第22回マスターコース修了論文

賃金は争議行為によって上がるのか
-重回帰分析による争議行為と賃上げ率の規定因の分析-

永渕 達也(情報産業労働組合連合会KDDI労働組合)

<概要>

 日本における平均給与(月間現金給与総額)は、1997年をピークに、25年もの間伸び悩んでいる。そして、その要因の一つとして争議行為が減少していることが指摘される(後述)。他方、春季生活闘争の回答集計結果は、争議行為を行わなくなった近年にあっても毎年物価上昇分プラスアルファの賃上げ率を示している。果たして賃上げには争議行為が必要なのであろうか。
 そこで本稿では、争議行為が賃金決定の規定因であるかを検証する。第1節では戦後から今日に至るまでの日本における労働争議、争議行為の件数と賃金、賃上げ率の推移を確認し、第一次オイルショックの時期が争議行為、賃上げ率の分水嶺であることを示す。第2節では争議行為と賃上げを相関分析することで、争議行為件数と賃上げ率の間に強い相関関係があることを明らかにする。また、賃金交渉に際して使用者側の第一次有額回答に対する上積み額も争議行為件数との間に強い相関関係があることを明らかにする。ただし、賃上げ率に対する上積み額の寄与度はさして大きくないことから、賃上げ率を高める争議行為以外の規定因の存在が示唆される。第3節では賃上げと争議行為の因果関係について、争議行為以外の規定因を仮定し、重回帰分析等にて検証する。その結果、賃上げ率を高めるには高い要求額を掲げることが重要であること、同時に高い要求額は争議行為を惹起することを示す。
 この結果から今後の労働組合には、現実的な範囲で最も高い要求額を提示できるように企業の財務情報を精緻に分析すること及び争議行為を実施できる備えを行うことが求められると言える。

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