同志社大学「連合寄付講座」

2013年度「働くということ-現代の労働組合」

第8回(6/7

【公正・公平な職場をつくる[1]】男女が共に働きやすい職場づくりに向けた取り組み

ゲストスピーカー:久田 江里奈 朝日生命労働組合中央執行委員

こんにちは。朝日生命労働組合中央執行委員の久田です。本日はよろしくお願いします。

1.生保労連について

 生保労連の正式名称は全国生命保険労働組合連合会といいます。生命保険会社は営業職・内勤職に分かれていることが多いです。お客さまに保険を直接売る人達が営業職で、そして総合職・一般職といわれるのが内勤職と考えていただければと思います。かつては両者の働き方が違うことから、営業職・内勤職で別々の産業別労働組合を作っていましたが、1969年に同じ生保産業で働く者同士が1つになりました。組合員のほとんどを営業職が占めていて、その多くが女性です。生命保険会社43社のうち16社の組合が生保労連に加盟しています。生保労連未加盟の生命保険会社には、例えば、損害保険会社の子会社で損保の組合に加盟している損保系生命保険会社や、労働組合がない外資系生保会社、日本郵政グループ労働組合(JP労組)に加盟しているかんぽ生命があります。生保労連には、昔から日本にある生保会社の組合と、外資と統合した生保会社等の組合が加盟しています。
 生保労連は基本目標と5つの行動理念にもとづき活動しています。そして、結成40周年を機に、今後10年の活動の方向性を示したNEWチャレンジ宣言をとりまとめています。
 続いて、毎年、定期大会で決定する運動方針で、次年度の活動を決定しています。2012年度運動方針では4つの柱として、[1]生保産業の社会的使命の達成、[2]総合的な労働条件の改善・向上、[3]組織の強化・拡大、[4]生保産業と営業職員の社会的理解の拡大を掲げています。
 生保労連の大きな役割の1つとして、各社の労働組合だけでは国や政府に対し意見等を述べても実現が難しい課題について産業別労働組合である生保労連が代表して働きかけ等を行うことがあります。例えば、生命保険に加入していると生命保険料控除という少し税金が安くなる仕組みがあります。国はその控除額をもっと減らしたいと考えています。逆に、社会保障を補完するという生命保険が果たす重要な役割を踏まえ、生保労連では控除額を一層拡充してほしいと国や行政等の関係先に働きかけをしています。

2.「男女共同参画」とその必要性

 本日のテーマである「男女共同参画」とは、1つは男女がお互いを尊重して、1人ひとりが尊厳を持って生きること、もう1つは責任の分かち合いを通じて、性別にかかわりなく、個性と能力を発揮することです。簡単にいえば、性別にかかわらず、分担は個性や能力に応じてやっていけば良いのだと理解してください。
 どうして男女共同参画が必要かを大きく4つの観点から見ていきたいと思います。
 まず、社会からの観点です。日本の人口は減少しています。そして、20~64歳の現役世代と65歳以上の方の割合をみると、60年前は現役世代10人に対して65歳以上1人という割合でした。同様に割合をみると、2010年では2.6人に1人、50年後には1.1人に1人になると見込まれています。ただ人数が減っていくだけでなく、働く人とそうでない人のバランスも大きく変わります。この割合は、女性の働き手が少ないことを前提に試算されており、今後、女性の就業継続が出来るようにしていく必要があるといえます。
 2つ目は働く者からの観点です。女性の就業継続と男性の家庭・地域への参画の拡大によって、男女ともにワーク・ライフ・バランスの実現をできるようにするためです。そのためには、これまでのように夜遅くまで働いてくれる男性に頼ることを見直していかなければなりませんし、その見直しを意識してやる必要があります。
 3つ目は企業からの観点です。国内外ともに競争が激化する中で、競争に勝ち抜いていくためには多様な能力や価値観が必要になります。例えば、女性が買う物は女性が作る方が売れるということがあります。このように女性の感覚を取り入れることは企業にとっても重要なことになります。
 最後の4つ目は、労働組合からの観点です。女性が労働組合の活動に参入することで女性の視点が意見に反映され、組合の運営や活力、共感の持てる組織づくりが進みます。
 こうしたことから男女共同参画を意識的にやっていく必要があると思います。

3.生保労連の「男女共同参画」に向けた取り組み

 生保労連では男女共同参画の取組みを職場と組合活動に分けて推進しています。
 職場における女性参画の推進として、男女がともに安心と働きがいのもてる職場をつくるという考えの下、「直接差別・間接差別の解消とポジティブ・アクションの推進」「コース別雇用管理制度の適正な運営」「育児・介護支援の充実」「セクハラ・パワハラの解消」に取り組んでいます。2つ目の「コース別雇用管理制度の適正な運営」とは総合職と一般職の差が合理的かどうかを見ていくことです。
 組合活動への女性参画の推進では、各職場・職種の女性の声を組合活動に一層反映させていこうとしています。現在、どの程度取組みが進んでいるかというと、実は男女参画はあまり進んでいません。2012年度では、各生保の組合の本部役員は約300人位いますが、その中で女性は60人弱と、2割に達していません。また、生保労連本部をみると、2010年度~2011年度の2年間で女性役員はいませんでした。2012年度からは私を含めて3人になりました。私たちの意見を通じて女性の意見を取り入れようとしています。
 しかし、実際になぜ組合活動への女性参画が進んでいないのでしょうか。これには大きく3つの理由があると考えています。1つ目は、女性参画を推進する計画や目標がないことや、組合活動が女性になじまなかったことです。2つ目は女性を巡る現状です。家庭と仕事を両立するだけでもとても大変なのに、それに組合活動が加わるのはとても無理だと女性が引いてしまうことがあります。3つ目は「組合役員は男性」という意識が根強く残っていることです。こうした課題を解決するために、生保労連では、「『組合活動への女性参画』の着実な前進に向けた中期取り組み方針」を策定しました。
 具体的な課題としては、1つ目は意見交換の場等を設け女性自身が組合活動に参加しやすい環境をつくっていくことです。2つ目は会議への女性の参画を積極的に進めていくことです。3つ目は女性組合役員の積極的な登用です。同じ女性でも一般職と総合職,また営業職員と内勤職員では意見が違ったりしますので、バランスを取って積極的に登用していくこととています。4つ目は女性組合役員が活躍できる職場づくりです。例えば会議を禁煙にしたり、夜中まで議論していた会議を定時に終わらせたりしています。
 そして期限付きの目標が2つあります。1つは2013年8月までに各組合で女性組合役員を1名ずつ増やすことと、もう1つは生保労連全体として本部女性組合役員の割合の30%にすることです。
 また、今年度の生保労連の活動として、男女共同参画セミナー、いきいきCafe、女性組合役員交流会の開催や連合の集会への参加などがあります。

4.朝日生命・朝日生命労働組合の概要

 ここからは、私が所属する朝日生命と朝日生命労働組合について簡単に紹介したいと思います。会社の従業員数は約17,000名で、その内14,632名が女性です。朝日生命だけでなく他社も同様で、大体8割くらいが営業職員です。また、女性総合職は私が入社した時よりも増えて93名となっています。
 かつて朝日生命は営業職と内勤職の労働組合に分かれていました。その頃を含めると今年で125周年です。そして朝日生命労働組合として2つの組合が1つになってから12年が経ちます。基本的にユニオンショップ制ですが、経営に関わる方は組合員ではなくなりますので、組合員数は従業員数より若干少なくなります。

5.朝日労組がめざすもの

 朝日労組は「組合員の幸せの実現」というスローガンに基づいて、2012年度運動方針に次の5つの柱を立て活動しています。1つ目の「総合的な労働条件の維持・向上」では、会社が進める方針や制度設計について組合が組合員に丁寧に説明したり、逆に従業員側から会社に提言をしたりします。2つ目の「活力あふれる働きやすい職場づくり」には、ワーク・ライフ・バランスの実現や女性の活躍推進などを包含しています。3つ目の「経営に対するチェック機能の強化」では、会社の健全性や計画通りに進んでいるかをチェックしたり、会社に提言をしたりしています。4つ目は「さらなる組織力の強化」です。5つ目は「生保労連・友誼団体との連携強化」です。
 様々な課題を解決していくためには、労使が対等な存在として誠実に向き合うことが必要不可欠です。経営側からみて、組合は我々経営よりも現場の事をよく知っていて現場の声をしっかり拾ってくれているから、物事を考える時に非常に助かる存在であると思われなければなりません。そのためには組合員との結びつきが絶対に重要になります。組合本部役員は現場の人から声を集めて、それを経営にぶつけるのが仕事になります。組合が存在感をだすには、組合の置かれている現状・現場をよく知っていることが絶対条件になります。

6.朝日労組の組織、年間活動スケジュールと会社との協議

 朝日労組の組織は、会社の営業所、支社、本社と対になって班、支部、本部となっています。各班では、現場の意見を集約する班会議を1カ月に1回の割合でそれぞれの地域でやっています。支部では支部執行委員会を1カ月に1回開催しており、班から出てきた意見をまとめ、本部に伝えています。支部と支社の関係は、現地の組合と会社のやり取りといえます。現地ならではの問題をその場で解決してもらいます。現地で話し合って解決できない場合は本部と本社のやり取りになります。それから、定期全国大会が年に2回あり、全国から集まってもらい、本部に対する要望を聞いたり、我々の方から情報を伝えたりします。
 年間活動スケジュールでは、春闘がメインになります。9月の委員長会議から意見集約の機会を設け、本部からも各地の支部に行って意見集約を行います。そして、1月の全国大会等で会社に要求する内容を決めて、春闘がはじまります。この他にもオルグ活動等を実施しています。
 次に、会社と協議の仕方について説明します。まず現場で起こっている事実や組合員の考えを本部に集約します。それを会社全体・お客さま視点から協議会や懇談会などで会社と意見交換を行い、組合・会社間で課題を共有します。その上で会社から課題解決に向けた提案がだされ、それに対して組合が意見を述べて、必要に応じて会社が修正します。実際に制度の改正や見直しにあたって、改善点があれば初めに戻って協議し直します。これが機能すると会社が良くなり、会社の業績が上がると組合員の給料も上がっていきます。このサイクルは非常に重要なサイクルです。

7.女性の活躍推進に向けた取り組み

 今は女性の活躍推進だけではなく、男性の働き方もワーク・ライフ・バランスに含めた様々な活動をしています。実際には、人事制度の改正があれば協議したり、「女性の活躍推進委員会」に関する報告を行ったり、オルグやアンケートを通じた意見集約をしたり、協議会を通じて会社へ意見を述べたりしています。過去にも春闘で女性の活躍推進について取り組み、子育て中の女性が通常の有休よりも多い有休(看護休暇)をとれるように要求し勝ち取ったことがあります。

8.「朝日生命ポジティブ・アクション」とその推進体制

 「朝日生命ポジティブ・アクション」の目的は、お客さまサービスの向上・生産性向上による企業価値の増大です。そのためにキャリア開発、チャレンジ支援、ワーク・ライフ・バランスの推進の3つの視点から取り組んでいます。具体的には、2006年から坂東真理子氏監修の元、社長を委員長、女性職員を委員とする「女性の活躍推進委員会」を立ち上げました。ここでは実際に様々な視点から意見を出し合ってプランを作り、推進にあたって3年ごとに具体的な数値目標を決めて進めていこうとしています。

9.「朝日生命ポジティブ・アクション」これまでの取り組みと成果、今後の検討課題

 第1期(2006~2008年度)では、3年間かけて仕事と家庭の両立支援関係の制度を充実させることと、その制度を利用しやすい環境を作っていくこととしました。取り組みの成果として、育児休業期間の拡大があります。さらに、総合職に対しても仕事と育児を両立できる範囲での異動を考慮するとの宣言を人事部にさせたことが、ポジティブ・アクションに関する取り組みの成果の1つです。
 第I期(2009~2011年度)では、朝日生命ポジティブ・アクションの浸透・定着とキャリアアップのための環境を整えました。キャリアアップをめざす女性がなかなか増えないのですが、それでも3年間かけて少しずつ浸透させてきました。その結果、女性管理職数が増えました。具体的には女性管理職数は22人から151人に増加し、女性総合職採用占率も6.3%から17.3%にアップしています。

10.「朝日生命ポジティブ・アクション」現在の取り組み

 朝日生命ポジティブ・アクションの目的が会社の企業価値の増大ですので、会社の生産性向上に貢献するところまで持っていくことが現在の目標です。ただ、取り組んでいるにも関わらず、なかなか進まないこともあります。ポジティブ・アクションに関する職員の意識調査を行いました。その結果をみると、男女ともに理解が進み、制度も充実し、男女ともに評価や扱いに対して不満が見られないということがわかりました。一方で多くの女性が、相談相手がいないと認識していることがわかりました。皆さんが会社にはいったら、普段から多くの人とコミュニケーションをとるようにしてください。そして、遠くにいる女性をアドバイザーにするよりも身近にいる男性に相談する方が普段の自分の状況を知っているため上手くいく場合もあります。それから、エリア総合職において、新たな職務・職場へのチャレンジに対する慎重な姿勢が見られます。また、男性から見て女性の上司が少しずつ増えてきていることについて、男性職員がどう感じているかをみると、男性職員は特に抵抗を感じていないようです。ただし、残念ながら管理職になりたいという女性が少ないという課題があります。

11.組合活動における女性参画(効果・メリット・現状)

 男性組合役員だけだと、女性に配慮しているけれども足りないという事態が生じます。そうしたことは、女性が組合活動に参画することによって女性の意見を拾って反映しやすくします。意見は一人よりも複数で主張する方が、当然効果があります。
 実際に人数はどうなっているのかというと、朝日生命でも組合の女性役員は大体2割くらいでずっと推移しています。課題であり、求められていることと思っています。

12.最後に

 皆さんにとって、実際に会社で1日何をしているのかきっと想像がつかないと思います。様々な経験をしている方からお話を聞くことも必要だと思いますが、百聞は一見にしかずで、自分で経験してみるのが最も早いと思います。いざ入社してみて、期待していたのと違っていたり思ったよりも面白かったり、こればかりはわかりません。ただ、皆さんには長い目で見てもらいたいと思います。自分の理想と現実のギャップはどこに行ってもあるので、自分が活躍してそれを埋めるくらいの気持ちで働きに行くと、やりがいや充実感を持って仕事ができるのではないかと思います。
 そして、最近、必要とされる人間であり続けることはとても幸せだと思います。入社後どうしてこんなことをやらされているのかと思うこともありますが、その中で様々な経験を積むことができたり、間違いなく自分の成長につながることもあるので、根気よくやってもらいたいと思います。
 あと一つ、最近、心の病になってしまう方が多いです。話を聞いてくれる人を常にキープしておくことは非常に大事です。学生時代の友人や会社に入ってからの自分の状況を一番わかってくれる人を話し相手に常にキープしておくようにしてください。そうしたことを踏まえて、就活をがんばってもらえればと思います。以上です。

以 上

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