JIL「労働組合の現状と展望に関する研究」(42)







高橋 均

連合総合組合局長

B5判/45頁 2001年8月 (社)教育文化協会発行 無料配布


 日本労働研究機構(JIL)は、1994年1月に「労働組合の現状と展望に関する研究会」(略称:ビジョン研)を設置し、1996年8月以降、順次、その研究成果を刊行してきております。
(社)教育文化協会はこのたび、日本労働研究機構(高梨昌会長、花見忠研究所長)のご厚意により、ビジョン研の研究成果を当協会の会員各位に頒布させていただくことになりました。ご尽力を賜りました皆様方には、この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。
本書には、ビジョン研の2001年1月12日報告(2001年8月刊行)を収録しました。どうぞご活用ください。

報告概要

1 はじめに

今日は日本の労働組合の組織率の現状、連合が組織拡大に向けて何をしようと
してきたのか、結果はどうであったのか、これから新しい組織化の方法について
議論していること、これらについてご報告したい。

2 労働組合組織率の現状

労働省の労働組合基礎調査の結果によれば、雇用者総数が5,379万(前年比58万人増)、連合の組合員は731万人(前年比17万人減)、女性の雇用者数2,159万人(前年比35万人増)、週35時間未満の就労者(パート)の前年が1,113万人である。これは総務庁統計で労働省統計とは別の統計だが、パートが25万人増加した。フルタイム労働者が前年4,148万人、この1年間で60万人減った。
一方、日本の労働組合の組合員数は1,154万人(前年比29万人減)、組織率が21.5%(前年比0.7ポイント低下)、連合は雇用労働者の13.6%である。組織率は下げどまっていないが、コアになる部分の組合員の数は1,200万人台で推移し、組合員数は大きく減っていない。雇用労働者数が増加したので組織率は下がってきた。それが1999年から組合員が1,154万人(1994年のピーク比116万人減)になった。この減少数は組合員数が一番多い自治労に匹敵する。フルタイム労働者が減り、パートタイム労働者、女性雇用労働者数が増加、ほとんどがパートとして雇用されたという構図になる。

3 連合の対応と結果

では、こうした状況の中、連合はどのようなことをやってきたのか。
連合結成以来、組織方針があり、組織拡大の主役は構成組織つまり産業別組織の仕事で、連合本部や地方連合金はサポートという位置づけをしてきた。数年たってみて組合員が増えず、むしろ減るという状況になり、この際、連合が1歩前に出ようということで、1996年の秋から3カ年で110万人の組織拡大を行う第1次組織拡大実行計画をつくった。
その柱の一つで地域ユニオンをつくった。従来、ナショナルセンターに加盟するためにはどこかの中央産別に加入するのが組織原則であった。これを地域で個人でも加盟できる受け皿として、産業別組織に結集できない組合のために47都道府県の地方連合会を拠点とした地域ユニオンをつくろうと呼びかけた。現在、28の地方連合会で地域ユニオンがスタートし、組合員は約7,000名になった。
もう一つは電話相談とアドバイザーの配置である。主としてOBの方にお願いして1地方連合金に1名~3名配置し、現在、45の地方連合金に87名の地方アドバイザーが、本部にも2人の中央アドバイザーがいる。また、ラジオのコマーシャルも流している。
さらに、組織拡大のための集中行動を1998年の5月から昨年の11月までに5回目をやった。期間を決め、連合本部と地方連合会と産別が協力し、組織拡大のための街頭宣伝、組合はあるけれども連合に入っていないところへのはたらきかけをしている。
予算的には中央アドバイザーの人件費などインフラ整備で、連合の本部の財政規模は年間約50億円だが2年間で5億円近く投入した。
結果は、1,155の組合で15万9,162名、プラス産別加盟があったので約20万5,000人しか組合員が増えなかった。一番多いのはゼンセン同盟で5万4748人、この3年間で組合員が増えたのは大体1/3強の構成組織にとどまっている状況である。
昨年と今年で新たに70万人の組織拡大をする計画を実践している。各構成組織や地方連合金にも2年間で人数の拡大目標を出してもらっている。1年間の結果は70万人の目標に対して433の組合で6万7,603人しか増えていない。あと1年間で残りの9割という状況にある。

4 組織拡大が進まない要因

なぜうまくいかないのか、幾つかの理由をまとめてみた。
第一に、企画、政策、労働法制、政策担当に比べて組織拡大は地位が低い。誤解を恐れずにいえば、すべての組合ではないが、構成組織や産別の役員、特に企業別労働組合の役員には組織拡大という発想がもともとなくてもいい。入社したときから既に組合があり、ユニオン・ショップで自動的に組合員になるという意味で、単組の役員に組合員を増やすという発想があまりないのが実情だと思う。連合の中でも産別プロパーがいるところでは組合員が増えている。
それから、今、連合本部にいる役職員が120人、地方連合金は500都市に地域協議会をつくっており、そこのパート職員を含めて地方連合金は850人、合計約1,000名いる。しかし、組合をつくった経験がある人は少ない。OBにお願いして中央アドバイザー制度を発足させた背景の一つにそうした事情がある。組織拡大はオルガナイザーの専任者が配置し、リーダーがやる気を持ってやらない限り進まない。
第二は、だれのために組織拡大をするのかという点が見失われがちであること。組織拡大は組織労働者自身のためにやるのであって、未組織労働者に同情してやるのではないということを認識する必要がある。何のために組織拡大をするのかという原点を、結果的に全体がプラスになっていくという点をきちんと押さえていく必要があると思う。
第三に、財政的な観点からいって産別の組織拡大の担当者、オルガナイザーが配置できる体制がなければ組織拡大は進まないと思う。組織拡大のための専従者の有無、組織拡大のノウハウの有無が数字の上で端的にあらわれている。結局、地方の組織を全県に専従者を配置して、財政をきちんと確立できるような50万、60万というような規模を持たないと組織拡大のためのインフラが整備できない。
その意味での組織拡大法が産別の再編・統合だと思う。連合は73の産別をできるだけまとめていく方向で議論し、1999年9月に金属機械とゼンキン同盟がJAMになった。ゼンセン同盟とCSG連合、鉄鋼労連、造船重機労連、非鉄も一緒にやろうという動きになっている。食品連合と食品労協が一緒になり、食品同盟が昨年12月につくられた。今年の7月には商業労連とチェーンストア労協、三越、西武、近鉄などの百貨店7組合が統合される。この秋には、私鉄絵連、運輸労連、交通労連、全自交労連の4つが一緒になって連合に加盟するという動きが出ている。化学リーグ21を中心に10の組合が懇談会をつくり、そういう議論をしてきている。つまり、50万、60万の体制で各県にきちんとした体制をつくり人の配置をすれば、加盟組合に対するきめ細かな指導ができると同時に、組織拡大のための足がかりができる。単に数が大きくなって、社会的に影響力を行使するだけではなく、組織拡大のための基本的な再編・統合といえるのではないのか。

5 アメリカにおける組織拡大の動向

アメリカではかなり組織拡大が進んでいる。2000年1月、AFL-CIOにおける拡大の実際、オルグの養成や賃金、組合の中での地位について調査してきた。1995年10月にカークランドの後継会長選挙があり、ドナヒューとスウィニーが争い、SEIU一一セイユーの組合の会長だったスウィニーが会長に選出された。
組織拡大のための資金についてみると、AAFL-CIOの年間予算はおよそ1億ドルで、組合員とも日本の連合の倍である。それまでAFL-C10の組織拡大予算は全体の3%であったが、1999年の予算では2,500万ドル、3割近くにアップさせ、オルグの養成と採用に使った。アメリカの組織化の手法は、日本のように2人から組合ができる、あるいは1人でも加盟可能というわけではなく、50%プラス1票をとらないと組合として認められない。日本でいう労働委員会の監視のもとに選挙をやる。会社は投票のときに5割を切らしてしまう。そこで、一斉に組合をつくろうとするときにオルグが個別訪問をして署名を求めるといった手法が必要になり、オルグを養成するために莫大な費用を使って組織化研修所、オルガナイジング・インスティチュートをつくった。1999年にはアメリカ50カ所の都市で、1回に20人ずつ、合計2,000人に対して3日間の研修を行い、その中からAFL-CIOの本部、ローカルあるいは産別に採用してもらうことがあった。こうした努力の結果、アメリカの組合の組織率は13.9%で下げどまり、26万5,000人増えた。ただ、雇用者数も増えているので組織率自体は増えなかった。

6 今後の組織拡大のための方策

組織拡大のために人も金もつぎ込むような戦略転換、組織拡大のためにインフラ整備を考える必要がある。そこで、新たな組織拡大方針の策定を6点、議論を始めており、10月の連合第7同定期大会で確認してもらおうと提起をしている。一言で言うと、労働組合で一生懸命走り回って、どれだけ行動したかというのではなくて、結果がどれだけ出たのか、どれだけ行動したかから、どれだけ成果を上げたかという発想に基づく方針にしたい。
まず、組織化がおくれている分野、中小・零細企業に照準を合わせて組織化を進めていきたい。100人以下の企業で働いている人たちは雇用労働者数の総数の約半分の2,600万、組織率は1.4%である。従来のように産業分野別ではなく、業種は関係なく、やれるところがやろうという提起をした。
もう一つは、いわゆる非正規労働者である。パート、派遣、契約、再雇用、あるいは名目だけの管理職というようなところにターゲットを当てたい。パートをユニオンショップで組合員にするという例もあるが、実際は珍しい。パートの組織化はそこの企業別組合があまり賛成しない。なぜかというと、ユニオンショップ協定で組合員になる範囲を社員と限定しているケースが非常に多く、パートを組織化できない。だとすれば、パートだけの組合をつくってもいいではないか。1企業で2つの組合があってもいいではないか、産別が違ってもいいではないかという発想で問題提起をしている。地域だけで完結しているようなところは地域ユニオンに入ってもらおうと考えている。
派遣労働者は100万を超えているが、登録型派遣の労働者を派遣元の企業単位で組織するというのは困難だと思う。理由の一つは、一つの派遣会社にだけ登録しているケースがまれで、派遣会社単位に組合をつくるのが難しい。また、働いている場所が別々で労働者同士の連帯感が生まれにくい。そこで、連合としてハローワーク事業をやり、人材派遣をするときに連合の組合員になっていただく。ユニオンショップ協定ないしはクローズドショップで、組合員にならなければ派遣しない形にして、そのことが新たな組織化だという発想でやっていきたいと考えている。
第二に、組織拡大のための専任のオルガナイサーを、10万人について最低1人買くという提起をしている。組織拡大予算も予算の10%ぐらい配分するよう提起している。連合本部にも地方連合金にも、組織拡大のためのオルガナイサー制度をつくっていきたい。現在、アドバイザーが90名いるが、これも全国500の地域協議会単位に徐々に増やしていけるような仕組みができないか考えている。さらに、拡大実績報酬を基本にしたOBのオルガナイザー制度をつくろうという提起をしている。連合本部の役職員も、地域単位、ブロック単位にオルグの担当制にしたい。ブロックの担当はどれだけ成果を上げたかというところで評価し、判断と行動を機動的に行う実践型の組織にしていきたい。
人材育成については、現在、3日間のオルガナイザー養成講座をやっているが、それも地域単位で増やしたい。女性の組織化が遅れており、女性のオルガナイザーをどう養成するかが課題である。
連合の影響力を広げて労働組合に対する社会的な理解を高めるという意味で、労働相談を強化していきたい。例えば労働委員会に持っていく、裁判をするというときに、弁護士の着手金は即応できるような仕組みを考えていきたい。組織化に伴う労使紛争対策ができるようにしたい。
最後に、連合版のハローワークの実践ということで昨年の11月1日に、株式会社ワークネットという会社を資本金1億円てつくった。職業紹介事業と一一般労働者派遣事業を許可申請し、1月1日付で許可が得られたので、派遣組織化の一環としてやっていきたい。


目 次

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報告概要

*報告のテーマについて

  1. 労働組合組織率の現状
  2. 連合の対応と結果
  3. 組織拡大が進まない要因
  4. アメリカにおける組織拡大の動向
  5. 今後の組織拡大のための方策

報告

  1. 歯止めのかからない組織率低下
  2. 第1次組織拡大実行計画の成果
  3. 第2次組織拡大計画の実施
  4. なぜ組織拡大が思うように進まないのか
  5. AFL-CIOの組織拡大戦略
  6. 新たな組織拡大方針の策定へ
  7. (1)遅れている分野への対策
    (2)オルグの配置と予算増強
  8. 連合版「ハローワーク」の開業


討議概要


パート・派遣労働者の組織化
非正規従業員組織化の実際と課題
連合の人材派遣における組織化の方法
新たな発想の必要性
資料<レジュメ>
用語解説
労働組合からのコメント
ことわりがき


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