同志社大学「連合寄付講座」

2018年度前期「働くということ-現代の労働組合」

第13回(7/13

ワークルール確立に向けた取組み
―労働規制緩和にいかに歯止めをかけるか―

ゲストスピーカー:連合副事務局長 内田厚

1.はじめに

 皆さん、こんにちは。連合副事務局長の内田です。私は中部電力株式会社に入社し、14年ほど職場で働いていました。その後、中部電力労働組合の専従になり、電力関連産業の労働組合役員を経て現在はナショナルセンターの連合で働いています。
 先日の豪雨は、西日本を中心に甚大な被害を及ぼしました。電力会社の社員は、電気をお客さまに届けることが第一使命です。台風や豪雨が発生した際は、雷などでいつ停電するか分からないため事業所へ出勤します。自分の家族は家に置いていくことになりますが、電気が復旧してお客様に喜んでいただくと、働く喜びや達成感が得られます。社会人になったら、皆さんも是非、働いていることに対して誇りを持ち、誰かに喜んでもらえるような経験をしていただきたいと思います。そのような願いも込めて、本日はお話しいたします。

2.ワークルールの基礎知識

2(1)ワークルールに関するクイズ

図表1 ワークルールに関するクイズ

 事前にクイズを出させていただきましたが、答えはすべて×です。労働法は意外と身近にあるものですが、その内容はあまり知られていません。知らないまま働いている方も多いですが、法律を守らない使用者の下で働いた場合、正当な賃金が支払われないこともあるかも知れませんので、皆さんには是非知識として身に付けていただきたいと思います。
 1つ目ですが、労働契約が成立するのは試用期間の終了後ではありません。最高裁の判決も出ていますが、試用期間中は基本的に解約権留保付労働契約です。正社員の場合、解雇には非常に厳しい条件が付きますが、試用期間中は使用者側にそれよりも広い範囲の解雇の自由が認められています。しかし、労働契約は成立しており、試用期間中からその契約は有効です。
 2つ目ですが、使用者は年俸制の労働者に対して1年分の賃金を一括で支払ってはいけません。賃金額を一年単位で決定する制度を年俸制と呼んでいますが、年俸制の場合でも、労働基準法によって実際の支払いは最低月1回必要です。
 3つ目ですが、昼食休憩中の電話当番も労働時間です。労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間で、使用者の指示命令で電話当番をしている場合は労働時間となります。
 4つ目ですが、労働組合と労働協約を締結していても、休憩時間が30分の長さでは認められません。労働基準法では、6時間を超えて8時間以内で働く場合の休憩時間は最低45分、8時間を超えて働く場合は60分与えなくてはならないことが定められています。法令は最低限の労働条件を定めており、労働組合と使用者が締結する労働協約よりも優先されます。法令、労働協約、就業規則の順で優先されるので、法令を下回るものは無効です。
 5つ目ですが、年次有給休暇は入社と同時に与えることは義務付けられていません。労働基準法では、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して有給休暇が与えられることになっています。これはあくまでも最低基準で、入社と同時に有給休暇が与えられる企業もたくさんあります。
 6つ目ですが、アルバイトでも深夜労働した場合、割増賃金が支給されます。22時から翌朝5時は労働基準法で深夜労働と定められており25%以上の割増賃金率が適用されます。休日も35%以上の割増賃金率が適用されます。労働者とは賃金を支払われる者で、学歴も職種も関係ありません。皆さんがアルバイトで22時以降も働いた場合は、給与明細で25%以上の割増賃金が支払われているかどうか確認してみてください。
 7つ目ですが、学生のアルバイトにも最低賃金法が適用されます。

(2)労働関係法令の種類
 続いて、主な労働関係法令を紹介します(図表2)。労働基準法、最低賃金法、障がい者雇用促進法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、パート労働法、労働契約法、労働者派遣法です。2018年6月29日に参議院の本会議で「働き方改革関連法」が成立しました。紹介している9の法律のうち、労働基準法、労働安全衛生法、パート労働法、労働契約法、労働者派遣法の5の法律が改正されました。

図表2 主な労働関係法令

(3)就業規則について
 就業規則についても触れておきたいと思います。法律では、常時10人以上の労働者を使用する場合、使用者はその届け出をしなければならないことが定められています。就業規則の中に記載することも定められています(図表3)。必ず記載する事項は絶対的記載事項と呼ばれています。絶対的記載事項は、①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替勤務の就業時転換に関すること、②賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関すること、③退職に関することの3点です。
 制度があれば記載しなければならない事項は相対的記載事項と呼ばれています。制度があれば就業規則に記載をしなければなりませんが、届出をしていない会社も多いです。私は現在、労働審判員を務めていますが、労働者に自分の会社の就業規則を見たことがあるか聞いてみると、見たことがない人も多いです。使用者側に掲載場所を確認すると、パソコンに保管しただけになっているケースもあります。本来、使用者は就業規則の内容を従業員に周知させなければならないことも法令に定められています。

図表3 就業規則〈労働基準法第89条〉

(4)労働条件の不利益変更について
 使用者が労働契約や就業規則などで定められた労働条件をどこまで変更できるのかも決まりがあります。例えば手当ですが、1万円の手当を1万2,000円や1万5,000円に引き上げる場合は問題ありませんが、8,000円や9,000円に引き下げる場合は、労働契約法第9条、10条で制限されます。労働者が不利益を被る労働契約の変更は、労働条件の不利益変更と呼ばれており、原則認められていません。
 しかし、変更を行う場合は次の全てを満たす必要があります。1点目は、就業規則の変更によって個々の労働者が被る不利益の程度が少ない場合です。例えば、子ども一人に対して1万円の生計手当が支給されていたと仮定して、それが3,000円になると生計が維持できませんが、9,000円であれば許容できるといった考え方です。2点目は、労働条件変更の必要性がある場合です。例えば、経営環境や事業収益の悪化、赤字転落など、会社が現在の労働条件を維持することが困難になった場合などです。3点目は、変更後の就業規則の内容の相当性です。変更が妥当であるかどうか確認するため、経過措置や代償措置を設けているかどうかが問われます。4点目は、労働組合がある場合、変更に関する交渉においてどのような手続を講じ、従業員にどのように周知したかということです。これらの要件が満たされた場合、労働条件の変更は認められます。
 日本の法体系では、労働条件を不利益に変更することは、相当の理由がない限りできないことになっているのです。

(5)時間外労働のルールについて
 次は時間外労働のルールについて話をします。労働基準法第32条では、1週間40時間、休憩時間を除き1日8時間を超えて労働をさせてはならないこと、第35条では、使用者は労働者に対して毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないことが定められています。ほとんどの会社は週休2日制を取っていますが、法律上は週1日です。そして、日曜日を休日として設定する場合、これが法定休日となります。その上で、土曜日も休日として設定する場合、これは法定外休日となります。法定休日と法定外休日では割増賃金が変わります。
 1週間40時間、1日8時間よりも労働させたい使用者は、一般的に「サブロク協定」と呼ばれる労働基準法第36条に基づく協定を締結します。書面で締結し、これを行政官庁に届け出ると労働時間の延長が可能になります。厚生労働大臣が定める省令基準では、時間外労働の上限が1ヶ月45時間、1年間360時間と定められています。しかし、予算決算業務やボーナス商戦の時期、納期がひっ迫している時期などについては、特別な事情として臨時的に1ヶ月45時間、1年間360時間を超える時間外労働が認められています。特別な事情は、一時的または突発的であること、また、1年の半分を超えないことが見込まれる場合に限られます。しかし、1ヶ月45時間の制約があるのは半年で、残りの半年は青天井の時間外労働が可能になってしまいます。脳・心臓疾患の労災認定基準は、発症前1ヶ月の時間外労働が概ね100時間、複数月平均80時間です。(あくまでも目安で、90時間で認定される方もいれば、110時間で認定されない方もいます。)時間外労働の延長は、過労死にも繋がる大きな課題になっていると考えられます。

図表4 時間外労働のルール

 こうした課題を解決するために国会での議論を経て成立したのが「働き方改革関連法」です。大手企業は2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日から施行されます。時間外労働について、1ヶ月45時間、年間360時間を上限とする原則は変わらず、その上で、特例でも年間720時間、1ヶ月単位では過労死認定基準である100時間未満、複数月では80時間以内を上限とすることが定められました。また、実効性を担保すべく罰則も設けられます。ただし、自動車の運転業務、建設事業、研究開発者、医師などについては、上限規制の枠組みが設定できる状況ではないと判断され、今後検討されることになっています。ちなみに、時間外労働の上限として定められた年間720時間の内に法定休日の労働時間は含まれません。過労死認定基準は法定休日の労働時間も含みます。
 新聞報道などでは、時間外労働の上限規制をかけるということは、労働者が受け取る収入が下がるのではないかという懸念が示されています。とあるシンクタンクは、時間外労働を年間360時間までとすることで、国全体で10兆円の残業代が無くなると試算もしています。時間外労働は仕事があるから発生するものです。上限規制だけを設けると、残った仕事は誰がやるのでしょうか。家に持ち帰ってサービス残業を行ったり、親会社ができないものを下請会社に依頼したりということになります。時間外労働の上限規制と業務の効率化・簡素化は車の両輪で、どちらも取り組まなければならないのです。
 個人が100の時間で行っている仕事を80の時間で処理しないといけない場合、2割の業務効率化が必要になります。2割の業務効率化を達成すると、その人の時間当たりの生産性、労働の質が上がるということになります。労働の質が上がると、当然会社の利益も増えるので、連合としてはこの部分を賃金で還元することを主張しています。時間外労働の削減に伴って行った業務の効率化や簡素化など、労働者が努力した部分についてはしっかり賃金で評価すべきだということです。実際に働いている者にとっては、ただ時間外労働を削減するだけでなく、いかに業務の効率化や簡素化に取り組めるかという視点が重要です。

(6)時間外労働の適用除外について
 時間外労働の働き方については労働基準法第32条、33条、36条で定められていますが、我が国の法体系では、労働時間規制が適用除外とされるケースが3点あります。
 まず1点は、労働基準法第41条で定められた管理監督者です。当該者の地位、職務内容、責任と権限などから見て、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある労働者については、時間外労働の考え方が適用されません。経営者と一体的な立場とは、一般的に本社の課長・部長などです。特に自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していることや、一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金が支払われていることなどが満たされていれば管理監督者として認められ、労働時間を管理しなくても良いということになります。
 もう1点は、事業場外のみなし労働時間です。現在は、スマートフォンやパソコンなどが普及しているため、企業は労働者と頻繁に連絡を取り合うことができますが、かつては営業活動で社外へ出ていると、どこで何時間働いているのか把握ができませんでした。労働基準法38条はそうした働き方を事業場外労働として定めており、労働時間はみなしで取り扱われます。
 もう1点は、あらかじめ業種を限定して労働時間がみなしで取り扱われる裁量労働制です。専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制があり、働き方改革関連法案では、当初、企画業務型裁量労働制の拡大が盛り込まれていましたが、一般労働者と裁量労働者を比較すると裁量労働者の方が労働時間は短いという厚生労働省のデータが誤りだったことが明らかになり、法案からは削除されました。
 そして、今回の法改正によって、もう1点労働時間規制が適用除外とされるケースが増えました。それが「高度プロフェッショナル制度」です。後ほど「働き方改革関連法」をご紹介する中で詳しく触れさせていただきます。
 それでは、週40時間、1日8時間の通常の労働時間制は、どの程度の労働者に適用されているでしょうか。実はその制度が適用されているのは45.1%で、その他の労働者は、自社の業務内容に合わせた弾力的な労働時間制度の下で働いています(図表5)。

図表5 労働時間制と適用労働者の割合

(7)解雇権の濫用
 次は、解雇権の濫用について話をします。使用者は従業員をどのような時に解雇できるのかということですが、我が国の法体系では、一度雇用契約を締結すると、その労働者の権利は相当程度保護されます。労働契約法第15条で懲戒、第16条で解雇が定められており、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とするとされています。整理解雇を行う場合は、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続きの妥当性の4条件が問われます。①は、経営環境が厳しい、これ以上雇用していると会社が倒産してしまうなどの事情があるかどうかです。②は、そうした状況下で解雇を回避するためにどのような対策を講じてきたのかということです。③は、仕事の能力などから特定の人を優先して解雇するようなことは認められないということです。④は、従業員に対してどのようにその必要性を説明したかということです。この4条件が満たされていないと解雇については無効になります。
 使用者と労働者は権利義務の関係にあり、労働者は不合理な解雇はされず、賃金の請求権を有する代わり、誠実に労働する、職務に専念する、秘密を保持することは守らなければなりません。

(8)働く者を取り巻く現状
 厚生労働省の調査によると、精神障害に係る労災請求件数は年々増加しており(図表6)、職場では多様なストレスや悩みを抱えた労働者が増えていることが分かります(図表7)。いじめや嫌がらせが増えていることも明らかになっています(図表8)。脳や心臓疾患に影響が出ている労働者も多く、特に中間管理職として働く40~ 50歳代が顕著に多いことがうかがえます(図表9)。

図表6 精神障害に係る労災請求件数の推移

図表7 仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレス(平成27年)

図表8 民事上の個別労使紛争相談件数に占める「いじめ・嫌がらせ」の割合及び相談件数

図表9 疾患・年齢階級別の事案数(脳・心臓疾患・業務上事案)

3.ワークルールの確立に向けて

(1)労働法案成立までの流れ
 続いて、労働法がどのように制定されているのかお話ししたいと思います。労働法は、法律の制定手続が通常の法律とは少し異なっています。我が国で国会に提出される法案は、内閣が閣議決定したものと、衆参の国会議員によって発議される議員立法があります。労働法の場合は、厚生労働大臣が公益委員、労働者委員、使用者委員の三者で構成された審議会に諮問します。諮問された内容を審議会が答申し、厚生労働大臣が閣議にかけて国会に提出します(図表10)。労働法は、公労使の三者で構成された審議会を経たものしか提出することができません。国連の労働専門機関であるILOでも三者構成原則で決められています。こうした考え方からも、労働者が尊い存在であることが分かります。

図表10 労働法成立までの流れ(ILO三者構成原則)

(2)36協定の締結状況
 先ほど、時間外労働のルールについて話をした際にご紹介した「サブロク協定」は、特に社会に広く認知していただきたいのですが、連合のアンケートでは、「知っている」が56.5%、「知らない」が43.5%となっています(図表11)。使用者側の命令で時間外労働を行っているにも関わらず、そのルールを知らない労働者が約半数近くいるということです。
 労働組合がある企業の場合、使用者側が協定を締結する相手は労働組合ですが、日本の約80%の企業には労働組合がありません。そうした場合、使用者側は労働者の過半数を代表する者と協定を締結します。しかし、過半数代表者が曖昧に決められているケースが多いことも連合の調査では明らかになっています。

図表11 36協定の締結状況

(3)個別労働紛争解決制度
 職場では様々な労使紛争が起こりますが、不当解雇や残業代未払いなど、労使紛争を解決する代表的なものを3点紹介しておきます(図表12)。1点目が裁判所(通常訴訟・労働審判)、2点目が労働行政、3点目が労働委員会です。労働審判の件数(図表13)を見ると、労働事件が一定数存在していたのであれば、和解が成立するに従って減少してもおかしくないのですが、ほぼ同じ件数で推移しています。これまでにも労使紛争があったものの、労働者が泣き寝入りしていたのではないかということが推測されます。

図表12 個別労働紛争解決制度

図表13 労働関係民事通常訴訟事件と労働審判事件(新受件数 地方裁判所)

(4)ワークルール教育推進法案
 これまで話してきた通り、使用者も労働者も労働法をよく知らない状況にあることから、学校や大学、職域、地域などでワークルール教育に取り組むべきことを基本的施策として定めた「ワークルール教育推進法案」(図表14)が超党派で議論されています。現時点では国会に提出されていませんが、連合も、ワークルール教育に取り組むべきであることを主張しています。

図表14 ワークルール教育推進法案(議員立法)

4.働き方改革関連法の概要と働き方を巡る動向

 それでは、2018年6月29日に成立した働き方改革関連法についてお話しさせていただきます。この法律は8本の法律をまとめたもので、過去には安全保障法なども同じようにまとめて採択されました。このようにまとめて採択されると、それぞれの法律の是非に対する国会議員の意思が反映されなくなってしまうため、連合は一括での法改正に反対していました。
 今回の法改正で、特に労働基準法は大きく変わります。労働時間に上限規制が設けられるようになりました。簡単に各法律の概要をご説明させていただきます。

〇中小企業の時間外労働の割増賃金率の猶予措置の廃止
 時間外労働が60時間を超える場合、50%以上の割増賃金率となりますが、中小企業に対しては猶予措置が設けられていました。今回の法改正によって中小企業も適用されることになります。

〇年次有給休暇の取得促進に関する使用者の付与義務
 10日以上の有給休暇が付与されている労働者については、5日以上を取得させることが使用者に義務付けられました。

〇勤務間インターバル規制
 勤務間インターバル規制は、例えば21時まで仕事して、翌朝早くから出勤するとなると、十分な睡眠時間を確保できなくなります。そうしたことから、仕事が終わって次の仕事が始まるまで、一定の時間を空ける制度の導入が努力義務として示されました。

〇同一労働同一賃金の法改正
 パートタイム労働者や有期契約労働者、派遣労働者など、いわゆる非正規労働者の待遇は低く、正社員との不合理な格差も生じていることから、その格差の是正をはかることが定められました。格差には均等待遇と均衡待遇があり、均等待遇とは前提が同じであれば同じ待遇であること、均衡待遇とは前提が違う場合は合理的な待遇差は違法ではないという意味です。職務内容が同一ならば、同じ賃金を支給し、職務内容が異なる場合は、その違いに応じてバランスのとれた賃金を支給しなければならないということです。2016年12月に示された政府のガイドライン案を精査し、今回の法整備に至りました。

〇高度プロフェッショナル制度の新設
 そして、高度プロフェッショナル制度の創設も盛り込まれました。これは連合が反対していたもので、管理監督者や事業場外みなし労働時間、業種を限定した裁量労働制に加えて、一定年収以上の労働者も、労働時間規制の適用除外とされることになりました。年収1,075万円以上という水準が以前に示されていましたが、今後、対象の業種や健康確保措置など、具体的な検討が進められます。
 連合は、約半数の労働者が弾力的な労働時間制度の下で働いている現状に鑑みると、そもそも高度プロフェッショナル制度を創設する必要がないと考えます。また、どれだけ働いても賃金が変わらない制度が、時間ではなく成果に応じて賃金を決める制度であるかのように誤解されていることも課題として認識しています。過労死や労災認定が増え続ける中で、長時間労働を助長しかねない制度は導入すべきでないと連合は主張しています。

〇企画業務型裁量労働制の対象業務拡大
 企画業務型裁量労働制の対象業務拡大も連合は反対していましたが、厚生労働省の調査データに誤りがあり、不適切ということで今回の導入は見送られました。特に営業や企画立案に関わる労働者が対象になる予定でした。

〇柔軟な働き方について
 その他、柔軟な働き方としてテレワークの推進なども検討されています。テレワークとは、会社へ行って仕事するのではなく、離れた場所で仕事をすることです。会社と労働契約を結んで会社ではない場所で働く雇用型のテレワークと、会社とは雇用契約がない請負として家で働く自営型のテレワークがあります。雇用型のテレワークについては、労働時間管理ができず、安全衛生管理に大きな課題があります。そして、自営型のテレワークも、請負関係ではあるものの、会社からの指示命令があれば、雇用保険等が適用される労働者とみなされる可能性があります。
 また、副業・兼業についても盛んに議論されています。AとBの2つの企業に勤めることですが、そうなると時間外労働はどのように管理するのか、その賃金はどちらの企業が支払うのか、災害が起きた時にはどちらの労災保険を適用するのかなど、様々な課題をクリアしなければなりません。

〇解雇無効時における金銭救済制度について
 解雇無効時における金銭救済制度は、解雇が受け入れられず裁判で労働者側が勝訴したものの、もうその会社に勤めたくないのであれば金銭で円満解決をはかろうというものです。労働者の申立てに限って導入することにしていますが、こうした制度の導入を認めてしまうと、使用者側が金銭で解雇できるような使用者申立制度に拡大される懸念があることから、連合は反対しています。
 また、解決金の上限を決めると、裁判が長引いてもバックペイの支払いを心配する必要がなくなり、裁判が長期化する可能性があります。通常の裁判であれば、長期化すればするほど、裁判期間中の賃金を使用者側が支払わないといけなくなるため、使用者側にリスクが生じますが、上限を決めてしまうと、裁判が長引いても使用者側は余計に賃金を支払わなくても良いという意識が働くかも知れません。また、解雇させたい労働者に対して制度を盾に退職勧奨を行うなどの行動も予想されます。いわゆる肩たたきです。現行の労働審判制度などがあれば金銭救済制度は不要であるということを連合は主張しています。

〇労働安全衛生法の改正(議員立法)
 先般、労働安全衛生法を改正し、ハラスメント対策の実施を事業者に義務付けることを定めた議員立法が参議院に提出されました。法案で具体的にあげられたハラスメントは、職場におけるパワーハラスメントと、消費者対応業務に係るハラスメントの2種類です。消費者対応業務に係るハラスメントとは、スーパーマーケットの従業員に対する顧客からのハラスメントなどのことです。立憲民主党と国民民主党によって法案が提出されましたが、残念ながら否決されて廃案になりました。ハラスメントへの対応も今後大きな課題といえます。

おわりに

 本日は、ワークルールの基礎知識から働き方改革の関連法案について話をさせていただきました。どうもありがとうございました。

以 上

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