一橋大学「連合寄付講座」

2007年度“現代労働組合論I”講義録

第11回(7/6)

「政策・制度要求と労働組合」

ゲストスピーカー: 逢見直人 (連合副事務局長)

1.はじめに ~自己紹介
  みなさんこんにちは。ご紹介いただきました逢見です。いまから31年前に一橋大学を卒業しました。レジュメの3ページに『如水会報』の2005年11月号に私の文章が出ていますので、それを自己紹介代わりにご覧下さい。
  私は、生まれは北海道の函館で、函館中部高校という、1~2年に1人ぐらいしか一橋大学に来ないところの出身です。ボート部に入っていましたのであまり勉強はしませんでしたが、それでも何か自分のライフワークを見つけたいと思ってテーマを探したところ、出会ったのが、労働問題でした。労働問題を勉強するためにはまず、産業革命のことを勉強したいと思い、もう退官された前期ゼミは、依光正哲先生のところで「イギリス産業革命論」を学びました。3年から津田眞澂先生のゼミに行きました。津田先生から「一橋大学は卒業してもゼミは一生の付き合いだよ」と言われまして、その言葉を真に受けて、卒業してからも月1回土曜日津田先生の家に通って、卒業生の人たちと一緒に経営や労働の勉強をしました。大学院生の人たちと一緒に、いろんな実態調査もしました。私にとって津田ゼミは一生の財産だと思っています。最後、亡くなる5年くらい前からは病気で倒れて、ほとんど話ができない状態だったのですが、それでもたまにお見舞いにいくと非常にうれしそうな顔をしておられました。約25年くらいですが、津田先生のもとで、勉強することができました。そういう意味で一橋大学に入ってとてもよかったと思っていますし、いまの仕事を選んでよかったと思っています。
  私は企業に勤めたことがありません。卒業すると同時に労働組合、当時のゼンセン同盟の書記局員として働き始めました。労働をライフワークにしたいというときにいろんな道があると思います。企業で人事労務の専門家になる、私たちのゼミの仲間でも企業の人事労務のエキスパートとしてやっている人たちがいます。それから研究者になるという人たちもいます。私は、最初は労働ジャーナリストになろうかなと思ったのですが、先輩の新聞記者のところに行って、「労働ジャーナリストになりたい」と言ったら、昔と違っていまはあまり専門性がなくなってきていると言われました。例えば、大学でロシア語を学んでロシア問題に精通して、その専門家になりたい、という場合には配慮してくれるかもしれないけれども、経済や労働の問題について、それだけを一筋にやるような配置はしてくれないということを言われました。それじゃあまり面白くないなと思ったときに、たまたまゼンセン同盟から来ないかという話がありました。そのときに体の中に電気が走るような気持ちがして、「よし行こう」と決めて入りました。
  ゼンセン同盟に入って、最初の10年ぐらいは、賃金や退職金など労働条件の調査・分析、あるいは要求のための立案という仕事をやりました。それから、2年間、千葉県支部でオルガナイザーとしての仕事をしました。ちょうどそのときに、東京ディズニーランドがオープンして5年ぐらいの時で、そこに組合を作った経験もあります。それからゼンセン同盟の本部に戻って、主に繊維産業や流通産業の産業政策に取り組みました。そのころは規制緩和が課題になっていまして、大規模小売店舗法の廃止への対応が重要な課題でした。その後90年代のバブル崩壊から長期不況になって、いろんな企業が破綻するという事態が起きました。マイカルや長崎屋など会社更生法を申し立てた企業で、労働組合の立場から事業をどう立て直すかということをやってきました。また、カネボウやダイエーといった企業が産業再生機構という枠組みの中で、事業の再生をはかっていくという仕組みになり、労働組合としてその枠組みの中でどのように企業を再建していくかということをやりました。企業の再生とともに働く人々の雇用と生活を安定させ、使命感と自信を持って取り組んでいける枠組みをつくるうえで、労働組合も重要な役割を担っています。こうした企業が苦境を乗り切って、再生を果たすことを強く願っております。
  その後、2005年の10月から、連合の副事務局長になりました。政策担当の副事務局長として、霞ヶ関の役人と永田町の政治家を相手に、政策問題を中心に仕事をしています。
  スライドの2ページ目に主な公職をかいています。「行政減量・効率化有識者会議」は小泉内閣時代に設置された会議です。政府を肥大化させない、公務員を減らして政府を小さくすべきだという小泉内閣の方針と、増税よりは行革をやれという国民の声を受けて、公務員の5%純減、総人件費を圧縮するために、具体的にどのように実行していくかをこの会議の中で検討しています。現在は独立行政法人の整理・合理化をどのように進めるかという議論をしています。
  「官民競争入札等監理委員」。2006年に公共サービス改革法という法律が成立し、これに基づいて政府は公共サービス改革を進めています。公共サービスは、今までは主に国や地方自治体などの「官」が独占的に提供していましたが、そこに市場原理、競争原理を入れて公共サービスを市場化テストにかけて、官がやるか民がやるかをコストや提案の内容によって評価して、いい提案をしたところに任せるということが始まっています。具体的にどういう部門を切り出して市場化テストにかけるかというのが、官民競争入札等監理委員の仕事です。
  「社会保障審議会・同医療保険部会」。これは社会保障についての審議会で、私は医療保険制度の問題を担当しています。去年の国会で医療保険制度の抜本的な見直しが行われました。細かな説明は省きますが、連合として働く者の立場で意見を主張しています。
  「産業構造審議会基本政策部会」。これは経済産業省の審議会で、経済産業省の中期的な政策を立案しています。
  「環境部会地球環境小委員」と「中央環境審議会地球環境部会委員」は環境省と経済産業省が合同でやっている審議会です。日本は京都議定書の中で、地球温暖化に関わるCO2をはじめとする温室効果ガスを1990年比6%マイナスにすることを公約しています。2008年からこの京都議定書の枠組みがスタートします。しかしながら、実際はマイナス6%どころか、90年比プラス8.4%、すなわち目標より14.4%プラスになっています。産業界は温室効果ガスを削減する自主行動計画を作っています。それがどのくらいの効果があるのかを検証して、さらにどういう課題をどのように進めていくかを検討している審議会です。
  その下の「子どもと家族を応援する日本」重点戦略会議。安倍内閣はいろんな重点戦略を作るのが好きで、官邸の下に、「アジアゲートウェイ構想」重点戦略会議や「環境立国21」重点戦略会議、「成長力底上げ」重点戦略会議といった重点戦略会議をつくっています。その中の一つに、少子化対策やワークライフ・バランス政策を検討する「子どもと家族を応援する日本」が位置づけられており、私は、どのような政策にどのぐらいの予算をつけていくかという、そこの一番の大元になる基本戦略部会の委員をやっています。
  次は労働審判員。これは前に連合の長谷川総合労働局長の講義で触れたと思いますが、東京地裁で労働審判員として個別労働紛争の解決のための仕事もしています。以上のようなことを公職としてやっています。
  主な著作では、商学研究科の谷本先生と『CSR経営』というのを一緒に書きました。これも広い意味での政策・制度の問題だと思います。連合は、CSR問題についても取り組んでいます。

2.連合が取り組む政策・制度要求の前提
(1)連合の政策活動の前提
  今日の話はまず、連合が取り組む政策・制度要求の前提ということを話したいと思います。2番目に連合の政策・制度要求の領域と視点、3番目に政策・制度要求の実現手法とその成果、そして今日的政策課題として格差問題について触れたいと思います。 
  スライドの4ページ目に写真が3枚あります。一番上は、「税調は働く者の声をきけ!」、その下に「定率減税の廃止・縮減反対」という横断幕があります。宣伝カーの上にマイクを持って話をしているのが連合の高木会長です。皆さん労働組合というと、こういう旗もってマイクでしゃべっているというイメージがあるかもしれません。これは財務省の前で演説をしたときの写真です。2005年の秋に定率減税を廃止するかどうかが、政府税調で大きな議論になったときにこの行動をやりました。残念ながら定率減税は廃止になりました。6月から地方税の定率減税が廃止になったことに加えて、国から地方への税源移譲として地方税のウエイトが高まりました。6月に両方実施されて地方税、住民税などが一気に上がり、手取りが減りました。これを決めた2005年に、定率減税廃止反対を訴えて、街宣活動をやりました。
その下の写真は、民主党と連合との共同宣言の調印のときのものです。右側にいるのが民主党の小沢代表で左側は高木会長です。民主党と連合がいろいろ協議して、合意したものについて協定を結ぶ時に撮ったものです。来週月曜日には、これから参議院選挙が始まるので、連合と民主党で政策協定を結ぶことになっています。実際どういうものを作るか、どういう協定を結ぶかという文言の策定作業は私が責任者としてやっています。
  右下は、公務員制度改革についての政労協議です。小泉内閣当時の3大臣、竹中総務大臣、中馬行政改革担当大臣、川崎厚生労働大臣と連合のメンバーで公務員制度改革についての協議を行ったときの写真です。このように、政府といろんな問題について意見交換をしています。こうしたことをどういう背景でやっているかを次にお話します。

労働組合主義に基づく運動
  政策活動は、いろんな団体が、例えば日本経団連が経営者の立場で政策を出したり、日本医師会が医者という立場で政策や要望を出したりします。労働組合の場合は、基本的には働く者の立場で政策・制度要求を出すわけです。しかし、単なる利害関係で政策を作っているわけではありません。政策の基本となる座標軸、私たちはどういう社会をつくろうとしているのかということが重要です。それをきちんと立てて、その座標軸に従って私たちはこうすべきだという政策を立案していくわけです。
そのときの軸になるものの一つは、「労働組合主義」に基づく運動です。労働組合主義は “Trade Unionism” と言います。ウェッブ夫妻が『労働組合運動の歴史』という本の中で、「労働組合とは、賃金労働者がその労働生活の諸条件を維持または改善するための恒常的な団体である」と定義づけています。これが労働組合主義に基づく古典的な労働組合の定義です。そうではない労働組合の定義もあります。労働組合主義と違う定義の例としては「階級的労働運動論」というのがあります。これは労働者階級が、資本家階級を打倒することで、労働者が中心の社会をつくる、労働組合はそのための行動体であるというもので、マルクス・レーニン主義に基づく定義です。
  労働組合主義に基づく定義をブレークダウンすると3つに分けられます。
  1つは、「生活諸条件改善のために、経営者との交渉による労働協約によって獲得するもの」。これは団体交渉によって合意したものを労働協約化するということで、皆さんにとっては一番イメージしやすい労働組合の姿かもしれません。しかし、経営者との団体交渉だけでは、生活諸条件を十分に改善できるわけではありません。
  2つ目は、「政治的要求によって政府に実現を求めるもの」。やり方は国によって違いますが、先進国の労働運動は、どこでも政治的要求を掲げて政府に実現を求めるという活動をしています。今日のお話はどちらかというと1番より2番が中心になりますが、これも労働組合主義にもとづく運動として非常に大きな柱になっています。
  3つ目は、「協同組合や共済活動によって実現するもの」。これは今回の講座では触れなかったかもしれませんが、労働運動にとっての原点です。日本の労働組合もさまざまな共済活動をやっています。

市場経済を前提とするが、市場原理主義には対決
  前提の2番目は、市場経済を前提とするが、市場原理主義には対決するというものです。私たちは、市場経済あるいは市場原理というものは基本的に否定しません。市場における競争を通じて消費者に財やサービスを提供していく、これは仕組みとしては現在のところ一番有効だろうと思います。したがって、そういうものを否定するイデオロギーとは立場が違います。しかし、すべてを市場に委ねて競争の中でうまく回るのかというとそうではない。社会的連帯や社会的弱者への政策的配慮を強く意識して、そういうものを重視する政策を打ち出しています。それから、産業民主主義に基づく「労働」の政策決定過程への参加を重視しています。産業民主主義というのは、企業や産業における意思決定において、経営者が先決的に行うのではなくて、労働者がそこに参加し、そのことによってチェック機能を果たしていくという考え方です。資料でカギ括弧「労働」になっているのは、労働に関わるということだけではなくて、労働組合、あるいは労働者の代表がいろんな政策決定過程に参加するという考え方をとっているからです。私たちの声、働く人たちの声を反映できる政策にしていこうということです。

「労働の尊厳」を大切にした働き方の追求
  前提の3番目は「労働の尊厳」を大切にした働き方の追求です。労働の尊厳は私たちが大事にしている言葉で、働くことを通じて社会に貢献していることに自信と誇りを持つという思想です。世の中にはいろんな仕事があります。例えばパンを焼く仕事、洗濯をしてまた着られるようにするランドリーの仕事などがあって、社会が成り立っています。そういう仕事は一つひとつすべてに価値があるわけで、働くということに自信と誇りをもつ、働くことを大事にしていくという思想です。これを「労働の尊厳」というわけです。そういう考え方に基づいて労働の社会的意義を高めていく。その上で、産業、企業の健全な発展と生産性の向上を目指し、労働組合が主体的な役割を果たしていく。労働の尊厳に基づいて、産業や経済が健全に発展していく、そのためには必要な協力をしていこう、生産性の向上もやっていこうということです。その前提は労働がきちんと正しく評価されるということです。それを通じて、国民経済の発展に貢献していく、そしてディーセントワーク、人間尊重の労働保障の実現を目指します。

社会正義の追求
  前提の4番目は社会正義の追求です。これも私たちが大事にしている言葉です。社会正義とは、貧困や失業、不平等、格差の拡大、人間疎外といった社会の不条理に対する人間愛に基づく反抗や、不条理のない社会を作ろうという価値観です。格差があって何が悪い、不平等でもいいじゃないか、失業したって次に働く場所が保証できればいいじゃないかという考え方もあります。しかし、私たちはこうしたものができるだけなくすようにしたい、という考え方をもっています。その原点にあるのが社会正義です。
  企業というのは市場を通じた競争、価格競争を通じて利益を得ていくわけです。しかし、金儲けのためだったら何をしてもいい、というわけではない。コンプライアンスという形で法律は守らなければならないことはもちろんです。しかし、刑務所に入らなければ後は何をしてもいいというわけではありません。そこには倫理的行動というのがあるべきで、それを求めていく。これも社会正義の一つです。
  個人の利己に基づく無制限の競争よりも、社会的連帯の精神に基づく理性的計画によって社会を秩序づけようとする要求。個人の利己に基づく無制限の競争をどんどんやっていくことを、私たちはむき出しの競争とか、奈落への競争と言っています。奈落に向かって転げ落ちていくような競争ではなくて、社会的連帯に基づく社会の秩序の下で競争していくことを求めています。
  他人の痛みをわが痛みとして受け止める「友愛」精神ということも大切にしています。私が労働組合に入った頃、よく先輩からこの「友愛」という言葉を聞かされました。「手を添えてともに泣かん、泣く人の痛む心に心重ねて」。他人の心の痛みはすぐにはわかりません。ケガをしているとか、血を流していればすぐにわかります。しかし、いま貧困に悩んでいる、失業で悩んでいるというのは、なかなか外見だけではわからないことです。そういうときにそれを自分のこととして受け止めて、どうしてあげたらいいかということを一緒になって考える。それが、他人の痛みをわが痛みとして受け止める「友愛精神」といっているわけです。これも社会正義の一つです。
  そして、すべての個人が自由・平等で豊かな生活を送れるような社会への期待。永遠の理想かもしれませんが、それをつくろうとする運動、それが労働組合が求める社会正義ということです。

「雇用社会化」を踏まえた役割の自覚
  前提の5番目は「雇用社会化」を踏まえた役割の自覚です。雇用社会というのは企業などに雇われて働く人たちが多数を占める社会のことを言います。いま日本の就業者は6,365万人います。そのうち雇用者が85.1%です。雇用者以外で働くというのは、例えば自営業があります。家族だけでやっている場合は雇用関係ではありません。それから、開業医や弁護士、農業や中小企業の経営者も雇用関係ではない働き方です。かつてはそういう人たちの比率が高かった。しかし、どんどん雇用者比率が高まって、いまや85%。もうほとんどの人はどこかで雇われて仕事をしています。たぶん皆さんも大学を卒業したらどこかで働くことになるのでしょう。自分で会社を興すという人も何人かいるかもしれませんが、大部分はどこかの会社、あるいはどこかの役所に勤めて働くという形を選ぶのだろうと思います。それらはすべて雇用です。今の日本社会は雇用を中心とした社会になっているということです。雇用が人々の生活を支えています。本人だけではなく、家族も雇用関係から得られる賃金収入によって支えられています。そういう意味では、雇用者本人だけではなくて、大部分の人々が雇用関係の中で生活を支え、雇用関係の中で能力を発揮して自己実現をはかっています。人生の中で、職業人生というのはかなり大きなウエイトを占めます。その職業人生の大部分を雇用関係という枠の中でつくるとしたら、そうした雇用をめぐるルールや関係をきちんと律していくということは非常に大事なことです。
  今、日本では高齢化がどんどん進んでいます。以前は定年というと55歳だったのですが、それが60歳になり、いまは65歳まで雇用するように法律で決められています。いや65歳でもまだ足りないのだと、70歳まで働くようにした方がいいということをいう方もいます。そのように職業生活はだんだん長くなってきています。それから女性の働く場への参加も増えています。こういったものが、雇用との関わりとしては非常に大きいわけです。
  それから、グローバル化、金融化という現象があります。マネーが非常に大きな役割を果たすようになっています。先週の6月28日は日本で株主総会が一番多く開かれた日でした。PE(プライベート・エクイティ)ファンドは、日本語で私募ファンドと言いますが、私募債という債券を発行してそれを元手にいろんな企業を買収します。要するに短期的利益を上げようとするわけです。例えばスティールパートナーズというアメリカのファンドがブルドックソースに対して敵対的TOBをかけたというのが大きなニュースになりました。グローバル化や金融化によって、ひょっとしたら私たちが勤めている会社がどこかの知らないファンドに買われるかもしれない。そういうときに私たちの雇用、あるいは労働条件はどうなるのだろうか、という不安を持つわけです。
  経済環境の変化などによって雇用は大きな影響を受けます。それも雇用社会化の中でやらなければいけない課題です。雇用の場で働く人たちの利害や主張を反映し、実現していく。これが労働組合の役割です。雇用社会化という、85%の人たちが雇用という枠の中で仕事をし、職業人生を全うする中で、そこに喜びや悲しみを感じ、いろんな人生があるわけです。そういうものを働く側の立場に立って、雇用についてのルールをつくっていく、あるいはそこに伴ういろんな問題について解決策を提起していく、というのが労働組合の大きな役割だと思います。
  労働組合の組織率は18.2%、どんどん下がっています。しかし、政策の実現ということでいえば、私たちは働くすべての人の代表だという立場でやっています。 
  政治には、さまざまな利害関係者の政治パワーの調整の場、いわば声の大きい者、強い者の方が意見が通るという、そういうパワーのぶつかり合いの場という側面もあります。よく国会で与党と野党がぶつかりあって強行採決したとか、今度の国会でもそういう場面がたくさんありました。意見が違ったときに数の力で押し切る背景には、自分たちの議席の背景にある圧力、言い換えれば政治パワーというのがあるわけです。85%もいる働く人たちのパワーが十分発揮されていないという批判を受けます。私たちはそういうパワーをもちつつ、政策要求をやっていかなければならないのだという自負、自覚をもっています。組合という範囲にとどまらず、勤労者、サラリーマンの代弁者として社会集団の一つの立場から発言していく。こういうものが前提となるわけです。

理念・目的が一致する政党・政治家を支援
  次に、政治的要求を掲げるときに、政党や政治家とどのような関係を持つのかという問題があります。私たちは、「理念、目的が一致する政党、政治家を支援」するという考え方をとっています。具体的な政策、例えば増税に反対するとか、単にそれだけ一致すればすぐ政党と手を組むということではなくて、理念と目的を重視して、そこが一致しなければ、たまたま具体的な政策要求が一致したからといってすぐ手を組むというわけではありません。労働組合と政党では基本的に機能が違います。そこは相互に独立不介入の関係です。政党が労働組合に介入して労働組合を政党の下部機関のような形にすることは絶対にやってはいけません。私たちはそういうことには強く反対しますし、そんなことはさせません。一方、労働組合は、政策について政党にこういうものをやってほしいということは言いますが、政党の人事にいろいろ注文をつけるなど、政党の中まで入り込むことまではしていません。理念・目的の一致、そして政策・要求の一致という、この2つが重要だということです。
連合は、「政権交代可能な二大政党的体制をめざす」という考え方をもっています。民主主義が機能するためには、政権交代が行われなくてはいけない。一党の長期支配というのは腐敗をもたらしたり、いろんな利権の場になったりします。政権交代ができる仕組みを作らなければなりません。ところが残念ながら日本はある時期をのぞいては、ほとんどが自民党の一党支配、いまは連立政権になっていますが、長期政権で政権交代がなかなか行われません。私はそれに対して歯がゆい思いをしていますが、政権交代が可能な勢力を伸ばし、真の二大政党制を日本に定着させたいと思っています。結論としては、現在は民主党を基軸に支援することになっています。

(2)政策・制度要求の歴史
  日本の労働組合が政策要求について取り組んだ歴史はそんなに古くありません。日本の労働運動の歴史は、1912年の「友愛会」の結成から数えると、もう少しで100年になります。日本のナショナルセンターが政策を重視するようになったのは、1973年から74年にかけての第一次石油ショックの頃の不況、異常インフレが起きたときです。その頃、私はちょうど大学生でした。石油が日本に入ってこなくなって、節約しようといって冬は暖房が切れてしまい、大学で暖房が4時半ぐらいで切れて、コートを着ながらゼミをやっていた覚えがあります。
  その頃から労働組合は政策要求を重視していかなければならないと考えるようになって、1976年に「政策推進労組会議」ができます。そして、経済政策、雇用、物価、税制の4つからスタートしてやがてどんどん領域を拡大してきました。

3.連合の政策要求の領域と視点
(1)政策要求の領域
  連合が取り組む政策範囲と内容には8本の柱があります。経済、雇用、社会保障、住宅・社会インフラ、人権・教育、環境・食の安全、国民重視の政治・行政・司法、そして国際という柱です。最初に申し上げたことを前提にこれらの政策をつくっています。

(2)基本的視点
  基本的視点の第一は、「公平・公正な社会の実現」です。私たちは公平・公正について絶えず発言をします。次に、「国民生活の安定と向上」です。政策を作る上で、やはり国民生活の安定・向上に資する政策にしていきたい。そして、連合としては「国民生活に関連の深い諸課題に対する政策立案と合意形成、立法化に向けた運動」をやっていく。つねにこのような視点からものを言っています。

(3)政策立案能力の向上と合意形成
  私たちは手作りの政策にこだわっています。これは連合ができる前の政策推進労組会議の時代からそうなのですが、どこかのシンクタンクなどに丸投げして、そこでできたぺーパーをもらうというのではなく、自分たちで作っていく。労働組合ですからみんな素人です。官僚に比べたらはるかに知識は乏しい。しかし、自分たちで作っていくことが大事だということで、各政策分野別の小委員会を作って、今何が問題なのか、何をどうすればいいのかということを議論して作っています。では、まったくシンクタンクはないのかというとそんなことはなくて、連合のシンクタンク「連合総合生活開発研究所」で、いろんな学者、専門家と意見交換しながら、基礎的研究としての成果を出してもらいます。それを踏まえて連合の政策に反映させていくということです。
それから、組織内の討議を尽くし、合意のできたものから積極的に取り上げていく。組織内で議論を徹底的にし尽くすということです。合意できないものは取り上げません。まだまだ合意できない政策課題もあります。例えば、環境のためにサマータイム制を取り入れるべきか、環境税を取り入れるべきか、という議論になるとまだ完全に合意できていません。合意ができるまで議論をつづけるということを、手間を惜しまずやっています。そして、中央における活動と合わせて地方レベルの展開に努めています。中央の連合だけでなくて、連合の地方組織が、それぞれ都道府県知事、あるいは市町村長を相手に政策要求をしています。

4.政策・制度要求の実現手法とその成果
(1)実現手法
  政策・制度要求をどういうやり方で実現していこうとしているか。7つの方法があります。

政府との協議
  まずは政府との協議。政府という場合、皆さんどういうイメージを浮かべるでしょうか。政府の最高責任者は総理大臣です。首相との政労会見を年2回、だいたい6月と12月に定期的に、それ以外は必要に応じてやります。総理官邸で首相、官房長官、関係する大臣として厚生労働大臣が同席して、連合との政労会見というのをやります。12月は予算編成をテーマにしてやります。あと関係府省申し入れを内閣府以下各関係省庁に対して、6月から7月初めにかけてやります。また、各府省を所管する大臣、副大臣を相手に申し入れをしています。府省によっては、政策協議、懇談という言い方をしているところもあります。実務的には各省庁の審議官クラスや課長クラスと必要に応じて協議します。

政党との協議、国会対策
  2番目は政党との協議です。国会対策というのもあります。議会制民主主義ですから、政党と政策問題の協議をしなければなりません。政党・政治家の支援は民主党が基軸だと言いましたが、民主党以外と話をしないのかというとそんなことはありません。自民党、公明党これが今の与党ですね。それと、野党である民主、社民、国民新党との定期協議をやっています。与党と野党では当然違ってきます。自民党だと政調会長、すぐに会ってくれない場合もあるのですが、だいたい年に1回ぐらいやっています。共産党とはやりません。仮に政策が一致したとしても、理念と目的が違うからやらない。国民新党をどう考えるかというと、一応今は野党の立場に立っていますので、国民新党との協議もやっています。もちろん距離的には民主党との距離が一番近いわけです。
  それから、国会での公述人、参考人としての発言があります。衆議院の予算委員会が一番メインだと思います。私は去年と今年の衆議院の予算委員会に呼ばれて、公述人として意見を述べています。主に格差問題について述べました。予算委員会以外でも、個別法案で例えば社会保障の問題について、あるいは労働法制について意見を述べるなどいろんな場がありますが、1年で3回か4回ぐらいあります。
  それから政党の政策調査会等での意見陳述。特に与党である自民党に対しては、具体的に政策を反映させようとすると政策調査会、政務調査会のもとにいろんな調査会や部会を開きます。そこに呼ばれて意見を述べます。今年も私は2回ぐらいいきました。つい最近、国際競争力についての調査会で、プライベート・エクイティ・ファンドについて労働組合としての意見を述べたことがありました。
  それから、支持・協力関係を通じた政党および議員を通じた政策実現のための運動があります。特に野党議員に対して、国会質問の中でこういう質問はきちんとしてほしい、こういう答弁をとってほしいというときに、関係する議員と具体的にそういう質問内容について詰めるということがあります。こういうときには同じ大学の先輩後輩というのは非常に強い関係があります。一橋大学出身で国会議員をやっている方もいます。先輩の力は使えるものでして、こういう質問をやってくれというと、「わかりました。先輩がいうなら私やります」と言って、やってくれる後輩の議員もいます。一橋大学は非常に小さな大学で卒業生が少ないですから、数としては圧倒的に東大卒に負けます。しかし、絆という点では、皆さんが卒業してからの方がいろいろ感じることがあるのではないかと思います。ちなみに今、経済財政問題の担当大臣をやっている大田弘子さんは本学出身で私と同期です。彼女は陸上部で、私はボート部でした。陸上部には女子が一人しかいなかったので、大田さんは短距離も長距離も何でも一人でやっていました。だから非常に目立っていたのですけど、授業で一緒になることはなくて、陸上部だということしか知りませんでした。その後何かの機会で会うことがあって、今は審議会等の場で、時々相手方として会います。なかなか政策的な考え方は一致しないところがありますけれど、同期なので当然顔と名前は知っています。ただ、それですぐ言うことを聞いてくれるわけではありません。

審議会等への参加と意見の反映
  次は審議会等への参加と意見反映。財政、税制、社会保障、教育など、いろいろな審議会に連合代表が参加しています。連合としては、政策決定過程に参加していろいろ意見を言うことが重要だと思っています。求められればできるだけ参加するようにしています。特に、労働法制の策定については、三者構成のルールというのがあって、公労使三者同数の審議会委員で議論していくことになっています。ここでは労働側の代表として連合が意見を述べています。それから最近の傾向としては、冒頭で述べたとおり、内閣が進める有識者会議、重点戦略会議という官邸主導でつくる会議があります。「行政減量・効率化有識者会議」もそうですし、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略会議、「成長力底上げ」重点戦略会議へも連合として参加しています。

経営者団体との定期協議
  次は経営者団体との定期協議。経営者団体としては、日本経団連、日本商工会議所(中小企業の代表)、経済同友会(経済界のトップの人たちが個人の資格で参加していろんな政策を出し合う場)と必要に応じて年に1回ないし2回協議しています。意見が一致したものについては、共同宣言とか共同行動をやっています。例えば最近のものとしては1998年の政労使雇用対策会議、2002年におけるワークシェアリング政労使懇談会、2004年の社会保障のあり方に関する懇談会があります。労使合意してこれを政府に一緒に持ち込みます。しかし、すんなりそのまま通るということもなくて、最近うまくいっていないことが多いです。かつては成果を上げたものもあります。このように、経済界と一緒にできるものは一緒にやります。

国際機関との連携
  次に国際機関との連携です。ILOについては中嶋さんの話にあったと思うので省略します。OECD(経済協力開発機構)は先進国30カ国でやっている組織で、日本もその重要な一員です。そのなかに “Trade Union Advisory Committee (TUAC)”「労働組合諮問会議」というのがあって、そこでいろんなOECDの政策決定について労働組合から意見を述べています。同じように、BIACという経営者の諮問会議もあります。OECD-TUACで、特に最近議論になっているのは、プライベート・エクイティ・ファンド、あるいはヘッジファンドが国境を越えて短期的利益を上げるための投資行動をやっており、それがその国の労使関係、雇用についていろんな悪い影響を与えていることについての問題です。この問題に対してグローバルな視点でものを言うのがITUC(国際労働組合総連合)です。
ICFTU(国際自由労連)とWCL(国際労連)などが去年合併してITUC(国際労組連合)という組織を作りました。ここは先進国も、途上国も含め世界の労働組合が参加する組織です。もちろん、連合もITUCに加盟しています。
  G8労働組合指導者会議というのもあります、通称レイバーサミットと呼んでいますが、サミット構成国、G8の労働組合のナショナルセンター(全国組織)の代表が集まって、サミットの前に議長国に対してこういうことを取り上げてほしいという要望を出します。今年は、ドイツのハイリゲンダムでサミットがありました。その前に、G8の労働組合の指導者が、議長国であるドイツのメルケル首相に対して、投資ファンドの問題について申し入れしました。ドイツのメルケル首相はこの問題について非常に強い関心を持ってG8議長声明の中でも触れています。この問題の対応は、国によって濃淡がありますが、ドイツが一番強い関心を持っています。来年は日本が議長国になります。したがって来年は日本がホスト国となってレイバーサミットをやります。
  G8サミットというのは単に大統領や総理大臣だけが集まって議論しているのではなく、G8財務大臣会合、G8雇用労働大臣会合とか、関係閣僚が集まる会合があります。今年はドイツ、去年はロシアだったのですが、ロシアのG8労働大臣会合のときには、私も参加しました。なぜ労働大臣でもないのに労働組合が出て行くかというと、労働大臣会合のときにソーシャルパートナーとして、G8の経営者の代表、労働組合の代表と三者で協議する場を必ず作るのです。そういう場で、雇用の問題、グローバルな視点で雇用についてどういうことをやったらいいか意見を述べ合う場をつくっています。これも来年は日本で行われます。新潟でG8労働大臣会合をやることになっています。当然、ソーシャルパートナーとして労働組合も参加します。こういう形で、国内だけではなくて国際的な場での意見反映にも努めています。

職域、職場における運動
  実現手法として重要なのは、職域、職場における運動です。労働組合ですから一番の原点である職域、職場で働いている人たちと連携して運動をやっていきます。一つは職場からの生の声が反映できる政策づくりとして、いろんなアンケート、地方ブロック会議、対話集会などをやっています。政策と言うとなんとなくとっつきにくい、あるいは私たちの生活になかなかすぐ結びつかないという印象があります。それを生活と結びつける運動として、例えば「お医者さんにかかったら領収書をもらおう」という運動を1997年からやりました。買い物したら領収書をもらうのは当たり前ですが、お医者さんにかかったときに領収書をもらうというのは当たり前ではなかったのです。そうするとお医者さんにかかっても、私は何の治療をしたのか、どういう検査をしたのか、それにいくらかかったのかを知らない。その明細もわからない。それが正しく請求されているか、患者として当然知る権利があるわけです。皆さんまだ扶養家族だと思いますが、保険証をもって病院へ行ったときに窓口で料金を支払いますよね。これはかかった医療費の3割を負担するわけです。残りの7割は医療保険から出るわけです。そのときに医療機関は診療報酬請求を出すわけです。その請求に基づいて残り7割が出ます。大部分は正しく請求しているのですが、中には水増し請求、あるいは不当請求、検査をやってないのにやったことにして請求しているとか、週に2回しか病院に通っていないのに3回通ったことにしているとか、そういう不正請求があります。それは健康保険料を横領しているようなものです。それを防ぐためにもお医者さんにかかったときに明細書付きの領収書をもらうことが大事なのです。健保組合などから、後日医療費通知というのが送られてきます。それを領収書とつきあわせてみる。医師会からは非常にいやがられて抵抗されたのですが、やりました。組合員の人から「窓口でなかなか言い出しにくい」と言われたので、だったら紙を出そうと、「領収書ください」というカードつくって、保険証と一緒に窓口に出すということをやりました。そうした行動を粘り強くやっていく中で、去年の医療制度改革のときに領収書発行が義務づけになったのです。今は病院へ行くと、大病院でも個人の診療所でも領収書を出すことが義務づけになっています。領収書をくれなければ、どうしてもらえないのですかということを当然の権利として言うことができるのです。これは自然にそうなったわけではなくて、こういう運動をすることによって実現したわけです。
  それから「エコライフ21」という運動もやっています。これは環境にやさしいライフスタイルを推奨するものです。地球温暖化防止のためには、技術革新によって省エネを進めるということもあるし、国民運動によって省エネをやる部分もあります。私たちがだれでもできる環境に優しい運動として進めているものとしては、例えば買い物に行ったときにはレジ袋をもらわない。自分でバッグを持っていってそのバッグに買い物したものを詰めて帰るという、そういう運動をやっています。そのためにエコバッグを作ったりしています。これらは職域、職場とつながっている運動です。

大規模キャンペーン
それから大規模キャンペーンというのがあります。サラリーマン増税反対キャンペーンというのをやりましたが、ここでは「シンク・タックス」というサイトを立ち上げました。インターネットでアクセスしてもらい、あなたの所得はいくらですか、家族何人いますかと必要なデータを打ち込むと増税金額が出てきます。これは結構受けました。人気のブロガーのところに貼付けてもらったりして、非常にアクセスが多かったです。
それから、ホワイトカラー・イグゼンプション反対キャンペーン。ホワイトカラー・イグゼンプションというのは、管理職一歩手前のホワイトカラーを労働時間法制から適用除外にするというもので、要するに残業しても残業代がでないということになるのです。これに対して反対キャンペーンをやりました。「STOP THE格差社会」キャンペーン。これはいまも継続してやっています。宣伝カーで街頭演説するというのもあります。街頭でビラやチラシをまく、新聞広告をうつ、いろんな形でやっています。

(2)実現した主な制度・政策
  これまでに実現した主な制度・政策。詳しく述べるととても時間がなくなるのですが、いろんなことを実現してきました。与党ではないのでなかなか壁はありますが、しかし実現もしてきたということです。

5.今日的政策課題 ~格差是正
ロバート・ライシュの分析
  スライドの45ページに「ニューエコノミーの矛盾-ロバート・ライシュの分析」というのがあります。ロバート・ライシュはクリントン大統領の時代に労働長官をやった方で、経済学者です。彼の著書に『勝者の代償』という本があります。その中で、従来のオールドエコノミーでは安定的に雇用される大量の労働者がいたが、ニューエコノミーでは、豊かになればなるほど、生産者、労働者は不安定になり、所得格差が拡大し、二極化が進行する。勝ち組も、さらに勝ち続けるために個人生活を犠牲にして働き続けねばならない。こういうことが、『勝者の代償』の中に書かれています。こうしたロバート・ライシュの分析が日本でも現実問題になってきたのではないかと思っています。

最低賃金の引き上げ
  私たちは機会の平等、再挑戦できる社会、ワークライフ・バランス、セーフティネットの強化、再分配機能の強化、新しい公共の創造を軸にして格差是正政策を進めています。
  具体的には最低賃金については、政府は「成長力底上げ戦略推進円卓会議」という会議を設置して、そこで最低賃金のことを議論しています。あわせて、今度の国会に最低賃金法改正案が出ておりまして、この法案が成立すると、「円卓会議」も回りだすだろうと思っていました。しかし、残念ながら最低賃金法改正案は継続審議になりました。これは、消えた年金、宙に浮いた年金というのが非常に大きくクローズアップされて、そちらのほうでほとんど厚生労働委員会の審議時間がなくなってしまったためです。労働法制関係は衆議院で審議はしたのですが、採決するところまでいかなかったということで、次の臨時国会に先送りになりました。残念ですが、最低賃金を引き上げる、生活保護以下で働いているワーキング・プアの問題をなくするための法律改正が必要ということで、秋以降がんばっていきたいと思います。

非正規労働者の雇用安定と均等待遇
  それから格差是正の2番目としては、パート・派遣等で働く人の雇用の安定と均等待遇の確立。これも今国会でパート労働法が改正されました。13年ぶりの改正です。法律が成立して、次の改正まで13年かかったのですが、それにしては残念ながら、均等待遇の適用範囲が非常に小さい内容になってしまいました。これについても、実効あるものにしていかなければならないと思います。

公正なワークルールの確立
  3番目は、ワークライフ・バランスの実現に向けた公正なワークルールの確立。これは政府の重点戦略の一つになっており、「ワークライフ・バランス憲章」をつくろう、行動指針をつくろうということが、骨太方針といわれる政府の「2007基本政策」の中に書き込まれました。これを受けて、7月17日からワークライフ・バランス憲章をつくるためのトップ懇談会が始まります。そういうところで少しずつ動き始めています。
秋からワークライフ・バランス、働き方の改革ということについても本格的の取り組みを進めていきたいと思います。私も「基本戦略部会」のメンバーとして、これから政策面で、そして予算をどのような財源でやるかということを、秋以降議論して、この問題について、いまよりももっと前進したものにしていきたいと思っています。

セーフティネット
  それから、セーフティネットです。これは特に社会保険ネットの再整備が重要だと思っています。スライド51ページにある3つのネット。第一のネットは雇用保険・社会保険によるネットです。失業したときに当座の生活に困らないだけの手当が出ます。しかし、いまはそれを外れてしまうとズドンと落ちて生活保護まで行ってしまいます。ニートやフリーターの問題に当てはまるセーフティネットがありません。第二のネットとして就労支援、生活支援をやるセーフティネットを実現していきたいと思っています。
  以上で終わります。どうもありがとうございました。

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