加藤 将文(印刷労連 コクヨ労働組合)
企業における海外への事業進出は、今や単に製造業における生産拠点の確保のみならず、市場を求めた販売拠点の確保といった展開に入っている。場合によっては現地企業の買収を行なうことで、それを早急に進めようとする動きも顕著である。
このような市場参入の展開下では、国内から現地へ赴任する者の業務上の役割も、以前とは大きく変化している。つまり、従来とは異なり技術者や管理業務のマネージャーとして赴任するのではなく、営業や販売、調達といったノウハウを持った者が、関連業務を遂行するために現地に赴任するケースが増えているのである。これは、海外法人の管理業務が現地化し、その分管理の精度が落ち得ることを示唆する。
企業内労働組合は、これまで主に国内から現地へ赴任する者に対する生活環境の確保や待遇改善、健康管理体制などをテーマにして、経営との間で協議を進めてきた。ただし、海外法人の現地化とは裏腹にその管理体制が弱まる可能性がある以上、企業内労働組合が海外拠点に対して新たな役割をどのように発揮していくかが問われているといえる。
そのためにも、現地社員への教育や労務管理など、労働組合がノウハウを遺憾なく発揮できる分野を明らかにし、活動のフィールドを広げていくことが大切である。
事業の展開は経営判断によるが、企業の競争力とCSR(企業の社会的責任)の両立には人材の育成および現地との密接なつながりが不可欠である。
この論文では、ある企業の取り組み実態を通して、企業が見落としがちな課題を浮き彫りにする中で、企業内労働組合の役割を述べる。
┃総目次に戻る┃