一橋大学「連合寄付講座」

2008年度“現代労働組合論II”講義録

II 非正規雇用と労働組合

第6回(11/14)

非正規労働者の現状と全国ユニオンの取り組み

鴨桃代(全国ユニオン会長)

はじめに
  こんにちは。全国ユニオンの鴨です。私たちの労働組合は企業の中にある労働組合ではありません。企業の枠をこえた個人加盟型の労働組合で、「コミュニティ・ユニオン」といわれています。企業の中にある労働組合の多くは今まで正社員を対象にしてきました。私たちがネットワークを結んでいるコミュニティ・ユニオンは全国で77団体ほどあります。25年位前から作られて、当初から対象とする労働者は正社員だけでなく、パート、派遣、契約社員、請負などさまざまな雇用形態の人たちでした。国籍も問いませんので、外国人労働者も入っています。
  活動は、電話で相談を受けることから始まります。みなさんの中でもアルバイトをしている方も多いでしょうが、もし職場でトラブルが起きたとき、「賃金が支払われなかった」とか、「残業をしているのに残業代がついていない」とか、「明日から来なくていいと言われた」ときに、電話をかけていただければ、助言やアドバイスをします。また、ひとりだけでその問題を解決できない場合は、ユニオンに入って一緒に会社に対して話し合いを申し込むことができます。そうすることで問題を解決する、ということを日々しています。
  今回資料をお配りしている品川駅前の「京品ホテル」は、2008年5月に京品ホテルで働いていた130名の人たちが、ホテルの経営者である京品実業の社長から突然「10月20日には全員辞めてもらう」「11月1日にはホテルをがらんどうにして明け渡さなければいけない」という通告を受け、闘いが始まりました。従業員には一切の責任がありません。なぜ責任がないのかというと、この数年間、京品ホテルは8000万円~1億円の黒字で決算をしています。このホテルは明治4年創業ですが、品川駅に新幹線が停まるようになってから、ホテルの客室は3カ月前から予約を入れないと泊まれない、ホテル直営のとんかつ屋や居酒屋、日本料理店なども夕方5時から朝方5時まで開いていて、客が外で待っているほど繁盛していました。従業員にとっては青天の霹靂でした。この原因を作ったのは経営者です。バブル期に会員制のホテルを造ったり、リゾートホテルを買ったりしてできた60億円もの負債です。その債権を債権会社であるリーマンの100%子会社、「サンライズ・ファイナンス」が回収しました。私たちが「ハゲタカファンド」と呼んでいるサンライズ・ファイナンスのやり方は、土地や建物は買うが、そこに働いている労働者については一切責任を持ちませんというものです。京品ホテルの土地、建物を買って、他に売り払って儲けるというやり方です。「LCホテルズ」という資本金100万円で2008年2月に作られた会社、電話1台、社員は1人のみというペーパーカンパニーがその買い手として出現しました。京品実業、サンライズ・ファイナンス、LCホテルズという三者が自分たちの利益のために京品ホテルを売り払うという構図です。
  130名の従業員は30名が正社員、中国からの就学生が10名強、その他は嘱託とかパートです。勤続が一番長かったのは33年間働いてきた支配人です。こういう人たちが、これからもこのホテルを営業しつづけたいということで、京品ホテルでの雇用継続、ホテルの存続を願って、東京ユニオン京品ホテル支部を結成して、闘っています。
  倒産・リストラは京品ホテルだけの問題ではありません。多くの企業が前年まで史上最高益をあげていましたが、今年5月くらいから「世界経済の潮目が変わった」「景気が悪くなる」「このままではもたない」という言い方を使用者が一斉にするようになりました。その後リーマンの破綻によって、京品ホテルのようなケースが生まれました。マスコミも年末にかけて失業者が巷にあふれると予測をしています。
  他方、「派遣切り」が始まり、派遣労働者が真っ先に雇用を失っています。大手自動車会社である、トヨタ、日産などの製造部門には、期間工や派遣と呼ばれる人たちがたくさん働いています。その人たちに対して、トヨタ1000名、日野600名、日産1000名、などという人数が具体的に挙げられて、解雇が始まっています。年末にかけて、この人たちだけでも1万6000~1万7000名が雇用を失うと予測されています。
  また、製造業で働く期間工や派遣労働者の多くは、派遣会社の寮に住んでいるので、雇用が切られると同時に住まいも失っています。ガテン系連帯の人たちがとったアンケートには、20代、30代の人たちから「仕事を探してください」という声が寄せられていました。「今までも奴隷のように使われてきたけれども、まさに奴隷になってしまうのではないか」という不安におびえる状況になっています。
  全国ユニオンは、相談で突きつけられた一人ひとりの労働者の問題について、目をそらさないということをモットーにしています。一人ひとりの労働者の問題は、今の社会の問題であり矛盾であるからです。労働者が生きる、働き続けるためには、闘うしかない状況になっています。

1.非正規労働者の現状
(1)低賃金~ワーキングプア
  みなさんは、非正規労働者が増え続けてきたとか、賃金が本当に低い、ワーキングプア状態であるという話を聞いていらっしゃると思いますが、なぜこんなに非正規労働者が増えたのか。非正規労働者が企業にとって扱いやすい労働者、コストが低廉だからこそ増えたと言えます。パート労働者でいえば、200万円以下の年収の人は男性では79.3%、女性では93.7%、300万円以下でいえば、男性では95%、女性では98%。300万円という額は、1人で生活することができる基準と私たちはとらえていますが、この300万円にも届かない人たちがパートでいえば男女ともに100%近くいるのが現状です。
  派遣労働者の平均時給は1230円、月額で20万6000円、年収291万円。パートの平均時給962円に比べたら若干高いでしょう。ただし、派遣労働者の時給には交通費が含まれています。また、派遣は派遣会社に登録することで、もっている技術や知識に対して派遣先が紹介される仕組みなので、自分の技術やスキルを絶えず磨くことが求められます。そういった一切合切が時給に含まれているということなので、決して「高い」と言える額ではないです。
  賃金が低いということで、パート労働者は賃金が仕事に見合っていないと怒っています。パートの賃金はなぜか、「補助労働」に位置づけられてきました。しかし、いまはパート労働者がいなければ仕事が回らない職場がほとんどです。みなさんが利用されているコンビニを見てください。あそこに正社員がいますか。店長がたまたま正社員であるかどうかだけです。24時間働いている人はパート・アルバイトです。公務の職場でも非正規労働者が増えてきました。自治体労働者に占める非正規労働者の比率は40%近くになっています。窓口業務を担っている人たちはほとんど非正規労働者です。そういう状態なので、仕事に見合っていない、同じ仕事をしている正社員となぜ格差があるのか、という不満が大きくなっています。
  KDDIで国際電話のオペレーター業務に従事しているパートの人たちが「このままでは働き続けられない」と、2006年の11月に「KDDIエボルバユニオン」を結成しました。英語は話せなければいけないとなっていて、その他、中国語、韓国語、スペイン語など交換業務では対応するとなっています。だから彼女たちは自分たちの仕事は専門職であると思っています。ところが、時給1300円から1350円。1日働く時間は6時間と決められていて年収では平均194万円、200万円に満たない賃金です。この低い賃金でも彼女たちは一生懸命やってきましたが、会社は2006年11月に「2000円だった深夜手当を400円にする」「早朝、土日出勤手当を2分の1にする」と通告してきました。彼女たちはそんなことをされたら、専門職であるという誇りを持って仕事を続けることができなくなってしまうと、労働組合を結成しました。交渉をし、手当のカットは押し戻しました。2008年4月に改正パート労働法が施行され、「差別禁止」が明文化されました。仕事が同じ、異動や配転の頻度・幅が同じ、契約期間の有無が同じ、この3要件が比較される正社員と同じパート労働者を差別してはいけないとなりました。彼女たちは、この改正パート法を活かし、自分たちの賃金・労働条件の改善を図ろうと、2008年春闘では、「これから5年の間で均等待遇にしてください」という要求を掲げました。会社はゼロ回答を続け、更に「国際オペレーター業務を2010年の3月で廃止する」と、通告してきました。外国旅行中に病気になってしまったとか、荷物を盗まれてしまったというケースが多いそうです。年間500人くらいが病気になり、その人たちのサポートをしています。そうした命にも関る必要とされる仕事を廃止することは許せないと、業務廃止反対・雇用継続を求める取り組みを開始したところです。KDDIもその他の企業も、この間景気が悪くなったということを枕詞のように言っていますが、KDDIの経常利益は2004年146億円、2006年288億円で業績は右肩上がりです。景気が悪くなったといえば何をしてもよいということではありません。労働者はモノではありません。

(2)雇用の不安定~有期雇用
  派遣もパートも多くが、契約期間が定められている働き方です。「13年間派遣契約を3カ月ごとに更新してきたのに、8月に簡単に景気が悪くなってきたからということで雇い止めを通告された」という40代前半の男性が相談に来ました。この人は、エアコンなし、ストーブなし、空調が悪い倉庫で、ネジを選んで箱に詰めて注文先に発送する仕事をしてきました。パワハラもあり、一緒に働いている正社員から首を絞められたこともあったそうです。そういうことに対しても「仕事があるからいい」ということで耐えてきたのに、雇い止めされてしまったのです。有期契約は、このように簡単に使用者が雇用調整をしようとしたときに簡単に行えるのです。
  労働者は何年働いても雇用の不安から逃れることができません。派遣労働者の多くは有期契約です。派遣には登録型派遣と常用型派遣の二つがありますが、多くは登録型派遣で3カ月、2カ月、1カ月という細切れ契約を更新して働いています。
  登録型派遣は、労働者にとっては不安定雇用そのものですが、派遣先企業にとってはいつでも雇用調整できるということです。簡単に切れるだけではなくて、雇用責任は派遣先にはないとなっているので、「あなたは明日からいらないよ」「うちの会社に合わないよ」といえば、それで済んでしまう仕組みです。

(3)派遣労働をめぐって~日雇い派遣
派遣労働者は派遣元である派遣会社と雇用契約を結んでいます。派遣先から派遣会社に仕事の料金として支払われている額は平均1日1万5000円です。派遣労働者の賃金は1万円、派遣会社に管理費名目で残る額は5000円、30%が平均と言われています。ところが、この30%については、派遣法では上限規制がありません。日雇い派遣で問題になったグッドウィルやフルキャストなどは30%を超えて50%近くも取っていたのです。労働者に支払う額は当然のごとく1日6000円とか7000円という低い額になります。日雇い派遣は朝、集合場所に集まってから仕事をするところに連れていかれて、終わったら解散場所で解散します。集合から解散までの拘束時間は12~13時間になります。6000円、7000円を12時間、13時間で割ってください。時給にすると600円、500円です。働いても、働いても生活できません。
  更に、日雇派遣会社はグッドウィルでいえばデータ装備費の名目で200円を一方的に控除していました。1日に1万から3万人稼動と言われていましたから、このデータ装備費だけで200万円から600万円が、毎日入る仕組みを作っていたのです。その結果、グッドウィルは1999年から2006年の間に、15倍もの利益を伸ばしました。派遣労働者が働くことで、会社は大きな収益をあげてきたにもかかわらず、労働者はワーキングプア、景気が悪くなったからと真っ先に切られてしまうことに対し、怒っています。
  日雇い派遣は問題であると、社会的に大きく取り上げられました。建設業務や港湾業務、警備業務など派遣の禁止業務で、多くの労働者が働かされていました。マンションの建設現場で、各部屋に重い陶器の便器を持って1日に100室も運び込むとか、重いエアコンの室外機を持って運ぶとか、重労働をさせられています。当然怪我も多いです。
  2004年から2007年の間、全労働者の中では休業4日以上の死傷者数は減ってきていますが、派遣労働者は9倍も増えています。この数は、日雇い派遣労働者が怪我をしても救急車を呼んでもらえなかった、怪我をしても横に寝かされていたという相談が寄せられているなかでは、当然だと私は見ています。1985年の派遣法の制定をめぐって労働者側が問題視したこと、派遣先に雇用責任がない、派遣会社の中間搾取やり放題が、日雇い派遣で具現化されました。

(4)一般派遣をめぐって
  一般派遣の場合はどうでしょうか。1985年の派遣法制定後、女性が「派遣という働き方には夢がある」と思えた一時があったようです。時給は1700円以上でした。しかし、派遣法が規制緩和され、1999年に派遣対象業務が専門業務から原則自由化されていく過程で、派遣の時給は300円、200円と下がり続けました。また、派遣の定年は35歳と言われています。派遣先は、仕事ができる・できないではなくて、容姿や年齢、家族構成、子どもがいる・いない、介護を必要とする親がいるかなど、属性で労働者の選択をしたがっているので、35歳を過ぎると技術や知識があろうとも、仕事の紹介が減ってきます。より条件が悪い仕事に就かざるをえなくなります。その意味で「35歳定年」だと言っています。
  「派遣はよい働き方である」「多様な働き方の選択肢があってよい。派遣はその一つとしてあってよい」という声が多方面にあります。私たちも派遣という働き方を否定していません。しかし、現実に広がっている派遣という働き方は、企業のニーズに応じて企業が扱いやすい方向に変質させられています。ヨーロッパでは、派遣先の労働者との均等待遇が法的に義務づけられています。均等待遇規制があるために、派遣労働者数が増えていないともいわれています。現状の劣悪な働き方を変え、派遣労働者にとっての派遣労働にするために、派遣法の抜本改正をしなければいけない、と強く思います。

2.非正規労働者の闘い
(1)日雇い派遣をめぐる取り組み
  フルキャストで働いていた30代の正社員がユニオンに相談に来て、私たちは日雇い派遣の問題を知りました。この人たちは内勤社員として、明日A社で20人用意して欲しいと言われたら、その20人を集めてA社に派遣するという仕事をしていた人たちです。ユニオンに「過労死しそうだ」と相談に来ました。明日20人と言われたら、その20人を揃えなければいけません。夜の12時になっても1時になっても電話やメールで揃えなければいけないのです。揃わなかったら自分たちが現場に行かなければいけない、ということです。次の日の朝、日雇い派遣労働者が早朝6時から7時ぐらいの間に会社に「今から家を出ます」とかけてくる電話を受けるので、家に帰っている時間がなくなります。それで、会社に寝泊まりをするようになってしまい、半年で10kgも15kgも痩せてしまうという状態でした。しかも、残業代が一切つきませんでした。それで彼らはユニオンに、「過労死しそうだ」「残業代を払ってほしい」と相談に来ました。この人たちがその相談の中で、「自分たちもひどいけど、もっとひどい人たちがいる」と言いました。そのもっとひどい人たちというのが、「自分たちが仕事を紹介している労働者で、怪我をして動けなくなってしまってもなんの保障がない」とか、「街中で残飯を漁っているのを見てしまった」と、教えてくれたのです。それで、フルキャストユニオンを結成して、会社に交渉を申し入れ、「残業代を支払ってください」「有給休暇をとらせてください」と当たり前の要求をし、認めさせました。そして、もっとひどい人たちがいるという日雇い派遣の現場で、ユニオンの仲間が働き、実態調査をしました。
  調査したところ、派遣法違反、労働基準法違反、違反だらけでした。「これはこのままにしてはいけない」「派遣法を企業にとっての派遣法ではなくて労働者にとっての派遣法に変えなければいけない」「そのために社会的な問題にしなければいけない」と、新聞や雑誌の記者たちも現場に入りました。日雇い派遣の現場には、登録しておけば仕事の紹介があったときに入れます。そうやって現場に入って、「これはひどい」ということで、マスコミも取り上げ、日雇い派遣問題は社会問題になりました。グッドウィルは、怪我をした労働者に対して労災扱いもしない、派遣を禁止されているような現場で働かせている、派遣法違反である二重派遣をしているなどで、あまりのやり過ぎで廃業に追い込まれていきました。
  私たちは、フルキャストユニオンやグッドウィルユニオン、マイワークユニオン、エム・クルーユニオンなど日雇い派遣の会社に次々ユニオンを立ち上げていきました。グッドウィルは「データ装備費200円を返還する、組合員にのみ返します」と交渉の中で言いました。私たちはすぐ、「組合に入ったらデータ装備費が返還される。全額返還を求めよう」とメールやホームページで発信しました。日雇い派遣の人たちは横のつながりがありません。同じ会社にいても名前も知らないという状態で働いていますが、「データ装備費の返還の説明会をします」とお知らせすると、日雇い派遣労働者が事務所に集まってくるという状況になっていき、各派遣会社でユニオンが立ち上がりました。データ装備費や業務管理費という名目で天引きされていたお金については多くの会社で全額または2年間分の返還が行われました。「派遣法や労働基準法を守ってください」という当たり前の取り組みを進めています。

(2)偽装請負をめぐる闘い
  朝日新聞が偽装請負を大きな問題として取り上げました。この偽装請負は製造業で広がっているだけでなく、自治体の中でも広がっています。2008年3月から4月にかけて、尼崎市役所で住民票の入力業務をしていた派遣労働者5人がストライキをうちました。彼女たちは、朝日新聞の記事を見て、「自分たちの働き方は偽装請負ではないか」と武庫川ユニオンに相談に来ました。市役所の課の正職員や管理職に指揮命令を受けないとできない住民票の入力業務で、まさに偽装請負でした。「偽装請負である」と、労働局にユニオンとともに申し立てをし、労働局が市役所に是正勧告をした結果、市役所は偽装請負から派遣に切り替えました。その後、市に対し、ユニオンとして直接雇用を求め、「検討します」となっていました。ところが、市は3月末の年度替わりの時に、「派遣会社を競争入札で選びます」と提示してきました。競争入札では、3月末以降の仕事はあるかないかわからなくなるため、彼女たちと武庫川ユニオンは、「人間を競争入札するな」と、ストライキをやりました。自治体の労働組合や地域の人たちなどの支援が広がり、4週間ストライキで闘いました。結果的に彼女たちは臨時職員として市役所の直接雇用になりました。しかし、1年間の臨時職員なので来年度更新されるかどうかわかりません。次の更新で雇い止めをされないよう署名を集めるなどの取り組みを開始しています。

(3)闘いの拡がり~名ばかり正社員
  働き続けるためにも1人ひとりの労働者がたたかわざるをえない状況が、全体の労働者に広がっています。非正規労働者が労働者全体の30%以上も占めているときなので、非正規労働者だけが劣悪だということではなくなっています。正規労働者も、「定年まで雇用が安定しています」「賃金は年功序列で上がっていきます」というわけにはいかなくなっているでしょう。
  マクドナルドの「名ばかり店長」の裁判、第一審は勝ちました。この店長は、働きがいを持って、朝4時半に起きて、6時にお店に出勤して夜12時まで働いていました。ある日、お札を数えていたとき、手がこわばって数えられなかったそうです。おかしいと感じて、「検査のために病院に行きたい」と言ったら、会社から「あなたは店長だろう」「店長なのに健康管理ができないのか」と言われたそうです。それで東京管理職ユニオンに「店長は病気になってはいけないのですか」と相談に来ました。残業代は出ないのが当たり前と思って、一生懸命働いてきたわけです。マクドナルドはアメリカに本社があります。アメリカではホワイトカラー・イグゼンプション、何時間働いても残業代はつかなくて当たり前とされているので、「店長の残業代などもってのほかだ」というのが本社の考えで、交渉を重ねても解決がつかなく、裁判に訴えました。この店長は今も埼玉にあるマクドナルド店で働き続けています。「肩書きは店長であるけれども、働いている実態は店長という管理職ではなく、まさに労働者である」ということが認められ、「残業代を支払いなさい」という判決が出ました。しかし、会社が高裁に控訴をしていますから、どういう判決が今度出るのか。このように、正規労働者の働き方も非人間的な働き方になっています。私たちは、正規労働者とは1日8時間・週40時間、賃金は月給制、社会保険や雇用保険など各種保険に加入、直接雇用、契約期間なし、などを全部満たしている労働者であると規定しています。そして、一つでも満たさない条件がある労働者は非正規労働者であるとしています。
  それがなぜか、長時間労働が当たり前、責任が重くて当たり前、異動・配転など会社の言うとおり、というように拘束性が高い働き方が正規労働者の働き方であるかのようにされています。「月100時間以上の残業。残業代が出ない」「心の病にかかってしまった。明日から来なくていいと言われた」、そういう相談が増えています。今、「名ばかり管理職」が流行語大賞にノミネートされていますが、正社員はまさに「名ばかり」です。

(4)派遣法改正について
  日雇い派遣や秋葉原事件の問題などがあり、派遣法改正の流れが強まりました。しかし、実際に提案された改正の中身は、見せかけと言わざるをえません。日雇い派遣は原則禁止としながら、「30日以内の契約期間を結んで日雇い派遣をさせてはいけない」という内容なので、31日以上の契約期間を結べば、今日はA会社、明日はB会社で働かせることは可能です。登録型派遣を原則禁止とし、専門業務に限るとしなければ、日雇い派遣問題は改善されません。私たちは「この改正では派遣労働者の現状は改善されない」「派遣労働者のために規制を強化した派遣法に変えなければいけない」と派遣法抜本改正に向けた取り組みを強めています。

 私たちは「労働組合としてどうあるべきなのか」ということをいつも問われています。労働組合は労働者のためにあり、労働者が抱えている問題を改善するために取り組むのが労働組合です。今、労働者は横のつながりが作りにくく、「同じ職場で同じ仕事をしているのだから仲良くしよう」という当たり前のことができにくくなっています。非正規は「正規の人たちはもっと働くべきではないか」、正規は「非正規は責任感がない」など、互いを見ています。お互いに話し合うことも難しい職場環境が作られています。私は、労働組合は労働者をつなげ、労働者が明日を生きていくための心の拠り所にならなければ、と思います。労働組合として今こそ頑張り時ではないかと思っているところです。

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