公務労働の現状と公共サービスの役割-公務関係労組の取り組み-
1. はじめに
みなさん、こんにちは。「公務労働の現状と公共サービスの役割」というテーマをいただき、お話いたします全日本自治団体労働組合(以下、自治労とする)役員の榎本朋子と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。連合寄付講座では、毎週「働くということ」について各講師から講義を受けていると思います。本日は主に、公務員についてと、公務の仕事・役割とは何なのか、労働組合が公務員とどのように関わり合っているのかをお話できればと思います。
本日のメニューは、まずは自治労という団体について。次に、私たちが身近に活用している公共サービスや社会保障制度は何かについて。そして、公共サービスを提供する労働者や職場の現状と課題についてお話しします。最後に、働くということの意味合いや自治労が目指すもの、労働組合の社会的意義についてお話できればと思います。
2. 自己紹介と自治労、連合について
私は新潟県新潟市出身で、新潟市役所の臨時職員(臨時公務員)として勤めていました。その後、縁あって新潟県の自治労に入り、現在は47都道府県の自治労を取りまとめる自治労本部で役員を担当しています。「自治労」という言葉を初めて聞かれた方は多いと思いますが、北海道から沖縄県までの全47都道府県の県庁、府庁、道庁、そして、市役所や町役場、村役場、一部事務組合等の地方自治体で働く職員のほか、公社(地方公共団体が公共用地の買収・造成、農地開発、有料道路経営などのため財政援助をして設立する法人)や事業団、福祉・医療、公共交通等で働く民間労働者、そして臨時・非常勤等職員、民間の中小企業労働者等も入っている労働組合が自治労です。労働組合の結成は1954年で、現在では全国で2636組合、79万人の仲間、組合員が加入しています。組合員79万人は全員が自治労本部に所属する訳ではなく、まず、全国47都道府県にある、京都市職員労働組合や奈良市職員労働組合などの単位組合に加盟した後に、上部団体として、京都府本部や奈良県本部、大阪府本部といった県単位の組織に結集しています。その上に自治労本部があります。そして、あらゆる労働組合が全て集まっているのが「連合」という組織になります。例えば、電力総連や自動車総連といった産業毎の労働組合があり、それらが全て結集し、「働くことを軸とする安心社会の実現」という大きなスローガンのもとに、働くことの意義や労働環境を整えるために集まって、日々活動しています。
3. 公務・公共サービスと社会保障について
3-1 身近な公共サービス
ここからが今日の本題になります。そもそも、「公共サービス」ってなかなか聞かない言葉ですよね。例えば、教育や医療、保育、介護、水道、防災、公共交通機関、司法といったものが全て公共サービスになります。最近では、コロナ禍でエッセンシャルワーカーという言葉がよく聞かれましたが、それまでは聞いたことがない方が多かったと思います。これまであまり意識しなかったかもしれませんが、公共サービスは皆さんにとって、生まれた時からずっと関わり合っているサービスと言えます。
3-2 社会保障制度
もう一つ、社会保障制度があります。「ゆりかごから墓場まで」という有名なスローガンがありますが、これは第二次世界大戦後のイギリスにおける社会福祉政策を指すものです。新しい命が宿った時から公共サービスに支えられており、健康診査や医療、予防接種、保育園、放課後児童クラブなどが利用できます。アメリカでは、公的医療保険への加入が任意のため、保険に入っていない人が病院で治療を受けると多額のお金を支払うことになりますが、日本では健康保険料を支払うことで、治療費の自己負担が3割負担で済むという社会保障制度が充実しているのです。公共サービスを充実させることで、日本に住む人が生まれてから何の心配もなく、社会保障制度を切れ目なく提供しようとしているのが公務・公共サービスです。
他にも老齢年金や遺族年金、障害年金等もあり、社会全体、あるいは公的な責任・仕組みのもとで、人を全体で支えていくのが社会保障制度です。社会保障制度は、生活をする上で何かあった時の「セーフティーネット」、「所得再分配」、「リスク分散」、「社会の安定および経済の安定・成長の確保」機能があります。社会保障制度の目的は、「所得保障」「医療保障」「社会福祉」「公衆衛生」があります。
3-3 日本の人口推移
社会保障制度のお話をした理由は、日本の人口推移についてお伝えしたかったからです。日本の生産年齢人口(15歳~64歳)は、2055年を過ぎたあたりで、50.9%と半分になってしまいます。他方、高齢化率(65歳以上)は、4割に届く状況になっています。つまり、日本全体の人口は減る一方で、働く人も少なくなっていく事になり、所得を得て、税・社会保険料を納め、社会全体を支える仕組みが徐々に上手く機能しなくなっていくことを意味します。合計特殊出生率も1.35を前提とした場合、一生の間に女性が生む子どもが2人未満だと人口は増えていきません。人口ピラミッドの変化を確認すれば、1990年代は20歳から64歳の5人で、65歳以上の1人を支えていましたが、2012年には一気に2.4人で1人を、2025年には1.8人で1人を、2060年には、1.2人で1人を支えるということが推計されています。
4. 公務・公共サービス労働者の職場における現状と課題
4-1 聖域なき構造改革
こうした日本の実情を踏まえて、公務・公共サービスとして何をしていくのか、という社会課題があります。公務・公共サービスの現状と課題として、2001年には、国の「聖域なき構造改革」を通じて、補助金削減や税源移譲を含む税源配分、地方交付税の見直しなどの改革が行われました。
具体的には、地方ができることは地方で、民間ができることは民間で行うといった、「小さな政府論」が確立したのです。改革の結果として、公務(役所)が行っていた仕事を民間が担うことにより、市・町・村の住民に対して、十分な公務・公共サービスが行えなくなりました。なぜかというと、お金がある自治体はあらゆる政策が行えますが、国と地方、各地域間の「格差」が広がり、日本に住む人誰もが平等なサービスを受けられるはずが、住んでいる所で受けられる社会サービスが全く異なるようになり、社会的なセーフティーネット機能が低下しています。
4-2 市町村合併に伴う自治体の減少
皆さんの住んでいる町で合併を経験されたことはありますか?2000年代初めに大きな市町村の合併運動がありました。1990年3月には、約3,200余りの自治体(市町村)がありましたが、昨年末(2020年3月)には、約1,700の自治体という、約半分強の自治体数になってしまいました。つまり、A町とB町とC町を一つの自治体にして、D町をつくる政策です。市町村の面積が大きくなった分、住民と職員の関係性の希薄化、住民ニーズが拾えない問題が発生してしまいました。
4-3 地方公務員の減少
地方公務員数の減少も一つの問題としてあります。1994年には、約328万人いた全国の公務員数が、2020年には約276万人、つまり全体で52万人が減少となりました。公務員が減少することにより、社会全体の公務・公共サービスはどうなるでしょうか。1984年における非正規職員数は全体のうちの15.3%でしたが、2010年には非正規職員の割合が34.4%と増加し、その後もどんどん上昇しています。公務員における正規職員は減少していますが、公共サービスの仕事は当然ありますので、その代わりに、臨時・非常勤職員が増加しているのです。これは公務員に限らず、民間企業でも同じ状況です。
4-4 震災・災害現象
そして、突発的な震災・災害現象への対応も課題の1つです。川の氾濫や、大地震の発生など、災害の予想は出来ません。いざ、災害が起きたときにどうするのかと言えば、消防や警察、自衛隊が助けてくれますが、自治体の役場の職員も自分の職場に駆けつけて、大事なみなさんの命を守り、出来るだけ今までと同じような公共サービスを提供できるよう努める使命があります。しかし、人員の圧倒的な削減により、各自が疲弊しており、十分な公共サービスが提供できていません。慢性的な人員不足と長時間労働の増加によるメンタル疾患、長期の病気、早めの離職、あってはならない過労死に繋がる恐れもあります。公務員の仕事は楽そうに見えるかもしれませんが、実は割と住民からの批判を受けやすい仕事でもあります。しかし、現場は反論できない事情も抱えています。なおかつ、民間活力の導入から公的サービスの産業化に伴って、効率化を追求しすぎるあまり、みなさんに対するしわ寄せが起こってしまっても、それに対して十分に対応することができない。そのような事情を抱えています。
5. 働くことに対する知識と私たちの課題、権利
5-1 働くことに対する知識の重要性
「働くということ」が今日のテーマではありますが、皆さんには、働くということに対する色々な「知識」を持っていて欲しいと思います。若い人に限らず、何の知識も知らない人が働くと、会社に入って、経営者に言われたままになり、明らかに労働基準法違反にも関わらず、不当な理由で解雇させられた人も多いです。雇う人と働く人の契約関係の下で成り立っていますが、私たちは「雇ってもらっている」、「採用してもらっている」という感覚から、対等にはならないと思うからです。しかし、たとえ遅刻を一度したからといって解雇してよいとされる法律は一切ありませんし、本来はあり得ません。知識を持って、社会に出て行くことが重要です。労働基準法2条では、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」ときっちり定められているように、日本には素晴らしい法律があるのです。
5-2 働くことに対する私たちの課題と権利
しかし、私たちは知識が無かったり、一人だと声が出しにくかったりするという課題があります。経営者が自分より年上で、長く会社を続けていれば、労働者自身に知識がなければ、おかしいと言えないこともあります。そのため、私たちは、知識を身に着けることと、仲間を作ることが大事になってきます。一人ではなく、複数人で仲間を作って、きちんと対等に物事を言えるようにする。これが労働組合です。労働者が主体となって、自主的に労働条件の維持改善や経済的地位の向上を目的として組織する、自分たちの権利を守るんだという意識で作ることができるのが労働組合です。労働基本権でしっかり守られていますので、労働者には法律のことも考えてきちんと働いてほしいと思いますし、そのためには、想いを同じくする人で集まって、一緒に声を上げていくことが大切です。日本では、憲法第28条(勤労者の団結権)で、団結権・団体交渉権・団体行動権(ストライキ)という労働三権が保障されています。
6. 公務員の働き方と人事院勧告制度、自治労のサポート
6-1 公務員にとっての権利
しかし、公務員には労働三権のうち、半分しか認められていません。団結権(組合をつくる権利)はありますが、団体行動権という争議権(ストライキ)は、公務員には一切認められていないのです。また、団体交渉権についても、調理師や看護師、水道関係者は団体交渉を行い、団体協約を締結する権利が認められていますが、保育士や役所事務員や福祉の方々は、たとえ交渉して協約を締結しても、その通りにいかないこともあります。その理由をご説明します。日本国憲法第15条には「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」。そして、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と記述されています。公務という特殊性を持つため、民間とは異なる内容となっています。
6-2 人事院勧告(給与勧告)の制度
しかし、このような制度下では、公務員はあまりに不遇です。その代わりの措置として、公務員には人事院や人事委員会が設置され、給与を勧告する制度を作っています。民間企業では、今年の賃金要求を直接行って合意しますが、公務の場合は交渉の後の権利がなく、労使交渉で合意した内容を条例として議会で承認を得なければならない仕組みがあります。そこで、公務では人事院勧告という給与勧告する制度を作りました。民間給与と国家公務員給与における、毎年4月分給与と毎年の夏と冬のボーナスの差額を比較して、その差を埋めることを基本に給与を支払うことになります。そのため、公務員の場合は、基本的には民間に準拠した給与であり、そもそも自分たちの労使交渉の中では給与を定めることができない状態なのです。
6-3 自治労による労働者のサポート
自治労は、組合員の働くことをサポートする、暮らしをサポートする、仲間作りをサポートする、社会活動をサポートするという4つの活動に従事しています。具体的には、就職したからといって、その先も安心できるわけではないので、定年まで健康で安心して働ける環境を作ったり、雇用を守ったり、処遇や賃金を良くする、あるいは、残業を減らす活動を通じて、働きやすい職場環境作りをサポートしています。そして、一人ひとりが安心して働ける、生活できる職場作りが必要だと考えています。他にも、暮らしのサポートや組合員の中の仲間作りのサポートが重要になります。
自治労は、社会活動のサポートとして自分たちが住む社会をより良いものにしたいという大きな課題に取り組んでおり、労働組合としての社会的責任を果たしていこうと、様々な活動に取り組んでいます。
また、私たちは、やり甲斐のある仕事をする話し合いの場、意見を言える場を作ることが大切だと考えています。色々な問題やおかしいことをそのままにしていれば、「辞めようかな」「職場が辛いな」といった不安が生まれます。「おかしいことをおかしいままにしない」ことを念頭に置いて、おかしいことはおかしいと声を上げられる職場作りを支援する、それが、労働組合の役割であると考えています。
7. おわりに
最後に、皆が社会の中で色々なサービスを受けながら暮らしています。その中で、公共サービスを守ることは私たちの使命であり、公共サービスを守っている労働者を守る活動が自治労の役割となっています。より良い公共サービスを皆さんに提供するためには、「労働条件が良くなければ、より良い仕事は生まれないのではないか」と考えています。
例えば、保育士さんの仕事において、残業が多く、持ち帰り仕事も多い、そんな辛い状態が続けば、子どもに対して笑顔を提供することは出来ません。看護師さんも、自分が辛くて眠いのに、患者をサポートすることはできません。より良い仕事は、より良い労働条件から生まれることを皆さんと共有できればと思います。長時間ご清聴頂き、ありがとうございました。
以 上
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