜ妥結したのか」「もっと粘り強く協議すべきだった」という声が出ます。すべて組合員の望み通りにいくようにすることは、正直かなり難しいです。
  2つめとして、スピードアップする経営への対応も必要です。会社は、株式市場がそうさせているのか、どうしても短期的な利益を追求しがちです。そうなってくると、昨日までしてきたことを明日からはこうする、というようなことが結構増えます。賢明な意思決定が矢継ぎ早に行われるということであればいいのかもしれませんが、必ずしもそうでないことがあります。組合として、働く者の立場から、異議を申し立てなければならない場合もあります。そのためにも、常日頃の組合員の意見集約をしっかりとしておくことが必要だと思っています。
  また3つめとしては、組合という組織自身がしっかりと学び続けることも必要です。自己完結では難しいので、産別やほかの労組とも交流して勉強し、連合にも知恵を拝借することが大事です。第一生命の場合、株式会社化のあと、持ち株会社制にしていく方針と聞いています。今後将来に向けて、会社の形態、労組の組織のあり方、さらには対等で健全な労使関係をどう構築していくかが、大きな課題だと思われます。生保労連としては、第一労組の活動をしっかりと支援していきたいと思っています。
  4つめは、組合員からの組合活動に対する理解を確保していくための努力を重ねることが重要です。組合員に納得してもらうためには、日頃の組合活動について、組合員にしっかりと伝える努力をする必要があります。そのため、ホームページや組合の広報誌などを充実させていくことが必要です。
  関連して5つめに、「組合から経営に対し提案をする」ということが重要です。私たち組合員は普段仕事をしているときは、ある種当然ですが、基本的には経営側の感覚で仕事をしているわけです。そうすると会社が組合に対して提案することを何の疑問もなく「もっともだ」と思いがちです。逆に、組合が経営の提案に対して反論することについては、「物わかりが悪い」と思えてしまったりします。組合は決して抵抗や対立のための組織ではないのですが。そのことを組合員にも経営側にもわかってもらうために、「組合側から経営に対し提案する」ということが、とても大切だと思っています。
  最後6つめとして、組合幹部の担い手については、世代交代や女性組合員の参画が必要だと思います。若いうちから職場や組合に対して関心を持ち、組合活動という枠組みを通じて、会社を良くしていくことは大事なことです。放っておいても職場環境がよくなる、というのは大間違いです。
  自分自身が、努力をして、いい仕事をしていこうというのは、ある種当然です。それにとどまらず、自分が所属している集団に対しても、もう少し前向きな関わり方をすると、巡りめぐって自分のためにもかならず跳ね返ってくる、と私は思います。職場を人任せにしない、自分も大いに関わって良くしていく、ということを自覚して、参加意識をもっていくことが大事だと思います。
  皆さんはこれから会社に入って、組合があれば多くの人が組合員になるのではないかと思います。ぜひ人任せにしないで、組合員の立場から現場の声を束ね、また機会があれば、ぜひ組合幹部の立場から活動して会社に接すると、得難い経験が皆さんの血となり肉となっていくと思います。私自身それを実感しています。ご静聴どうもありがとうございました。

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