同志社大学「連合寄付講座」

2018年度前期「働くということ-現代の労働組合」

第5回(5/18

公務労働の現状と公共サービスの役割 公務関係労組の取り組み
~公共交通サービスをめぐる現状・課題とその解決に向けて

ゲストスピーカー:全日本自治団体労働組合 交通政策局長 国眼恵三

1.はじめに

 皆さん、こんにちは。自治労の国眼恵三と申します。自治労は全国で2番目に大きな産業別労働組合です。本日は公営交通事業を中心に、労働組合の立場からどのような取り組みを行っているのかについてお話ししたいと思います。
 少し余談ですが、京都市は観光客の方が非常に多いことから、「歩くまち・京都」として、四条通の歩道を拡幅して車道を狭くしました。その結果、大渋滞が起こったため、京都市交通局はカーナビ会社などに依頼し、京都市内でルート検索した場合、四条通を迂回するルートが表示されるようになりました。現在渋滞は落ち着き、市営バスもスムーズに運行されるようになりました。

 

2.自己紹介

 私は1984年に大阪市交通局に入りました。大阪市交通局とは、大阪市営の地下鉄やバスを運行している公営セクターです。地下鉄の運転職員として入職し、駅員、車掌、運転士を経験しました。2011年に大阪市で働く仲間を組織している大阪市労働組合連合会(大阪市労連)の役員に着任しました。大阪市労連は、大阪市の一般職員の方、教職員の方、大阪市の水道事業で働く方、ごみ収集などのいわゆる現業職場で働く方で構成されており、大阪市と職員の賃金を交渉する役割を担っています。京都市にも京都市労連があります。2013年から、自治労中央本部の中央執行委員として東京都で仕事しています。
 私が大阪市交通局へ就職したのは、地方公務員で安定しているイメージを持ったことがひとつの動機でした。しかし、地方公務員の給与は決して高い水準ではありません。年功序列型賃金を採用しているため初任給が低めに設定されており、先輩から20年は我慢して働くよう教わったこともあります。
 また、公務員の賃金決定のシステムは民間企業と大きく異なります。公務員は労働基本権が制約されており、団体交渉によって賃金を決めることができません。国家公務員の賃金は人事院勧告で決められます。第三者機関である人事院が民間の賃金実態を調べて、国会及び内閣に対して国家公務員の給与の改定を勧告します。毎年、この勧告に基づいて国会で法律が改定され、国家公務員の給与は決められています。地方公務員についても、各都道府県や京都市・大阪市のような政令指定都市に人事委員会があり、人事委員会の勧告に基づいて各自治体の議会で給与条例が議決されます(図表1)(図表2)。地方公務員は「公共の福祉」のために働く「全体の奉仕者」として位置づけられているため、法的に労働基本権が制限されているのが現状です。

図表1 地方公務員の賃金決定システムについて

図表2 地方公務員の給与改定の手順

 大阪市交通局の勤務形態は非常に不規則です。乗務員の場合は週休二日制ですが、電車は毎日動いていますので、休みは土日、日月、月火など様々です。私が働いていた駅の勤務形態は隔日交代制勤務が主流です(図表3)。朝8時半に出勤し、次の日の朝8時半までの24時間が勤務時間となります。朝8時半に出勤した後、最終電車まで働き、仮眠を取ります。その後、始発電車に向けて駅を稼働させます。鉄道会社にとって、朝のラッシュ時間帯は最も人手が必要になるため、その時間帯の人員確保のため、勤務の2日目も9時半頃まで働きます。9時半まで働いた後は拘束されません。翌日が休日の場合はゆっくり休むこともできます。仮眠時間に起きて出動する場合がある点は異なりますが、消防隊員や救急隊員も概ね私達と近い勤務形態を採っているのではないかと思います。
 こうした勤務形態や有給休暇を活用して頻繁にまとまった休みを取ることも可能ですが、年齢を重ねるにつれて、長時間働いた後はしっかり休まないと体力が持たなくなりました。

図表3 隔日交替勤務のイメージ(大阪市交通局の場合)

 労働基準法で労働時間は1日8時間、週40時間と定められています。しかし、駅の職員の1回の勤務時間は19時間30分で、一般の労働者よりも大幅に長く、仮眠時間も拘束されることから職場に滞在する時間は非常に長くなります。駅で働く場合は、24時間、同じ人と一緒に暮らすことになります。駅周辺に食事できるお店がないと、誰かがご飯を炊いて食事も一緒に取ります。そうした中で仲良くなり、信頼関係が育まれていきます。これは民間の鉄道会社も同じで、一緒に過ごす時間が長いことから交通一家と呼ばれるほど結束が強くなります。労働組合も同じく強い繋がりで結ばれています。
 私も、職場の先輩から労働条件などを教わったりする中で労働組合を意識するようになりました。労働組合の活動は、非番の時間を使って行います。また、月に1度程度、職場のみんなで集まり、労働組合の活動について報告したり懇親会を行ったりします。
 2011年から役員を務めた大阪市労連での経験も少しお話ししたいと思います。橋下市長が公務員や公務員労働組合をバッシングして市長選に当選しました。橋下市長の対立候補を支援させないよう、私達に対しても様々な手段が講じられました。労働組合が選挙活動を行うことは合法ですが、橋下市長はこれを不服として、大阪市の職員に対して、政治志向や支持政党、労働組合の活動への参加の有無や頻度など、思想信条を問うアンケートを行い、回答を強制しました。私達は当時、市役所の地階に家賃を支払って労働組合の事務所を借りていましたが、追い出されてしまいました。橋下市長は団体交渉にも応じませんでした。最終的に労働組合の主張が認められ、違法の判決が下されました。当時の関西圏では、労働組合が税金を無駄遣いしている風潮の報道も見受けられ、世論にも大きな影響を及ぼしました。こうした報道から家族の反対に遭い、労働組合の活動や公務員を辞められた方もいらっしゃいます。違法の判決が下されたものの、労働組合が大きな傷を負った時期でした。
 そして、もう一点ご紹介したいのが、大阪市営交通事業の民営化です2018年4月から大阪市営交通事業は地下鉄、バスともに民間会社となりました。地下鉄は新しい会社を立ち上げて全職員が移籍しました。バスは元々一部を管理委託していた大阪シティバス株式会社にすべての路線を移譲しました。地下鉄では、民営化による路線の変更や労働条件の極端な変更などは今のところ見受けられません。一方、バスでは、基本給16万5,000円+手当と厳しい労働条件になりました。
 2013年に着任した自治労中央本部は81万人と大規模な組織で、社会的にも大きな影響力を持っています。労働組合の交渉は原則使用者と労働者ですが、正確には労使関係にない総務大臣とも毎年交渉する機会があります。大阪市に勤めたはずが現在は東京都で働いていて、そして、地方公務員だったはずがいつの間にか民間企業になっていて、自分でもこの境遇を不思議に思いますが、入職当時から労働組合に関わってきたことはとても大切な経験だと感じています。

3.自治労について

 続いて、自治労の紹介をさせていただきます。自治労は1954年に結成されました。正式名称は日本自治団体労働組合です。長年、地方公務員の一般職員だけで構成されていましたが、公共サービスを担っているのは公務員だけではないことから、現在は公共サービスと関連する職場で働く仲間が広く集まっています。
 公共サービス、公共サービス関連職場とは何でしょうか。公共サービスは、公的機関が広く一般の人々の福祉のために提供する業務です。教育、医療、交通、司法、消防、警察などがあげられます。そして、公共サービス関連職場は、自治体の他、公立病院、保育所、福祉関係職場、公社・事業団、公営交通などがあげられます。今はさらに広がり、様々な職場の労働者が仲間に加わっています。
 労働組合は、働く人の、働く人による、働く人のための組織です。労働組合は自分達の労働条件の向上に取り組みます。労働基準法や労働組合法によってその権利は保障されており、労使交渉を通じて労働条件を引き上げることができます。労働組合は、誰の支援も受けず、自分達が集めた組合費だけですべて運営している自主的な組織です。しかし、近年自治労では、自分達の労働条件だけではなく、格差是正や地域における政治、公共サービスのあり方など、社会的公正実現の視点を持って取り組みを進めています。民間の労働組合も同じような活動をされているのではないかと思います。
 私の出身である大阪市の地下鉄の労働組合は、1995年にボランティア組織を立ち上げました。労働組合がボランティア組織を持っていることは当時珍しく、結成50年の節目に何か社会貢献がしたいとの想いで結成しました。その1週間前に阪神淡路大震災が起こったことも契機のひとつです。ボランティア組織を結成したその日から、阪神淡路大震災に大量のボランティアを動員し、復旧・復興作業に携わりました。また、交通事業の労働組合として、交通遺児に関する支援や、バスの運転手による交通安全教室なども行って参りました。近年は、労働組合のことを社会的インフラとおっしゃる方もいらっしゃいます。決して自分達の利益だけを主張している組織ではないということを是非ともご理解いただきたいと思います。

4.公営交通事業について

①公営交通事業の現状
 続いて、公営交通事業、いわゆる公的セクターについて話をします。地方公営企業には地方公営企業法が適用されています。全国的に見ると意外と少なく、札幌市、函館市、青森市、八戸市、仙台市、東京都、川崎市、横浜市、名古屋市、京都市、高槻市、伊丹市、神戸市、松江市、宇部市、徳島市、北九州市、福岡市、佐賀市、長崎県、佐世保市、熊本市、鹿児島市の23団体です。これらの団体は、地方公営企業法が適用されており、独立採算によって運営されています。その他の地方でも、市営バスという名称のバスを見かけるかと思いますが、これらは市や町が出資し、民間事業者に委託して運行しているものです。
 地方公営企業23団体のうち、バスが9団体、地下鉄が9団体、路面電車が5団体です。路面電車は札幌市、函館市、東京都、熊本市、鹿児島市の5団体しかありません。自家用車が普及し、約10団体の路面電車が廃線になりました。かつては京都市にもありました。
 景観にも溶け込みやすいので廃線になったことは残念ですが、京都市の路面電車を廃止した際、路面電車を路線バスに置き換えました。路面電車の中には、環状になっている路線があったのですが、バスに置き換えたことによって問題が起こりました。路面電車は燃料を入れずにずっと走ることができますが、バスは燃料をどこかで入れないといけません。そうしたことから、現在は、途中で乗客に降りていただき、別のバスに乗り換えてもらうことで対応しています。ヨーロッパでは近年、路面電車の役割が見直されて、路面電車中心の街づくりが進められているケースも見られます。
 バスは2,192の事業者のうち、2,095が中小事業者です。公営バスは全国の状況から見るとごく少数なのですが、運営状況は厳しく、この20年間で18団体が事業廃止に追い込まれました。主な要因は厳しい経営状況です。こうしたこともあって、近年は民営化が進められています。労働組合は、組合員の生活と市民の利便性を守るため、民営化にはあくまで反対を貫いています。そして、厳しい経営状況であることから、働き方の見直しに同意し、乗車時間や拘束時間の延長など様々な合理化を受け入れて参りました。組合員はもちろん反対しますが、労働組合としては、事業を存続させることも考えなければなりません。賃金の引き下げも行いました。公務員の賃金は民間に準拠して決められますが、厳しい状況下では、独自の引き下げも受け入れざるを得ませんでした。大阪市は最大19%の引き下げを行いました。賃金が低い嘱託職務の運転手を雇うことも受け入れました。全体の賃金水準が低くなった結果、低賃金の公務員が一般化しました。

②管理の受委託について
 道路運送法では、「管理の受委託制度」が認められており、運行管理業務と整備管理業務を一体的に民間バス事業者に委託することができます。京都市交通局はバス事業の経営健全化のために、民間事業者並みの低コストでの運営をめざしてこの制度を全国で初めて採用しました(図表4)。当初、委託の範囲は2分の1以内に制限されていましたが、2008年に一部緩和され、一定の基準を満たせば3分の2以内まで拡大できることが認められました。京都市の労働組合は、2分の1以上の委託は決して認めない方向で交渉を行っています。

図表4 路線の委託(管理の受委託制度)とは―京都市交通局の取り組み

 委託状況は営業所によって異なり、例えば九条や梅津の営業所では、直営と委託の両方で運営されています。全員が京都市交通局の制服を着ているので一見すると分かりませんが、同じ営業所の中でも2つの命令系統があるということです。横大路の営業所は阪急バスとエムケイに委託しており、民間事業者だけで2つの命令系統があります。今のところ京都市では、民間事業者に任せたことによる問題は生じていないようです。しかし、直営で運営する費用と、民間へ委託して運営する費用に大きな差がないことから、委託した部分を再び直営に戻すための働きかけも進めています。労働組合が懸念しているのは賃金です。民間事業は賃金が元々低い状況ですが、先ほど紹介した受委託方式を活用して子会社をつくり、さらに賃金の低い運転手を雇って運用しています。こうした状況から、近年は直営の賃金も引き下げられています。適切な賃金を受け取れていない労働者が安全に職務をこなすことができるのか大きな疑問を感じています。
 また、非正規職員への置き換えも進められています(図表5)。官製ワーキングプアという言葉を耳にしたことがあるかも知れませんが、実は自治体職員の3人に1人は非正規職員です。この非正規職員の年間賃金は200万円程度(図表6)で、正規職員とまったく同じ仕事をしているのに賃金に大きく差が生じたり、場合によっては、経験豊富で仕事ができる非正規職員より、経験が浅くて仕事に不慣れな正規職員の方が賃金が高くなったりすることもあります。これは業界を問わず社会全体の問題ともいえます。公務員におけるこの問題を解消すべく、地方公務員法及び地方自治法の一部が改正され、非正規職員に期末手当が支給されるようになりました。しかし、その判断は各自治体に委ねられているため、自治労は各自治体に条例を改正するよう求めているところです。

図表5 自治体の非正規職員(臨時・非常勤等職員)の状況

図表6 多くの臨時・非常勤等が年間賃金200万円程度と低い賃金水準

③バスの運転手の高齢化
 高齢化への対応も大きな課題です(図表7)。特にバスの運転手は高齢化が進んでいます。交運労協(全日本交通運輸産業労働組合協議会)という交通・運輸関連の組織が集まる協議会で私鉄やJRの労働組合役員の方と意見交換を行うと、採用3年未満の運転手の離職率が最も高いそうです。離職する理由は低賃金と休暇がほとんど取れないことです。若年層にとって休暇が取れないことは大きな問題で、特に子育て世代の女性であれば働くことができません。結果的に高齢の男性がほとんどを占める職場になっています。
 官民を問わず若年層の女性にも働いてもらえるよう、労働組合も関わって様々な取り組みを進めています。あるバス会社では、女性専用の会社説明会を開催し、バスの運転を体験していただきました。最近のバスはオートマチック車両でパワステが付いており、比較的容易に運転することができます。こうした体験から入社に至ったケースもあります。また、あるタクシー会社では、大学新卒の年収500万円を保証しています。ある鉄道関係の会社では、子育てを理由に離職した人も3年以内であれば復帰できる制度を設けました。京都市や大阪市のバス会社でも、普通免許を持っている方を採用し、会社が費用を負担して大型二種免許の取得を支援する制度を設けているケースがあります。人材不足が深刻で、何とか優秀な人材を確保できるよう努めているのが現状です。

図表7 バスの運転手の高齢化

④バスの運転手の賃金
 公営交通事業は非効率で民間委託を進めるべきとの声を多く聞きます。国土交通省の資料で平均賃金の水準を比較すると、公営バスの運転手が666万円で、民間バスの運転手が456万円と約200万円の差があります(図表8)。しかし、公営バスのこの数値は正規職員の賃金の平均で、民間バスの数値には非正規職員も含まれています。また、民間バスの平均賃金は全産業平均の548万円よりもかなり低い水準であることが大きな問題といえます。高速ツアーバスの事故などが起こっていますが、こうした事故は安い労働力、経験の少ない労働力で運行した代償といえるのではないでしょうか。
 もう一つの視点は、民営化によって自治体の財政負担が少なくなるという考え方です(図表9)。実は全国の路線バスの約69%が赤字と言われており、路線の廃止も進んでいます。つまり、バス事業は民営化しても採算を取ることが難しいのです。距離で見ると、2007年度は1年間で1,832kmの路線が廃止されました。稚内-鹿児島間1,810kmに匹敵する距離です。2007年度から2014年度までに廃止された距離を合計すると11,796kmに及びます。これは、全国の路線41万7,400kmの約2.8%を占めます。
 また、2002年の道路運送法の改正によって、バス事業の路線撤退は「許可制」から「事前届け出制」に変更されました。そのため、不採算路線からの撤退は以前よりも容易になりました。特に、利益の少ないローカル路線は撤退が進みました。それまでは国が強く規制しており、民間事業者も路線競合がなかったため、赤字の路線は黒字の路線で補填するなど内部補助を行いながら地域に密着して運営していました。自治体も弱体化していることから、民間事業者に頼りきっていたことも否定できません。

図表8 バス運転手の賃金水準―全産業、民営、公営の比較―

図表9 民営化と自治体の財政負担との関連

 路線バスは、その地域で一定の利用者がいないと赤字になります。交通事業者が自助努力で交通事業を保つことは非常に難しく、地域の公共交通を維持するためには、事業者だけではなく、自治体や住民との連携が不可欠です。2013年に交通政策基本法が制定され、国や自治体の責務が示されました。地域の交通に関しては自治体が中心となって、事業者や警察、住民など幅広く連携することや、まちづくりと交通網の整備を一体で行うことなどが定められています。自治体の役割が非常に大きくなる一方、これまで地域の公共交通は民間事業者に頼りきっていたため、自治体は交通事業を進めるノウハウを持っていません(図表10)。担当者の人数を見ても、都市圏は多いものの、地方圏は少ない状況が明らかです。担当者が1人しかいない自治体も多く存在しています。実は自治体の職員は、3年もしくは5年に1度人事異動があるため、長く同じ職場にとどまることができません。専門家を育てていくことは非常に難しいのが現状です。
 ノウハウを持っていないと民間事業者との調整が非常に難しくなります(図表11)。交通政策基本法では、自治体に対して、関係者によって組織される協議会を設置し、計画を策定することを求めていますが、民間事業者が同意しない場合は議論を進めることができません。今後、自治体の交通担当者は、民間事業者との調整能力が問われるようになります。こうした現状に鑑みると、交通事業を直接運営してきた私達の経験は非常に貴重だと感じます。大阪市は、路線の設置・撤退や財源の確保など、民間事業者と同じように交通事業を運営することができます。自治体の公営交通事業を廃止することは、そのノウハウや知見、経験すべてを破棄してしまうことです。公営交通事業を運営するノウハウを他の自治体と共有し、知見を高めていくことがこれからは求められると思います。
 自治体職員は、公営交通事業に限らず、住民ニーズを汲み取るノウハウを持っています。ごみ収集の方は、それぞれの家庭をまわってごみを収集しています。生活保護を受けている方への訪問活動などを行っている職員もいます。自治体には住民ニーズがデータとして豊富に蓄積されているのです。公営交通事業は、そうした蓄積されたデータも活用しながら、地域住民のためになる施策を講じることができます。公営交通事業のノウハウはこれからの自治体にとって欠かせないものだと私は考えています。

図表10 自治体の公共交通担当部署、配置人員

図表11 自治体の交通政策の問題点

6.最後に

 地域の公共交通は住民のくらしにとって欠かせないものです。都市圏で生活していると当たり前のように感じられるかも知れませんが、路線バスが30分に1本、1時間に1本運行されていて、そのバスを利用しないと病院や買い物に行けない地域がたくさんあります。高齢化が進むとマイカーを持っていなかったり、免許を返納していたり、あるいは、近くにマイカーを持っている家族や親戚がいなかったりする方も多くなるでしょう。暮らしと交通は密接な関係にあり、地域から公共交通をなくすことは、その地域に暮らし続けられるかどうかに関わる重要な課題だと受け止めています。教育や医療、福祉などと同様に、公共交通サービスの提供にも自治体が主体的に関わるべきではないでしょうか。自治労も、その橋渡しに貢献していく必要があると考えています。自治労は全国の自治体職員のネットワークを活かし、地域公共サービスに関する様々な研究を行っています。労働組合が中心となって、こうした取り組みに関わっていくことが重要です。
 自治労は、誰もが地域で安心して暮らし続けることができる社会の実現をめざしています。自治体で働くことだけでなく、公共サービスとは何か、その役割をしっかりと考え、住民の暮らしをもっと豊かにするため、使命感をもって取り組みを進めています。公共サービスに直接関わる労働組合の社会的責務として、住民ニーズを汲み取り、その地域の暮らしに役立てていきたいと思います。「共生と連帯に基づく持続可能な社会の実現を目指す」ことが自治労のスローガンですので、このスローガンに基づいて引き続き取り組みを進めて参ります。
 これから社会へ出る皆さんに向けて、自治体の職員になるということは、生活の安定・安心を得るためだけでなく、住民や社会、地域の活性化に役立つことができるということです。そのことは是非覚えておいていただきたいと思います。
 京都市では現在、観光客が増えすぎて、市営バスが住民のくらしに役立てられていない状況が生じています。その点は私達も課題として受け止めており、交通局とも交渉を行っています。自分達の労働条件だけではなく、住民の立場で考えて交渉することも私達の役割です。市営バスの運転手を見かけた際は、本日の話を少し思い出していただけると嬉しく思います。ありがとうございました。

以 上

ページトップへ

戻る