私の提言

佳作賞


女性のさらなる活躍推進に向けて、
結婚・出産後も働き続けやすい社会の実現を
~「男性の育児休業取得」の重要性と取得率増加に向けた提案~

神野 沙織

1.はじめに

 1985年に制定された「男女雇用機会均等法」をきっかけに、現在に至るまで社会に出て働く女性は確実に増えている。同法の制定以降、男性の労働人口が4.4%増なのに対し、女性の労働人口は20.1%も増加している。また、1997年以降で見ると、男性の労働人口は減少傾向にあるものの、女性の労働人口は増加傾向が続いている。加えて、結婚出産後に退職する女性が多かったことから発生していた、いわゆる「M字型カーブ」も、M字の底が大幅に引き上げられるとともに、全体的に数値が上昇してきている。
 このような統計だけを見ると、一見女性の社会進出が進んでいるように見えるものの、まだそうとは言えない事実がある。前述した同調査において、男女の正規・非正規従業員の比率を見ると、男性は「正規の職員・従業員」の割合が77.9%であるのに対し、女性の「正規の職員・従業員」の割合は44.1%であった。また、国立社会保障・人口問題研究所調査によると、2010年~2014年の間に第1子を出産した女性の継続就業率は53.1%であり、約半数の女性が第1子を出産後に仕事を辞めている(男性はというと、調査結果を調べてみたものの、該当するような調査はされておらず、男性の継続就業の割合はかなりに高いことが推測できる)。そして、帝国データバンクが2016年に発表したデータによると、女性の管理職比率は6.6%となっており、企業の様々な経営判断の場に女性の意見が反映されづらい傾向にある。
 そんな中、政府は2020年までに女性の管理職比率を30%にするという目標を掲げるとともに、2016年に「女性活躍推進法」が施行され、企業は自社の女性の活躍に関する情報把握や課題分析、それらを踏まえた行動計画の策定が求められるようになった。では、今後ますます女性の活躍が推進され、政府が目指している「働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会」は実現していくのだろうか?
 私は、期待以上の効果は見込めないのではと考える。私がそのように考えるのは、今の日本が女性にとって、結婚・出産後も働き続けやすい環境になりきれていないからである。確かにこの数年のうちに、育児をしながらでも働き続けやすいようにと、育児休業制度や育児短時間勤務制度、子の看護休暇制度など、様々な制度が導入・拡充され、それらの制度の導入以前と比較すれば働き続けやすい環境は整いつつあるものの、実際の生活となると非常に難しい問題が残っている。数年前より問題視されている待機児童の問題もあるが、女性が結婚・出産後も働き続けやすい環境を実現するにあたり、また別の問題が存在していると私は考えている。この点について、数年前に体験した私の体験談と世論調査の結果を示しながら問題提起するとともに、それに対する改善策を述べていきたい。

2.問題提起:体験談と世論調査の結果

 まずは私の体験談を示したい。これは私が2年前に体験した話である。私は当時結婚3年目であり、結婚前同様に一生懸命仕事に打ち込む毎日を過ごしていた。そんなある日義父母に呼ばれ、夫の実家で義母から「いつまで仕事を続けるのか」「妻は家庭を支えて、子どもを産み、外で頑張って働いてきた夫を家で迎え、癒す存在であるべきだ」と言われた。そして自宅に帰ってから夫と将来の家族について話をすると、夫には「子どもが産まれたとしても、自分は育休と取ることはできない」「うちの会社では男性の育休が認められない」「夫が主夫をすることについて、世間の目はまだ冷たい」と言われた。私にとって仕事とは、家庭を支えることと同様にとても大切なものである。女性が結婚・出産後もそれ以前と同様に働き続けることは社会に認められていないのか?社会人となり、働き始めた中で、このような風土が残っていることに気付きつつあったものの、この時私は、かつてない不自由さを感じた。それと同時に、私は日本で働く女性を取り巻く現実の中に、見えない壁が存在していることに気付いた。
 内閣府が2014年に実施した「女性活躍推進に関する世論調査」によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成する割合は44.6%(「賛成」12.5%と「どちらかといえば賛成」32.1%を合算)、反対する割合は49.4%(「どちらかと言えば反対」33.3%と「反対」16.1%を合算)となっている。1992年調査と比較すると、賛成する割合は15.5ポイント減り、反対する割合は15.5ポイント増えているものの、いまだに「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考えをもつ方が約半数存在することが分かる。 


(出典:内閣府「女性活躍推進に関する世論調査」)

 また、同調査において、「女性が職業を持つことに対する意識」を調査したところ、「子どもができてもずっと職業を続けるほうがよい」と答えている方は44.8%と半数にも満たず、逆に半数以上が「結婚や子どもができたタイミングで仕事から離れたよい」と考えていることが分かる。
 上記の調査結果から見ると、実に約半数の人が結婚・出産後に女性が働き続けることについて未だに否定的な見方をしていることが分かる。結婚・出産となると自分の意思だけで物事を決めることは非常に難しく、このような風土が残っているとなると、結婚・出産後も働き続けやすいとは言えない。女性の社会進出が進んでいるというニュースがたびたび報道され、事実色々なところで変化に遭遇し(例えば・・・女性知事や女性大臣の誕生など)、一見順調に女性の社会進出が進んでいるように見えているものの、このような本当に根深い問題が未だに存在しているのである。結婚・出産後も働き続けることが難しければ、必然的にその時点でキャリアが途絶え(いわゆるマミートラック)、政府の掲げる「働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会」の実現は難しい。
 では、このような風土を変えていくためには、どうすればよいのだろうか?この問題の糸口をつかむために、世界で一番男女平等が進んでいるとされるアイスランドの事例を見て考えてみたい。

3.アイスランドと日本の育児休業制度

 アイスランドは2016年10月には8年連続で世界経済フォーラム(World Economic Forum)にて男女平等ランキング1位と発表された国である。(ちなみに日本は145カ国中111位・G7で最下位である)。アイスランドでは昔から男女平等の考え方が根付いていたわけではない。1975年に男女差別に抗議するために国中の女性が職場や家庭で一斉にストライキを起こしたことを機に、一気に男女平等を目指すための様々な取り組みが行われた結果、男女平等の実現と女性の社会進出が進むこととなった。現在では、従業員50人以上の企業を対象に、女性役員比率を「最低4割」と義務付けるクオーター制が実施されており、また、2016年の国会議員における女性の割合は41%、大臣にいたっては44%が女性となっている。この数字を見る限り、前述した日本における「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」「結婚や子どもができたタイミングで仕事から離れたよい」という風土が存在しているとは思えない。
 ではどのような取り組みが行われ、風土が変化してきたのだろう。その取り組みの一つとして、育児休業制度の工夫による、男性の育児休業取得率の増加があるといわれている。アイスランドの育児休業の制度は、子どもが生まれてから男性も女性もそれぞれ3ヶ月、その後どちらかが3ヶ月の育児休業を取得できる制度となっており、取得しないと権利を失う仕組みとなっている(仮に男性が育児休業を取得しなければ、育児休業の期間が3ヶ月短くなってしまう)。併せて育児休業中の経済的な補助として、国が平均給与の80%を支払うことで、男性の育児休業の取得率は90%に達したという。こうなれば、男性も積極的に育児に関わることができるようになる。
 一方、日本の男性の育児休業取得率はどうか。厚労省調査によると、2016年度の育児休業取得率は、女性が81.8%であるのに対し、男性はわずか3.16%であった。この結果を見ても、日本では明らかに女性に育児の負担が偏っていることが分かる。
 そこで、日本もアイスランドと同様に育児休業制度を工夫し、男性の育児休業取得率を高めることはできないか。そうすれば、男性の育児への関わりが増えることにより、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」「結婚や子どもができたタイミングで仕事から離れた方がよい」という風土を払拭できるのではないか。このような考えのもと、次章では、どうすれば男性の育児休業制度取得率を増加させることができるのか、考察していきたい。

4.日本の男性の育児休業取得率を高めるために

 日本の男性の育児休業取得率が低い理由については、2013年に連合が実施した「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査」がある。この調査によると、現在子どもがいる男性525名のうち、「取得したことはないが取得したかった」は45.5%であり、子どもがいない男性475名のうち、「子どもが生まれたときに取得したいが、取得できないと思う」は52.2%であった。(図2・図3参照)


(出典:連合「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査」より)


(出典:連合「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査」より)

 そして、彼らが育休を取得できなかった、できないと思う理由の1位は「代替要因がいない(57.9%)」、2位は「経済的に負担となる(32.6%)」、3位は「上司に理解がない(30.2%)」であった。(図4参照)。
 これらの結果から、男性の約半数は育児休業の取得を望んでいるものの、職場での自分の役割や経済的な負担から、取得は難しいと考え、取得をあきらめていた、もしくはあきらめようと思っていることが分かる。


(出典:連合「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査」より)

 併せて、日本の育児休業制度についても確認したい。日本の場合、育児休業は男女ともに取得することができ、取得期間は基本1年間であるが、両方が取得すれば子どもが産まれて最大1年2ヶ月まで取得することができる。また、育児休業中は雇用保険から育児休業給付金として、休業前の給与の67%(休業開始から6ヶ月経過後は50%)が支給される仕組みとなっている。アイスランドの制度と比較して、日本の制度にはどのような課題があるのだろう。
 私は、日本の育児休業制度の1つ目の課題として、アイスランドの事例のように“男性も必ず取らなければいけないような制度”にはなっていないことがあると考えている。
 2つ目の課題としては、育児休業給付金の水準も低すぎることが考えられる。日本の平均的な賃金水準の正社員に支給される育児休業給付金の金額を計算すると、1年間で約210万円である。賞与を含めた育児休業取得前の水準と比較すると、休業前の50%の水準にも満たない。仮に男女両方が育児休業を取得するとしたら、かなり経済的に厳しくなる状況がある。
 これらを踏まえて、男性の育児休業の取得率を高める取り組みとして、以下の内容を行政・企業それぞれに対して提案したい。

<行政に提案したいこと>

①男性しか取得できない育児休業期間を設ける
 前述したとおり、日本では男性が取得しなくても1年間は休業することができる。そこで、現在の育児休業制度の取得可能な期間である1年間の間、数ヶ月だけでも男性しか取得できない期間を設けてもよいのではないだろうか。そうすれば必然的に男性も育児休業を取得しようという動きに繋がり、取得率は上昇することが考えられる。また、男性の育児休業取得に向けて、行政が大きく舵を切った印象を受け、企業は男性社員からの育児休業取得の申請に対して、今まで以上の対応が求められるようになる。

②育児休業給付金の増額する
 前述した連合のアンケートより、育児休業中の経済的負担を懸念する声が多いこと、そして給付金の支給率が低いことから、育児休業給付金の支給率を高くする必要がある。大幅な増額は難しいとしても、せめて6ヶ月経過後も減額されずに、休業前の給与の67%が支給される制度にしてもよいのではないか。アイスランドと日本とでは、消費税率が大きく違い、原資の問題もあるものの、出生率低下の問題と合わせて、給付金の現在の水準と課題を正しく国民に周知させていけば、給付金の支給率の増加も難しくないのではないか。

③ 男性社員に対して育児休業の取得を促進した企業への表彰制度を充実させる
 また、メディアへの積極的な露出を行う
 現在、厚生労働省主導のもと、「イクメンプロジェクト」が実施されている。これは、2010年に始まり、積極的に育児する「イクメン」及び「イクメン企業」を周知・情報するプロジェクトである。このプロジェクトの活動の中に「イクメン企業アワード」(働きながら安心して子どもを産み育てることができる労働環境の整備推進を目的として、男性従業員が育児と仕事を両立するための、企業のキラリと光る取り組みに着目し、表彰する制度)や「イクボスアワード」(部下の育休取得や短時間勤務などに際し、業務を滞りなく進めるための工夫をしつつ、自らも仕事と生活を充実させている管理職を表彰する制度)などがある。また、男性の育児休業についての項目が「くるみんマーク」の認定基準になっている。
 しかしながら、これらの存在自体があまり知られていないように感じる。毎年企業を選定し、表彰していくのであれば、大々的に公表するとともに、具体的にどのような取り組みが行われたのか特集などを組んで、社会に向けて積極的に発信していくのはどうか。
 今後さらなる人員不足が進むと予想される中、これらの表彰制度がより広く認知されるようになれば、他社との差別化につながり、より良い人材を採用するためにも企業としても積極的に取り組まざるをえなくなるのではないか。

<企業に提案したいこと>

① 属人的な職務の廃止
 前述した連合のアンケートにより、男性が育休を取得できなかった、できないと思う理由の1位に「代替要因がいない(57.9%)」が挙げられていた。育児休業を取得してしまうと、自分の代わりのできる従業員がいないため、職場に迷惑を掛けてしまうということである。これを改善するために、1人ひとりの仕事内容を見える化し・共有することで、育児休業を取得したとしても、代わりに誰かがフォローに入れる体制を整えてもらいたい。妊娠が発覚し、子どもが産まれるまでは少なくとも半年はある。その間に誰がどの業務を行うのか、役割分担を決め、安心して育児休業を取得してもらえるような環境を作ってもらいたい。属人的な職務の廃止は、企業の生産性向上にも繋がるというメリットもある。

② 男性の育児休業取得促進に向けた経営陣からのメッセージの発信
 経営トップから、男性も育児休業を取得するようにとのメッセージがあれば、私の夫のように、今まで育児休業の取得をためらっている男性が、育児休業を堂々と上長に申し出ることができる。早い段階で多くの企業の経営陣が男性の育児休業取得の大切さに気づき、社内に発信してもらいたい。

4.まとめ

 ここまで、女性の活躍推進を妨げるものとして、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」や「結婚や子どもができたタイミングで仕事から離れたよい」といった、女性が結婚・出産後も仕事を続けることに対する否定的な風土が未だに残っていることを問題提起し、そのような風土を払拭するために、行政や企業に対して男性の育児休業の取得率向上の提案を行ってきたが、最後に、私たち女性一人ひとりの意識改革・一人ひとりの勇気が必要であるということを伝えたい。例えば、結婚・出産後も働き続けたいと考えている女性が、否定的な風土を気にしてあきらめてしまうのであれば、きっと今後も私が問題提起してきたことは問題とされず、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」「結婚や子どもができたタイミングで仕事から離れた方がよい」という風土が残ったままになるだろう。もしこのような風土を感じ、仕事を続けることをあきらめようとしている人がいるならば、それに負けずに勇気を出して、自分の意志を示し、自分自身が信じた・自分自身が本当に望む道を進んでほしい。
 この提言のまとめとして、私自身の決意を述べたい。数年前、私は確かに悔しい思いをし、「自分が間違っているのではないか」「自分の考え方は受け入れられるものではないのだろうか」と悩んでいた。今も悩んでいないといえば嘘になってしまう。しかし、私自身も前述したとおりに、その時に自分が望む道を進み続けたいと思う。きっと数年後には子どもを産んでいるだろう。仕事も辞めていないだろう。きっと仕事と育児に忙しい毎日を過ごしているだろう。そんな私を、世間から・そして義父母から否定されることもあるかもしれない。けれど自分自身がその生活に満足し、そしてこれからも仕事を続けていきたいと思うのであれば、私はその時の私にできる精一杯のことをしていきたいと思う。そして、いつでも自然体で色々な人と接し、同じような境遇にある後輩がいたら励まし、いつかは憧れる先輩になっていたい。世間の見方や風土に左右されず、私はこれからの人生を自分の手で創っていきたい。


備考、参考資料、引用等一覧

  1. 厚生労働省「平成27年版 働く女性の状況」P80,P81
  2. 厚生労働省「平成27年版 働く女性の状況」P80,P81
  3. 厚生労働省「平成27年版 働く女性の状況」P81,P82
  4. 総務省統計局「労働力調査 平成28年(2016年)」 雇用形態別雇用者数
  5. 国立社会保障・人口問題研究所調査「第15回出生動向基本調査」
    平成27年(2015年)実施。第Ⅱ部 第4章 子育ての状況 P52
  6. 帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査」P2 2016年8月15日発表。
  7. 内閣府男女共同参画局 第3次男女共同参画基本計画(平成22年12月閣議決定)
  8. 内閣府男女共同参画局「女性活躍推進法 見える化サイト」より文章引用
  9. アイスランドの取り組みについては、以下3点の文献を元に作成
    ①山口裕司「女性リーダーの現状と展望」国際公共政策研究2013年9月刊行
    ②木村正人「男女平等世界一アイスランドと111位の日本の違い 立ち上がれ大和なでしこ」 yahooニュース 2016年10月26日に掲載
    ③「アメリカvs.アイスランド 女性活躍推進国の秘訣と戦略」月刊事業構想 2016年5月号
  10. 厚生労働省「平成27年度雇用均等基本調査」
  11. 「連合・賃金レポート2016」P31・P32にある、産業計平均値(所定内賃金 307,500円・一時金 927,000円:計算を単純化するために、所定内賃金300,000円・一時金 900,000円で計算)と、「ハローワークインターネットサービス」HPに記載された計算式により算出。
    <育休前の年収>
     (所定内賃金)300,000円×12ヶ月+(一時金)900,000円=(年収)4,500,000円
    <育児休業給付金>
      育児休業取得後 1ヶ月あたり
       6ヶ月未満 300,000円×6÷180×30×0.67=201,000円
       6ヶ月以上 300,000円×6÷180×30×0.5=150,000円
      以上をもとに、年間でもらえる金額を計算すると、
     201,000円×6ヶ月+150,000円×6ヶ月=2,106,000円
    <育休前の年収と育児休業給付金との比較>
     2,106,000円÷4,500,000円=0.468 (育休前の年収の46.8%)
  12. 厚生労働省「イクメンプロジェクト」HPを参照

戻る