一橋大学「連合寄付講座」

2008年度“現代労働組合論II”講義録

II 非正規雇用と労働組合

第4回(10/24)

派遣労働者の組織化と労働条件改善の取り組み(1)

ゲストスピーカー:木村德太郎 UIゼンセン同盟人材サービスゼネラルユニオン[JSGU]政策副部長

 はじめに
 今日は派遣労働者の組織化と労働条件改善の取り組みという内容でお話しさせていただきます。3つ話をします。1つは派遣とはどういう働き方なのだろうかということ。2つ目は、今何が問題となっているのかということ。最後に、そうした中で私たち人材サービスゼネラルユニオン(JSGU)が何をしようとしているのか、また何ができるのか、という点についてお話ししていきたいと思います。

1.UIゼンセン同盟について
 私たちJSGUの上部団体であるUIゼンセン同盟は、連合に加盟している産業別労働組合で、民間最大の産別労働組合です。英語ではThe Japanese Federation of Textile, Chemical, Food, Commercial Service and General Workers’ Unions.といいます。
 UIゼンセン同盟は産業別とはいいながら、実際にはいろんな業種で働く労働組合の人たちが集まっています。
 UIゼンセン同盟には企業別組合とは別に、クラフト・ゼネラル型という組合が結成されています。クラフトというのはいわゆる職種別の労働組合で、「日本介護クラフトユニオン」という介護関係の仕事をしている人たちだけが集まっている組合があります。
 私たちJSGUは、人材サービス業界で働く人たちの組合として日本で一番大きな労働組合です。JSGUの組合は2004年5月に結成されたばかりです。組合員数は2008年9月末で34,000名。
 組合員の内訳は、派遣会社で営業やコーディネータの仕事をしている人が4,500名、残り29,500名は実際に派遣先で働いている組合員です。

2.派遣制度とは
 組合員のうち87%は派遣先で働いている組合員です。その人たちが派遣先でどのような仕事をしているのかというと、研究開発(化学医薬品、半導体、電子部品の研究開発)、ソフトウェア開発(システムエンジニア、プログラマー)、翻訳業務、機械設計、生産技術、製造業務、営業、店頭販売、セールスエンジニア、施工管理、経理、OA機器操作、貿易事務、衣料事務、コールセンター業務、飲食店ホール業務など、いろんな仕事をしています。

 次に、派遣という働き方は実際どういう働き方なのかを説明するために、図を用意しました(下図参照)。

図1

 通常の労働契約は、働く企業と働く人は一対一、使用者と指揮命令する人は同じです。派遣の場合は、雇用と使用の分離という言い方をしますが、両者が分かれています。派遣会社とは雇用関係がありますが、実際に働くのは派遣先です。仕事の指示は派遣先から受けます。派遣会社は対事業所サービス、つまり企業に対するサービスを提供しています。また派遣は波動的業務、いわゆる「波がある業務」で使われます。例えば、携帯電話の生産ライン。携帯電話は、新製品を売り出して、売れればドンと作りますが、売れなくなったらパッとやめて次のものというように、生産に大きな起伏があります。正社員だけではこのような生産に対応できません。正社員だけで生産しようと思うと、一挙に物を作ることもできないし、一挙にやめることもできません。そのため、ベースのところだけ正社員が生産し、大きな変動のあるところは派遣を使うという形になっています。直接雇用の場合、自社で募集、採用、採用後の労務管理などの手間は実に大変ですが、派遣会社に「何日までに何人こういう人を揃えて下さい」と頼めば、きちんと揃えてくれますので、使う企業にとって使い勝手が良いのです。また、働く側も登録しておけば仕事があったときに電話がかかってきてすぐに仕事ができます。派遣会社は人材に労務管理(採用・教育・労務)を付加したサービスを提供しているわけです。

3.派遣制度が成立するまで
 これから二人のアメリカ人の話をします。派遣は1986年まで認められていませんでした。戦前は日本でも労働者供給事業といって、工場などに人を供給するとことが法律で認められていましたが、戦時中に一度なくなります。戦後、GHQのコレットさんというアメリカ人の労務課長が、労働者供給事業は封建的であり、労働者を供給することでお金を儲けるのはけしからんということで、職業安定法で禁止しました。
 もう1人は、1967年3月に来日したマンパワーという会社のピナティさんというアメリカ人です。この人は日本にやってきて、日本でもテンポラリーワークをやる企業が必要だと言いました。そして、マンパワージャパンという会社を日本で作ります。
 片方のアメリカ人は規制して、もう一方の人はなんとかその規制を緩めようと日本に来た、ということです。アメリカではこのようなシステムは禁止されていませんでしたが、日本では法律の枠があってどうしてもできないことを知ったピナティさんは、事務処理請負サービス事業、つまり請負事業という形で、派遣と同じような仕事を始めました。
 製造業派遣は最近まで認められませんでした。比較的熟練を要しない仕事が多く、そういう仕事へ派遣を入れてしまったら、正社員で働いている人の仕事が奪われるのではないかという理由からです。
 そこで、各メーカーは請負という名の下で(しかし、実際は派遣のように、)請負会社の人に工場の人が直接指揮命令をして仕事に従事させていました。事務処理請負サービスというのも実はそれと同じでした。こうしたサービスが広がっていくなかで、労働者供給事業だからやめろということで良いのだろうか、という議論が出てきました。働いている人たちに聞くと、「私は業務処理会社の社員です」と言うし、賃金も払われている。それなら、このような働き方を認めていこうではないかということで、派遣法を作る機運が高まっていきました。
 労働組合側は反対です。正社員という働き方が一番で、それを奪われてはかなわないということだったのですが、いろいろと紆余曲折あった末に、結局、派遣法が出来上がりました。

4.派遣制度の拡大
 当初派遣は、専門的業務や特殊な雇用管理が必要な13の業種に限定して認められました。これら13業種の仕事であれば、一般の正社員の仕事を奪うこともないだろうということだったのです。
 その後、何度か改正され対象業務が少しずつ広がってきました。
 1999年になると、適用除外業務以外の業務も原則自由化されました。どうして原則自由化されたのかというと、ILO第181号条約(「民間職業仲介事業所条約」1997年)を批准することになったからです。民間の職業仲介や派遣事業をする場合海員以外のすべての職業について原則認めなさいというもので、日本はこのILO条約の批准をすることから自由化したのです。

 その後、派遣の期間も1年から3年に延び、26業務については期間の制限なく派遣できるようになりました。2004年には、物の製造業務にも派遣ができるようになったということで、グラフを見てわかるように、派遣で働く人も、派遣会社の売り上げも大きく伸びました。

図2

 2006年は、152万人(常用換算派遣労働者数)が派遣で働いていて、派遣を使っている企業が86万件、年間の売り上げが5兆4891億円と、大きく伸びてきました。同時にいろんな問題も出てきているわけです。
 非正規労働者に占める派遣労働者の割合は全雇用者の2.5%。これはヨーロッパの諸国もだいたい同じぐらいです。

5.派遣労働の問題点
 派遣労働が世間的にある程度認められ定着してきましたが、問題もあります。例えば、キャリア形成がしにくい点や、雇用の安定の問題があります。いわゆる26業務以外は、臨時的・一時的業務にしか派遣を使えません。臨時的・一時的業務では雇用の安定というものが図りにくい。また正社員との格差問題があります。これは派遣に限らず、アルバイト・パートでも正社員との格差があります。特に派遣の場合、派遣先の人と同じような仕事をしながら賃金は3分の2に達しないといった問題を抱えています。
 UIゼンセン同盟は、2005年に「派遣労働者の仕事職業生活」というアンケートを実施し、満足している点と不満足な点を挙げてもらいました。満足している点は、「仕事の範囲や責任が明確」「専門的な技術や資格が活かせる」「働きたい仕事内容が選べる」「働きたい曜日や時間を選べる」「働く企業や職場を選べる」「働きたい曜日や時間を選べる」「仕事がすぐに見つかる」点が挙げられています。
 不満な点は、「社員と比べて社会的評価が低い」「社員と比べ収入が少ない」「雇用が不安定」「有給休暇が少ない」「働いている職場で孤独である」といった悩みを抱えています。
 東京都が行った「派遣労働に関する実態調査」で、2002年と2006年が比較されています。「できれば正社員として働きたい」が、2006年になって増えています。派遣で働いてもいいのだけれど、先々不安なので安定した雇用を求める人が増えています。

6.人材サービスゼネラルユニオン(JSGU)の取り組み
 このような不満(均等待遇、雇用の安定、教育訓練の充実)を解消するためにはどうしたらいいか。これには、派遣先の協力が必要です。待遇の改善、つまり賃上げをするためには派遣料金を上げる必要があります。派遣会社の営業は派遣先に対して、派遣料金の値上げを交渉します。上げて頂けるところもありますが、「そんなに言うのなら、お宅よりも派遣料金が安い派遣会社に変える」と言われます。つまり、派遣会社と派遣先の間には交渉力の非対称性、力関係の差が歴然とあります。
 派遣スタッフの労働条件の改善は一派遣会社の企業別組合では限界があります。派遣で働く人たちが会社を超えて集まって交渉をしていかないと、労働条件や待遇、地位向上はない、と私たちは考えます。私たちが企業の枠を超えた労働組合(ゼネラル型)としているのはそうした事情があるからです。資料を見て下さい(下図参照)。

図3

 ここに労働組合の形態が書いてあります。戦後GHQが労働組合を一斉に作らせました。そのとき一番組織化しやすかったのが企業別に組合をつくることで、日本の労働組合の多くは企業別組合(エンタープライズ・ユニオン、カンパニー・ユニオン)となっています。
 派遣先と交渉していくためには、多数の派遣会社の派遣労働者を組織するゼネラル型の組合が必要です。JSGU では22社の企業で働いている派遣労働者や内勤スタッフを組織しています。
 私たちが今やっている方法は、会社をよくしたいという有志の労働者で組織の核を作ります。その後派遣会社の内勤スタッフを組織化し、その上で派遣スタッフを取り込むという方法をとっています。
 ここで問題となるのが内勤スタッフの意識です。派遣会社の内勤スタッフは派遣スタッフを管理しています。派遣スタッフから見れば内勤スタッフは会社側ですから、お互いに壁があります。しかし、実は派遣スタッフの待遇を良くしないと、自分たち内勤スタッフの待遇が良くならない。働いてお金を稼いできてくれるのは派遣スタッフです。派遣スタッフが働いてくれるから自分たちが食べていける。こういう意識がないといけないのですが、ともすれば自分が使っているような気持ちになっている人もいます。その意識を変える必要があります。
 では労働条件を改善するためにいったい何をしているのか。
 日本人材派遣協会(約800社加盟)、日本生産技能労務協会(業務請負を中心として工場内の派遣をメインにしている団体)など業界団体に対しての要請活動や交渉をして全体の底上げをしていこうとしています。
 また法改正によって労働条件を上げるために政府に意見書を出しています。例えば「派遣制度のあり方に関する研究会」というのがあり、「こういう方向で派遣制度を変えて欲しい」という意見を出しました。これ以外にも、政府の規制改革会合で、JSGUの考えを述べています。

7.多様な働き方の実現に向けて
 グッドウィル問題についても触れておかなければなりません。グッドウィルは、派遣が禁止されている業務の派遣や不当な天引きなどもあり、2008年1月18日からすべての事業所が業務停止となりました。その後、職業安定法違反で起訴、略式命令で罰金を払わなければならなくなりました。罰金刑が確定してしまうと派遣免許の許可を取り上げられてしまいます。そうすると派遣はできませんから会社を廃業しなければいけないということで、私たちは7,000名の仲間を失いました。この問題に関して労働組合として、特に法令遵守に対するチェック機能を果たすことができなかったこと、組合員に対するコンプライアンス、法律遵守ということについても徹底できなかったことは、私たちの大きな反省点です。
 派遣法を規制していこうとする意見があります。しかし、派遣制度は必要な制度だと私たちは思っています。「派遣は悪い働き方」という考え方で制度見直しの動きがあります。今年、120名ほど衆参の国会議員が参加する「派遣制度の改善を推進する議員連盟」を立ち上げて頂き、そこで、私たちは派遣という働き方を全部否定するのではなくて、改善する方向で考えてほしいと主張しています。
 このように派遣元、行政、政治に対して働きかけをしているのですが、派遣先に対しては、なかなかこれができない。私たちの組織はまだ小さい、これが50万人ぐらいの派遣労働者の組合であれば、派遣先に対しても「こうして欲しい」と言えるのですが、いまは言えないというところがあります。
 私たちは派遣という働き方だけでなく、パートでもアルバイトでも正社員でも、働くことそのものは変わらない、働き方が違うということでこれだけ格差が出てきたり、差別をされたりというのはおかしいではないかと思っています。また、昔のように子育てはおじいちゃんおばあちゃんがしてくれるという時代でもありませんし、逆に介護にしても家族だけではなかなかできない、そういった時に安心して休める、あるいは育児や介護で仕事を辞めた後、また働こうと思ったら働けるようにする必要があります。派遣制度はこうした場合に役立つ制度だと考えています。
 正社員がいったん会社を辞めてしまうとなかなか次の正社員の口が見つかりません。その間派遣で働くという選択もあるでしょう。派遣で働いていて、次に正社員になる。こういうバリアフリーな働き方ができるのが良いのではないでしょうか。
ヨーロッパではフレクセキュリティーとう考え方があります。柔軟性と安定性を両立した働き方を保障していけるように、派遣という制度を役立たせたいのです。
 私たちの目標は、人材サービス産業で働くすべての労働者の処遇改善、地位向上です。UIゼンセンの「U」「I」というのは、友を愛する友愛だけでなく、Union Intensificationという意味があります。「Intensification」は「強めること、強化、増大」という意味で、私たちの組織をまず強化して、拡大することで、派遣で働く人の問題を1つでも2つでも解決していきたい、というふうに考えています。
 ご清聴ありがとうございました。

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