コーポレート・ガバナンスの議論には2つの視点がある。一つは、企業は誰の物かである。アメリカに代表されるシェアホルダー・モデルは、企業の所有者である株主の利益を上げることが企業の任務であるという考え方である。最近は、従来から主張されている株主価値の最大化を最も重視する古典的なものと、ステークホルダーモデルに近い、より洗練されたモデルも主張されるようになってきている。
もう一つは、ドイツに代表されるステークホルダー・モデルで、法律上の企業の所有者は株主かもしれないが、実際の企業運営では様々な利害関係者に配慮しなければならないという考え方で、株主価値に一元化されない多様、多元的な価値を考えることから多元主義モデルとも言われる。
コーポレート・ガバナンス論のもう一つは、経営をうまくやっていくためにそれをいかに監視していくかで、違法行為をさせないように経営責任を確保することと企業業績をあげるためにいかに効率的に運営してもらうかという議論がある。
日本のコーポレート・ガバナンスは、伝統的に従業員価値を重視しているが、ドイツのように制度化されたステークホルダー・モデルではなく、慣行に依存したモデルである。ところが、1990年代後半から会社法がアメリカのシェアホノレター・モデルを意識したものへ改変されており、これが雇用・労働関係へどういった影響を及ぼすのか。労働法制などで何らかの対処が必要なのか問題を提起したい。 |