同志社大学「連合寄付講座」

2011年度「働くということ-現代の労働組合」

第9回(6/10

ケーススタディ(7) 地域を繋ぐ取り組み
―ローカルセンターの事例―

多賀雅彦(連合大阪事務局長)

はじめに

 本日は、労組・連合・地方連合会の役割と地域を繋ぐことの意義についてお話しした後、ローカルセンターが実際にどのような活動を担っているのかについてご紹介していきたいと思います。

1.労働組合・連合について

(1)労働組合の組織について

 まず、労働組合の組織について説明します。図表1は組合の組織図です。労働組合では、よく「縦と横」という言葉を使うのですが、まず「縦」についてお話します。真ん中に「連合とありますが、これが労働組合のナショナルセンターです。その下に、54の産業別労働組合があります。そして、その下に単組と呼ばれる企業別組合があります。この連合、産別、単組と言う流れを「縦」のラインと呼んでいます。

図表 1

(2)労働組合それぞれの役割

[1]単組(企業別労働組合)

 企業別労働組合(単組)とは、企業内にある労働組合のことを言います。運営が企業単位のため、きめ細かい世話役活動や企業経営の動きにも迅速に対応できます。その一方で、会社の都合や企業間競争の影響を受けやすく、活動が企業の枠内に留まり、企業の枠を越えた社会的な連帯という面での影響力が弱いともいわれています。また、日本において単組は、労働組合の基礎的な組織であるといえます。

[2]産別(産業別労働組合)

 同一産業分野での単組の結集体が産業別労働組合です。特徴は、組織力・交渉力など外部への影響力が強い事があげられます。また、産業別組織の統一賃金要求をまとめて単組の賃金交渉を支援したり、産業政策を確立・推進するなど、企業レベルを越えた活動ができることも産業別組織の特徴としてあげられます。

[3]連合

 産業別組織の連合体が日本労働組合総連合(連合)であり、労働組合の基本的・大局的な方針の提示や、主要活動の全国展開をしています。組合員は約680万人を有しています。
 この縦のラインに加えて、連合から地方連合会へ、地方連合会から地域協議会へ、そして、地域協議会から地区協議会へと繋がっている横のラインがあります。私が所属している連合大阪は、この横のラインの一つになります。何を組織しているのかと言いますと、産業別組合の地域組織(例えば連合大阪なら、電機連合の大阪地方協議会等)で構成されており、各都道府県に1つ、47組織存在します。

(3)地方連合会の5つの役割

 地方連合会がどのような役割を担っているかですが、大きく5点に整理できます。1点目は中小・地場企業での組織化や地域ユニオンによる組織化など、組織拡大の取り組みをおこなっています。2点目ですが、産業別組織は同一企業分野での結集体と申し上げましたが、地方組織を網羅的に作れていない部分も存在します。そのような、地方組織がない産業別組織に所属されている単組や中小零細、地場単組の支援をおこなうことも役割の一つにあげられます。3点目としては、政策・制度について都道府県レベルでの実現をめざすため、地域における実現指導や支援をおこなっています。4点目としては、労働組合単独ではなく労働者福祉協議会(全国労働団体と労働福祉事業団体の連絡協議会)やNPO等と連携し、地域における社会参加活動を推進しています。5点目は、政治活動の取り組みです。労働者の声、政策・制度要求を訴えるためには、政治は欠かせない要素となってきます。そのため、地方連合会は政治センターというものを設置し、労働者の諸課題の解決に向け、ともに行動いただける政治家の後押しを各地方でおこない、各級の議員を増やす努力をしています。以上の5点が地方連合会の役割として挙げられます。
 上記の5点を中心に地方連合会は活動をしていることをお話ししました。ちなみに、東京大学の中村圭介先生が書かれた『地域を繋ぐ』という本の中で、「日本の労働組合内部で静かな革命が始まった。それに気づいている人はほとんどいないと思う」という一文があります。中村先生は、連合が明確な意思を持って市町村を範囲とする「地域」のすべてに専従者を配置しようとするのは日本の労働組合運動史上初めのことだと強調されています。さらに、革命のキーワードは「地域で顔の見える運動」であり、主役は地協だと述べられ、地方連合会の取り組みを評価して頂いております。

2.地域を繋ぐ取り組み

 地域を繋ぐ取り組みとして、連合の方針は次のようになっています。「地域に根差した顔の見える運動」を前進させ、地域や地域で働く労働者が抱える諸問題への対応力を強くしていく。くわえて、他団体とも連携を深めていく上で、広く社会連帯の輪を拡大する運動を展開していくということを掲げています。労働組合は、決して賃上げ交渉に代表される労働条件の改善だけを行っているわけではないのです。

(1)なぜ地域を繋ぐ取り組みが必要なのか

[1]共助から自助と公助へ

 なぜ賃上げ交渉以外の取り組みをおこなっていかなければならないのでしょうか。この点については、20世紀終盤以降、働く人の間の共助、つまり助け合いの機能が弱まり続け、共助が自助と公助に分解されてしまったという背景があります。自助とは、自分のことは自分で守るということを意味しています。経済が豊かになり、人々の賃金も上がっていく中で、労働組合の力を借りずとも自らの生活は自分で守っていくという風潮が社会の中に広まりました。一方で公助とは、社会保障制度に代表されるように国や地方自治体などの公的機関が人々の生活を助けることを意味しています。日本が経済成長を続けていた時代は、税収も上がり日本にも余裕がありました。そうした条件の下、社会保障制度等の公助が充実していきました。
 このような結果として、共助という考え方はどんどん弱まり、代わりに自助と公助という考えが社会に定着していきました。そうした流れの中、2000年以降台頭してきたのが、市場万能主義と呼ばれる考え方であります。市場万能主義がめざしたのは、個人の自己責任をベースとし、国や地方自治体は最低限の保障だけ担えばいいという社会です。その結果、小泉改革において実施された労働市場の規制緩和や自己責任という考え方が広まっていきました。

[2]共助の再構築へ

 このような市場万能主義社会が本当に望ましい社会なのかということについて、労働組合は疑問を呈しています。市場万能主義の下で進められる規制緩和は、労働者の生活や生涯のリスクに対する公助の仕組みを劣化させることになりました。現状を見ても非正規労働者が増加し、それに伴い社会保険が適用されない人も増えてきています。その他にも格差社会の拡大は、日本における労働条件や公助の劣化を良くあらわしているのではないでしょうか。そうした問題を解消していくためには、家族依存、企業中心の社会の下で立ち遅れてきた国や地方自治体の役割を明確にする(公助の再構築)と同時に、企業や家族という枠組みを越え、かつ公助の補完にとどまらない、もっと地域に開かれた支え合い基盤、すなわち共助を再構築していく必要があるのではないでしょうか。

[3]新たな共助を構築する

 図表2は、人々が生活している一つの空間をイメージした図になっています。従来の生活福祉は公助、共助、自助と分かれていますが、公助は児童手当などの現金給付、健康保険、年金、労災保険などの社会保障で、自助としては各種民間保険への加入があげられます。これまでの日本の特徴は、現金給付によって生活福祉を充実させてきたといえますが、が私たちはそれでは不十分であると考えています。労働組合がめざしているのは、この生涯福祉に、この図で公共空間と書かれているところを追加することにあります。具体的には、就業機会の創出等の社会サービスをおこなっていくことや、ソーシャルキャピタル(社会関係資本。人と人とのつながりの保障のこと)を構築し充実させていくことをめざしています。

図表 2

(2)地域で労働組合,労働者自主福祉ネットワークが果たす役割

[1]労働組合が果たす役割

 先ほど申し上げました通り、労働組合の持つ重要な機能の一つが助け合い、すなわち相互扶助です。労働組合は、労働金庫・全労済などの相互扶助機能をもった金融機関・団体とともに、約700万人に上る豊富な人材とそれらの人達が構築してきた様々なネットワークを持っています。
 こうしたネットワークを用いることで、これまでも労働組合は、労働者自主福祉をおこなってきました。労働者自主福祉とは、労働者の「助け合い」の仕組みのことです。労働者自主福祉は、生活の現場から発生するニーズに基づいて、「助け合い」の仕組みを構築していきます。そのメリットは大きく2点あります。
 1点目は、公的福祉に対して先導的役割を果たせることです。公的福祉は、法律を作り全国一律でおこなっていく必要があります。そのため、制度の公平性の確保や制度自体の整備に多くの時間と労力がかかります。その点、自主福祉は、仲間が困っていることに対して迅速に対応していくことができます。そうして自主的に作られた制度がもし全国民に必要ならば、公に全国的に広げていくことになります。したがって労働者自主福祉は、公的福祉に対して先導的役割を果たしていると言えるでしょう。
 2点目は、公的福祉では充足できない相談、仲間づくりといった、いわゆるソーシャルキャピタル分野でも活動することができることです。従来の現金給付とは違う人と人との繋がりを築き、自主的に作ったネットワークを通して対応することが可能な点が、労働者自主福祉の持つもう一つのメリットだといえます。

[2]企業別労働組合,職域中心の地域福祉の限界

 これまでの企業別でかつ正社員中心の労働組合と産業別組合による地域自主福祉には限界があります。それは、最も支え合いを必要としている人達が、そのネットワークからはこぼれ落ちてしまっている所にあります。現在、非正規労働者の数が増加傾向にありますが、これらの人達は労働組合に入ることなく仲間内で相談する機会がほとんどありません。ですから労働組合は、自分達(正規労働者)のみならず、すべての働く人の拠り所になる必要があると思っています。このことは、組織拡大とも密接な関わり合いを持つこととなり、すべての労働者の拠り所になるような地域自主福祉を作っていくことと組織拡大は、重なり合っている部分が多いと思います。

[3]具体的に果たそうとする役割

 まず、地域における雇用・就業促進への関わりがあげられます。雇用の促進をおこなう理由ですが、雇用が守られないと社会の継続性の危機を招くことがあげられます。働くということは、そこで得られた賃金で生活し、納税をするということにつながります。つまり、雇用が不安定だと社会全体が揺らいでしまい、社会システムを維持していくことが困難になります。それに加えて、人々の連帯の保障も大事となってきます。この度の東日本大震災を例にとっても、地域のコミュニティがいかに大切かということは皆さんも十分にご理解いただけるかと思います。
 とはいうものの、各分野において得手不得手というものがあります。そこで、労働組合では取り組めない分野については、組合以外の団体と協力して、活動していくことも必要です。労働組合がすべてを担うのではなく、ネットワークの一つとして活動していくことが必要になってくると考えています。そこで労働組合が橋渡し役となり、地域の様々な団体を通して作られる生活安心ネットワーク(ライフサポートセンター)を作っています(図表3)。この図の中心を見ていただくと、加盟単組が地方連合会・地域協議会と連携し、労働金庫・全労済・生活協同組合・NPO・労福協等の社会的支援を受け、このライフサポートセンターを通して共助を再構築していこうとしています。

図表 3

上記にも挙がった地域におけるライフサポートセンターの担い手、役割を示したものが図表4になります。

図表 4

 今のお話は労働金庫・全労済・生活協同組合・NPO・労福協などによる社会的支援とのつながりを見たものでしたが、それぞれがどのような役割を担っていくのかを示したのが図表5になります。こちらを見ていただくと様々な機能強化が見られますが、ネットワークを強化することによってワンストップサービスを実現できる機能を地域で果たしていこうと考えています。労働組合はこのように地域に根差し、働く生活者とのネットワークを広げていくことで様々な支援をしていこうというのが、本日の話の肝の部分となります。

図表 5

3.地方連合会の具体的な活動

 次にいくつかの具体的な活動を紹介していきたいと思います。とくに近畿地方の2府4県でおこなわれている、もしくはおこなわれてきた取り組みをご紹介していきたいと思います。

[1]被災者支援

 地方連合会は、被災者支援活動を積極的におこなってきました。地震や豪雨による災害の際に、全国からボランティアを募ったり、募金活動をおこなうことで、被災者支援を進めています。また、日ごろから災害に備えてボランティア活動がスムーズに進むようにするための連絡会を行政と協力して構成し、ボランティア活動を支援しています。こうしたサービスは、安全な地域社会を実現していく上で、非常に重要な活動だと考えています。
 先の東日本大震災においても、街頭募金・義援金を全国で約5億円集めました。現地にはボランティア派遣をおこない、家電製品、布団セットなどの寄贈をしました。また、東北の物産品が放射能に汚染されているという風評が出回っていることはご存知かと思いますが、風評被害に苦しむ福島県の物産品の販売や、政府・経済団体等への要請をおこなうなど、地域のネットワークを重視した活動をおこなっています。

[2]障がい者雇用支援

 代表的な活動としては、連合奈良は2008年にライフサポートセンター内に「さくら倶楽部」という、障害者事業所の授産商品の販売をおこなう倶楽部を作りました。これは、一般社団法人障害者雇用促進センターが、障がいのある人たちへの「働きと暮らしに対する支援」と、授産所で働く障がい者の工賃アップを果たすため、各作業所への経営支援、制度研究、製品開発や共同受注、行政や他団体・企業体などの協働事業を積極的に展開していくために行政・経営者団体・労働団体・福祉団体が一体となって設立しました。さくら倶楽部では、解雇や待機を命じられた障害者を雇用するとともに、障害者の雇用条件改善のための活動もおこなっています。さらに、2010年には「KIZUNA Café」をオープンし、現在失業者6名、障害者4名、臨時パート2名を雇用しています。

[3]環境保全活動

 労働組合の活動と言われると違和感を抱く方もおられるかもしれませんが、地球規模で問題となっている環境問題についても取り組んでおります。代表例を挙げると、連合和歌山での森林保全活動や、連合滋賀での琵琶湖クリーンキャンペーン等があります。

[4]公労使連携した地域での雇用創出

 皆さんがご存じのものとしては、ハローワークがあると思います。ハローワークに加えて、京都では、「京都ジョブパーク」という、公労使が連携し雇用を作っていく取り組みもおこなっています。この共同運営方式は全国初の試みで、京都労働局とハローワークとの連携により、ワンストップできめ細やかに支援ができる体制となっています。また組合だけでなく、セミナーや研究会への講師派遣や職場実習の受け入れなどを通して、企業にも応援団として協力してもらっています。

[5]ワーク・ライフ・バランスを推進

 ワーク・ライフ・バランスを推進していくことは、連合にとって重要な課題の一つであります。これは、単に労働時間を短縮し、企業の効率を上げていくことのみを目的としているのではなく、人としてより豊かな生活を送れるようにおこなっている活動です。ここでも政労使が協力して進めています。重視している点は、働き方の見直しによる仕事と生活の調和、地域における子育て支援、若者の自立支援という3点が挙げられます。例えば兵庫では、「ひょうご仕事と生活センター」というものを作り、勤労者と経営者がそれぞれ抱えている問題の解決に取り組んでいます。

[6]連合大阪の取り組み

(ア)キッズ職場見学会

 連合大阪では、子どもたちに働く現場を体験して、労働に対する意識を持ってもらうことを目的に「キッズ職場見学会」を毎年開催しています。実際の仕事現場を子どもたちに体験してもらいます。また体験後に、働いている人達と交流してもらい、仕事の誇り等を子どもたちに語ってもらっています。

(イ)「大阪希望館」事業との連携

 この事業では、就労を希望していながら、住まいすらなくした人のための緊急シェルター事業で、一時的な宿泊施設を提供しています。公的セーフティネットを受けるためには、申請し審査を受ける必要があります。失業して住まいを失った人たちに、公的セーフティネットを受ける間までの臨時的緊急的宿泊施設として利用してもらっています。宿泊施設の提供に加えて、入館所中には、医療受診・健康相談・就労相談・教育訓練相談・福祉生活相談・法律相談等の実施や、就労事業の実施による「働くリズム」の堅持と収入の提供もおこなっています。

おわりに

 連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」とは、働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件のもと多様な働き方を通じて社会参加でき、社会的・経済的に自立することを軸とし、それを相互に支え合い、自己実現に挑戦できるセーフティネットが組み込まれている活力あふれる参加型の社会を指しています。その上で重要になってくるのは、困難を取り除き、働くことに結び付く保障であり、「雇用」を中心に「家族」・「教育」・「失業」・「退職」の5つの「安心の橋」をかけることにあります。そのためにも、地方連合会は今後より一層、地域との繋がりを強めていく必要があると思います。
 今日のお話によって、働くことの意義や労働組合の役割を考えて頂き、自分がこれから働く職場における労働環境や、労働組合の有無についても関心をもってもらえたらと思います。そして、自分の職場、働く仲間に誇りを持ちながら、一生懸命働く社会人となっていただけたらと思います。

以上

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