日本労働研究機構(JIL)は、1994年1月に「労働組合の現状と展望に関する研究会」(略称:ビジョン研)を設置し、1996年8月以降、順次、その研究成果を刊行してきております。
(社)教育文化協会はこのたび、日本労働研究機構(高梨昌会長、花見忠研究所長)のご厚意により、ビジョン研の研究成果を当協会の会員各位に頒布させていただくことになりました。ご尽力を賜りました皆様方には、この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。
本書には、ビジョン研の2002年1月17日報告(2002年5月刊行)を収録しました。どうぞご活用ください。
1. |
ワークシェアリングの類型と論議の焦点 |
|
ワークシェアリングには、(1)雇用維持型(緊急避難型)、(2)雇用維持型(中高年対策型)、(3)雇用創出型、(4)多様就業対応型の4つのタイプがある。
ワークシェアリングを考えるとき、重要なポイントは以下の4点である。
1点目は、「誰と誰がシェアするのか」。ワークシェアするということは誰かが損をして誰かが得をするということであり、誰と誰が利害関係者になるのかが非常に重要になる。これはタイプによって違い、(1)(2)は、現在、雇用されている従業員同士。(3)は労働者と失業者、(4)は高齢者や女性といった労働市場に今まていなかった人までを含む。
2点目は、ワークシェアリングを実施する期間。(1)(2)は短期的で、(3)(4)は中長期的、特に(4)は非常に長期的な側面がある。
しかし、(1)(2)は、短期といっても、(3)(4)に対しての短期であって、いったん解雇して経済情勢が好転したときに、もう一度、従業員を採用すると非常にコストがかかることを見据えて、長期的な視野に立って短期的なワークシェアリングをやっているため、ワークシェアリングすべてが長期的な行動とも言える。
3点目は、休業の取り扱いを明確に位置づける必要性がある。ワークシェアリングとは短時間労働を導入することであるとのイメージが強いが、実際は休業者を含めた形が非常に多い。
たとえば、日本では1975年より雇用調整助成金を使って休業する形がある。また、少しずつ増えている育児休業、ボランティア休暇、教育訓練休暇なども休業を採りいれたワークシェアリングである。
4点目は、どのような労働者をワークシェアリングの念頭に置くか。実際、対象にされているのはブルーカラーだけではないのか。ホワイトカラー的な仕事をしている人にワークシェアリングはなじむのかどうか。 |
|
|
2. |
タイプ別の検討のポイント |
|
(1) |
緊急避難型 |
|
方法として賃金額を低下させる場合と賃金率まで下げる場合がある。後者は、ウェッジシェアリングといわれている。賃金率を下げることは、ワークシェアリングと言えないのではないか。しっかり区別する必要がある。
実際は、労働時間を下げると同時に賃金率まで下げる企業は現れないだろう。したがって労働時間を減らした分、賃金額をどこまで下げるかがポイントになる。
雇用調整助成金を使った休業と緊急避難型のワークシェアリングの違いは、前者の場合、特定の人だけが休業する。後者は、例えば業績の悪い工場の従業員が全員、短時間勤務をする。
また、大企業では賃金水準が高いため、例えば2割賃金を下げてもなんとか労働者はやっていけるが、中小企業で2割賃金を下げるのは難しい。だから中小では、ワークシェアリングは普及しないのではないかと言われているが、厚生労働省のワークシェアリング研究会(以下、「研究会」)の調査によると大企業よりも中小企業の方が緊急避難型のワークシェアリングをこれまで実施しているとの結果がでている。 |
(2) |
雇用維持型(中高年対策型) |
|
日野自動車の例が有名。年金の支給開始年齢が引き上げられることから、中高年の雇用をどうにかして維持しようという目的がある。
逆に若年者を雇い入れるため、高年齢者の労働時間を短くした例もある。ドイツのフォルクスワーゲン社が有名。リレーモデルと言われている。日本では正規従業員の残業を減らし、その分を若年者の期限付き雇用に回すという方法が地方自治体で広まってきている。 |
(3) |
雇用創出型 |
|
労働時間を短縮して失業者と労働者がシェアするもの。フランスの週35時間制、ドイツの産別の労使協約によるものが有名。
日本では、1997年に法定労働時間が週40時間に短縮された。しかし、残業やサービス残業があるため、これをいかに減らしていくかが課題。今まで仕事量の調整を残業の増減でやってきた面がある。解雇の問題とも大きく関係するため、残業をどう位置づけるかが避けて通れない非常に大きい問題である。 |
(4) |
多様就業対応型 |
|
女性、高齢者の働き方、ライフスタイルの問題にまで関わってくるため長期的な取り組みが必要。最終的にはこれを目指すべきである。研究会でのアンケートでは、企業の人事担当者、労働者とも最も関心が高かった。
現在、多く検討されているのは(1)の緊急避難型でこれを導入した場合、労働時間が正社員と同じパートタイマーが増えてくる。最近は、高度な仕事をするパートが増えているため労働時間が正社員と同じとなれば、当然、今の大きな処遇格差に手をつけなければならなくなる。基幹パートの処遇問題に踏み込むと結果的にファミリーフレンドリー企業やこの多就業対応型につながってくる。
基幹パートは、最初から難しい基幹的な仕事をしているのではなく、補完型パートから入って基幹型に移行していく人が多い。しかし、いろいろな調査をみてもパートタイマーから正社員になりたいと希望する人はそれほど多くない。そこで基幹型パートをきちんと処遇するためには、フルタイムの人と待遇が時間比例になるような処遇体系にしたらいいのではないか。
基幹型パートで労働時間が6時間の人は、正社員で労働時間8時間の人の8分の6賃金をもらう。こういった制度にすると基幹型パートの人はまだ子供が小さいので6時間勤務だが、手がかからなくなって8時間働けるようになれば正社員に移る。逆にフルタイムの人が育児休業後、6時間だけ働きたければ正社員から基幹型パートに一定期間移るなど非常にライフスタイルにあった働き方ができるのではないか。
こういう形に移っていくには、なにか強いきっかけが必要だ。今は、その千載一遇のチャンスだと思う。かなり理想論ではあるが、ファミリーフレンドリーは、結果的にワークシェアリングにつながっていく。 |
|
|
|
3. |
私からの3つの提案 |
|
一つは、正社員と基幹型パートの時間比例処遇を企業労使とも是非、実現してほしい。政策的な対応もやってほしい。このような提案は、企業にとって大きなコスト負担になってしまうという意見が強い。しかし、総額人件費が増えないようなシュミレーションを条件つきではあるが作ることができる。研究会の企業側委員の方の話では10年くらいあれば出来るかもしれないという話だった。オランダでもワッセナー合意からフルタイムとパートの賃金差別禁止法まで十数年かかっているため、それぐらいかかるかもしれない。
二つ目は、雇用調整助成金について。現在は休業、訓練、出向が助成の対象だが、これに、緊急避難型に限定されるが、ワークシェアリング要件を加えた方がよい。雇用調整助成金の概念にも合う。企業が大量解雇すると多額の失業給付を雇用保険から払わなければならない。雇用保険財政の面からみてもいいのではないか。
三つ目は、ホワイトカラー的な労働者は、ワークシェアリングに馴染むのか。企業で働いている限り裁量的労働と言っても、なんらかの管理を受けている。だから、ホワイトカラーでもある程度のワークシェアリングは出来ると考える。
労働時間でのシェアは無理があるので、仕事の分担でシェアする。管理職であれば管理する領域を分ける。営業職であれば担当地域を2つ選んで分担する。
諸外国の例でいえば、イギリスでジョブシェアリングというものがある。公務員の例が多く、夫婦で週半分ずつ引きつぎをする形などがある。ジョブシェアリングとワークシェアリングは完全には一致しないが、いわゆるホワイトカラー的仕事もワークシェアリングは可能ではないかと考える。 |
|