私が見た外国人社員への支援の必要性
孫 利偉
いま、世界情勢が変化に富む時代となり、日本の雇用事情も日々変わりつつある。企業はグローバル化を図ることや、人手不足を解消するために、日本人社員と同様に、外国人社員を雇い始めた。特に、2008年日本の文部科学省は「留学生30万人計画」を発表した。これは、日本への留学生を、2020年までに、当時の14万人から30万人に増やそうという計画となっている。この影響により、外国人社員を雇用する日本企業も確実に増えるだろう。そのなか、外国人社員、特にこれから長く、あるいは生涯日本で働く決意をした外国籍の社員たちは、この外国の日本でどのように働き、そして安心して過ごせるかは重要な課題になるのではないかと考えている。
社員一人一人を大事にすると同様に、理想形としては、外国人社員を一般日本人社員と差別なく雇用することが大事だろう。事実上日本の大手企業においては、すでに実践している状態だと言える。パナソニックは2011年度の新卒採用のうち約8割、1100人程度の外国人採用を行った。ソニーも2010年に採用する新卒者のうち30%を外国人にすることや、カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、2012年には新卒の約8割に当たる1050人の外国人の採用を行うなど。会社規模や海外展開はすでに成熟しており、大手企業であればあるほど、外国人採用は比較的に実施しやすい環境となっている。優秀な外国人人材を確保でき、さらにこの社員たちが持っている能力を発揮してもらい、よりよく会社が成長していく。このような「良好循環」は望ましいだろう。
一方、個人的により外国人社員の雇用が必要と思われる中小企業はどうなっているだろう。いまの時代は、変化せざるを得ない時代だと思う。日本国内市場では成長が見込めず、アジアや新興国で事業を強化して行く計画のある中小企業。変革が必要であるにもかかわらず、変革を恐れ、そこでまた行き詰る。こうした背景ゆえに企業はグローバル化に向けた対策を、重要課題として行う必要性がさらに増してきている。しかしながら、例をあげると、私が勤めている会社は地方の中堅企業であり、連結社員数は約1800人のうち、外国人社員は自分を含めまだ数人程度(製造現場従業員を除く)。外国人社員を取り入れる勇気は当然必要だろうが、グローバル展開を図ろうとすれば、その勇気を最大限にした方がよいのではないか。このベースがあるうえで、外国人社員が持っている、いままで日本にない考え方や視点は、必ず日本の企業に新しい風をもたらしてくれると思う。もちろん、葛藤する場面も生まれるが、「世界村」のなかで、日本をより働きやすい・働きがいのある社会・環境にするために、これらは必要不可欠ではないだろうか。
外国人社員がより働きやすく、安心して過ごせる社会を実現するためには、私から三つの提案がある。
まず、外国人がより就職しやすい環境の整備。
その一、「就職活動」への理解を深める講演・講座の普及。私自身は中国から来たもので、中国で大学4年間の勉強を終え、日本の大学の大学院に進学した。そして、大学院生1年生の後半から正式に仕事を探し始め、そこで日本に存在するこの「就職活動」に驚かされた。筆記試験内容の種類およびボリュームはもちろん、身だしなみにも厳しいかつ「暗黙的な」ルールがあり、途中から日本社会に参戦した私たち外国人にとっては、最初から不利な立場に立たせられたと言えるだろう。直近、外国人留学生向けに、このようなことを説明する講演や講座が増えているが、まだ一部の留学生しかが対象となっていないと思う。より範囲・対象を広げれば、より多くの外国人留学生が就職できるようになると思う。当然、主催者には様々な団体があるなか、大きな組織が積極的に行えばさらに効果的になるだろう。連合は、さまざまな企業との付き合いもあり、この点に関してはノウハウを収集・シェアすることができると思う。「就職活動」自身について理解をしてもらうように、大手企業の協力をいただき、その知名度を活用したうえで、「就職活動」を周知していただき、その後日本で就職する外国人留学生はきっと増える。その相乗効果により、中小企業にもより多くの外国人留学生が応募に来るだろう。企業にとって人材は重要な財産であり、そのなか、外国人社員は「外為」の財産だと信じている。
その二、企業側にも努力が必要である。現在の日本企業は、変化を恐れる傾向が強く、積極的に変革を行わない。その結果、現状維持=衰退となりつつある。技術革新には、より大きな力が必要であるかもしれないが、ひとまず既存の考え方や価値観と異なる外国人社員の観点を取り入れたらいかがだろうか。日々の接触や議論・熱弁を通じて、新しいアイデアや新しいビジネスチャンスが誕生するかもしれない。その企業はこれにより強くなり、場合によってはグローバル進出も視野に入る可能性もあるだろう。アジアや新興国で事業を強化する考え方が仮になくても、外国人社員は一般日本人社員と同じように働けるうえで、母国のことを知っているので、何らかの形で新規事業・ビジネスのチャンスにもつながるだろう。連合には、特に中小企業における外国人社員の採用を応援・促進するキャンペーンや活動を展開していただきたい。
数年前のことではあるが、事例として紹介させていただきたい。友人の一人は愛知県にある従業員数20人ほどの中小企業に勤めている。主な仕事内容は海外から仕入れた自動車部品を県内の自動車メーカに卸すことである。中国が仕入れ先のこともあり、友人は同社社長と話す機会はよくあった。そのなか、中国において当時日本語学校の質は差がありすぎて、友人が日本に来るまでに日本語勉強をしていた学校は全然ダメだとの会話があった。そして、その学校に対し、友人は不満をいっぱい抱えていたようであった。まともな日本語学校に通えばとの話題に移り、同社社長は友人に対し「市場調査に行こう」とすぐに出張を決めた。その後、確かに同社は大連および北京にて日本語学校事業を展開していたと聞いている。このように、中小企業にとっては、既存環境にない外国人社員との普段の接触のなかでも、不意の間にビジネスチャンスが生まれる可能性もある。一概とはいえないが、これは外国人社員の企業にとっての魅力の一つだと言えるだろう。
次に、外国人社員が集う場を設けよう。
大学院時代に、留学生委員会という組織に入っていた。外国人留学生のために積極的に活動を展開し、時折日本人学生や一般社会人との交流会も開催した。平和について考えるセミナーや異文化交流活動など、話し合いや交流を通じて、勉強になったことはもちろんたくさんあった。それ以外に、悩み相談をしてもらうことや、意見交換することで、こころのケアにもなったと実感していた。会社に就職してから、このような場がほとんどなく、悩む場面があってもひたすら我慢することもなくはないと言えている。連合にはこのような外国人社員が集う組織が必要ではないかと思う。ここで外国人社員たちは、日本企業に対する認識や意見等を交流・交換し、その後もし会社側に反映できれば、日本企業の成長さらに日本労働環境の改善にもつながるのではないだろうか。そして、この場での交流を通じて、外国人社員たちはリフレッシュができ、さらにやる気が増すことになると考える。一方、外国人社員から見た「日本で働いて良かった点」や、「日本企業のよいところ」をまとめ、今後世界中の労働者と交流する場があれば、活用できる資料にもなり、他国の参考にもなるだろう。この点について、具体案は二つがある。
その一、連合に「外国人社員交流委員会」を設置。各県や地域に県支部および地域の支部を置く。連合組織に合わせる形で妥当だと考えている。定期的に集会を行い、交流の場を設ける。個々の会社にいる外国人社員の意見・アドバイス・改善点を県支部にて集結、各県支部の内容を地域支部に、同様に全国定期集会時に提出する。もちろん、連合の担当者にもその中(各レベル支部の定期集会)に参加していただき、最終的には連合本部を通じて、会社に反映できればさらに効果的だと思う。
その二、外国人社員交流委員会は外国人社員同士が集まる交流セミナーを企画し、外国人社員同士の交流を促進する。交流のテーマは毎年連合本部に提出し、意見やアドバイスを求める。たとえば、「日本で働くことの意味」や「外国人社員が快適に働ける環境とは」など。日本人と異なる観点で物事を考える外国人社員ならではのものはいっぱい誕生すると思う。一方、働くことを軸として、それ以外に安心社会づくりに関するテーマも取り入れてもらえばさらに良いかと考えている。日本は世界中でも安心して暮らせる国の一つである。この中に外国人の意見をも取り入れると、ほんとの意味の「世界村」の実現にも貢献できるだろう。
最後に、外国人社員の家族をケアしよう。
外国人社員は、一生懸命に仕事に努め、「働く意味」について身をもって探求し続けると同時に、家族をも大事にしなければならない。これは万国共通だと思う。異国で働き、異国で生活する本人は頑張るとして、その家族は生活する環境によって様々な困難や難題にぶつかるかもしれない。そこで、うまく乗り越えられなければ、働く本人にも影響を及ぼす可能性が十分ある。連合には、この観点から何かできることはあると思う。
その一、外国人社員配偶者のための仕事の斡旋。外国人社員の子供が保育園や学校に通う場合、その配偶者はフルータイムやパートタイムの仕事に従事することが多い。特にパートタイムの仕事について、企業と調整を行い、外国人社員の配偶者のために斡旋することは、最終的に外国人社員本人が頑張る保障の一つにもなる。連合からすべての企業に依頼することは難しいと思うが、サービス業等のようなパートタイムの仕事に従事しやすい業種がある企業にテスト的に斡旋を模索していただければより効果的だと思う。優れている事例があれば、それをモデルにし、さらに普及キャンペーンを行えば、企業からも理解または興味を示してくれるだろう。連合にとって、斡旋が難しい場合、少なくとも連合のなかにその家族たちが仕事の相談ができるような窓口等があった方が良いかと思う。
その二、外国人社員家族同士の交流促進。定期的に外国人社員家族のための集会を行えば、こころも休められ、さらに元気よく頑張れるようになるだろう。実現可能性から考えると、県支部レベルの集会が望ましいかと考えている。外国人社員交流委員会の県支部が主催側として企画していただき、連合支部が応援する形にする。交流にはさまざまな形が考えられる。異文化交流パーティーや美食フェスティバルなど。自国の友人も作れるほか、世界他国の友人も作れると思う。さらに、子供同士もこの場で大いにはしゃげるだろう。協賛できる企業があればさらに良い。物資の充実はもちろん図れるし、会社の知名度を上げるにも役に立つと考える。連合はさまざま企業と付き合うなか、このような資源は豊富に違いない。仲人役として、企業と外国人社員、さらにその家族とより良好な関係を築き、その良い反響もまた企業に恩返しされる。これもみんなが望むところだろう。
外国人社員がより働きやすく、安心して生活できる社会づくりについて、上記の素案を個人の意見として提示させていただいた。一方、「日本人すら職に困る時代なのに、そんな余裕はない」と言われる心配はなくもない。
しかしながら、私は下記のように考えている。
日本は移民国ではないが、東洋からも西洋からも多くの方々が日本に来ている。来日した当時の目的は多種多様ではあるが、何かに魅了され、その後日本で働くことを決意した人は確実に増えている。上記の素案の目的は、外国人に日本人に与える以上に政策的に、あるいは施策的に傾けるではなく、支援という形で提案させていただいた。多くの場面において、日本人と比べてこの異国で働くことを決めた当初から、すでに一段と弱い立場に立っていると言えるだろう。このような不利な要素を克服し、日本の企業に勤めるようになってから、働く本人はもちろん、その家族に対してもケアする必要は当然あると思う。
連合は日本企業の成長を期待しているのは言うまでもなく、それ以上に社員の一人一人の幸せを願っていると信じている。外国人社員への配慮・支援は、企業の成長にもつながり、結果的には雇用創出にもつながっているのではないだろうか。長い目でみていただければ、今後何十年、何百年の期間において、外国人社員は日本の多くのところで活躍できる、あるいはすでに活躍しているかもしれない。大手企業の場合は比較的に実現しやすい、あるいはすでに形が出来上がっているかもしれないが、中小企業には連合の支援・施策がより必要ではないかと考えている。
中国にも日本の労働組合総連合会と似たような組織があり、「中華全国総工会」という。個々の会社に存在している労働組合は「工会」である。社員の権利や福利厚生等のために日々奮闘中である。中国で学生時代を過ごしてきたが、実際に中国で働いたことはなかった。その分、日本の企業に存在する労働組合、そして連合は、一般の社員のためにどれほど頑張っているかは実感している。ゆえに、少々立場的に弱い外国人社員であるからこそ、連合の力が必要だと信じしている。
正直に申し上げると、自分は恵まれていると思う。就職してからも、同じチーム、同じ部署、さらに他部署の同僚と仲良く仕事ができ、先輩や上司にも可愛がれている。社内においては、自分が外国人であることもたぶんみんなに知られており、いつも温かい挨拶で迎えていただいている。多少意見がぶつかったりしても、その後のフォローもきちんとしていただき、非常に感激であった。そして、現在は家族と一緒に幸せに暮らしている。だからこそ、上記に提案させていただいた内容を通じ、日本をより働きやすい・働きがいのある社会、そして安心して生活できる社会にし、より多くの外国人社員(未来形かもしれないが)に実感していただきたい。
連合には、大きな力があると思う。日本政府は、外国人留学生の招致奨励政策を発表するほか、外国人の雇用促進セミナーを企業を対象に行うなど、施策をとっている。一方、連合の中心にあるのは人、つまり一人一人の社員だと考えている。人を重心に考案した施策はより効果が出ると信じる。この連合の特徴をぜひ生かしていただき、外国人社員でも働きやすく、安心して過ごせる社会の実現をこころから願っている。
備考、参考資料、引用等一覧
- 「留学生30万人計画」について、文部科学省ほか関係省庁(外務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省)は、2008年7月29日付けで計画の骨子を策定した。