時給制等で働く社員の処遇改善に向けたJP労組の取り組み
1.自己紹介
皆さんこんにちは。日本郵政グループ労働組合、書記次長の渡辺由美子と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。今日は時給制等で働く社員の処遇改善に向けたJP労組の取り組みについてお話しします。まずJP労組というネーミングについてご説明します。日本郵政グループ労働組合(以下、JP労組)が正式名称ですが、英文字でJapan Postal Group Unionの頭文字よりJP、労働組合を労組と訳し、略称としてJP労組と言います。
まず簡単に自己紹介をさせてください。私は1985年に埼玉県東大宮駅前郵便局に配属になりました。郵便局の形態は大きく2つに区分できるのですが、まず1つが、郵便や荷物配達、貯金や保険の専用窓口があり、社員が数十人~数百人いる普通郵便局と、もう1つが、私が配属されたところになりますが、郵便や荷物配達を行わない、窓口のみの小さな郵便局です。7年後に出身の群馬に異動となり、現在は群馬県の高崎千代町郵便局に所属しています。労働組合と私の関わりも併せてお話ししますと、埼玉県に配属された際に女子寮に入りました。同期のメンバーや先輩に助けられ、寮生活を楽しく過ごす中で先輩に誘われ、労働組合のレクリエーションに参加しました。1985年は男女雇用機会均等法が制定された年でもあります。女性の職場環境改善が必要だと話を聞き、仲間と一緒に活動できる労働組合に自然と入っていきました。現在は組合専従(専従役員)のため、会社を休職している状態です。
今日は大きく4つのお話をします。まず日本郵政グループとJP労組のご紹介、次に労働組合の役割とJP労組の現状、そして時給制等で働く社員の処遇改善に向けたJP労組の取り組み、最後に課題と今後の取り組みの流れで進めていきたいと思います。
2.日本郵政グループとJP労組のご紹介
まず一つ目、日本郵政グループとJP労組のご紹介です。日本郵政グループは、いわゆる郵便局を中心とした会社です。元々1871年(明治4年)に郵便事業をスタートしており、2021年で150年を迎えます。1875年(明治8年)に郵便貯金の事業をスタートさせ、1916年(大正5年)に簡易保険の事業をスタートさせました。これを、郵政三事業と呼びます。国営で運営しましたが、政治による民営化の動向もあり、2007年(平成19年)の9月までは国営として、2007年の10月に民営化されました。
当時は日本郵政株式会社を親会社として5社体制でスタートしましたが、民営化の利便性や働き方の法改正を進め、20182年には、現在の主要4社体制としています。本日は主要4社を中心にお話することになります。また、グループ全体で正社員は約20万人おります。後ほどお話する有期雇用の方も18万人いる大規模な会社です。私たちの生活の身近な存在の企業であると考えており、企業としても「トータル生活サポート企業グループ」を目指すというイメージを持っています。
次にJP労組の説明ですが、真に組合員の幸せを追求するということを目的に、2007年10月22日に民営化と共にスタートし、今年で13年が経ちました。分社化はされましたが、労働条件も主要4社(当時5社)統一で処遇改善等の要求を行います。
JP労組における最大のテーマは、「雇用確保」と「労働条件の維持・向上」です。友愛の精神を持って希望に満ち溢れた事業と労働組合を創造し、組合員の生活の向上と公正な社会づくりに貢献することを基本理念に持って活動しています。現在は、グループ子会社も含め約24万3千人の組合員がおり、正規・非正規に関わりなく加入できる大きな労働組合になっています。
<JP労組の綱領>
3.労働組合の役割とJP労組の現状
その上で、改めて労働組合の役割とJP労組の現状についてお話します。先ほども申し上げた通り、労働組合の最大のテーマは、雇用の確保と労働条件の維持・向上です。社員一人ひとりの立場は弱くても、労働組合があれば、職場の様々な課題・問題を会社側と対等な立場で交渉することができ、組合員の声を集め、会社に届けることができます。会社側も、社員の意識や不満などの生の声を把握できます。職場の問題を把握し、課題解決ができるため、会社と労働組合の双方にとってWin-Winの関係になります。お互いに信頼関係の下で相手の立場や役割を尊重し、労働協約を結んでいます。
今日お話する上で押さえていただきたいのは、社員区分についてです。主要4社において、一番社員数の多い日本郵便の主な社員区分のうち、世間一般でいう非正規社員を「時給制等」という言葉で説明します。時給制等で働く社員は「時給制」「月給制」「高齢再雇用」に分かれています。時給制等で働く社員の組織化の取り組みと課題として、JP労組ではオープンショップ制(労働組合への加入判断は労働者が行う)を敷いており、時給制等で働く社員の労働組合への組織化を進める必要があると考えています。
4.時給制等で働く社員の処遇改善に向けたJP労組の取り組み
4-1 正社員への登用
JPグループ会社との交渉でこれまで実現した取り組みの一つに、「正社員への登用」があります。民営化前からすでに時給制等で働く社員が沢山いました。実際、みなさんは6ヵ月更新を繰り返しており、現場では無くてはならない存在でした。時給制等で働く組合員の仲間からは「正社員になりたい」「正社員との違いは何か?」という声もありました。時給制等で働く社員と一緒に働く正社員からも、彼らが必要だという声もあったため、春闘において正社員への登用を求め、交渉を続けてきました。2008年から約4万人が正社員に登用されており、現場で必要とされる優秀な人材が他社へ移らないよう取り組んでいます。
4-2 賃金
その次に実現した取り組みとして、「賃金」が挙げられます。正社員を含め、時給制等で働く社員に対しても毎年賃金の積み上げを要求しています。また時給制等で働く社員の資格給に関する要求や、同一労働同一賃金にも取り組んでいます。JP労組が取り組んだ賃金交渉の中でも重要なものは「郵政最賃の保障」です。地域別最低賃金にプラス20円を加算したものを郵政グループの最低賃金とする協約を締結しました。例えば、京都府を例に挙げると、京都府の最低賃金は909円です。そこで10円未満を切り上げた910円に20円を足した930円を郵政グループの最低賃金としました。
4-3 福利厚生
次に福利厚生等の実現に関してお話します。働きやすい環境整備は正社員でも非正社員でも関係ありませんが、やはり部分的には正社員と比較して違うところが多くあると認識しています。中でも時代の流れに合わせて大きいのが、育児休業や介護に関することです。正社員のみならず、時給制等で働く社員も取得できるよう労働組合で進めています。また、無期労働契約への転換である「アソシエイト社員」の創設も、交渉の結果により実現したものです。有期雇用契約から無期雇用契約への転換制度は、労働契約法の改正に因るところが大きいものであり、安定した働き方のためのより重要な仕組みになります。JP労組では、この制度を法改正より1年半前倒しで実現することができました。
4-4 同一労働同一賃金
次に同一労働同一賃金に関してお話します。2016年12月に同一労働同一賃金のガイドライン案が国から提示されました。JP労組ではガイドライン案が出た時に、まずは2017年に1年かけて会社の現状分析を行いました。18(2018年)・19(2019年)春闘の2年をかけて同一労働同一賃金に向けて処遇改善にどのように取り組むのか、正社員組合員と時給制等で働く組合員どちらにも意見を聞き、両者が納得いく方向性を導くべく準備を進めました。17春闘までは様々な処遇を積み上げていく労使交渉でしたが、18・19春闘の2年間は一部見直しを行う置き換えや、再構築をするといった、全体を見渡し、トータルで見て、組合員にとってプラスになる仕上がりをイメージしながら交渉を進めました。
5.課題と今後の取り組み
ここからは、JP労組としての課題と今後の取り組みをお話しします。
労働組合の果たすべき役割について先ほどもお話をしましたが、もう少し別の角度からお話したいと思います。企業が社会の中で活動していくためには、「法令順守」と「社会規範の尊重」が不可欠です。これらに反した行動を見過ごすと、企業の存在が消滅してしまうことも起こり得ます。労働組合は、問題が発生しそうな兆候が出た時に、その原因を取り除くための分析を行い、すぐに対処することが役割として求められています。そのためには、日頃から職場をしっかりチェックすることが大切です。これらは消防署の役割とよく似ています。消防署は火事が起こった際や急病人が出た際、電話をかければすぐに来て対処してくれます。また、未然防止に向けても取り組んでおり、市民に対して防火意識の醸成を行ったり、火災発生の要因を排除すべく動いたりしています。労働組合も、役員が日常的に職場をまわって人間関係や安全面等に対してチェックすることで、未然に問題を防ぐことができると考えます。
ここでお話するのはお恥ずかしいことなのですが、みなさんご存じの通り、日本郵政グループは会社全体でこれらが機能していなかった部分があり、行政処分を受けました。生命保険は人の命をお金に換算して扱う商品です。しっかりお客さまの立場に立って営業活動を行わなければいけない仕事であるにも関わらず、営業目標の達成の中で、一部の職員社員がお客さまに対して正しい説明や対応をせずに契約に至っていたという事実があります。これらに対して、会社をあげて原因分析を行い、お客さまに受け入れていただける対応をどう作っていくのか、しっかりと論議しなければいけないと考え、JP労組からも意見提起する等課題解決に向けて取り組んでいます。
グループ会社の全社員は約40万人いますが、組合員は24万3千人で、組合員の仲間になっていない人もいます。日本郵政グループは、収益性と公共性の両立が求められる企業です。少子高齢化により働き手の不足もありますが、労働組合として働くことの価値向上、安心社会の実現、会社の発展、処遇改善をしっかり進めていく必要があります。
今後、環境の変化・時代の変化に労働組合としてどのように対応していくか大きな課題です。eコマースの普及やAI技術の発展等に伴い、働き方が変わっていくことへの対応が求められます。
また、JP労組の活動においても、組合員の価値観や生活様式が変化しており、組合活動が組合員に見えているか、組合員の声をどうやって集めていくのか、そして、組合リーダーをどのように育てていくのか等、様々な課題があります。そして、労働組合活動における男女共同参画も進めていく必要があります。
最後に、学生のみなさんにお伝えしたいことがあります。郵政グループは経営形態の変化や事業の規制等、これまで政治に大きく左右されてきました。加えて、私たちは生活者としても労働者としても、あらゆる面で政治の影響を受けています。私たち一人ひとりの行動によって、変えられることがあります。政治に無関心でいられても、無関係ではいられません。ぜひ自分たちの声や私たちの税金がどのように使われているのかを意識しながら、投票へ行って欲しいと思います。
以上で私からのお話を終了いたします。ご清聴ありがとうございました。
以 上
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