一橋大学「連合寄付講座」

2007年度“現代労働組合論I”講義録

第9回(6/22)

「非正規雇用と労働組合」

ゲストスピーカー:鴨桃代(全国コミュニティ・ユニオン連合会会長)

 こんにちは、「全国ユニオン」の鴨桃代といいます。1988年に千葉で「なのはなユニオン」という労働組合の結成にかかわりました。それから、20年にわたり、書記長、委員長として活動してきました。2002年には、他のコミュニティ・ユニオンの仲間と全国コミュニティ・ユニオン連合会(略称、全国ユニオン)を結成しました。
  なのはなユニオンは、誰でも一人でも入れる労働組合です。いままでの労働組合は、企業の中にあって、正社員の人たちを中心として作られている労働組合でした。私たちのユニオンは、誰でも雇用形態を問わず加入できます。正社員で労働組合のない職場の人、パート、派遣、請負など、いろんな働き方の人たちが入れる労働組合です。そして、1人でもというのは、職場で何かトラブルが起きた時に、ユニオンに相談して、そのトラブルを解決するために、1人で組合に加入して、会社と交渉ができるということです。
  私は、そこで相談を受けて、相談者の問題解決のために交渉をしたり、活動をする日々を送っています。現在も5件の交渉と1件の裁判、来月から始まる「労働審判」のケースを抱えています。頭でじっくり考えている時間がなくて、ただただ問題解決のために動き回っている、そんな日々を送っています。

1.非正規労働者とは
(1)パート労働者の相談から
  今日は、「非正規雇用と労働組合」というテーマでお話する機会をいただきました。私は20年近く、職場に労働組合がない、相談するところがない人たち、パートや派遣で働く非正規の人たちからの相談を受けてきましたので、非正規労働者のことを話す時に、非正規労働者の実態をわかってほしい、という気持ちが強くあります。
  非正規労働者の中で一番多いのは約1200万人を数えるパート労働者です(レジュメ図1)。このパート労働者の中にアルバイトで働く人たちも含まれています。パート労働者は圧倒的に女性が多いので、女性労働の問題だとずっと見られてきました。
  1988年に、なのはなユニオンを始めた頃、パートの人が相談にきて、最後に必ず言う言葉が、「聞いてくれてありがとうございました」でした。職場で話せない、職場に労働組合があっても、問題が起きて組合に持っていっても取り上げてもらえない、「あなたは労働組合の対象ではないよ」とわれてしまう。家に帰って夫に、今日職場でこういうことがあってと話そうとすると、その夫から、「問題があるのだったら辞めればいいじゃないか」と言われる。夫の側にお前は勝手に働いているのだろうという感覚があって、家でも話ができない、労働基準監督署に持っていくと、100%法律に合致した問題ではないと取り上げてもらえない。「解雇されました」と労基署に相談に行くと、「解雇予告手当金が出ましたか。出ませんか」と聞かれ、「出ました」と言ったら、解雇理由を聞いてもらえる状況ではないのです。解雇された人は解雇理由を、怒りをもって話したくてたまらないのに、「それを問題にしたいのだったら裁判でやればいい」と言われてしまい、それ以上前に進めない状況でした。
  その後、だんだん若い非正規労働者が増えてきました。私たちの世代(50代)は、一般に、若者の非正規労働者について、「非正規労働をやっている人は、やる気がないから、能力がないから、あんな働き方になってしまうんだ」という見方を強く持っていました。しかし、私自身が相談の中で教えられたのは、非正規労働者は雇用形態がいろいろであるけれども、1人ひとりの仕事に対する意欲、プライドは雇用形態に関係ないということです。非正規労働者のことを本当にわかってほしいという気持ちで、私はこれまで話しをしてきました。いま、非正規労働の問題というのは、非正規労働者に限った問題ではなくて、労働者全体の問題になっているということを皆さんに言いたい。
  皆さんはこれから卒業して、職場に入って働くと思いますが、1人ひとりの働き方の問題として、非正規の問題があるということをぜひ知ってほしい。非正規という働き方が、非人間的な働き方に残念ながらなってしまっています。そのことに対して1人ひとりが問題意識を持って、こんな働き方でよいのだろうかと考え、その働き方を改善することに挑戦してほしいという思いで話をします。

(2)正規労働者と非正規労働者
  非正規労働者と正規労働者の区別は何でしょうか。正規労働者は、労働契約を結んでいる所と働いている所が同じ所という意味で直接雇用です。労働時間はフルタイム、労働基準法によれば通常は1日8時間、1週間で40時間です。そして、労働契約期間がなく、賃金が月給制で、社会保険や雇用保険に加入しています。このような条件を充たしている労働者を正規労働者といいます。
  正規労働者の条件が1つでも欠けている労働者を非正規労働者といいます。非正規労働者の割合は、雇用労働者の3人に1人を占め、雇用労働者全体の32.6%です。特に女性の場合は、全体の52.5%、2人に1人以上です。
  最近の非正規労働者の特徴は、かなり若い層、15歳から34歳という層で急増していることです。夫も妻も、非正規労働者同士、例えば妻が派遣労働者、夫がフリーターというようなカップルもかなりいます。民間企業や学校、役所、どこの職場にも非正規労働者はいます。 
  どの家庭においても子どもが2人いれば1人が非正規で働いていることになります。我が家も子どもが2人います。上が33歳の娘で公務員、下の息子は23で、今年から大学に行き始めましたが、この5年近くアルバイトをしていました。いまも午前中、大学に行き、午後はアルバイトという生活で、コンビニエンス・ストアで働いています。もう5年も働いていますから、新しく入ってくるパートやアルバイトに仕事を教える側です。息子は、「仕事はマニュアル通りに教えることができるけれども、1人ひとりの仕事に対する意欲が違う。意欲をもっと持ってほしい。どうしたら、意欲を平均化することができるのか」と私に聞いてきます。私は「時給850円のお前がそこまで考える必要はないじゃないの?」とつい言ってしまいます。時給850円にこだわってほしいから言ってしまいます。親掛かりの生活をし、生活実感がないからしょうがないと思いつつ、現実に対して目をそらさないでほしいと思っているので、時々息子に対して、「これから好きな人ができるかも知れないけれども、その時給で結婚できると思う?」と意地悪く言っています。
  皆さんは卒業したら、「正規になる。だから非正規は自分とは関係ない」という気持ちがあるかもしれません。自分だけは大丈夫というのはこれまでの私の経験から言えば、現実的ではありません。大丈夫と思って正規で働き始めたとしても、女性の場合は出産や育児を機に正規で働いていた職を辞めざるを得ない。実際に4分の3の人が辞めています。再就職は非正規、パートや派遣しかないというのが現実です。男性も大丈夫だと思ってきたのに、リストラや能力がないということで簡単に切り捨てられています。ぜひ皆さんも自分が直面するかも知れない現実として、向き合ってください。

2.非正規労働者の問題
(1)低賃金
  非正規労働の大きな問題は、特にパート労働に典型的に現れていますが、賃金がほんとうに低いのです。全国ユニオンは春闘のときに「誰でもどこでも時給1200円以上」を掲げて、街頭で宣伝をします。パートやフリーターの人が話しかけてきます。1200円という額を、夢のような額だと話しかけてくるんです。最近景気がよくなっているので、東京都内のパート・バイト募集では、時給1000円を見かけますが、地方に行ったら、1000円というのはとても届かない額です。1200円というのは、憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(生存権)に基づいて、東京都における最低保障額が、年収240万円と決められていますので、その240万円を単純に年間フルタイム働いたとして、2000時間で割った額です。それが1200円です。だから、私たちは最低の額だと思っています。働いている人はとてもその額に届かないので、夢のような額だと話しかけてきます。私たちは、あなたたちが得ている額が低すぎるのだということにこだわってほしい、怒りを持ってほしいと思って、毎年春闘のときに「誰でもどこでも時給1200円以上」をと、宣伝行動をしています。
  パートの賃金は、何年働いても上がりません。名古屋銀行で働いているパートさんは時給500円で入りました。25年間働いて、なんと上がったのは370円。いま870円です。仕事内容は男性の係長並みです。彼女は、仕事は1人前、扱いは半人前だと怒りを持っています。いまユニオンに相談に来るパート、アルバイトの人は、10年も20年も働いても、時給が1000円に届かない。何年働いても上がらない。さらに、入ってくる正社員の人に仕事を教えている。正社員の一時金のほうが何十年も働いて、そして仕事を教えた自分たちよりも高い。そのことに、何なんだろうといっぱい不満を持っています。
  いま、正社員になりたいという声がとても強くなっています。パート労働法が改正されて、「正社員的パート」については「差別禁止」という文言が法律の中に入りました。この正社員的パートというのはどういうパートなのか。比べる正社員と仕事の中身や責任の重さが同じ、労働時間もほとんど同じ、契約期間の有無が同じ、人材活用の仕組み・運用(異動の幅、頻度)が同じ。いわば正社員とまったく同じなのに、パートという雇用形態で働いている人たち、この人たちについてのみ差別禁止が法律の中に入りました。約1200万人のパート労働者の約1%がその対象となるであろうと言われています。この1%という数字について、皆さんはどう思いますか。私たちはすべてのパート労働者の均等待遇を求めて審議会の中でも議論をしてきましたし、いろんなところで運動をしてきました。ようやく1%の人のみが差別禁止の対象となりましたが、99%のパート労働者は、引き続き賃金が低くて当たり前とされました。このまま、低賃金労働者として固定化されることが危惧されます。

(2)有期契約
  非正規労働者の多くの人たちが、有期労働契約で働いています。有期労働契約とは、6ヵ月や4ヵ月、3ヵ月、1ヵ月という契約期間を定めて働くことです。契約期間を定めて働く人たちが何を一番心配しているかといえば、次の更新をしてもらえるかどうかです。例えば、年次有給休暇(年休)を取りたいと思っても、年休をくださいといったら、権利を行使する人と思われたり、仕事のやり方について何か提案したりしたら、うるさい奴と思われ、次の更新をしてもらえるかどうか。職場の中で自由にものを言ったり、権利を行使することが「更新」にしばられ、できません。使用者は何回更新を繰り返しても、簡単に「契約満了」だと契約解除をしてきます。有期契約労働者は絶えず、更新の不安にさらされ、将来も展望できずにいます。

3.雇用の多様化
  雇用の多様化といわれます。この「多様化」という言葉を、政府は、働く側にいろんな働き方の選択肢ができたと、よい意味で使っておりますが、私は、いろいろな働き方はできたけれども、1つひとつの働き方は悪くなっている、劣化していると企業にとって扱いやすい働き方がいろいろ作られたにすぎないと思っています。

(1)派遣
  多様化の中で、「間接雇用」が広がりました。派遣がその典型で、雇用契約を結んでいる所と働いている所が異なる、雇用主と使用者が分離している働き方です。労働者から言えば、派遣元、派遣先、それぞれに上司がいる働き方で、企業にとってはとても扱いやすい働き方です。
  事務など一般業務派遣の仕事の代金は、1日平均1万5000円、派遣労働者の賃金は、1日1万円が平均といわれています。差額5000円が派遣元である派遣会社の収益になっています。しかし、派遣元の収益は労働者の側からは一切見えません。労働者の目に見えるものは、自分の賃金だけです。自分の賃金が仕事代金の何%にあたるのかわかりません。人材派遣協会は、派遣会社の収益は15%~20%が適正だと言っていますから、多くは30%以下であろうと思います。しかし、派遣会社が良心的でない場合は、いくらでもその割合を増やすことができる、つまり、派遣会社が収益を取りたいだけ取ることができる仕組みです。
  いまの派遣法の枠組みには、派遣労働者は1日8時間働いている派遣先とは雇用関係がないとなっています。派遣労働者がどこで一番トラブルに遭いやすいかといえば、当然8時間働いている派遣先です。派遣契約の解除やパワハラ、セクハラなどという問題が起きます。派遣労働者からトラブルの相談があった時、派遣先にもユニオンは団体交渉を申し入れますが、派遣先は「雇用関係がありませんので、団体交渉を受ける義務はありません」と簡単に言ってきます。派遣元と派遣先の関係は客である派遣先が当然強いので、派遣元は派遣先にものは言えません。こういう仕組みになっているので、派遣先、派遣元の三角雇用(レジュメの図4)は企業にとってのみ使い勝手がよいのです。
  若い人は、パートより派遣を選択する人が多い。レジュメの図8に労働市場の規制緩和の流れをいれてあります。1985年に「労働者派遣事業法」(派遣法)が制定されました。当初派遣業務は専門業務の13業務に限定されていました。そもそも派遣は、専門的な技術・知識を活かして仕事にするという働き方でした。当時、技術や知識があれば、派遣会社を選べました。先日、テレビで篠原涼子さん主演の「ハケンの品格」というドラマがありました。主人公は特Aのスーパー派遣で、仕事ができることを武器とし、会社にも正社員にもものを言う、言える存在でした。この主人公ほどではありませんが、当初は自分の技術や知識があれば、仕事を選べる、賃金もパートに比べたら400円から600円高い。派遣で働き、外国旅行に行って、また帰って働く夢のある働き方としてスタートしました。
  ところが、いま、派遣は、企業にとってのみ扱いやすい働き方になってしまいました。労働者派遣の対象業務は、当初の13業務から96年に26業務に拡大、99年に原則自由化され、専門業務派遣だけではなくて、臨時的・一時的派遣として一般業務も可能となりました。この時に派遣労働者の時給が一気に下がりました。それまでは専門業務に対しての賃金でしたが、専門性がどんどんうすめられてしまえば、当然賃金は低くなります。99年を境に、約400円近い賃金ダウンが進みました。2003年には、派遣期間の制限が緩和されました。専門業務派遣については、それまでの3年の制限がなくなり、臨時的・一時的派遣については1年の制限が原則1年・3年までと延長されました。規制緩和の流れの中で派遣労働者の労働条件は悪化しました。時給が限りなくパート時給に近づいただけでなく、契約期間が細切れ化し雇用が非常に不安定です。6ヵ月以下の契約期間を結んでいる人が、派遣の中では85%もいます。なかには1ヵ月とか、日々契約の人もいます。
  派遣先が派遣労働者を選ぶことは法律的には禁止されています。しかし、派遣先は人を選びたい。何を基準に選ぶのかといったら、一番露骨なのは容姿と年齢です。それから仕事ができるか、できないか、人柄、そういった基準で選びたいのです。若い人が夢を持って働き始めた派遣が、なんと暗黙の35歳定年といわれて、35歳を過ぎると、派遣の紹介が減ってしまうのが現状です。

(2)スポット派遣
  今朝の朝日新聞の1面トップ記事見ましたか。「グッドウィル」という派遣会社が「スポット派遣」の労働者の給与から「データ装備費」を天引きしていたことに関して、2年間遡って返還するという記事です。データ装備費の返還については、全国ユニオン傘下の「派遣ユニオン」が、「グッドウィルユニオン」を立ち上げ、交渉してきました。その結果、天引きしていたデータ装備費を派遣労働者に返還することを正式に認めさせました。
  一日単位で派遣先に派遣されるスポット派遣は、「ハケンの品格」が問われる働き方です。まさに日々派遣で、携帯電話番号やメールアドレスを登録しておくと、前の日に連絡があって「やります」と返事をすると、そこで契約が成立します。次の日の朝、集合場所に集まって、就労先に行って、8時間働き、解散場所で解散です。拘束時間がなんと12時間から13時間で、日給が6000円から7000円が関東周辺の相場です。この日給を12時間や13時間で割ったときに、時給がいくらになりますか。さらに、この6000円や7000円の中から、データ装備費や業務管理費など不透明な名目で、200円とか300円が天引きされます。仕事先で作業服が必要だと作業服を買わされます。そういった諸々を引いて時給換算すると、なんと500円か600円になってしまいます。いま東京都の最低賃金は719円です。その最低賃金にすら届かない時給で、スポット派遣という働き方が広がっています。
  データ装備費200円、たった200円じゃないかと思われるかもしれません。しかし、グッドウィルではスポット派遣で毎日3万人稼働しています。3万人分を掛けてみて下さい。なんと1日600万円が何も言わずに入ってくるのです。グッドウィルの本社はどこにあると思いますか。六本木のミッドタウンにあります。その前は六本木ヒルズでした。私は団体交渉の申し入れに行くと、これこそまさに格差の象徴であるといつも思います。勝ち組みを支えているのは、明日の生活のため、明日の仕事があればよいというワーキングプアーです。
  この働き方は、就労場所に行って、「はい、やって下さい」です。仕事に対してきちんとした研修とかはないです。ある女性の人は、ラインに入れられて、両手で化粧品を4つの小瓶に詰める仕事だったが、両手を使ってできなくて、ついにベルトコンベアーを止めてしまったそうです。そうしたら、「あなたにこの仕事はできません。次は、こっちの仕事」とまわされて、自分は仕事ができないのだと、どんどん気持ちが落ち込んでいったと言っていました。それだけではなくて、安全が無視されていて、怪我をしても救急車を呼んでもらえなかった、寝かされていた、誰が責任取ってくれるのかという相談が舞い込んできています。その意味で、本当にこの働き方は「品格」がないと思います。このスポット派遣のように派遣という働き方が企業にとって使い勝手がよいということで、いろんな形に変形されて広がっています。

(3)偽装請負
  この間、朝日新聞が繰り返し取り上げていた「偽装請負」の問題も皆さん、ご存知だと思います。これも派遣の変型です。いま、キャノンに対して、請負労働者が直接雇用を求めて闘っています。この人たちはキャノンのレンズを加工したり、磨いたりという仕事をしています。キャノンのレンズは世界で一番性能がよいと言われています。その人たちが、キャノンに対して、「自分たちは偽装請負を暴きたいわけではない。世界一のレンズを作っている自分たちの技術は、マニュアルでできるものではない。働いて、経験を積んで、その中で身についた技術や勘でできる仕事です。こういう仕事に誇りを持っているし、これからも誇りを持って仕事をしていきたい。そうすることによって会社に貢献もできるので、雇用を安定させて下さい」と、直接雇用を求めて、ユニオンを立ち上げて闘っています。

4.全労働者の問題に
  働き方が多様化し、1つひとつの雇用の質が劣化しています。人件費がかからず、いつでも簡単に雇用調整でき、雇用責任もない、こういう扱いやすい非正規労働者は仕事ができないかと言えば、正規労働者と同じように仕事ができます。だから、企業は正規労働者と非正規労働者の入れ替えを急速に進めてきています。

(1)正規労働者の働き方 ~超長時間労働
  こうした状況の中で、正規労働者の働き方は、非正規労働者と比べて、よい働き方になっているかと言えば、全然よくなっていません。質が違いますが、正規労働者の働き方もまさに非人間的な働き方として広がっています。正規労働者と非正規労働者の間には格差があります。賃金格差は100対50と言われています。この格差は何をもって合理的とするのでしょう。正規労働者が自分たちはパートとは違う、派遣とは違うと言ったときに何をもって違うのかと言えば、拘束性が高いということを挙げるでしょう。拘束性は、長時間労働、異動の幅、頻度で表されます。この拘束性が正規労働にはあるが、非正規労働にはない、というのです。しかし、労働時間でいえば、フルタイム・パートがいます。フルタイム・パートは週40時間、さらに残業も行っているパートです。派遣は40時間当たり前、残業できませんと言ったら、仕事の紹介は減ってしまいます。
  労働時間で比べたら、正規労働者は、超長時間働いて当たり前になってしまいます。ユニオンに相談に来る正規労働者の多くが朝の6時から夜の11時、12時まで働かされています。残業代も出ずに働き続けて、体か、心かが病気になってしまい、「病気です」と会社に言ったとたんに、「明日からあなた来なくていいよ」と言われてしまい、ユニオンに相談に来る人がたくさんいます。
  拘束性を格差の合理的理由とすると、正社員は、パートや派遣と比べて2倍以上働きなさい、労働時間も責任の重さも含めて、すべての面において2倍働きなさいと会社から求められても何もいえなくなります。正社員が、もし「パートや派遣の人たちとは違う」と言うとしたら、過重な働き方を自分で選択することになっていきます。

(2)夢ある働き方
  会社は、若い人に「夢ある働き方を」と言います。私たちも「希望ある働き方」「夢ある働き方」と言います。あるスポット派遣大手の社長さんも「夢」をキーワードに会社を起こしました。ここで働いている正規の内勤の人は、男性ですが、6ヵ月で20キロも体重が減ったと言っています。内勤者は、派遣先から「明日○人必要」と言われたときに、スポット派遣に登録している人たちに連絡して人を確保する仕事をしています。確保できるまで1日の仕事は終わらず、夜中の2時3時まで、仕事をしています。それでも人が埋まらないときには、内勤者はそこに入って仕事をしています。これが夢ある働き方なのでしょうか。
  ユニオンに相談に来た30代の男性は有名なお豆腐屋さんのチェーン店で調理師として働き、過労死寸前の状態でした。彼は、同期の男性が自殺し、怖くなり、労働時間を全部記録していたので、会社に対して、「この働き方は問題です」と、自分で会社に問題提起をしました。会社から「あなたはお店を持ちたいという夢をもって働いていたのでしょう。その夢を果たすためには、いまの働き方しかありません。8時間労働を選びたければ工場に行きなさい。いまの働き方で8時間労働を選びたければ契約社員になりなさい」と言われました。夢を取るのか、8時間労働を取るのか迫られてしまって、彼はどうしていいかわからなくてユニオンに相談に来ました。
  若い人たちは、正社員という働き方で、がんじがらめにされていると思います。つい2、3日前に「辞めたいのだけど辞められない」と相談に来た男性がいました。「あまりにも仕事がきつすぎて、辞めたい。仕事のミスが多くて、そのミスを一緒に働いているパートやアルバイトの人たちから指摘されて、自分の立つ瀬がありません。きついから辞めたい。だけど、辞めたいということを会社に言えない。もし言ったら、「何を言っているんだ。もっと働け」と言われるのは目に見えている。父や母にも言えません。「せっかく正社員になったのに」と言われる。自分のなかでも正社員をこれで辞めたら、次は正社員の仕事はないなと思ってしまう。だから、どうしていいかわからない」という相談です。辞めたいときに、会社が辞めさせてくれないという相談と思って受けていたら、そうではなくて、自分のなかで正社員にしばられて、がんじがらめになってしまっていたのです。

(3)働き方を考える
  私は、労働組合がこれから考えなければいけない問題として、働き方の問題があると思います。いまは、正規の仕事を選ぶのか、非正規の仕事を選ぶのかという選択肢しかなくなっています。しかし、どちらの働き方も非人間的で選びたくない、このような働き方をしたくないと思っています。
  人間的な働き方をどう作っていくのかをいまみんなで考えなければいけないと思います。それが労働組合の課題です。ILOは「ディーセントワーク」を提言しました。人間らしい働き方を、どう労働組合が課題にできるか、大きなテーマです。みんなでこの課題に取り組まないと、働く人たちの気持ちが前に向きません。特に非正規の人たちは、がんばっても報われない働き方になっているので、問題に対して、我慢する、やめる、あきらめる、こういう形でしか対応できなくなっています。そして、同じ労働者同士で足を引っ張り合い、お互いに労働者として、同じ人間として助け合うことができなくなっています。横の連帯が作れなくなってしまっています。
  労働組合は、「均等待遇」「同じ仕事をすれば同じ賃金」をキーワードとしてもう一度働き方の見直すべきだと思います。

(4)労働組合の存在意義が問われる
  いま、すごく労働組合が叩かれています。労働組合の組織率は20%を切ってしまいました。80%は組織されていない労働者です。いろんな審議会の場で経営者から「20%しかいない労働組合は労働者を代表しているのですか」と言われます。各職場レベルで見ると、労働組合があっても従業員の過半数を組織できなくなっています。時間外労使協定(三六協定)を締結する場合にも、過半数を組織できていないが故に企業に相手にされなく、労働組合としての健全な活動ができなくなっています。経営者たちは、「これからは能力、意欲の時代である。個人責任の時代である」と言い切っていますので、労働組合の存在は飛んでいってしまいます。労働組合の存在意義が問われています。
  私は、労働組合は労働組合として存在しなければいけないと思います。そのために労働組合の数は多いほうがよいです。しかし、いまこの非正規化の流れの中で問われている労働組合は、数も大事ですが、問われているのは質だと思います。非正規労働者の問題を同じ人、同じ労働者、問題としてとらえることができる労働組合、労働者が困っている問題があれば、対応する、抵抗していく、改善に取り組む、そういう労働組合がいま求められています。
  私たちのユニオンは、AさんBさんの問題について相談を受けて、会社と交渉して解決をする、そういった活動をくり返してきました。私も20年近くやってくると、個別問題の解決はできると自信を持って言えます。でも、AさんBさんが派遣である、パートであるが故の問題については、構造的問題なので個別の労働組合の取り組みでは解決できません。労働組合や、時には政党とも力を合わせ、知恵を寄せ合って解決を図ることが求められています。そのために私たちは全国ユニオンを2002年に結成し、連合に加盟しました。そして、連合とともに、労働法の規制緩和反対や均等待遇の立法化の取り組みを進めています。全国ユニオン独自でも問題解決をめざし、厚生労働省と交渉をする、人材派遣協会と懇談会を行うなど、取組んでいます。
  私たちのユニオンは、自分たちが大きな力のある労働組合だとは思っていません。力がない、小さいユニオンであっても、目の前に起きている問題について、目をそらしてはいけないと思っています。非正規労働の問題は全労働者の問題である、社会的問題であるということをどれだけ発信していけるかが、いま私たちユニオンに課せられた課題です。
  これから皆さんも1人の人間として、そして1人の労働者として、生活し、働き続けるであろうと思います。自分らしく生きる、自分らしく働くことができるためには、どうしたらいいのかについて考え、こだわり、そしてできる行動をしていっていただきたいと、最後に言って終わります。どうもありがとうございました。

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