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寸評東京大学 社会科学研究所教授 中村 圭介 僕はちょっぴり不満であり、不安である。みんな懸命に書いてくれているということはわかる。けれども、僕の心に響くような「私の提言」を読み取ることができなかった。だから、不満なのだ。でも、もしかしたら、僕の方の感受性が弱まってきたのかもしれない。まだ50歳代半ばなのにぼけてしまったのか。そう思うと不安になる。 良い論文がなかったというわけでは、決してない。むしろ、例年どおり、いや例年以上にいろいろ教わることが多かった。それだけでも、審査委員をしていて良かったと思う。山本論文は、民営化の荒波におそわれる自治体関連施設で働く人々の苦悩を語った、迫力満点の論文である。指定管理者制度の導入に伴い、雇用を守るために、年間所得の20%削減などの労働条件の切り下げを甘受せざるを得なかった。こんな実態があることを是非、他の多くの組合員たち、特に民間企業の組合員たちにわかってほしい。今後、どう展望を切り開いていったらよいのか。一つの大胆な道は積極的な経営参加だと思うが、どうなっていくのだろうか。とても心配している。 吉田論文はその明るさがよい。女性が、「男化」せずに、家庭と仕事を両立させながら、いきいきと仕事をしたい。そうした社会を実現するために、労働組合に期待する。だが、当の組合も男性中心だ。それを直すためには、女性がどんどん組合役員に進出したらよい。家庭と職場の板挟みに悩むのならばインターネットをもっと活用すればよい。まだまだ意識が低いというのならば、大学などでもっと組合のことを教えたらよい。こう主張する吉田論文の根底にある明るさ、素直さが僕は好きだ。このまま成長していってほしい。 労働組合自らが、パートタイマーの働きがいを高めるためのセミナーを開催しているというのは、僕は知らなかった。不勉強である。それを教えてくれたのが船田論文である。パートタイマーの人々を巻き込んでいく様子を興味深く読んだ。読み終わって、ふと思ったことがあった。なぜ、これが労働組合主催なんだろうか。なぜ、会社主催ではないのか。決して非難しているわけでも、批判しているわけでもない。これもまた、職場レベルでの経営参加なのだろうと考えれば、納得する。次の課題は、この実践を、店レベル、会社レベルでの経営参加、労使協議にどう結びつけるかだなあと思った。 今回は大学生が大活躍であった。連合の寄付講座の成果である。しかも、いい加減な論文ではない。ちゃんと調べあげた立派な論文ぞろいである。寄付講座もいいじゃないかと思った。次はフリーペーパーでも出せばなどと気軽に考える。「Rengo-25」だとまずいか。次回以降は、もっと学生の応募が増えると思う。うかうかしていられませんぜ。 寸評日本女子大学 人間社会学部教授 大沢 真知子 審査委員をさせていただくのは今年で4回目になる。今回も手書きの論文からカラフルな図表入りの論文まで、年齢層も学生さんから現役を退いた方まで、多種多様な個性あふれた論文を読ませていただいた。それぞれに読み応えがあり、かつ多くを教えていただいた。 今年は21編の応募があり、通常は、優秀論文を数編、佳作論文を数編、事前に選んで運営委員会で最終的に決定するというのがいままでの流れである。ところが、わたしは、佳作や奨励賞にふさわしいとおもわれる論文は数編ずつ選択したのであるが、優秀論文に推した論文がなかった。 21世紀の日本のキーワードは多様性である。その多様性を受け入れ包括し、みながそこで公平に取り扱われ、平等に参加しているとおもえるしくみが作れるのかどうかがいま問われているのだとおもう。 今回のもうひとつの優秀賞に選ばれた吉田麻子さんは、現役の学生さんである。大学で開講されている寄付講座を受講し、授業をとおして組合の存在の重要性に気づいたことが論文執筆の動機になっている。他力本願ではなく、わたしたちひとりひとりが労働者としての権利を知り、働く者がつながり合うことで現状をよくしていく。その原点に立ち返って組合の重要性をつぎの世代に語り継ぐ(寄付講座の)重要性に気づかされた。 優秀論文2本以外に佳作に選ばれた論文も力作が多かった。企業の社会的責任という観点から労働組合の役割について考える普天間論文、市民活動が地域に根づくまでを体験的につづった鈴木論文、また、いまの規制緩和の流れのなかで、自治体関連施設に導入されている「指定管理者制度」について述べている山本論文。これらを読むと時代の変化がどのような方向に向かっているのかがよくわかり、興味深かった。 寸評志縁塾 代表 大谷 由里子 20歳代から70歳代までの幅広い応募がありました。 ただ、残念なのは、「私の提言」論文の募集であるはずなのに、「提言」が少なかったこと。もっと、自由に「こうすればいい」「こんなことができるはず」「こんなことをすべき」などの「提言」を書いて欲しかった。どちらかというと、レポート的なものが多く、「これからどうすればいいか」のメッセージ性に欠けるものが多いように感じました。 今回、優秀賞の一人に学生である吉田麻子さんが選ばれました。彼女が描く女性の理想。「家庭と仕事をうまく両立して、自分が学んできたことを活かし、さらにスキルアップしながら会社・社会に貢献する」姿。何年も前から、たくさんの女性が、理想としながら、なかなか実現できないのは、なぜか。たくさんの現状を調べて、彼女なりの解析をしていて興味深く読めました。学生に対する、労働組合のアプローチの提案もあって、ぜひ、読者の方にも読んで欲しいです。 もうひとりの優秀賞の船田洋一さんのテーマも「働きがい」です。労働組合も賃金だけでなく、「働きがい」を提案する今の時代らしい論文だと感じました。「モチベーションマネジメント」は、これからの労働組合のテーマのひとつだと、わたしは感じているだけに、たくさんの会社の事例も書かれていて、楽しく学べる論文のひとつでした。 今回、奨励賞にも学生が選ばれました。学生の立場から、「CSR(企業の社会的責任)に関して労働組合を考える」という、テーマにチャレンジ。たくさんのことを調べて、聞き取りをして書かれてました。そのチャレンジ精神に期待しての奨励賞でした。 |