JILPT「労働組合の現状と展望に関する研究」(56)


虚妄の成果主義


高橋伸夫
東京大学大学院経済学研究科教授
A4判/26頁 2004年11月 (社)教育文化協会発行 無料配布


 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は、前身の日本労働研究機構(JIL)が1994年1月に設置した「労働組合の現状と展望に関する研究会」(略称はビジョン研)を継承・発展させ、「労使関係の現状と展望に関する研究会」(略称はビジョン研で同一)をスタートしました。(社)教育文化協会は、このたび、独立行政法人労働政策研究・研修機構のご厚意により、引き続き、ビジョン研の研究成果を当協会の会員各位に頒布させていただくことになりました。ご尽力を賜りました皆様方には、この場をお借りいたしまして厚く御礼申し上げます。
本書には、ビジョン研の2004年7月2日報告(2004年11月刊行)を収録しました。なお、番号は、前回からの通し番号です。どうぞ、ご活用ください。


概要

 日本企業の人事・賃金制度は、年功序列制ではありません。年功べースで差がつくシステムとなっています。人事制度では、仕事の報酬は次の仕事で報いてきました。頑張って仕事をした人には、次の仕事の内容で差をつけてきました。賃金制度では、生活保障給の観点で平均賃金が設定されていますが、エース級社員とダメ社員には賃金で差をつけてきました。日本企業の年功制は、この人事・賃金制度が両輪となり、これまでうまく機能してきました。近時、人件費抑制などを理由に成果主義を導入する企業が増加の一途をたどってますが、うまく機能しているところはどこにもありません。成果主義では、全ての社員を客観的指標で評価をするため、従来の社内評価とズレが生じてきます。これまで社内評価が高かったエース級社員が評価されなくなり、逆に評価が高くなかった社員がA評価を受けるなど、社内に違和感が漂います。また、評価基準を掲げるため、評価対象外の仕事をやらなくなります。野球でいえば三遊間のゴロを拾うような、部署間に転がっているグレーゾーンの仕事を誰もやらなくなります。成果主義では、成果によって賃金が増減します。これでは、生活の不安に怯え、夢中になって仕事に取り組むことはできません。安心して仕事に取り組める環境を整備することは経営者の責務。いまこそ原点に立ち返り、仕事の報酬は次の仕事の内容で報いる「日本型年功制」を再構築すべきではないでしょうか。



目 次

概要

報告
  1. 成果主義とは
  2. 成果主義の失敗で明らかになったこと
  3. 本当の評価とは
  4. 年功制に近づく年俸制
  5. 人はお金のために働くのではない
  6. お金のインパクトの強さが仕事の喜びを奪う
  7. 年功序列でなかった「日本型年功制」
  8. 仕事の成果は次の仕事で報いる
  9. それでも成果主義を導入したいなら
討議概要

研究会レジュメ

「労使関係の現状と展望に関する研究会(ビジョン研)」について


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