JIL「労働組合の現状と展望に関する研究」(46)




「ニュー連合」とは何か

笹森 清
連合会長

B5判/31頁 2002年5月 (社)教育文化協会発行 無料配布


 日本労働研究機構(JIL)は、1994年1月に「労働組合の現状と展望に関する研究会」(略称:ビジョン研)を設置し、1996年8月以降、順次、その研究成果を刊行してきております。
(社)教育文化協会はこのたび、日本労働研究機構(高梨昌会長、花見忠研究所長)のご厚意により、ビジョン研の研究成果を当協会の会員各位に頒布させていただくことになりました。ご尽力を賜りました皆様方には、この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。
本書には、ビジョン研の2001年12月17日報告(2002年5月刊行)を収録しました。どうぞご活用ください。

報告概要


1. 現在の連合が直面する問題
 
(1) 自治労間題
   組織的な問題としては特に自治労問題が極めて重い。究明委員会から再生委員会に切りかえて1月の臨時大会に臨む予定だが、司法の解明への協力と自らの解明の努力、両方をやった段階で責任の所在を明確にする。どこかでけじめをつけて、組合員に対する謝罪だけではなく、労働運動の立ち直りと再生、活性化に向けて、明確なメッセージを国民に対して発信したい。
(2) 雇用・失業問題
   雇用・失業の取り上げ方として、[1]数字的に悪いことへの対応という日本全体の問題としての取り上げ方と、[2]リストラ計画が出てくることに対して、労働組合はどのような対応をとるのかという取り上げ方と、2つある。
さらに、来春季生活闘争の中の「賃金か雇用か」という部分で、今年の連合の方針は「賃金と雇用」をどう整理するのかという方向での要求案の組み立て論議になり、二者択一ではない状況が極めて特徴的。これを春までに整理し、運動としてどうつなげるかが一番身近な課題である。
(3) 組織の強化と拡大
   21世紀最初の大会で連合の方針の中では、組織の強化と拡大を最優先課題とした。連合としては、全体予算の中の約4分の1、24.7%を組織化につけ、陣容も、本部職員約100名の中の30名強を張りつけた。その上で魅力ある労働運動をやり、働く人に対する政策の樹立とその政策を実現させること。今の状況から言うと、雇用と社会保障に特化していくことを政策的な問題として絞り込んで、この二枚看板で組織拡大につなげていきたい。
2. これまでの具体的な活動
   小泉構造改革については、構造改革が必要だという点は一致しているが、戦略的.意図的に対決すると表明した。日本は産業復興、サプライサイドを強化する政策から入ろうとしていて、デマンドサイドに対する配慮が微塵も感じられない。構造改革ができ上がったときに、働く人たちの犠牲の上に成り立ったということでいいのか、セーフティーネットやソフトランディングといった手法はどうするのかを求めなければならない。それがなければ犠牲が大き過ぎるので、戦略的・意図的に対決姿勢を明確にしたい。
 
(1) 全国キャンペーン
   雇用問題に対して、連合として重大決意をする覚悟で輪を広げたい。組織の強化拡大と「ストップ・ザ・失業」という旗を掲げて、全国キャンペーンに乗り出した。
これまで行った地域の特徴として、北海道は、知事から公共事業一律カットをしないよう、新卒の就職率が悪いので、道としては予算も考えながらワークシェアリング研究会を労使に呼びかけたということが話された。
沖縄の場合には、9・11のテロの影響で観光事業が不振なので、特段の配慮等も含めながら、観光立地に対して、いわゆる一国二制度をぜひとってもらえないかと逆陳情を受けた。ワークシェアリングについて、沖縄は極めて、日本の中ではやりやすい土壌がある。それは、米軍統治の影響が残っており、パートとフルタイマーの時間給の格差がほとんどないこと、沖縄県の雇用は右肩上がりで増えてきた。本土の賃金と比較すると、大体全体的に七掛けで、賃金はある部分削って仕事を増やしてきた、実態的には沖縄型ワークシェアリングができていたのではないかということだった。
大阪の場合、中小企業政策をどうやるかだった。公的資金の注入は、中小企業政策に直接出せないか政策的に検討してもらいたいという意見がでた。
(2) 雇用・失業なんでも相談ダイヤルと求職者の直接面談調査 ─二極化する失業者─
   全国キャンペーンにあわせて、雇用・失業なんでも相談ダイヤルと全国のハローワークの前に連合の旗を立てて、直接面談調査を行った。調査に答えてくれた5,500人の人たちが企業に勤めていたときに、労働組合がなかった人が90%であった。例えば電機産業、一連のリストラ改革の際に、組合があるところは、退職金はプラスアルファをどうとるかとか、雇用異動させられた人たちの賃金カット、ダウンの部分については、しばらくの間、その分の差額補填をどうするかとか、そういう交渉をやって、条件的には取っている。ところが組合のなかった人たちは、リストラ解雇の理由について全く納得ができないのに、自発退職の扱いをされ、労働債権の担保は全くされていない。退職金の上乗せはもちろん退職金すらもらえない。未払い賃金も受け取れない。同じ失業者でも完全に二極化している。
その中で、組合の有無にかかわらず、条件的には年齢のミスマッチが極めて現実の問題として大きく、雇用問題が社会問題化し始めている。
さらに、この5,500人の調査の中で失業給付の期間を超えた人が、20%ぐらい、もう間もなく切れるという人まで入れると50%を超える。今の雇用状況の中で給付日数は短すぎる。
3. 春闘について
   春季生活闘争では、まず、ベアを要求しない産別については雇用を担保する協約をきっちりと取ること、ベア要求する産別は、本当にベアを乗せる交渉をやれ。賃金カーブ維持分は確保しなさいという要求をしている。
問題は、賃金カーブ維持分についての情報開示で、定昇、あるいは定昇相当分、定昇がないところはカーブ維持分を、できれば金額で明確に発表して欲しい。そうでないと、圧倒的未組織の人たちに対して何のメッセージも発信できない。
さらに、パターンセッターが従来どおり維持できるかどうか。賃金の相場形成は、取る、取らないにかかわらず、平均賃金の定昇分を発表すれば、中小・未組織の人たちに影響していく。従来の相場のつくり方は、金属労協が第1グループ、第2グループが公益三単産、そして中小・未組織とつながっていく。しかし、ベア要求をしないところが、相場形成としての役割を果たせるのかどうか。これまでは第1グループを第2グループが補完し、相場を底支えする役割があった。しかし、今年は、私鉄だけで踏ん張れるのか。難しいが、パターンの組みかえをしたいと思っている。中小は大手に頼らず自力でやれと言っているが、先行的にはできないので、3月の末から4月の第1週、10日ぐらいまでに、中小については妥結の下限水準を決めざるを得ないのではないか。
4. ワークシェアリングについて
   ワークシェアリングはオールマイティーではないが、日本型を導入し、雇用改善のためにやらざる得ないのではないか。その際、総額所得に対する踏み込みができるのかについて検討した。労使、政労使、労労、使使、それぞれに認識の違う部分がある。そうした中で政労使で相談し、ワークシェアリングのナショナルミニマムのような考え方をある程度決めた上で個別にどう持っていくかが課題になる。
政労使でワークシェアリングについて検討する対策会議を持った。ワークシェアリングをやるとなると戦後55年間のシステム、ライフスタイルの変更、働き方自体を変えなければならないと労働側と経営側の両方から提起した。その上で展開していく場合には、第1段階は緊急対応型の雇用維持・確保、第2段階が中期ビジョンに基づく雇用の創出・拡大ということになるだろう。
働き方、ライフスタイルすべてを変革するには、政労使の社会的責任を明確にし、特に社会変革の中では、企業戦士と言われたサラリーマンに、地域人であり家庭人である役割を持たせる。その場合、労働時間を労使がお互いの確認の中で減少させて、それを地域と家庭に振り分けることを、労働組合、経営者とも同じ考え方の中で役割を担う。
まず、第1段階で、サービス残業、手当のつく時間外労働、有給休暇の取得・消化の問題、均等待遇をどう扱うかが議論になっている。
対策会議に政治が入る理由は、一つは、ナショナルミニマムをどう決めるか、最低賃金の問題、税、社会保障について政治がどう絡むのかを明確にする必要があるから。もり一つは、フリンジ・ベネフィットは経営側の負担になり、これをどうするか、働く側からは減税、税制度そのものをどう変化させるか。この二つをミックスさせないといけないからである。その上で、少子・高齢社会で、男女が共生して家庭と仕事を両立させる社会をつくらなければならない。今まで主な収入の担い手であった男性の所得の減少を家族全体で補うような収入の与え方と労働時間の配分の仕方を考えるべきではないか。
5. 組織拡大と組織の強化
   労働組合独自の問題は、組織の拡大と強化がある。組織の強化は、企業別労働組合の呪縛から抜け出そうということ。これは、今まであまりにも自分たちの運動を世の中に対してアピールしてないという意味。
また、強化については、労働組合の社会的責任と足腰が個別企業労働組合は非常に弱くなり、経営の社会的責任に対して組合がチェッカーの役割を果たせていないのではないか。
さらに、参議院の選挙で連合は組合員が750万人いるのもかかわらず、169万票しか取れなかったという衝撃的な数字。個人名で書けと組織が要請したにもかかわらず、個人名で投票しなかった組合員とのコミュニケーション。なぜこれほどまで薄くなってしまったのか。現場の役員はものすごくよくやってくれていると思うが、結果につながらない。どういう取り組みをしたらいいのか、ナショナルセンター、産別がもう一度見直して、個別企業労働組合に任せていた組合員との接触を、メッセージの出し方を含めて変えることを考えなければいけない。組合費の配分の問題と、今のような商法改正などに対して、産別組織をもっともっと強化していかなければいけない。どちらかというと、産別組織が今一番、薄くなっていっているが逆。産業別組織を強化しなければいけないのではないか。

 

目 次

報告概要

1. 現在の連合が直面する問題
2. これまでの具体的な活動
3. 春闘について
4. ワークシェアリングについて
5. 組織拡大と組織の強化



報 告

1. 連合会長になった経緯
2. 連合が現在、直面している課題
3. 全国キャンペーン
4. 小泉構造改革への態度
5. 雇用・失業なんでも相談ダイヤルと求職者面談調査
6. 春闘について
7. ワークシェアリングについて
8. 労働組合の組織拡大と強化



討議概要

1. 雇用・失業対策
2. 組織拡大について
3. ワークシェアリングについて
4. 経済環境と雇用の流動化


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