JILPT「労使関係の現状と展望に関する研究」(57)


「キャリア創造と成果主義」 ~組織内キャリア自律とスローキャリア人材の活用という観点から~


高橋俊介
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
A4判/22頁 2005年1月 (社)教育文化協会発行 無料配布


 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は、前身の日本労働研究機構(JIL)が1994年1月に設置した「労働組合の現状と展望に関する研究会」(略称はビジョン研)を継承・発展させ、「労使関係の現状と展望に関する研究会」(略称はビジョン研で同一)をスタートしました。(社)教育文化協会は、このたび、独立行政法人労働政策研究・研修機構のご厚意により、引き続き、ビジョン研の研究成果を当協会の会員各位に頒布させていただくことになりました。ご尽力を賜りました皆様方には、この場をお借りいたしまして厚く御礼申し上げます。
本書には、ビジョン研の2004年9月8日報告(2004年12月刊行)を収録しました。なお、番号は、前回からの通し番号です。どうぞ、ご活用ください。


概要

 アメリカのノンレイオフ企業が破綻したことを1つの契機として、組織内キャリア自律の概念が生まれました。これは、従来の転職を通じたキャリア形成とは異なり、1つの会社内で自律的にキャリア形成することを意味します。
かつては「雇用」が大事でしたが、今では「キャリア」の方が重要です。1つの会社で雇用が守られたとしても、キャリアが充実しなければ幸せにはなれません。幸せなキャリアを形成するためには、入社して早い段階から、[1]自主的ジョブデザイン、[2]ネットワーキング行動、[3]スキル開発行動を実践し、自らキャリアを継続的に切り開く行動・思考特性(キャリアコンピタシー)を身につけることが重要です。
会社も新たな人事戦略を再構築する必要ががでてきました。これまで全ての人が上昇志向であるという前提で、高い目標数値を設定する人事管理制度を構築してきました。しかし、仕事をする動機は人それぞれ。最近は上昇志向の人より、プロセス・対人関係を動機として仕事に取り組む人が増えています。彼らの中には、「スローキャリア」と呼べる、出世・地位・お金よりも自分らしい仕事やキャリアを求める人が増えています。「日本型人事システム」と呼ばれる従来の画一的な人事管理制度では彼らをマネジメントできません。
これらの会社は、「スローキャリア」を中心とする優秀な人材が、長期にわたって組織に貢献できるような「我が社型」の人事戦略を構築することが必要となります。その際、社員が組織内で自律的にキャリア形成できるような人事政策が重要となってきます。



報告

 仕事をする動機は人それぞれ異なります。上昇志向を動機とする人もいれば、そうでない人もいます。現実の人事マネジメントシステムは、全ての人が上昇志向を強く持っている―高い目標に向かって頑張る― という前提で構築・運用されています。チャレンジングな数値目標を設定し、それに向かって頑張れるのは、上昇志向の強い人達。逆に、上昇志向が弱い人は、高い目標数値を見ただけで、やる気をなくしてしまう可能性があります。
人事制度は、業種・職種によって全く異なるものです。例えば9月11日のテロ以降、アメリカの航空業界で利益出して1番成長しているのはサウスウェスト航空です。ここは、他社と異なる人事制度を導入しています。採用は、職種別に行わず、サウスウェスト航空に向いている人を採ります。入社後、ある職種(例えば機体整備業務)に従事し、向いていなかったら別の職種(カウンター業務など)に転換します。社内で職種転換する航空会社は、アメリカでもサウスウェストだけです。
この例からもわかるように、「アメリカの人事制度は一般敵に云々」とか、「航空業界では云々」と議論すること自体が意味のないことが分かります。成功している会社は、他社と異なる独自の人事制度を導入しています。人事システムは極めて戦略的なもの。他社と同じシステムでは、優位性を保てません。


目 次

概要

報告
  1. なぜ組織内キャリア自律なのか
  2. 幸せのキャリア条件とは
  3. スローキャリアとは
討議概要

研究会レジュメ

「労使関係の現状と展望に関する研究会(ビジョン研)」について


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