同志社大学「連合寄付講座」

2010年度「働くということ-現代の労働組合」

第10回(6/18

「労働を中心とした福祉型社会」の実現にむけて
~民主党政権下での政策実現について~

吉川 沙織(参議院議員)
逢見 直人(連合副事務局長)

逢見副事務局長:本日は趣向を変えて対談方式で進めていきたいと思います。まず、吉川議員にこれまでどのようにしてご自身のキャリアを築き上げてきたのにかについて、大学時代のことも含めてお話して頂きたいと思います。そのあと、政治家になられた理由、および現在の政権についてどのようなお考えを持っているのかについて、お話して頂こうと思っております。

Ⅰ.なぜ政治家を志したのか(吉川参議院議員)

 ただいまご紹介頂きました吉川です。私は学生時代、この同志社大学で学びました。新田辺に下宿しながら、4年間、学生生活を過ごしてきました。その後、NTTに就職しました。その間働きながら、同志社大学大学院総合政策科学研究科で公共政策について学びました。

1.学生時代のアルバイトの経験

 私が、働くこととかかわりを持つようになったのは、学生時代のアルバイトからでした。当時私は、週6日の荷物の積み込み作業の早朝バイトと家庭教師をしていましたが、その時、このようなことがありました。
 荷物の積みこみ作業には、1年の間でいくつかの繁忙期があり、その時は普段よりも早く朝5時に会社に行き、作業をおこなっていました。ただ、その際に当時の所長さんに、「5時に来る場合は、必ず5時になってからおすように」と強く言われました。これはなぜなのでしょうか。
 理由は、当時の労働基準法では、女性の深夜業務を、具体的には夜10時から朝の5時までの時間に働くことを制限していたからです。普段は朝6時に行き、作業を開始していたのですが、その時は、5時55分にタイムカードをおしても別に問題はありませんでした。しかし、5時の場合は、5時前に女性がタイムカードをおしてしまうと、労働基準法に抵触することになるので、強く止められていました。
 こうした経験から、労働は法律によって規定されていることを実感するとともに、それを作成する唯一の機関である国会に対しても興味を持つことになりました。

2.仕事と政治

(1)就職活動を通して
 その後、就職して社会に出ることになったのですが、私が就職活動をしていた1990年代後半は、今と同じように新卒の労働市場が買い手市場で、就職氷河期と呼ばれていました。当時は就職説明会への申し込みは、葉書を会社に送る方式だったのですが、文学部の女子学生に返事を送ってきてくれる会社は、なかなかありませんでした。私は運よくリクルーター採用で、NTTに就職することができましたが、私の周りにいた友人たちの中には、私よりも優秀だったのにもかかわらず就職することができず、非正規としてキャリアをスタートさせた人達が、少なからずいました。
 残念ながら、今の日本では、卒業した時期によって、その人のその後の人生が大きく左右されてしまいます。たまたま、卒業した年に就職状況が悪ければ、その人がたとえ優秀であっても、非正規としてキャリアをスタートせざるを得なくなってしまう。こうした問題を解決していく場が、政治の場であります。今振り返ると、こうした経験も政治に関心を持たせることになった、1つの要因であったように思われます。

(2)仕事を通して
 私は、NTTに就職後、最初は個人対象の営業の仕事をしていました。その後、大学などの大きなクライアントに対してシステムを購入してもらう仕事に就きました。こうして働いていく中で、政治が、日々の生活に物凄く関わりのあるものだということを、日々実感することになりました。特に、働く人たちに代表される普通の人の声をしっかりと政治の現場に届けていかなければならない、と強く感じました。そうした普通の人たちの声をしっかりと国会の場に届けたいと思い、2007年の参議院選挙で民主党から立候補し、政治家となりました。

3.政治と若者

 私は、参議院議員の中でもみなさんと世代の近い政治家になるのですが、正直に申しますと、国会の場で若者は議論の対象とはなり難いのが現状です。最近政治家を巡る様々な問題が報道されており、皆様が政治にたいして日々関心を失っていくことは、理解できます。しかし、皆様がどんなに無関心を装っていても、皆様の生活に無関係でないのが、政治です。就職活動もそうですが、就職してからの労働時間等の労働条件も、法律によって決められている部分が、少なからず存在しています。ですから、皆様が少しでも政治に関心を持ってくれれば、大変嬉しく思います。
 最後に投票率のお話をしたいと思います。3年前の参議院選挙における60歳代、70歳、80歳代の投票率は、6割から7割となっています。一方で、20歳代、30歳代の投票率は、2割から3割となっています。これはもちろん政治家が国民に対して不信感を持たせることをしているからであって、政治の側に責任があることも確かです。しかし、この投票結果を見た時に、政治をする側にどのような心理が働くのかを申し上げますと、投票率の高い世代に対して好感を持ってもらえるような政策を、優先しておこなおうということになります。なぜなら、そのような政策を訴えておけば、所属政党にかかわらず、国民の受けは良くなるだろうと考えるからです。
 ところが、若い世代が投票所に来ないことがわかっているのならば、若い世代に関係のある問題に関する政策は後回しにしよう、という心理が働きます。政治家が選挙によって選ばれる職である以上、このように投票率によって政策の優先順位が決まってしまう面もあるのが事実です。ですから、もちろん政治不信によって、政治から関心が薄れてしまうことも十分に理解できますが、若い方々には、少しでも政治に関心を持ち、投票所に行って、たとえ白票でもかまいませんので、投票して欲しいと思っています。
 政治は、みなさんの生活や働き方に影響を及ぼすものでありますので、少しでも政治に関心を持って頂きたいと思っております。私は、純粋に政治を変えたいという思いから、普通のサラリーマンの家庭に育ちながら政治家を志し、そして、みなさんのおかげで政治家にならせていただきました。今、自民党と民主党の違いが見えないと言われておりますが、やはり、自民党と民主党では、立ち位置が異なります。私達民主党は、雇用される側の、つまり、働く側の立場に立って、政策を立案しています。
 みなさんの多くは今後雇用される側の人間になると思うのですが、雇用される側は、雇用する側よりも弱い立場にあります。そういう弱い立場の人たちの環境を、政治の力によって整備していくこと。これが民主党の基本姿勢であります。私は、弱い立場の人たちであっても、真面目に働けば報われ、そして一人ひとりが自分の人生に誇りを持って生きていける社会を作っていかなければならないと思っています。政治の場で政策活動を通して、そのための環境を作っていきたいと思っています。これからもみなさんの世代に近い参議院議員として頑張っていきますので、みなさんも、働くことと政治には密接な関係があることを頭の片隅でも留めていただければと思っています。

Ⅱ.労働組合と政権交代の持つ意義について(逢見副事務局長)

1.日本は雇用社会

 連合は「労働を中心とした福祉型社会」を提唱していますが、なぜ、労働を中心としなければならないのでしょうか。皆さんの多くは、大学を出た後、どこかの会社や官庁、地方自治体等に雇用され、生活をしていくことになると思います。日本の就業者は6,373万人ですが、そのうち雇用者が5,520万人、86.6%が雇用者です。
 日本は、世界と比べても雇用者の比率が高い国です。雇用以外の働き方としては、自営がありますが、働いている人達の中で、雇用以外の比率は13%程度で、このことからも雇用者の占める割合が非常に高い国だということがわかるかと思います。

2.労働組合が取り組むべき課題

(1)雇用と生活
 この雇用を中心とした社会の中で大切なことは、人々は、雇用を通して、その人個人の暮らしだけではなく、家族の暮らしも支えているということです。働いて賃金を得て、それで自分の生活に加えて配偶者や子どもの生活も賄っているわけです。ですから、雇用の場が失われるということは、その人のみならず、家族も含めた生活の場が失われることに繋がります。その意味で、雇用というのは、我々が暮らしていくなかで、非常に重要なものです。したがって、雇用をどのように守り、また、雇用条件をどのように適切なものにしていくのかは、労働組合にとって重要な課題です。

(2)自己実現と雇用
 くわえて、雇用されている期間を考えると、20台から60台までの、人生における最も充実した時期を雇用と言う関係の中で過ごしていることになります。ですから、雇用の場を通して、どのように自らの能力を発揮し、人生において自己実現を達成していくのか、ということも重要なことです。そうした自己実現ができるような環境を働く場においてどのように作っていくのかも、労働組合にとっての重要な課題です。

(3)全ての人に働く場を
 また、性別や年齢や障がいの有無に関係なく、働きたいとい思っている人が、働けるような環境を作っていくことも、労働組合にとっての重要な課題であります。

(4)経済状況と雇用
 もちろん、雇用は市場経済の状況に左右されるものなので、経済危機が起こった時にどのように対応するのかについても、労働組合が取り組んでいかなければならない課題であります。

(5)環境と雇用
 これは近年特に重要になってきている問題ですが、持続可能な社会をどのように作っていくのか。また、持続可能な社会を実現していく上で、人々の雇用をどのように守っていくのか。この点も労働組合が取り組むべき課題であります。
 このように、雇用は、様々な問題とかかわりを持っております。だからこそ、私達連合は、この様々な問題とかかわりを持っている労働を軸として、より良い社会を作っていくために、様々な活動をおこなっております。

3.労働を中心とした福祉型社会とは

(1)2つの社会
 では、福祉社会とはどういう意味なのでしょうか。社会の有様は、大きく分けると2つになります。1つめは、政府は個人に干渉せず、各個人は、自己責任によって自らの生活を守ることを基本とし、貧しい人への援助も、政府が行うのではなく、個人の寄付や支援によっておこなわれるべきだ、とする社会です。2つめは、貧しい人を社会全体の責任として、政府が、助けてあげるような社会です。
 この2つの社会の最も大きな違いは、貧しい人への援助を、政府に頼るのか否か、ということにあります。福祉型社会とは、2つめに挙げた社会のことを言います。貧しい人を政府の援助によって助けていくような社会。それが、福祉社会の基本にある考え方です。ですから、我々にとって、政府とどのような関わりを持っていくのかは、重要なことです。

(2)政権交代と民主主義
 日本における政権交代の重みを知ってもらうために、ノーベル経済学賞受賞者でもあるポール・サミュエルソン先生のお言葉をまずご紹介したいと思います。先生は、晩年に、「私は長生きして良かった。長生きしたことによって、2つの、自分の生きているうちには決して見ることができないだろうと思っていた2つのことを見ることができた。1つは、アメリカに黒人の大統領がうまれたこと、もう1つは、日本で政権交代が起こったことだ」というようなことを語ったそうです。
 このように、政権交代が起こることなど、考えられもしなかった国が、日本であります。その政権交代が、昨年起こったわけです。
 実は、民主党と自民党の2大政党時代以前にも、2大政党時代はありました。自民党と社会党によるもので、55年体制と呼ばれていました。しかし、この自民党と社会党による2大政党時代は、政権交代なき2大政党時代でありました。このような、55年体制をいかに打破するのか、ということは、組合運動にとっての1つの大きな課題でありました。
 政権交代なき2大政党時代を支えてきた選挙制度が、中選挙区制です。この制度の下では、同一政党内であっても1つの選挙区から複数の当選者が出ますし、また、選挙区の有権者の2割程度をおさえることができれば当選することができました。その結果、立候補者と特定の団体との間に癒着が生まれ、選挙結果に民意が反映され難い制度となっていました。それを変えたのが、小選挙区制であり、マニフェスト型の選挙でありました。
 マニフェスト型の選挙になったことで起きた一番の変化は、政党の政策が選挙の争点になったということです。それまでの、特に中選挙区制の下での選挙では、例えば、その候補者の政党は消費税の導入を推進していても、候補者自身は、消費税導入反対をかかげて選挙に臨むということ、つまり、政党の政策と、その党から公認された候補者が別の公約を掲げて選挙を行うことが良くありました。こうした、政党と候補者の歪な関係が、マニフェスト型の選挙になることで、大きく改善されることになりました。いまでは、候補者の政党と候補者の政策が、大きく異なることはまずないと思われます。また、マニフェスト型の選挙になったことによって、選挙が、政権政党が、自身が掲げたマニフェストをどれだけ実現することができたのかを審判される場へと変わりました。
 こうした選挙制度の改革が、日本の民主主義を発展させ、政権交代が可能となるような土台を作ったのではないか、と思っています。ですから、今回の政権交代は、単に自民党から民主党に変わったというだけではなく、日本において本当の民主主義がようやくスタートした、と言える出来事ではないかと思っています。

(3)資本主義の暴走と政権交代
 福祉型社会を考える上で、押さえておかなければならないこととして、資本主義の暴走が挙げられます。これは、昨年のリーマンショックによって明らかにされたことです。小さな政府の下で規制緩和を行い自由な競争を促し、後は市場メカニズムに委ねるという政策は、結果として経済を崩壊に追い込み、新たな貧困問題を引き起こすことが、明らかになったのではないでしょうか。
 こうした市場原理主義的な考え方からのパラダイムシフトをおこなう時期にいま来ていると思います。言い換えると、政府の政策軸の転換が今求められているのではないでしょうか。その意味で、今回の政権交代は、新たな政策軸を打ち立てるチャンスだと考えています。
 以上、政権交代の持つ意義を中心にお話してきました。この辺で私の話を終わりにし、対談に入りたいと思います。

Ⅲ.対談―「労働を中心とした福祉型社会」の実現にむけて~民主党政権下での政策実現について

吉川議員:逢見副事務局長から、雇用、組合、政権交代と様々なお話を頂戴しました。まず、政権交代についてですが、私は、3年前の参議院選挙が大きな転換期となったと思います。日本の政治においては、政策の施行は多数決で決まるので、どのような良い政策を提案しても、議会で過半数を握れていなければ、その政策が実行されることはありません。3年前まで、民主党は、衆参両議院において、過半数の議席を獲得していませんでした。
 これが、3年前、参議院だけではあるものの、議席の過半数を獲得することができました。参議院において与党となることで、これまで手に入れることができなかった資料が入手できるようになりました。これは本来あってはならないことだと思いますが、やはり、与党の方が、政策立案に関する様々なデータを関係各省庁から入手しやすいのが事実です。参議院で与党になることで、消えた年金問題や道路財源の無駄遣い等、これまで明らかにすることができなかった問題を、明らかにすることができるようになりました。
 その結果、今までの政治が、多様化の名の下で、あまりにも働く人をないがしろにしてきたことが、明らかになりました。このことが、皆様の一票で政権交代を起こすことに繋がったのではないか、と思っています。日本は確かに、戦後先進諸国の中で、唯一選挙による政権交代が起こっていなかった国です。その日本において政権交代が起こったことが持つ意味は、大変大きいと思っています。
 この度、民主党が参議院選挙用 *1 に作成したマニフェストの中に、はじめて雇用対策の中に、若い人たちに関する項目が加えられました。今までは、若い世代に関することは、マニフェストには載っていませんでした。これまでも政策集の中には載っていたのですが、今回初めてマニフェストの中に掲載されました。マニフェストがはじめて若者に関して言及した意味は、大きいと思います。未来に希望が持てる社会にしていく上でも、このことは、非常に重要なことだと思います。

*1 2010年に行われた参議院総選挙のこと
*1 2010年に行われた参議院総選挙のこと

 先ほど逢見副事務局長が、日本社会において雇用は大切だというお話があったと思います。今後日本は、性別、年齢、障がいの有無を問わず、働きたいと思う人が働けるような社会にしていかなければなりません。そのためにも、政治はもっと働いている人の声をすくい取り、働く人の声が反映されているような政策を作成し、そしてそれを実行に移していかなくてはならないと強く感じております。

逢見副事務局長:就職活動についてお話したいと思います。かつては、大学、産業界、政府の3者による就職協定というものがありました。これは、採用活動の開始時期を企業横断的に規制していたものだったのですが、企業のフライング行為や外資系企業の登場等で、ルールが形骸化してしまい、意味をなさないものとなってしまいました。その結果、この協定は撤廃されたのですが、この協定を無くそうとした時の企業に言い分の1つに、これからの採用は、新卒一括ではなく、通年にするというものがありました。
 しかし、結局新卒一括採用の慣行は維持され、協定の撤廃によってもたらされたのは、就職活動の前倒しでした。4回生の夏であったものが、春となり、さらに現在では、3回生の秋ごろからのスタートとなってしまっています。
 こうした開始時期の早期化もさることながら、インターネットによる就職活動の普及により、企業の人事担当者が応募者の全てのエントリーシートに目を通すことができないことや、大学の提供するサービスの質の問題等、若者の就職活動には様々な問題があります。1つの対策として、卒業後3年間は新卒扱いとする、という案があります。実現するかは不確かですが、そうしたことも含めて、日本において、就職活動をどのような形にしていくのかということは、早急に取り組むべき重要な課題であると思っております。
 次は、吉川議員に、労働組合や政治と労働条件について、また、働く上でどういうことが必要なのか等のことをお話して頂きたいと思います。

吉川議員:やはり、冒頭でも少し述べましたが、労働条件に関して政治が及ぼしている影響は、非常に大きいと思っております。私も、学生時代や働いている時は、それほど感じていなかったのですが、政治家になってみて、あらためて、政治が及ぼしている影響の大きさを実感しております。例えば、労働時間や年休だけをとっても、政治の場で決められる法律によって、規制されている部分が多くあります。
 ここで皆さんに知っておいて欲しいことは、労働問題の中には、働く側に知識さえあれば、防ぐことができるものが、案外多いということです。例えば、内定取り消しも、労働契約法の解雇に関する箇所を少しでも知っていれば、それは法律違反であることに気付くことができます。また、解雇に関しても、それが不当解雇にあたるのかどうかは、知識さえあれば、判断できるケースが多々あります。ですから、なかなか在学中に、勉強に関して関心をもつことはできないかもしれませんが、せっかく労働に関することを学ぶ場にいるのですから、少しでも関心を持って学んでいただければ、と思っています。

逢見副事務局長:働くことの知識についてですが、皆さんがまず始めに働くことについて学んだのは、中学や高校時代の公民の授業だったと思います。以前、公民の教科書を見たのですが、教科書はかなりきっちりと書いている、と感じました。しかし、教科書に書かれていることが、学生達にあまり理解されていない、ということも同時に感じました。
 NHKの放送文化研究所がアンケート調査を実施しているのですが、その中に憲法に関する質問があります。そこに、憲法で保障されている権利に関して聞いている箇所があるのですが、「労働組合を作ることは憲法において保障されていない」と考えている方達が、残念ながら現状では思いのほか多いのです。教科書にはきちんと書いてあるのに、どうしてそういう結果になるのかは不思議なのですが、今皆様の世代の方達の間で労働に関する知識が不足しているのは、事実だと思われます。やはり、若い世代に対する労働教育をどのように再構築していくのか、ということは、今後の大きな課題だと思っております。
 また、個別労働紛争が増加している今日においては、社会に出て以降も、働いている人達に、労働に関する権利を知ってもらうような場を提供していくことが、必要であると思っております。
 そろそろ時間も迫ってきたので、ここからは、質問をしていただき、それに対してお答えしていきたいと思います。

西村先生:吉川議員にお聞きしたいのですが、会社に労働組合が存在している意義について、どのようにお考えでしょうか。企業でお勤めしていた時に感じたこと、およびご活躍の場が政治の場に移って以降に感じていること、それぞれ違うとは思うのですが、その点についてお聞かせ下さい。

吉川議員:有難うございます。私は、NTTでサラリーマンをしている時も、仕事をしながら職場の最前線で活動をさせていただいておりました。NTTグループでは90%以上の人がNTT労働組合に加入しています。これだけの多くの人達が団結すれば、会社にも働く人の声が届きやすくなります。例えば、今では育児休業制度は、あって当たり前の制度となっておりますが、電電公社の時代に、会社と組合が話し合いをおこなうことで、法律が制定される前に導入することができました。昔の電電公社には、交換手として働いている女性の方がかなり多くいました。そういう方達がいったん仕事を辞めてしまうことにならないように、NTTでは労使の話し合いを通して自主的に育児休業制度を導入しました。
 このように、法律に先駆けて、働く者にとって必要な制度を導入できる点が、会社に労働組合のある大きなメリットだと思います。組合も組織ですので、階層があり、それぞれの役割があります。私の役割は、職場に最も近いところで、働きながら皆の声を聞くことでした。上司との関係や働き方について、様々な相談がありました。会社に制度があっても、それをどのように活用すれば良いのかについては、日々の仕事をしている中では、なかなか知ることは出来ません。職場で働いている一人ひとりが抱えている問題に対して、きめ細やかに対応していくことが私の会社における組合の仕事でした。

 その後、産業別労働組合で活動しました。そこで、情報通信産業に集う仲間が抱えている色々な問題の解決に向けて取り組んでいました。これが、私が、働いていた時に行っていた組合活動です。
 今は、政治の場に立っているわけですが、ナショナルセンターである連合は、働く人たちが報われるような社会をいかにして作っていくかということについて、日々取り組まれています。民主党と連合は、近い立場にあるのですが、やはり政治の場では、連合を中心にして、厚生労働省で開かれる労働問題に関する審議会等に労働者の代表が参加することを通して、働く人たちの声を政策立案の場に届けています。
 働く人たちが報われるような社会にするための制度を作っていくために、労働組合が日々活動していることを、国会の場で政治家として仕事をしていく中で、改めて痛感しました。昨年大きな問題として取り上げられた内定取り消しの問題の際も、連合と協力して、どのような対策をとっていくのかを話し合いました。政治家となったことで、労働組合が働く人たちにとって重要な存在であることを感じています。

石田先生;学生の立場に立つと、働くことももちろんですが、まず、就職というものに関心がいくと思うのですが、それとの関係で、お聞きします。先ほど、卒業後3年間を新卒にするというお話がありました。私も経済状況によって、学生のその後が大きく左右されるのは、少し公正さという点では、問題があるのかな、と思っています。その意味で、3年間くらいの期間を設けるのは、ある意味合理的な考え方だとは思うのですが、それはどのようにして、実現しようとしているのでしょうか。法律を作ることはもちろん難しいことですし、世論を巻き込むというのも難しいと思います。このような、団体交渉事項ではない問題に、組合としてどのようにして取り組もうとされているのかについて、可能な限りでお考えをお話していただけないでしょうか。

逢見副事務局長:今、政府の中に雇用戦略対話という会議体があります。これは政府と労使団体の集まりで、使用者側は、日本経団連、日本商工会議所、中小企業団体中央会の三つが、労働者側は連合から私を含めて3人が、それから有識者が数人、政府からは総理、官房長官、国家戦略担当大臣、厚生労働大臣、文部科学大臣が参加しております。その中で、新成長戦略の柱の1つとして、「雇用・人材戦略」を作成しました。
 例えば、このような場で就職に関する問題を取り上げることで、問題解決に向けた何らかの行動をとることができるのではないか、と思っております。このように、社会対話の場、つまり、政府とステークホルダーの対話の場を作っていくことを通して、問題に取り組んでいければと考えております。

吉川議員:私は、国会の場で、この問題を何度か取り上げているのですが、そこでは、新卒一括採用の見直しと、就職協定の復活を提案しております。この就職協定については、例えば伊藤忠商事の丹羽元会長など、経営者の中にも復活を望んでいる方はおられます。国会では、きちんとしたお答えをいただくことはできなかったのですが、今回のマニフェストに若者の雇用に関することが明記されたように、これからも政治の場でしっかりと声を発していきたいと思っております。

逢見副事務局長:最後のまとめとして、学生へのメッセージを吉川議員にお願いして、終わりにしたいと思います。

吉川議員:学生時代、就職活動を終えた後、これから就職活動をする学生の前でお話させていただく機会を何度か頂戴しておりました。就職後も、何度かそういう機会がありました。その時の経験も踏まえて、お話させていただきたいと思います。
 就職氷河期では、どれだけ働きたいと思っても、なかなか職を得ることができないこともあるかもしれません。ただ、就職活動をする前に皆様にやって欲しいことは、多くの人に出会い、多くの仲間を作り、沢山遊び、沢山学んでください、ということです。それがまず、就職活動をおこなう前に、やっておかなければならないことだと思います。
 また、良く自己分析ということを聞きますが、私自身は、あまりこの言葉は好きではありませんし、いまだに自己分析とはどのようにするのかもわかっておりません。ただ、学生時代に、何でも良いので、何かこれだけは人には負けないというものを作ってください。私自身、これが評価されるのかと驚いたのですが、評価されたのは学生時代におこなってきた早朝のアルバイトでした。週6日、朝6時から8時のアルバイトを4年間続けていたことが、1つのことを徹底的にやり抜くことができる人間だと見ていただくきっかけとなりました。ですから、皆様も何でも良いので、何か1つ自分の強みを持つことができるような経験を、学生時代に積んでください。
 あと、面接では、どうして緊張してしまいます。そういう時は、ゆっくりと話してください。相手の話をきき、相手の目を見て、ゆっくり、そしてハキハキと話すことを心がけてください。また、話の中に句点を入れ、できるだけ話を短くし、それを繋げるようにしてください。それだけで、随分印象は変わると思います。
 私は同志社大学時代、素晴らしい出会いに恵まれながら学生生活を行っていくことができました。皆様にも、素敵な出会い、経験が沢山あることを願っております。就職活動頑張ってください。本日は、ありがとうございました。

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