同志社大学「連合寄付講座」

2015年度「働くということ-現代の労働組合」

第5回(5/15

「地域で雇用と生活を守る取り組み」
~春闘・労働政策・政策課題を中心に~

ゲストスピーカー:井尻 雅之 連合大阪 副事務局長

 皆さん、こんにちは。連合大阪で政策担当をしています井尻と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
学生である皆さんに労働組合と言っても、すぐにイメージできないと思います。また、実際に皆さんが就職した後で労働運動に携わることはそれほど多くないと思います。
 簡単に言うと、日本の労働組合は、[1]企業ごとの労働組合からなる「企業別労働組合(単組)」、[2]各産業・業種別の労働組合で構成される「産業別労働組合(産別)」、[2]産業別労働組合の集合体で構成される「ナショナルセンター」の三層構造になっており、それぞれの果たす役割が違っています。
 本日の講義では、まず簡単にナショナルセンターである連合の主な取組みを紹介し、次に地方連合会とその1つである連合大阪の主な取組みを説明させて頂きます。

1.連合の取り組み

 連合の取り組みとして、「組織強化に関する取り組み」、「雇用・労働に関する取り組み」、「政策実現に関する取り組み」の3つについて説明いたします。

(1)連合の「組織強化に関する取り組み」

 まず、「組織強化に関する取り組み」では、「1000万連合に向けた取り組み」と「非正規労働者への対応」「男女平等参画の推進」の3つの柱があります

[1]1000万連合に向けた取り組みについて
 連合は「1000万実現連合プラン」を掲げ、組合員を増やす取り組みを推進しています。組合員が増えれば増えるほど、連合の取り組みを進めていく上で、社会的にも政治的にも影響力が増し、力となります。そのために連合は、現在の組合員数である684万人から2020年には、1,000万人をめざして取り組んでいるわけです。ただ生産年齢人口や労働力人口が減少している中で、大変難しい課題といえるかもしれません。

[2]非正規労働者への対応について
 現在、労働者には、正規労働者に加え、有期契約やパート、派遣等で働く非正規労働者がいます。また、2012年の就業構造統計調査によると、非正規労働者は2,000万人を超え、そのうち年収200万円以下の者は1,100万人超となっています。現在、正規雇用労働者と非正規労働者との処遇格差が問題となっており、その是正に向けて、連合は非正規労働者の組織化や非正規労働者に関するワークルールの整備などに取り組んでいます。

[3]男女平等参画の推進について
 男女平等参画は世界的に取り組まれている課題です。しかし、依然として女性が働く職場には、男女間格差など様々な問題が残されています。現在、連合は2013年に取りまとめた「第4次男女平等参画推進計画」に沿って取り組んでいます。

(2)連合の「雇用・労働に関する取り組み」

 連合の2つ目の大きな取り組みである「雇用・労働に関する取り組み」には、「春季生活闘争」と「労働規制緩和への対応」の2つを紹介します。

[1]春季生活闘争(春闘)について
 春になると新聞やテレビで春闘に関する報道がなされます。今年で春闘は60年目を迎えました。春闘に取り組む理由として、労働条件の向上と生活改善です。その交渉をそれぞれの企業別労働組合が単独で会社側と賃上げを交渉してもなかなか難しいことから、例えば各産業の労働組合が集まって、統一して要求し、交渉力を高めることなどが挙げられます。
 バブルが崩壊し、「失われた20年」と言われるように、この間ずっと、労働者は、賃金が下がり続け、生活に苦しんできました。そして昨年、厳しい状況にも関わらず、消費税率が引き上げられ、物価も上昇してきました。このまま賃金が上がらないと社会の安定や内需拡大にも悪影響を与えると懸念された中で、この春に15年ぶりに2%台の賃上げを確保できたことは、やはり春闘のおかげだと考えています。

[2]労働規制緩和への対応について
 最近、「労働者派遣法の改正」や「残業代ゼロ法案」について新聞で取り上げられています。国会で審議されている「労働者派遣法の改正」が、今後どのように決着するか分かりませんが、政府は「人を変えれば1つの業務をずっと派遣労働者に任せても良い」と考えています。派遣労働者がずっとそのままであれば、生涯派遣で低賃金であり、格差は解消しません。こうしたことから労働法制の緩和改悪阻止への対応が求められています。

(3)連合の「政策実現に関する取り組み」について

 3つ目の大きな取り組みは、雇用・労働法制や社会保障制度などの「政策実現に関する取り組み」です。
 社会保障や税制などの政策は私たちの生活と密接に関わっていますが、企業・職場の労使交渉だけでは解決できません。このため連合は政策を決定する国などに対し、働く者・生活者の立場から意見反映を行うとともに、社会的な運動として世論形成をはかっています。また、政策実現力を高めるために、働く者の立場に立った政治勢力の拡大に努めるとともに、国際労働団体との連携など志を同じくする多様な団体や各級議員とも連携しています。

2.雇用・労働環境について

 続いて、「雇用・労働の取り組み」については、今回の講義のテーマであるので、現状も丁寧に確認しておきたいと思います。

(1)人口構造の急速な変化

わが国では、2005年から人口が減少をはじめ、生産年齢人口(15~64歳)も減っていくとみられています。さらに、2012年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した「人口の将来推計人口(出生中位・死亡中位)」によると、2060年には、生まれる子どもの数は現在の約5割、高齢化率は現在の約2倍になると予測されています(図表1参照)。

【図表1】

(2)失業率の推移

 現在、失業率は改善傾向にあり、直近の失業率は3.4%まで下がっています。ただし、就業者数は増加しているものの、その内訳は、正規労働者の増加ではなく、非正規労働者が増えていることに注意しなければなりません。つまり雇用の質が良くなっていないことが問題です。

(3)若年層の失業率

 最近の新聞記事によると、若年層の失業率はだいぶ改善されてきました。ただ、もともと失業率の低い日本において、未だに15~24歳の若年層の失業率は8%台で高止まりしており、決して楽観視できる状況ではありません(図表2参照)。
 やはり若い時に就業を通じて十分なスキルを身につけることが重要でこの機会が少ないと、生産性は向上しないため、若年層向けの教育訓練・能力開発はとても大事だと思います。

【図表2】

(4)初職時の非正規率の割合・推移

 初職就業時期における非正規労働者の占有率をみると、「昭和62年~平成4年(1987年~1992年)」は10.8%でしたが、「平成19年~平成24年(2007年~2112年)」は38.6%と大幅に増えました(図表3参照)。
 学校卒業時に失業率が高く、正規労働者として就職できなかった場合、その影響は入社後も続くという先行研究結果もあり、非常に大きい問題だと指摘されています。
 先ほど大切だと申し上げた若い時の能力開発は若年層の失業率の改善だけでなく、非正規労働者の生産性向上やスキルアップにもつながります。

【図表3】初職時の非正規率の推移

(5)正規・非正規労働者の推移

 1995年から2012年までの正規労働者・非正規労働者数の推移をみると正規労働者が439万人減少した一方で、非正規労働者は812万人増加しました(図表4参照)。
 その原因の1つとして、第3次産業の就業者が増加するなどといった産業構造の変化と労働者派遣法の改正などが考えられます。1980年代の製造業の就業者率は約25%でしたが、2012年では約17%まで下がっています。一方、サービス業の就業者率は、1980年代には19%でしたが、2012年には34%とほぼ倍増しました。そして、事務職については、今や派遣といった非正規労働者社員に置き換わっている傾向があります。

【図表4】

(6)非正規労働者の課題

 非正規労働者には、雇用が不安定である、賃金が低い、能力開発の機会が乏しい、セーフティネットが不十分であるといった問題があります。加えて、いったん非正規労働者として働くと、その後も安定した仕事に就くことが困難になる傾向があります。

(7)所得格差の拡大

 こうした雇用形態の変化は所得格差の拡大を生み、厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」によると、相対的貧困率は、2012年に16.1%と、約6人に1人が貧困層となっています(図表5参照)。また、子どもの貧困率も16.3%に達しています。
 また2012年には、生活保護を161.8万世帯・216.9万人が受給しており、過去最高の水準となっています。さらに「貯蓄ゼロ世帯」をみると、1987年には3.3%でしたが、2013年には30%に達しています。
 こうした状況をみると、日本の社会は本当に傷んだ社会になっているのではないかと思います。

【図表5】

(8)個別労働紛争相談件数及び主な相談・紛争の動向

 厚生労働者が公表した労働相談件数をみると、5年連続で100万件を超えています(図表6参照)。その背景には、解雇やいじめ・いやがらせ等の問題があります。最近、特にいじめ・いやがらせが大幅に増加し、2012年度(平成24年度)には相談件数でトップになっています(図表7参照)。

【図表6】

(出所)厚生労働省「平成24年度個別労働紛争解決制度施行状況」より

【図表7】

3.地域における雇用対策について

 地方連合会はその役割として、「春季生活闘争の取り組み」と「労働政策の取り組み」、「政策・制度実現の取り組み」の3つがあります。

(1)春季生活闘争の取り組み

 春闘については、「賃上げ」「時短」「政策・制度実現の取り組み」を闘争方針の3本柱として取り組んでいます。
 「賃上げ」については、すべての組合が月例賃金の引き上げにこだわり、波及力を発揮することで、社会全体の底上げ・底支えや格差是正の実現を通じ、デフレからの脱却と経済の好循環をめざしています。
 「時短」については、労働安全衛生面や健康確保はもとより、長時間労働の撲滅に向けて、あらゆる対応を行い、ワーク・ライフ・バランス社会の実現をめざすこととしています。
「政策・制度実現の取り組み」では、賃金・労働条件のみならず、働く者の実質生活の改善につながるよう、問題解決をはかることとしています。

 また、連合の方針に基づいて、地方連合会では課題対策として[1]「経済の好循環の起点となる賃上げ」、[2]「非正規労働者のディーセント・ワーク、均等処遇の実現」、[3]「中小・地場の活力向上」、[4]「長時間労働撲滅でワーク・ライフ・バランス社会の実現」を掲げています。

 特に、連合大阪としては、[3]に関する中小企業向けの取り組みに最も力を入れていきたいと考えています。日本の労働者の約7割が働く中小企業が成長して初めて、地域の活性化がはかられ、日本の社会全体も良くなると思います。特に中小企業と大手企業との不公平な取引関係は、中小企業の成長にとって大きな障害になるため、取引関係の公平性をはかることは急務だと思います。そのため、現在、連合はホットラインを設けて、相談があれば必要に応じ、連合から公正取引委員会に通報するといった取り組みを行っています。

 次に、先ほど簡単に触れた賃上げについて、もう少し詳しく説明したいと思います。
 賃金の引き上げについて、連合は2%以上の賃上げを求めており、定期昇給分と合わせると4%以上になります。定期昇給とベースアップの違いは、定期昇給が年齢とともに賃金表通りに賃金が上がっていくのに対して、ベースアップは労使交渉を通じて賃金表そのものを書き変え、本来もらえるはずの賃金額より高い賃金をもらえるようにすることです。
 また、中小企業労組では、共同で全体の底上げを図ろうとする「中小共闘」という取り組みが展開しています。
 さらにパート・アルバイトについては、中小共闘の賃金引上げ要求を時給に換算することによって、処遇改善をはかっています。
 あわせて、世論喚起のため、連合大阪は経営者団体や経済団体である関西経済連合会や中小企業団体中央会等に「全体の底上げ」や「非正規との格差是正」に関する要請行動等を行っています。
 加えて、連合大阪では、「賃金実態調査」を行い、その結果に基づき、大阪の「地域ミニマム額」と到達すべき「水準目標額」を策定しています。例えば、18歳では集計した118人の賃金データに基づき、地域ミニマム額を162,000円、水準目標額を163,000円としていますが、その到達にはまだ遠いようです(図表8)。こうして策定した大阪における賃金水準を中小企業の労働組合に示し、各組合の交渉材料として使えるよう情報開示を行っています。

 こうした取り組みを通じて、今春闘の成果としては、賃上げが昨年の2.18%、6,381円の引き上げから、2.24%、6,670円の引き上げとなりました。1990年ごろまでの賃上げ率は5%近くでしたが、その後ずっと下がり続け、昨年ようやく15年ぶりに2%台に戻りました。今年もその勢いに乗って、更なる賃上げを実現することができました。

【図表8】

【全産業調査データに対する2015「地域ミニマム額」・「水準目標額」の未達成率】
年齢 全産業
男女計
(人数)
2015
連合大阪
地域ミニマム額
(第1十分位)
左額未満 2015
連合大阪
到達すべき
水準目標額
(第1四分位)
左額未満
人数 人数
18歳 118 162,000円 39 33.05% 163,000円 39 33.05%
20歳 188 168,000円 16 8.51% 172,000円 86 45.74%
25歳 507 189,000円 28 5.52% 198,000円 57 11.24%
30歳 469 209,000円 36 7.68% 223,000円 102 21.75%
35歳 545 228,000円 65 11.93% 248,000円 143 26.24%
40歳 668 245,000円 120 17.96% 271,000円 248 37.13%
45歳 433 259,000円 71 16.40% 290,000円 160 36.95%
50歳 265 270,000円 69 26.03% 304,000円 104 39.25%
55歳 214 276,000円 41 19.16% 312,000円 79 36.92%

(2)労働政策の取り組み

 労働政策の取り組みの1つに、アルバイト等でお馴染みの最低賃金に関する取り組みがあります。その引き上げは春闘の取り組みと連動しています。春闘の賃上げ結果は最低賃金改定の指標となる政府統計の賃金改定状況調査に反映されます。そして、その調査結果が地域の最低賃金額の目安となり、審議に影響を与える仕組みになっています。こうした状況を考えると、正規雇用、非正規雇用にかかわらず、地域すべての労働者が春闘の恩恵を受けているともいえます。
 大阪府における2013年(平成25年)の最低賃金は819円で、これまで819円より安い賃金で働いていた労働者178,000人が対象となり、直接引き上げられることになりました(図表9)。最低賃金に関する取り組みを通じ、格差是正や賃金の底支えを行っています。

【図表9】

 日本と海外の最低賃金を比較すると、日本は全国平均764円、フランスは1,314円、イギリスは1,080円、アメリカは州によって違いますが各州平均で816円となっています。世界的にみて、日本の最低賃金の低いことが分かっていただけると思います。こうした状況から、連合は最低賃金をより一層引き上げていきたいと考えています。
 しかし、最低賃金をはじめ、賃金が高ければ高いほど良いわけではありません。仮に会社が賃金を負担できずに倒産したら、どうしようもありませんので、会社の適正な利益や生産性も考慮に入れなければなりません。そのため最低賃金審議会では、[1]労働者の生計費、[2]労働者の賃金、[3]通常の支払い能力を総合的に鑑みて最低賃金の水準を決めるという仕組みをとっています。
 次に、労働者保護ルールの取り組みについて簡単に話をさせていただきます。ここで皆さんにご理解いただきたいことは、「労働は商品ではない」「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」ということです。これらは、1944年にフィラデルフィアで開催されたILO(国際労働機関)総会で宣言・採択された「フィラデルフィア宣言」にある代表的な言葉です。日本は、就業者の9割近くを雇用者が占める雇用社会です。日本経済を再生させるためには、働く者の「雇用の安定」と「処遇改善」をはかることが最も重要です。連合は、労働者保護ルールの改悪に反対し、労働者保護強化の実現に向けて、世論喚起に向けた取り組みを全力で展開しています。

(3)政策・制度実現の取り組み

 連合大阪における政策・制度の実現の取り組みでは、「働くことを軸とする安心社会の実現」に向けて、6つの「柱」をたてて、約60の要請項目を掲げ、大阪府に要望、意見反映を行っています。(図表10)。府域の基礎自治体にも要請し、連合の推薦する自治体議員との意見交換や働きかけで予算措置を要望しています。
 例えば、2011年10月14日に関西経済連合会と連合大阪は、大阪労使会議を開き、大阪の行政と経済界、労働団体が一体となって運営する総合就業支援拠点「ジョブパーク」の設置を検討することで合意し、大阪雇用対策会議という公労使で構成する会議体で提言し、2013年9月に「OSAKAしごとフィールド」が開設されました。

【図表10】

 最後に、公契約条例化に関する取り組みです。公共事業を行うときに、各社が競争入札し、予定価格内で最も安い金額で入札をした企業が落札します。しかし、入札価格が低すぎると、人件費にしわ寄せがくるなど、そこで働く労働者の労働条件が損なわれる恐れがあります。そのため一定の水準の入札価格を確保する必要があります。
 こうしたことから、受発注者の責任や公契約の下で働く人の適正な賃金水準、労働条件の確保などを盛り込んだ公契約条例化に向け、連合は政府、自治体、政党、関係省庁や経営団体に要請を行い、また地方連合会でも自治体議員を交えて学習会を開催しています。

最後に

 今日の講義を通じて、皆さんに理解いただきたいことは、労働組合があったからこそ、会社と交渉ができ、協定を結ぶことができ、それによって組合員の雇用と生活が守られているということです。やはり地道に労働者、組合員としっかりと議論し、歩み続けていくしか、労働組合の求心力は高まらないと思います。取り組みの紹介が中心となりましたが以上とさせて頂きます。

以 上

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