同志社大学「連合寄付講座」

2020年度「働くということ-現代の労働組合」

第5回

東京電力労働組合の経営協議会について

ゲストスピーカー:竹詰 仁 東京電力労働組合 中央執行委員長

1.自己紹介

 同志社大学の学生のみなさん、こんにちは。東京電力労働組合(以下、東電労組)の竹詰仁と申します。
 今日は、労働組合のチェック機能とは何か、そして、経営チェック機能と経営協議会の関係とは何か、あるいは経営協議会とはそもそも何かについてお話しします。
講義に入る前に簡単に自己紹介をさせてください。私は1991年、慶応義塾大学・経済学部を卒業しました。その後、同じく1991年、東京電力株式会社に入社しました。最初の5年間は現場に配属され、電気料金の計算や電気申し込みの営業をしていました。その後、1997年に東京電力の本社(当時は本店)に配属になりました。本店企画部・調査課では、主に需要想定と電力の自由化への対応を行いました。需要想定とは、例えば1年後や2年後に電力がどういった使われ方をしていくのかを想定し、東京電力の設備投資計画の参考資料を作ることです。また、当時は電力の自由化が始まり、東京電力はいかなる経営を行うべきか、自由化はどういうシステムであるべきかに関する政策を取り纏める担当をしていました。2001年には東京電力労働組合の役員に選ばれ、そこから約20年間、専従役員を務めています。2003年には産業別労働組合である全国電力総連に派遣、2005年には外務省へ出向し、在タイ日本国大使館にて当時スマトラ島の大地震に伴う被災地の復興支援、難民支援に係るODAを担当しました。3年間の日本大使館勤務を終え、その後連合本部に派遣、そして国際局でも勤務しました。2015年以降は再び東京電力に戻り、2019年5月からは東電労組の中央執行委員長を務めています。

2.東京電力労働組合の概要と組合組織の構成

 東電労組の概要について紹介します。東電労組は、1956年(昭和31年)6月に結成しました。現在の組合員は約26,700人、特別管理職を含めた東京電力の社員は約32,800人です。労使によるユニオンショップ協定(職場において労働者が必ず労働組合に加入しなければならないという制度)を1956年に締結し、特別管理職と労使覚書による非組合員を除いて、東京電力の従業員全てが組合に加入することになっています。
 労働組合の組織構成は本部(主要三役である、中央執行委員長と2人の副中央執行委員長、中央書記長の計4名)、14の地区本部、73の支部があります。組合の専従役員は私を含め本部に22名、地区本部に54名、他に24名を上部団体である連合や電力総連に派遣しています。支部の役員は基本的には非専従(通常の会社業務を行いながら組合活動を行っている)です。

3.問題提起

 それではここで、本日の問題提起をしたいと思います。1つ目、「組合員、労働者は経営層に全て従わなければならないのか?」。すべてに従う必要はないと思っています。2つめ、「経営層は会社経営を間違えることはないのか?」。決してそんなことはないと思います。時には間違えることもあるかもしれません。「経営層は常に従業員や組合員の家族の味方なのか?」。経営層と労働者は、時には対立するかもしれません。「経営層は現場のことを常に把握しているのか?」。経営層は現場のことを熟知する必要がありますが、経営者より労働組合の方がよく把握していることもあります。

 こうした問題提起を踏まえ、東電労組は経営に対してどのようにチェック機能を果たしているのか。チェック機能の一つである経営協議会について、順を追って説明していきます。

4.労働三権について

 すでにこれまでの授業で他の講師の方からお話があったかと思いますが、労働三権について少し触れたいと思います。みなさんご存じの通り、「団体権」「団体交渉権」「団体行動権」は憲法で保障されています。東電労組でも、労働者が団結し賃金や労働条件、労働協約の締結について、会社と団体交渉と行い、団体交渉権の行使を行っています。
 万が一、会社の考えが理解、納得でき得るものではない場合は、団体行動権(争議権)を行使することがありますが、東京電力等、電気の供給義務が課せられている事業者は、電気の供給に支障が出るような争議行為(ストライキ)が法律で規制されています。これについては、後ほどまた触れたいと思います。

5.経営協議会の概要と役割、経営側との関係性

5-1 労働協約
 ここからは労働協約についてお話しします。本日のメインテーマである経営協議会は、労働協約に基づいて行っているからです。東電労組が行っている団体交渉では、労働協約を定める、あるいは改定するためのものを少なくとも1年間に1回は行っています。この時、労働組合の執行委員長と東京電力の社長が労働協約に記名・捺印をして、締結・改定をしています。
 労働協約とは、労働組合と使用者、またはその団体と結ばれた労働条件等に関する取り決めのうち、労働組合法に則って締結されたものを呼びます。ご参考までに、労働協約に関する労働組合法の条文をご紹介します。

労働組合法 第14条 労働協約の効力の発生

 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。

 また、企業において、使用者と労働者が守るべき基準としての「就業規則」に対して、労働組合は「労働協約」を締結することによって、「就業規則」の内容とは 違った労働条件を決めることができます。東京電力と東電労組の労働協約は第1条から第86条まで定めています。一部、ご紹介します。

総則
(目的の確認)

第1条
  1. 電気事業は、需要家の福祉と産業の興隆に重大な関係を有しているので、公共に対する特別の義務と責任の忠実な履行によってその健全な発展を期し得るものである。
  2. したがって、会社、組合間の紛議は、常に公共に対する奉仕を無視することなく解決せられるよう相互間において努力すべきであることをここに会社と組合は確認する。
  3. かかる確認に基づいて、会社および組合は、対等の立場に立ち、相互の関係を合理的に調整し、従業員の労働条件の維持改善を図ると共に労働能率を増進し、これにより労使間の平和を持続し、会社、従業員および一般公共の互恵を高めることをもってこの協約締結の目的とする。

5-2 団体交渉と経営協議会の違い
 東電労組では、団体交渉と経営協議会の違いを次のように整理しています。団体交渉は主に、春季生活闘争に見られるような賃金や賞与、労働協約の締結及び改定など、労働条件や働き方を最終的に労使で合意するための法的な制度です。労使が妥協点を見つける、妥結することを目指す、ここがポイントです。一方、経営協議会は団体交渉に拠らず、業務の変更や組織の改編、安全対策など、職場や現場の中で様々な課題を労使で話しあう労使協議です。法律に定めは無く、労働協約で定められている制度です。労使が誠意をもって議論を尽くし、労使全員一致による結論を導きます。経営協議の結論は「意見一致」「理解」としています。
 団体交渉はYes or No、つまりは合意するかしないかということになりますが、一方、経営協議会は労使が議論を尽くし、労使の一致を目指すことで、経営に対するチェック機能の役割を果たすことが出来ます。

5-3 経営協議会の役割
 会社は、事業の運営を円滑にするため、会社および組合を代表する委員で構成する経営協議会を設置しています。では、経営協議会はどのようなことがあった時に協議されるのでしょうか。経営協議会では、①業務運営の企画改善に関する重要事項、②職制機構および従業員に関係ある諸規程の制定改廃に関する事項、③技能および能率の向上に関する事項、④福利厚生の運営に関する事項、⑤安全衛生の改善に対する事項、⑥事業の再編・統合等に関する重要事項について議論します。そして大切なのは、労使双方が了解している事項として相互信頼に基づき、労使双方が誠意と責任をもって協議を尽くす。ここが経営協議会の重要なポイントになります。

5-4 経営協議会の実績と実例
 東電労組は、数多くの経営協議会を実施している組合の一つでもあります。2016年度には286件、2017年度は296件、2018年度は311件、2019年度には213件の経営協議会を実施しました。300件近い経営協議会を行うということは、平均すると、ほぼ毎日実施していることになります。

 これが、私たちの経営のチェック機能であると考えています。経営協議会の実例についていくつかご説明します。

①東京電力のグループ経営計画について
 これは年度始に会社が策定するものです。向こう1年あるいは中長期的に、東京電力はどれくらいの人数で、どのような方法で、どのような組織として経営していくのか。そこで働く従業員にとってはとても大切なことです。会社側から説明を受け、私たち労働組合もしっかりと意見を述べます。

②東京電力グループの決算について
 会社の財務状況がどうなっているのか、会社はきちんと利益を得ているのか、どれくらい設備投資をおこなっているのか、負債はどれくらいあるのか等、これらを従業員が知ることは経営チェックの重要な役割でもあります。

③会社組織の改編について
 会社が組織を変える時には経営協議会に付すことになっています。なぜならば、改編によって働く場所も、環境も、そして働き方も変わる可能性があるからです。例えば、働く場所が変われば通勤の時間が変わります。これは生活に直結する大きな変化となります。組織の改編が会社にとっても従業員にとっても良い改編となるのか、あるいは現場の課題を解決する手段となるのかといった観点から協議をします。

④海外電力会社の新規出向について
 新たな会社に組合員を初めて出向させる際には、必ず経営協議をすることになっています。どのような会社に出向するのか、どのような環境、どのような労働条件で働くのか、1つずつ丁寧に労使で確認をしていきます。

⑤休祭日、夜間における当直体制の見直しについて
 電気は24時間止めることができませんので、私たちの職場は当直体制を敷いているところが多いです。この当直体制を見直す際、いくつの班で交代制にするのか、1つの班を何人にするのか、何時間働くのか、どのような仕事をするのか等、必ず経営協議会で話し合います。

⑥社宅制度の見直しについて
 社宅がなくなる、社宅が新しくできるということは、従業員にとって大きな変更です。あるいは、同じ社宅であっても年齢制限を設けたり、社宅の利用料の変更をしたりと、細かいところまで経営協議会で話し合います。
 いま挙げたことは一例に過ぎませんが、様々な事柄について、労働協約に基づき、会社と組合が経営協議会を行い、組合は経営チェックの役割を果たしています。

5-5 経営協議会と組合員との関係性
 また、経営協議会は組合役員が出席しますが、経営協議会で何が話し合われているのかを、組合員に対してどのような方法でフィードバックしているのか説明したいと思います。
 経営協議会において労使が意見一致した事項は、労使双方の機関で承認を得ます。そのためには、労使共同で議事録を作成しています。それぞれがお互いのことだけを記録として残して置くのでは、意見が一致したことになりません。共同で残すことに意義があります。東電労組本部の場合は、主に中央執行委員会において経営協議会の内容を報告し、承認を得ることにしています。中央執行委員会の資料は各地区本部や支部にも送付し、組合員にも公開しています。また、定期的に経営対策の担当者会議を開催し、組合役員への説明会も行っています。組合の機関誌、新聞、ホームページにも掲載しています。
 このように、組合の役員が協議したものは、組合員にも公開し、組合員自身が自分たちの職場がどのように変わるのか、どのような見直しになるのか、どのような働き方になるのかを知ることができます。労使協議の内容を組合員が知ることで、私たち組合役員に対して再度質問が出てきたり、協議を再開してほしいという要望を述べたりすることができるようになります。
 ここまでお話したことを振り返ると、経営協議会は、組合の立場からも企業運営を円滑に進めることができる1つの機能であるということがわかります。組合は、会社の方針や施策が、現場の実態と合致しているのか、また、会社提案内容が職場の課題改善に繋がるものであるか等のチェック機能を果たすことができます。職場が働きやすくなる、それは仕事が順調に流れることを意味します。生産性を上げるために課題提起し、できるだけ理解と納得をして仕事を進めることで、その成果の適正な配分を会社に求めることができます。私たちは会社からの申し出に対し、全てに反対しませんし、全てに賛成もしません。建設的な労使関係を築くことができていると思っています。経営協議会で意見を一致させることができないことが出てきた場合は、団体交渉に切り替えることもあります。年間300回の経営協議会を行うためには、それが行えるだけの組合の体制が必要となりますので、私たち東電労組本部では、経営対策局を設置し、常に5~6人の専従役員が経営協議会の対応をしています。

5-6 経営協議会を実施する背景と意義
 なぜ、東電労組では他の業種では類を見ない数や内容の経営協議会を開催しているのでしょうか?東京電力のような電気の供給義務が課せられている会社では、電気の供給に支障がでるようなストライキ・争議が規制されています。昭和28年8月にスト規制法というものが制定され、当時は3年間の時限立法であったものの、後に恒久法となり、現在に至ります。これは、電気事業および石炭鉱業のストライキを規制する法律です。

電気事業および石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律

 この法律は、電気事業(一般の需要に応じ電気を供給する事業又はこれに電気を供給することを主たる目的とする事業をいう。以下同じ。)および石炭鉱業の特殊性ならびに国民経済および国民の日常生活に対する重要性に鑑み、公共の福祉を養護するため、これらの事業について、争議行為の方法に関して必要な措置を定めるものとする。
  電気事業の事業主または電気事業に従事する者は、争議行為として、電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常な供給に直接に障害を生ぜしめる行為をしてはならない。

 東電労組では憲法で保障された団体行動権(争議権)がスト規制法により制限されており、団体交渉が仮に決裂した場合でも、組合の主張や要求を実現するためのストライキができないことになっています。だからこそ、経営協議会を充実することによって、労働組合によるチェック機能を果たしていくことが大変重要だと思っています。
 また、経営協議会はただ開催すれば良いものではありません。労働組合による経営のチェック機能を果たしていくためには、次の2つのことが重要になると思っています。それは1つ目に、組合役員の知識や訓練、経験。組合役員が会社のことを熟知し、経営に対する知識が十分でなければ良い協議はできません。協議に臨むにあたって、何がポイントで、何を訴え求めなければならないのかの訓練が必要です。組合役員みんなが新人では、職場の課題や意見をどのように、どの程度経営に反映させられるのかの見極め、判断ができません。ある程度の年数の経験が必要です。
 2つ目に、労使の信頼関係です。会社は、組合には黙って進めようとすれば、できてしまうかもしれません。会社は、十分な情報を組合に提示せずに説明するかもしれません。組合は、会社の提案が合理的であっても、嫌がらせのように反対するかもしれません。組合は、職場の状況や課題とは違うことを主張するかもしれません。こうしたことがあれば、経営協議会は本当の意味で成立しませんし、経営のチェック機能を果たすことはできません。会社は組合に対して、組合は会社に対して、双方の信頼があって初めて経営協議会は成り立ちます。労使の信頼関係が大変重要です。

6.まとめ

 経営のチェック機能と経営協議会の結びつきについて、みなさんご理解いただけたでしょうか。私たち東電労組では、この経営協議会を通じて労使対等の関係を築きながら、会社経営のチェック機能を果たしています。職場の意見や課題を把握し、それを経営層に投げかけ、より良い職場を、より良い会社をつくり、会社が発展することで、私たち労働者、そしてその家族も豊かな生活に繋がると考えています。本日はご清聴いただき誠にありがとうございました。

以 上

ページトップへ

戻る