第21回マスターコース修了論文集

「人が育ち続ける」現場の作り方
― 物流危機への新たなる挑戦 ―

喜勢 茜(運輸労連・ヤマト運輸労働組合)

<概要>

 物流業界は、他産業と比較して「労働時間が2割長く、賃金は2割安い」と言われ、物量に対する人手不足も深刻な状況が続いている。物流業界の人手不足の要因について、先行研究では、規制緩和以降の過当競争に伴う単価の下落や、荷主との関係性といった「構造的な側面」から語られてきた。この構造を変えるためには法律や社会全体の意識変革が必要となるが、人手不足は差し迫った課題であり、現実を踏まえてこれを突破できる方法を模索できないか。
 本稿では、「人材育成」や「キャリア形成」という現場の現実的な問題に着眼して、物流現場が人手不足に陥る要因と、その対策について考察を深めたい。具体的な手法としては、ヤマト運輸の現場に入り込み、集配ドライバーを中心に10名の社員にインタビュー調査を実施した。インタビューを通しての現場実態の把握から浮かび上がってきた現実的な変革課題を、体系的に整序して提言する。「人が育ち続ける」ための施策が、企業とそこで働く人々にとって、どれほど重要な意味を持つかということを本稿で示すとともに、これへの着眼が、物流危機の解決に向けた新たな一助となることを願っている。

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