『私の提言』

講評

「第14回私の提言」運営委員会
委員長 南雲 弘行

 本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承して、2004年から「私の提言・連合論文募集」として衣替えし、第8回から「私の提言・働くことを軸とする安心社会」として、連合が目指す社会像実現のための提言を組合員のみならず幅広く募集を呼び掛け、実施してまいりました。「山田精吾顕彰会」から数えて20回目、連合の事業となってからは14回目の募集となりました。

 今回は、労働組合役職員、会社員、教職員、公務員、学生、OBなど、幅広い層から、過去最多となる67編の応募をいただきました。連合が提唱する「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けた、格差・貧困対策や非正規労働への対応、長時間労働の是正、両立支援、障がい者支援、労働教育など、今の社会状況を映し出した数多くのテーマが取りあげられました。
 教育文化協会HP、連合HP、公募ガイドなどの広告効果で、より多くの方から、自身の体験に基づく切実な提言を応募いただいたことは大変喜ばしい限りです。また、「学生特別賞」の対象となる学生からも13編の応募があり、今後も学生らしい斬新な提言が寄せられることを期待しています。その一方で、単位組合(企業)で働く組合員や、現役労働組合役職員(特に30歳~40歳)からの応募が依然として少ないことは課題として認識し、次回はより積極的な働きかけを行っていきたいと考えています。

 提言を評価する任務を与えられている運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言になっているか」
 「自身の経験を踏まえたオリジナリティある内容であるか」などを念頭に最終選考にあたり、委員の総意で「優秀賞」1点、「佳作賞」1点、「奨励賞」3点、「学生特別賞」1点を選出しました。
 「優秀賞」を受賞した石原康則さんの提言では、労働組合役員退任後に携わっている障がい者の就労支援がテーマとして取りあげられ、労働組合が取り組むべき課題が具体的に提起されています。その他の受賞者の提言も、男性の育児参画に向けた取り組みや、仕事と介護の両立支援、外国人労働者に対する就労支援、罹患しても働くことのできる環境整備、仕事と子育ての両立支援など、時宜を得たテーマについて、自身の経験や取り組みに基づいて書かれたものです。
 置かれた立場は様々ですが、それぞれの提言から、より良い社会を実現していくために、何かを変えていかなければならないとの強い思いを感じることができました。
 最終選考にあたっての議論経過は以上ですが、入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の橋元秀一さん、廣瀬真理子さん、大谷由里子さん、吉川沙織さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。

 今回の67編の提言に託された思いを受け止め、いかにして連合運動に生かしていくかがわれわれの使命であると思います。「すべての働く者」が安心して働き続けられる社会の実現のため、より多くの皆様からの提言をお待ちいたしております。

 また、最後になりますが、応募いただいたすべての方に感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に御礼申し上げます。


寸評

國學院大學 橋元 秀一

 今回は過去最多の67本の応募があった。20歳台から70歳台までと幅広い年齢層で、かつ学生、現役労働者、求職中の方、定年退職後の方々など実に多彩であった。寄せられたテーマは長労働時間、女性就業、高齢者や障害者の雇用等の問題、病気治療を継続しながらの就業問題、ブラックバイト問題など、政府が「1億総活躍」とか「働き方改革」とかと言わねばならないほど、労働をめぐって諸問題が噴出している現代の社会状況を反映していた。中には、自分史を振り返ることを通じて絞り出されたエッセイもあり、読ませる作品もあった。しかし、「連合への提言」募集である限り、提言としての具体性や実現性は適切であるのかが問われる。また、単なる主張に留まらず、裏付ける論理や根拠が求められる。受賞作品は、そうした点で見るべきものがあった。
 優秀賞は、石原康則氏の「障害者雇用における労働組合への期待と提言」である。組合役員退任後、障害者就労支援などに携わっている中で見えてきた障害者雇用の問題点を端的に示しつつ、組合が果たしている役割を働く障害者にも及ぼすように提言している。非正規雇用の障害者では労働時間の削減が行われるため、最賃の引き上げが処遇改善に結びついていない問題やワークルールが無視されている問題、組合への組織化問題などである。さらに、障害者雇用率の達成は労使共同責任であり、働く障害者の権利擁護、苦情処理・紛争解決援助も組合にできるとしている。組合機能を良く理解されているゆえ、「労働組合の障害者雇用に対する『本気度』の問題」であるとの指摘は鋭い。組合は真摯に受け止めるべき提言であると言わねばならない。
 佳作賞は、神野沙織氏「女性のさらなる活躍推進に向けて、結婚・出産後も働き続けやすい社会の実現を-「男性の育児休業取得」の重要性と取得率増加に向けた提案-」である。自らの体験に基づき、制度整備だけでは簡単に乗り越えられない「風土」を指摘している。その上で具体的な改善策を提示し、女性自身の意識改革も訴えている。現実にある「壁」と向き合い、意欲的に提言し乗り越えようとする姿勢は清々しい。こうした提言の積み重ねの中で、女性活躍は実現していくであろうことを期待させる作品である。
 奨励賞は、孫利偉氏「私が見た外国人社会への支援の必要性」、幡地佑有子氏「病気に罹患しても働き続けられる安心社会の実現にむけて」、秋庭くるみ氏「介護離職を防ぎ介護と仕事の両立をするために-求められる制度改善・働き方改革と職場での受け入れ方-」の3つであった。それぞれ重要な課題となっていながらも、これまで十分議論されていない問題をきちんと指摘し提言していることから評価された。また、学生特別賞は、上田隼也氏・加藤亜利紗氏「働く女性をサポートするDEAI プロジェクトの提案-立命館大学少子化対策プロジェクトの活動から-」が受賞した。大学キャンパスを活用した学生団体による新たな保育システムの取り組みは有益な社会活動となっており、学生による積極的な活動に期待したからである。
 多様な視点から多彩な提言が寄せられることは、組合活動を改善していく上で有益である。根拠や理由をしっかり書き込んだ具体性のある提言が、さらに多く寄せられることを望みたい。


寸評

東海大学 廣瀬 真理子

 今回、審査対象となった「私の提言」は、66篇でした。その一篇一篇に、執筆者の「働くことを軸とする生活」のご経験や、「安心して働けるような社会づくり」への希望がこめられていましたが、審査委員会での審議を経て、今年の「私の提言」の入賞作品は、以下のように決まりました。
 まず、優秀賞には、石原康則さんの「障害者雇用における労働組合への期待と提言」が選ばれました。石原さんは、労働組合役員を退任後、社会福祉法人で障がい者雇用の支援に従事した経験を通して、障がい者就労を促進する意義を、人権の視点から明らかにしています。また、障がい者雇用の理念や制度・政策と現実との間にみられるギャップを具体的に示して、企業の責任だけでなく、問題の改善のための労働組合の取り組みについて、説得力のある提言が打ち出されています。障がい者雇用の促進は、まさに労働組合の「本気度」にかかっている、という結びの言葉が印象的でした。さらなる視点として、もし、障がい者雇用を、より広くとらえるとしたら、それは、単線的に一般雇用をめざすものとするのか、それとも障がいの程度などを考慮して、より柔軟なしくみを構築するなかで、労働者としての地位や保護を保障していくのか、というような議論も必要ではないかと思います。
 次に、佳作賞は、神野沙織さんの「女性のさらなる活躍に向けて、結婚・出産後も働き続けやすい社会の実現を~『男性の育児休業取得』の重要性と取得率増加に向けた提案~」に決まりました。神野さんは、体験を通して直面している就労と子育ての両立支援策のディレンマについて、統計資料を用いて、日本に根強く残る性別役割分業意識を明らかにしています。その上で、女性の社会進出を促進するために、北欧ですでに導入されている男性の育児休業の割当て制度について、アイスランドの事例を検討して、日本の男性の育児休業の取得率を高めることを具体策として提言しています。同様の問題を抱える働く女性たちを勇気づけ、男女平等をめざす意識改革という面についても、本提言の積極的な姿勢が評価されました。ただ、男性の育児休業取得率を高めること以外にも、たとえば、休業の柔軟な取得方法や、休業と保育サービスのつなぎ方など、就労と子育て支援策を総合的に見渡す視点も、多様な子育てニーズへの対応をはかる上で必要ではないかと思いました。
 そして、奨励賞には次の3本が選ばれました。まず、秋葉くるみさんは、「介護離職を防ぎ介護と仕事の両立をするために~求められる制度改善・働き方改革と職場での受け入れ方~」と題して、テレワークを例とした新しい働き方を提言しています。また、孫利偉さんの外国人の視点に立った「私が見た外国人社員への支援の必要性」には、これからの日本の企業、労働組合、個人の労働者が、外国人社員との相互理解を深めていくためのヒントが見いだせます。さらに、幡地佑有子さんの「病気に罹患しても働き続けられる安心社会の実現に向けて」は、病気になり仕事を失うことで、社会的なつながりもまた失ってしまうことの苦悩を、みずからの体験を通して伝え、働くことの意味を問い直している点が印象に残りました。最近の社会保障改革において、労働市場への復帰策が重視されるいっぽうで、傷病給付制度の民営化などが、健康な労働者を選んで雇用しがちになることも、欧州の事例から見出せます。そのような点から、本提言は、将来に向けた社会保障のあり方をめぐる重要な問題提起のように思えます。
 さらに学生特別賞として、上田隼也さんと加藤亜利紗さんの共同執筆による「働く女性をサポートするDEAIプロジェクトの提案~立命館大学少子化対策プロジェクトの活動から~」が、学生を中心とする地域の保育サポートの可能性に期待を込めて選ばれました。
 以上が、今回の「私の提言」の受賞者の主な評価ポイントですが、受賞者以外の応募提言からも多くの刺激を受けました。今後もぜひ多くの提言を寄せていただきたいと思います。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 今回は、67点という今までで最多の応募がありました。運営委員メンバーもかなりの時間を割いてひとつづつ読ませていただいて、評価させていただきました。たくさんの熱い思いや提言に触れて、いろいろ考えさせられることや学ぶことがたくさんありました。
 そして、満場一致に近い状態で、石原康則さんの提言が優秀賞に選ばれました。石原さんは、三菱電機労働組合の中央執行委員長をされた経験もあり、労働組合のことも詳しく、現在は、福祉センターの理事長をされています。タイトルは、「障害者雇用における労働組合への期待と提言」です。これから労働組合がやらなければならないこと、世の中の現状などが理路整然と書かれていて、わたしたち運営委員にとっても、学びとなる提言です。ぜひ、労働組合執行部には読んでいただきたい内容です。それだけでなく、委員メンバーからは、「こうして、労働組合を経験して、今も社会のために動こうとしている人たちにこそ、こういった提言をもっとしてもらいたい」という話も出てきました。こちらは、これからに期待します。
 佳作賞には、女性活用について提言されたUAゼンセンの神野沙織さんが選ばれました。男性の育児休業取得の重要性と取得率増加に向けた提案です。こちらも、これから労働組合が取り上げていかなければならない提言であるということで評価されました。
 奨励賞には、病気でも働きつづけられる世の中を提言した幡地佑有子さんと外国人社員への支援を提言した孫利偉さん、介護と仕事の両立を提言した秋庭くるみさんが選ばれました。特に、幡地さんと孫さんの提言は、自分の実体験に基づいたものであり、「こんなことを言いたい」「みんなに知って欲しい」という思いが痛いほど伝わりました。わたしとしては、秋庭さんの提言をかなり評価させていただいたのですが、どうしても優秀賞の石原さんの提言と比較すると弱い部分があって、3人とも奨励賞に落ち着きました。
 昨年から、学生特別賞の枠を設けたこともあって、学生の応募もかなりありました。学生の中では、上田隼也さんと加藤亜利紗さん2人の共著である働く女性をサポートするプロジェクトの提言が選ばれました。実際に、2人は立命館大学の学生でありながら、滋賀県の少子化対策プロジェクトにも関わっていて、かなり具体的な提言をされています。わたし個人としては、こんなメンバーこそ、これからの労働組合の活動に関わって欲しいと思いました。


寸評

参議院議員 吉川 沙織

 「私の提言」連合提言の運営委員として、第7回以降選考に携わる機会を頂き、はやいもので今回が8度目となる。8度の選考過程を通じて今回特徴的だった点は、(1)過去最多の提言数であったこと、(2)スムーズな選考過程であったことの2点であると感じている。特に、運営委員が予備審査結果を持ち寄る本審査当日、出席した全ての運営委員が納得のうえでスムーズに優秀賞・佳作賞が選出されたことは運営委員として携わらせて頂き8度目にして初めてのことであり、印象に残っている点である。

 今回、提言数が過去最多であったにも関わらず、スムーズに優秀賞・佳作賞が選出された理由として、各運営委員による予備審査段階で、提言の具体性・独自性・社会性・現実性等の評価項目を設定し個別審査イメージを明確にしたことや、評価する提言数の上限を設定したことにより運営委員間で評価する提言が収斂されやすい環境だったことが関係していると考える。また、委員それぞれが予備審査結果と全体の印象を述べたうえで、提言としての明確性や強さ、自らの経験等に基づく具体性等を基準に運営委員間で共通認識を醸成し、優秀賞1編、佳作賞1編、奨励賞3編、学生特別賞1編を選出した。

 優秀賞は、石原康則氏が選出されたが、石原氏自身の経験に基づく提言の強さと社会性・具体性があり、予備審査結果においてもほぼ全ての運営委員が高い評価をしていたことから、満場一致スムーズな選出となった。これは、佳作賞の神野沙織氏についても同様であり、優秀賞と佳作賞については相対的に突出しており、1編ずつの選出となっている。

 奨励賞の3編については、外国人労働者の在り方を考える等、多様性の観点、病気や介護等に関連して働き続けられる環境整備の観点から選出したが、運営委員間で真摯な議論を行ったうえ、激励の意味を込めて選出したものである。

 今回、学生特別賞は1編の選出に留まったが、学生ならではの新鮮な視点の提言が多くあったことから、次回以降も学生からの積極的な応募を期待したい。

 最後に、運営委員の一人として、提言数が増える取り組みを一貫して求めてきたことから、今回、過去最多の提言数であったことは嬉しく、さらに提言が増えることを願っている。また、連合に対しては、今回の提言の多くに言及があった多様化する社会情勢等に対応するため、働くことを軸とする安心社会の実現に資するため、提言の内容を活用して欲しいと願うものである。


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