キャリア教育の一環として第三者主体による新たな教育の在り方に対する提言
~働くことを軸とする安心社会の実現に向けた教育的アプローチ~
横田 渉
1.まえがき
私は、現役の大学3年生である。度々友人から、まことしやかな話を伺うことがある。それは、「大卒の初任給より、アルバイトの方が稼げるのではないか」という声だ。確かに、見かけの数字だけをみたら、そのように考えるのも一考であるかもしれない。しかし、このような発言が出ること自体、職業や労働に関しての教育が普及していないことの証左ではないだろうか。少なくとも、現在、大学で教職課程を受講している私はそのように感じる。
私は、大学において学科の専門科目以外に中学校教諭一種免許状(技術)と高等学校教諭一種免許状(工業)の取得に向けた学習をしている。工業科の教員免許を取得するためには、「職業指導」という科目を修める必要がある。この科目で学ぶことは、工業科の高校生に対して行うべきキャリア教育に関する総論である。内容的は、高校生に限らず、すべての働くものが身に着けておくべき職業に関する基礎的知識を多く含んでいた。
同時に、私自身この科目を学んで以降、職業や労働に関して大きな変化が生じた。それは、生徒、学生が自立し、一人の社会人として“飯が食える”ようになるためには、教育はどのような立場でサポートをしていかなくてはならないということである。このようなことに対して、教育学的視点でどのようにアプローチできるかを模索すべく、月刊連合を購読し、今日の労働情勢や労働に関する基礎的知識を深めた。そして、本論においては、これまでの学びから、働くことを軸とした安心社会の実現に向けた教育的なアプローチを考えた。
序論では、中学、高等学校における、キャリア教育として位置づけられている、職場体験やインターンシップの現状を取り上げた。そして、これらを背景に、時代にふさわしい新しい形の労働教育の在り方に関して、具体的な授業計画を提示した。
そして、これらの教育策と連合との有機的な連動に関しての提言を末尾に示した。
2.中学校における職場体験を考える
一般に公立中学校では、原則として、学級活動、総合学習の時間を利用して「職場体験」を実施するのが通例である。これらに関しての調査を国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センターが毎年実施している。平成26年度における「職場体験・インターンシップ実施状況と調査結果」(注1)を以下に示した。また、中学校では、大多数は実施学年全員が参加することが主であるため、実施率を生徒の参加率(在学中に一度でも職場体験を体験した生徒の割合)として扱っている。
中学校数 | 実施学校数 | 参加率 | |
---|---|---|---|
公立 | 9,630校 | 9,479校 | 98.4% |
国立 | 77校 | 42校 | 54.5% |
私立 | 758校 | 199校 | 26.3% |
表1から、公立の中学校では極めて高い参加率であることがわかる。一方、国立、私立中学校では職場体験を実施しているところは少ない。この結果を生徒数の観点から考えたい。アンケートの回収率などの観点から単純比較は出来ないが、学校別在籍者数に関して、文部科学省実施の「平成26年度学校基本調査」(注2)を表2に示した。
在学者数 | 全体に占める割合 | |
---|---|---|
公立 | 3,227,314人 | 92.1% |
国立 | 31,220人 | 0.891% |
私立 | 245,800人 | 7.01% |
表2から、在学者数という視点を通して、表1の実施状況を見ると、私立中学校においては割合としては低いものの、約24.6万人もの在学者を有していることから、職場体験を経験していない生徒が多く存在することがわかる。
公立と国立、私立中学校においての参加率の差は著しい。しかし、職場体験は中学校で行うにふさわしい教育内容と考えるため、教育の自由を担保しつつ、職場体験学習の積極的な活用を促すような取り組みが必要である。
3.中学校での職場体験は就労理解の一歩
私自身は、公立中学校出身であり、職場体験を地元の商店街の八百屋で3日間行った。この地域は、周辺に大規模のショッピングセンターと大型チェーンスーパーに囲まれた地域であった。その近隣に位置する八百屋ということで、お客さんの数もまばらであり、お金を稼ぐことの大変さを痛感した記憶がある。このような、五感を通した経験が中学生時の教育には必要であると思う。発達段階の側面からも、労働や就労に関する理論を学ぶよりは、実際に体験することが何よりも大切だと考える。この経験を丁寧につなげ、高等学校ではより深みのあるキャリア教育を行うことが、教育の連続性の観点からもふさわしい。
4.職場体験からインターンシップ
現在、高等学校への進学率が9割を超えていることに鑑みると、義務教育の目的である(教育基本法 第2章第5項[1])「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自律的に生きる基礎」を養うための持続的な教育の場として高等学校が位置づけられることは、教育基本法からも理解することができる。そのため、高等学校においても中学校同様にキャリア教育を充実させる必要がある。一般に、高等学校段階では“職場体験”という名称から“インターンシップ”へ変わる。職場体験とは、「子どもたちに不安を乗り越えさせ、新たな学びを促す」(注3)といわれ、逆に、インターンシップとは、「今の学びと将来とのつながりに気付くよう促す」(注3)というような言葉の違いはあるものの、基本的には就業体験と捉えることができる。以下に、高等学校におけるインターンシップの実施状況(注1)をまとめた。
高等学校数 | 実施学校数 | 実施率 | |
---|---|---|---|
公立 | 4,180校 | 3,268校 | 78.2% |
国立 | 19校 | 1校 | 5.3% |
私立 | 1,429校 | 570校 | 39.9% |
表3から、高等学校でも比較的に公立高校を中心としてインターンシップを実施していることが読み取れる。また、中学校における調査と同様に国立、私立高等学校における実施率の低さが顕著である。しかし、高等学校では、中学校での職場体験の前提となる条件「大多数は実施学年全員が参加」とは異なり、希望制(選択制)の側面が強いため、信頼性のある「在学中に一度でも参加したことのある生徒の割合」を参加率とみなし、公立高等学校(全日制・定時制)学科別のデータ(注1)を以下にまとめた。
参加率 | |
---|---|
公立高等学校(全日制・定時制) | 35.0% |
普通科 | 21.5% |
職業に関する学科 | 69.5% |
表4から、公立高等学校において、実施率は高いが参加率が低いことが読み取れる。普通科では参加率が20%台と低さが顕著に示されている。これは、実施率が8割程度の公立学校の結果のため、これよりも実施率が低い、国立、私立高等学校においてはさらに低い参加率であることが予想される。
この様な現状から、平成20年に閣議決定された「教育基本振興計画」(注4)において、「普通科高等学校において一層、強力にインターンシップ教育を推進する」と示しているが、現実的な問題として、学校の中でこのような教育を行うことには、限界があるように考える。
なぜなら、高等学校では総合学習の時間、特別活動のような科目が設置されていない学校が大半であり、とりわけ、普通科高校は進学に重点を置いた学習に偏る傾向がある。このため、直接的には受験勉強に直結しない科目の授業時間がすくなく、キャリア教育を授業の一環として扱いにくい現状がある。
そのため、キャリア教育は、学校という枠を超えて、第3者の担い手を設ける必要があると私は考えている。この担い手として、労働に関する国民を代表する機関である、連合が関わることが最もふさわしい。このことは、労働や職業観を養うことに加え、広く労働組合という組織を認知してもらうことにもつながる。次項では、第3者が担うべきキャリア教育に対して、モデル授業を示した。
5.学校という枠を超えキャリア教育の実施
本項では、具体的な「働くことを軸とする安心社会」というテーマへ向けての提言をしていく。
前項までは、中学、高等学校段階での現時点における、職業教育の取り組みとして代表的な「職場体験」と「インターンシップ」を取り上げた。とりわけ、高等学校段階における参加率の低さが際立ち、中学校で学んできた職場体験を円滑につなぐ教育が欠けている。大学進学率が6割程度で、高等学校を卒業し、職に就く人が存在することを考えれば、無論、この時点で積極的なキャリア教育に対するアプローチをすることは重要である。
同時に、「働く」ことにかかわる本質的理解。今日まで、学校内で行われてきた、職場体験やインターンシップはあくまでも働くことの体験を前提としたものであり、「働くことにかかわる事情」すなわち、働くことに関しての本質的な学習はされてこなかった。働くための肝である、その仕組みや制度を学ぶことは、高校生にかかわらず、大学生などすべての人にとって必要だ。「働くことにかかわる事情」は自分で学べという意見もあるかもしれない。しかし、連合のように、労働に関する機関がこの一翼を担うことは、将来的な意味においても極めて重要である。
幸い、私は教職課程を通して「職業指導」という科目を通して、働くとはどういうことなのか。正社員とはなんなのか。非正規労働、派遣労働とはなにか。労働3権によって、私達にはどのような恩恵があるか。このようなことなどを学んできた。
この学びを基に、学校の外で第3者の教育の担い手が行うにふさわしい、キャリア教育のモデル授業例や授業プログラムを以下に提案した。
6.教育プログラム
本教育プログラムでは、高校2年生相当を対象にした授業計画を提示した。この学年を設定した理由は、18歳選挙権や生徒の多様な進路指導を応援する観点からも妥当と考えたためだ。授業時間は一般的な中学、高等学校における授業時間と同等の50分程度を想定している。
第1回 | 「働く」とは? |
第2回 | 収入を考える 「生活するために必要なお金を計算してみよう」 |
第3回 | 年金制度の歴史的変遷と今日の現状1 「基礎年金と厚生年金」 |
第4回 | 年金制度の歴史的変遷と今日の現状2 「年金はどうなる?~50年後の未来~」 |
第5回 | 男女共同参画社会を考える1 「社会変化~男女共働きを考える~」 |
第6回 | 男女共同参画社会を考える2 「女性の社会進出~働く女性~」 |
第7回 | 誰のために働くのか1 「正規雇用と非正規雇用の仕組み」 |
第8回 | 誰のために働くのか2 「履歴書を書いてみる」 |
第9回 | 誰のために働くのか3 「給与明細書の読み方」 |
第10回 | 誰のために働くのか4 「ゲストスピーカーによる講話」 |
第11回 | 労働の権利と保障1 「労働3権と私たちの権利」 |
第12回 | 労働の権利と保障2 「労働組合とは?」 |
第13回 | 職業の適性と関わり方 「様々な職業 ~適性を見つけよう~」 |
第14回 | これまでの学びの実践1 「経済団体と労働組合の話を聞いてみる」 |
第15回 | これまでの学びの実践2 「働くことと社会」 |
これほど、「働く」ことに主眼を置いた授業(注5)というものは、いままで学校の授業としては行われてこなかったように思う。だからこそ、しっかりとした「働くための実践知」を高等学校段階で理解することは将来にわたり重要な役割を果たす。
私が提案する、教育プログラムは、常に、生徒、学生の自主性に任せ、教師はそれをサポートするにとどめるように留意したい。そして、ゲストスピーカーを招聘し様々な方にお話をして頂く機会を設けている。これは、あらゆる立場からの話を聞くことにより、偏りなく広範囲に労働を学ぶ機会を提供するとの考えからだ。
以下には、個別の授業に対する取り組むべき内容や、位置づけを示した。
・第1回 「働く」とは?
生徒から働くとはどのようなものなのかについて話し合いを深めてもらう。そして、高校生の中にはアルバイトをしている生徒もいると思われるので、そのような生徒には、自身の体験談を話してもらい、より働くということに対して、身近に感じてもらえるような内容にする。ここでは、アルバイトやパートなどの制度的な仕組みに関して言及し、第7回に向けての継続性を意識する。
・第2回 収入を考える
生徒自身の何気ない生活にどの程度お金がかかっているのかを、話し合ってもらう。例えば、1日3食。1食300円と仮定をすると、900円。つまり1ヶ月で27,000円。携帯電話料金が1カ月5,000円。家賃は?洋服は?趣味は?のように、生徒が意欲的に取り組んでもらえるような話の展開をし、1ヶ月の概算の生活費をグループごとに出してもらう。また、第3,4回へ授業内容を円滑につなぐために、国民年金は月々16,260円(平成28年度現在)支払うことを伝え、これは安い?高い?というような議論もしたい。私自身も、このような体験を大学での職業指導の授業で実際に学び、面白いものだったと率直に思った。そして、想像以上に生活をするためにはお金がかかるということを実感したので、この体験を生徒にも味わってもらう。
・第3,4回 年金制度の歴史的変遷と今日の現状1,2
この回は、これまでの内容とは角度を少し変え、退職した後に必ずお世話になるであろう、年金制度に関してやや踏み込んだ内容を取り扱っている。年金制度を理解することは、たとえ高校生であっても必要である。ここでは、20歳をむかえると払わなくてはならないのが年金制度の特徴ではあるが、大学生などの学生は年金保険料の支払いが猶予される制度の説明をし、年金に対する基本的な知識を学ぶ。また、基礎年金とは?厚生年金とは?というような具体的な話をし、高校生にとって親近感がないであろう年金に関しての理解に努める。そして、第4回では高校生の関心をさらに惹きつけるために、「私たち世代には年金は支払われるのか?」と題したワークショップも行いたい。余裕があればGPIFの話を加え、年金と運用制度の良い関係に関して考えていきたい。
・第5,6回 男女共同参画社会を考える1,2
いまや、男女共働きは当たり前になりつつある。このような働き方が普及した背景を考えてもらう。また、ゲストスピーカーを招聘して話を伺うほか、女性管理職の方をお呼びし、これまでの経歴や数十年前の労働環境についても、お話しいただく。より一層、力強く男女共同参画社会を、日本に根付かせるための方策に関して、ゲストスピーカーとともに議論を深める。
・第7,8,9,10回 誰のために働くのか1,2,3,4
この内容は、教育プログラムで最も時間を割いて生徒に伝えたい内容である。働くということが、誰のためなのか。無論、自分の為でもあるが社会、次の世代の為でもあるということを伝える。第7回では正規労働と非正規労働の違いに関して学ぶことで、第2回の授業で算出した生活するために必要なお金を稼ぐためにはどうすればよいのかを学ぶ。また、非正規を絶対悪とすることがないように配慮を重ねる。同時に、正社員と言われる正規労働者の歴史的な流れを伝える。例えば、年功序列制や、終身雇用制が崩壊しつつある現状などである。そして、望まない非正規労働者の実態を伝え、どのような働き方をしたいのか。また、どのような職業に就きたいのかを深め、職業観を養う。
第8回では、履歴書を実際に生徒に書いてもらう。これは、自分のこれまでの人生をふり返るとともに、「学生時代に力をいれたこと」や「自己PR」「資格・免許」の記載をする。また、履歴書をすべて書くことが素晴らしいことではないという前提のもと、すこしでも、内容の充実した履歴書を書くことは、自分自身がどれだけ実り多き学生生活をしてきたかに、ほぼ直結することを伝え、学生生活を有意義に過ごしてもらうための契機づけを行う。
第9回では、実際の給与明細書を用いて、その読み方を伝え、残業代の仕組みや、天引きされる各種税金、社会保険料などに関しての理解をはかる。また、ブラックバイトやサービス残業という、現実世界で起きている現状を伝え、労働に関してのしっかりとした知識をつける重要性を伝える。
第10回ではゲストスピーカーを招聘しこれまでの学びをどのように自分の職業につなぐかを考えてもらう。ゲストスピーカーには働く立場から、企業の会社員の方をはじめ幅広い方々を招聘し、労働環境の現実や働くことのやりがいを、より現実に近い形で伺う。これらを経て、生徒自身が、誰のために働き、何のために働くのかなどに関して、最適解を見出すことが出来れば、この授業の意義は概ね達成できたと考える。
・第11,12回 労働の権利と保障1,2
第10回までの内容では、働くことに対して不安を抱いてしまう生徒も出てくる可能性があるため、ここでは、労働に関しての権利や保障の説明をする。労働3権の話をし、団結権、団体交渉権、団体行動権は日本国憲法に保障されている崇高な権利であることを説明する。また、言葉だけが独り歩きしないように、第11回では、労働3権を保障するための法律として、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法を取り上げる。また、社会権に関しても触れることで、これらの権利を得るに至った、流れを伝えることで、働くことに対する不安を払拭する。第12回では、よりよい職場環境を確保するために、労働組合が中心となって行っている春闘などの具体的取り組みを提示することで、労働組合に関しての理解をはかるための一助とする。
・第13回 職業の適性と関わり方
ここでは、これまでの話を基に、生徒1人ひとりの進路をどのように実現するか検討をする。例えば、医師や看護師になりたい生徒は、必然と進学をして専門課程を学ばなければならない。一方、寿司職人を希望する生徒は、職人に弟子入りして技術を磨く必要がある。大学や専門学校では寿司の握り方を専門的に教えてくるところは少ないことから、いち早く技術を得たい場合は、進学がふさわしいのか、職人へ弟子入りすることが好ましいのかなどの具体的事例を提示し考える。このように、生徒自身のなりたい職業とその適正。そして、それを実現するための具体的な道筋についての説明をする。また、実現することが極めて難しいと思われる進路に関しては、本人の適性や発達段階を鑑みた上で、適切な措置を施していく。
・第14,15回 これまでの学びと実践1,2
第14回目までの学びの総決算として、本時間を位置づけている。これまでは、どちらかというと雇われる側としての内容に時間を割いてきた。そのため、本時間では経済団体の立場、すなわち雇う立場からお話を伺う。これは、日本経済団体連合会のような大きな組織だけでなく、地元企業の社長などを招聘し、雇う側にとって、雇われる側に身に着けてほしい能力などを紹介して頂く。同時に、労働組合の方にも参加して頂き、経済団体と労働組合の方の対話形式で話を深め、双方の立場からの話を伺い、生徒にも積極的に対話に参加できるようにすることで、自由闊達な意見交換の場にしたい。
第15回では、働くことと社会のかかわりについて、生徒同士で話し合う機会を作る。働くことは生きることであり、生活をするために必要な事。社会との関わりを考えることは、政治や国際社会の情勢にも目を向けることでもある。最後に、働くことを軸として豊かな生活を享受できるように、学び続けることの重要性を伝え、授業のまとめとする。
7.教育の重要性 ~まとめをかねて~
教育は国家百年の計といわれている。それだけ、教育というものは大切だ。しかし、今日の教育に対する現状を如実に表している、奨学金問題、文科系学部に対する政府からの圧力など、数えればきりがないほど、今の教育現場は危機に瀕している。
教育には可能性がある。グローバル教育、道徳教育も大切かもしれないが、国が長く繁栄するためには、“飯が食える人”をしっかりと育てないといけない。そのためには、連合のような“労働者=国民の大半を代表する組織”が教育に対して、積極的に支援の手を差し伸べることは大切である。
当時の民主党代表海江田氏は2013年の参議院選挙のマニフェストにおいて以下のようなことを示している。「めざすのはこの日本、今の時代にふさわしい、共生社会。すべての人に居場所と出番がある、強くてしなやかな共に生きる社会です」(注6)。共生社会を実現するためには、すべての人に居場所と出番が必要だという考えは私も同感である。この居場所と出番とは、働くことによって得られる居場所。その居場所で努力をしてこそ得られる、出番。強くてしなやかな共生社会とは労働と強く結びつくのではないかと私は考える。つまり、この言葉を具現化するためには、安定した労働環境を一人ひとりが手に入れるための支援が大切だ。そして、ワーキングプアやフリーター、ブラックバイトといった言葉を死後にしなくてはならない。そのため、現場に即した充実なキャリア教育を行い、学ぶことと、働くことをつなぐ橋を架けていくことが必要である。
その旗振り役として、連合の果たすべき使命は大きい。私が提案した教育プログラムは、連合のような働く者の代表のみが実施することが出来ると確信をしている。具体的には、連合がこれまでにも行ってきた、大学での寄付講座をより拡充し、高校生をはじめ、中学生にも提供する。そして、一部の学校、学生を対象にすることなく、“連合労働塾”のように、親しみやすいイメージで、そこから様々な労働に関する知を社会に対して発信してほしい。また、国立、私立に属する中学生をはじめ職場体験を望む生徒や学生に対して、連合のもつ広範囲なネットワークを活用して、受け入れ先の企業との仲介役など様々な支援をしてほしい。
このように、連合の方から、中学、高校、大学の生徒や学生に積極的に接触をすることは、連合にとってもメリットがある。それは、「一部の大人だけが知っている組織=連合」から「生徒、学生から大人まで、働くものを支える組織=連合」というイメージを広く浸透させることが、これからの連合の組織率の向上などにおいても極めて重要だからだ。
このような取り組みの中で「連合」という組織への理解を図り、生徒、学生に対しても、職業観や就労観といった「働くための実践知」を身につけてもらうことにもつながる。
その果てにこそ、「強くてしなやかな共生社会」すなわち、「働くことを軸とする安心社会」の実現があると私は確信している。
参考文献
- “平成26年度職場体験・インターンシップ実施状況等調査結果(概要)”,職場体験・インターンシップ実施状況調査,文部科学省 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター,2015, p3-p12,http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/i-ship/h26i-ship.pdf(参照2016-8-8)より引用。
- “初等中等教育機関等の学校数、在学者数、教員数”,学校基本調査―平成26年度(確定値)結果の概要, 文部科学省,2014,p1,(参照2016-8-8)http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2014/12/19/1354124_1_1.pdfより引用
- “「キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査」パンフレット 「語る」「語らせる」「語り合わせる」で変える!キャリア教育-個々のキャリア発達を踏まえた“教師”の働きかけ-”,文部科学省 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター,2016,p10-11, http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/career_jittaityousa/pamphlet/h28/all.pdf, (参照2016-8-8) より引用
- “第1章キャリア教育とは何か 第3節キャリア教育と進路指導”,高等学校キャリア教育の手引き,3.教育振興基本計画の策定(平成20年)と新しい,学習指導要領,文部科学省,2015,p43, http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/11/04/1312817_07.pdf(参照 2016-8-8) より引用
- “キャリア教育は生徒に何ができるのだろうか 自分を社会に生かし、自立を目指すキャリア教育 -高等学校におけるキャリア教育推進のために-”,「キャリア教育」資料集 研究・報告書・手引編〔平成27年度版〕Ⅱこれまでのキャリア教育推進関係資料【文部科学省・国立教育政策研究所 報告書等】,文部科学省・国立教育政策研究所,p560-561,http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/27career_shiryoushu/2-1-3.pdf, (参照2016-8-8)より引用。
- 民主党Manifesto(参議院議員選挙重点政策)p2-3、発行 民主党/民主党本部 発行日 2013年7月4日 より引用