同志社大学「連合寄付講座」

2009年度「働くということ-現代の労働組合」

第5回(5/15

労使交渉の最前線から[2]
処遇とキャリア形成に関する取り組み~流通産業の事例を中心に

小川 裕康 サービス・流通連合事務局次長

1.はじめに
  サービス流通連合の小川裕康と申します。私は1982年に、伊勢丹という百貨店に入社しました。入社後10年ほど現場で働いたのち、組合執行部の方から「組合役員をやらないか」と誘われ、組合活動に携わることになりました。それから今日まで18年間、組合の仕事をしております。そのうちの6年間は、上部団体であるサービス・流通連合で仕事をしております。それでは、「処遇とキャリア形成に関する取り組み」というテーマで、流通産業の事例を中心にお話しをさせていただきます。

2.サービス・流通連合とは
  サービス・流通連合は、2001年7月4日に、母体となる商業労連という産業別組織に他の組織が加わって結成されました。
 現在、全国の百貨店、チェーンストア、生協、専門店、卸売業、食品関連、ホテル等の137組合が加盟し、組合員は21万名以上になります。また、ナショナルセンターである「連合」と、国際労働組合組織である「ユニオン・ネットワーク・インターナショナル(UNI)」に加盟しております。
  サービス・流通連合は現在、「多様な働き方を尊重する仕組みづくり、ワーク・ライフ・バランスの実現、均等・均衡待遇の実現に向けた取り組み」「働く人たちが活躍できる魅力ある産業の実現」「男女が共に活き活きと暮らせる社会の実現」、「地域力を高めるために~まちづくり政策の推進」「グローバルな視点をもった労働運動の構築」「対話力の強化」等の運動方針を掲げて、取り組みを進めています。

3.処遇と組織化に関する取り組み
(1)春闘(労働条件改善交渉)の取り組み
  日本では、ナショナルセンターである「連合」を中心に、春闘に取り組んでいます。「企業からきちんと賃金を払ってもらわなければ、家計にお金が回らない。家計にお金が回らなければ、景気はよくならない。だから、きちんと賃金要求をする」という考えで私達は春闘に取り組んでおります。
  では、産業別組織において春闘にどのように取り組んでいるのかといいますと、産業別組織が「今年はこういう考え方で春闘に取り組みましょう」という方針を策定し、加盟組合がその方針にしたがって統一的に取り組んでおります。なお、この方針は産業別組織が勝手に決めたものではありません。各加盟組合の代表が集まり、全員一致で決めた案です。「統一方針を決めた以上は、すべての加盟組織がこれに沿って取り組む」という考え方です。

(2)パート・契約社員の組織化に関する取り組み
 百貨店業界では、人件費が高騰して経営を圧迫している時期がありました。その頃、私は伊勢丹労働組合で組合活動をしていましたので、伊勢丹を例にお話します。当時の伊勢丹では1年間に、正社員の約8%の方が退職しました。退職者の補充については、人件費が高騰しているなかで、正社員ではなく、パートや契約社員でおこないました。そして、非正社員も含めた人事・賃金制度を、組合と会社が協議しながら作り上げました。この結果、人件費は減少しました。
 しかし、パートや契約社員の方は、正社員と同様の仕事をしているにもかかわらず、正社員よりも賃金が安いために、不満を持ちました。一方、正社員は今まで通りの処遇です。その結果、働く者の団結が職場になくなってしまいました。
 これをどのように解決したのか、ということですが、まず何が問題なのかを、現場に入って調べました。すると正社員の方は、「契約社員は『子どもが運動会だから休ませてもらいます』と言って簡単に休みをとる」と言っているわけです。一方、パートや契約社員の方は「正社員は偉そうだ」「自分たちはろくに仕事をしないくせに、指示ばっかりしている」と言っているわけです。これでは協力して一つの売り場を作っていくことができません。そこで、それまで組合員ではなかったパートや契約社員の方を組合員化(組織化)して、彼らと職場の問題意識を共有し、売り場を改善していきました。

4.キャリア形成に関する取り組み
(1)自己啓発支援制度 
 サービス・流通連合の加盟組合には、組合員の自己啓発を支援する制度があります。たとえば、伊勢丹労働組合では「ユニオン・カレッジ」という制度があり、「海外勤務者語学支援」「公的資格取得援助」等をおこなっております。職業能力を高めるために、組合員に多様な知識を得てもらわなければならないので、多様な教育メニューがあるわけです。これは伊勢丹労働組合に限らず、他の加盟組合も同様の取り組みをおこなっています。

(2)百貨店プロセールス資格制度 
 このほかに、我々と、百貨店の業界団体である百貨店協会が共同で創設した「百貨店プロセールス資格制度」というものがあります。この資格の中には、たとえば「フィッティングアドバイザー・レディス(メンズ)」・「ギフト・アドバイザー」というものがあります。これらの資格は、「百貨店に来てくれたお客様には、平準化された良いサービスを受けてもらいたい」という想いで作りました。
 それに加え本制度には、実はもうひとつの狙いがあります。たとえば、東京の百貨店に勤めていて、縁あって博多の男性と結婚したとしましょう。それで博多に引っ越すことになりました。「東京の伊勢丹では勤務を続けられないので、博多の百貨店に勤めたい」という時、「私は『フィッティングアドバイザー・レディス1級』を持っています」といえば、たとえば、博多の岩田屋という百貨店から「難易度の高い資格を持っているのであれば、ぜひ当店で働いてください」といっていただき採用される可能性が高まります。このように「百貨店プロセールス資格制度」は、「労働力の流動化に対応できる資格にできないか」という想いで作りました。今はレディス、メンズ、ギフトを含めて、約1万6000名の方がこの資格を取得しています。

5.営業時間・休業日のあり方に関する取り組み
 1991年からの大店法の規制緩和および2000年の大店立地法施行により、百貨店の総営業時間は拡大(営業時間延長・休業日数短縮)してきています。総営業時間拡大によって労働環境等に問題が生じていることをふまえ、2008年から2009年にかけて、百貨店の労使の協議の場である「百貨店労使懇談会」において、総営業時間短縮にむけた検討をおこないました。現在、アクションプランを策定して、取り組みを進めています。

6.おわりに
 最後にひとつお伝えしたいことがあります。物事を考える時、決して片方だけをみないようにして下さい。裏側も見ていただきたいと思います。また、自分の意見だけではなくて、他人の意見も聞くようにしてください。そういった様々な思考をするということが、社会人として生きていくために必要だと思います。
 ここにいらっしゃる皆さんが、社会に出て、「より良く働かれること」と、「より良い人生を過ごされること」を祈願いたしまして、私の話を終えたいと思います。

以上

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