『私の提言』連合論文募集

第4回入賞論文集
優秀賞

「女性の意識改革」×「労働組合の進化」=「豊かな社会」
~より良い労働環境を目指して~

吉田 麻子
(日本女子大学 家政学部家政経済学科 学生)

―はじめに―

 この秋から、就職活動が本格的に始まる私の周りでは、最近、どんな企業に就職したいか、将来どんな働く女性になりたいか、という話題で持ちきりだ。自分が働く姿を思い描いてみる―。そこで、私は不安になった。なぜなら、私が知っている働く女性の姿は二つだからだ。一つは、言葉遣いも態度も考え方もどこか男っぽい、総合職で男性と肩を並べてバリバリ働く女性。もう一つは、家事・育児を抱えながら生計を立てるために安い賃金でスーパーなどでパートタイマーとして働く女性。私が理想として思い描いた、男化することなく、家庭と仕事をうまく両立して、自分が学んできたことを活かし、さらにスキルアップしながら会社・社会に貢献する、という姿はこの双方どちらにも当てはまらない。私が理想とする姿は、きっと多くの女性の理想と重なるだろう。それなのに、どうしてその理想を実現することが、そんなにも困難なのだろうか。
 様々な悩みや問題を抱える労働者。その唯一の味方となって問題解決を図り、より良い労働環境の獲得を目指して一緒になって働きかけてくれる機関―。それが労働組合だろう。しかし、調べてみると、労働組合自身も、男性的な要素を大いに含んだ組織であり、女性の組織化に遅れていることが分かった。
 社会は今日、時代のニーズに見合った様々な変化を求められている。しかし、それは難航している。男性が築き上げてきたこの社会に新しい変化が必要なのであれば、そこに一石を投じるのは女性の視点・発想だと私は考える。労働組合も、先駆者として、女性の組織化を進め、女性役員をより多く誕生させるなどして、女性の生の声を聞ける機会を増やして生まれ変わっていくべきではないだろうか。
 これらのことは、実際には、そう簡単に実現しうるものではないのだろう。私はまだ社会に出て働いたことがない大学生だ。しかし、学生だからこそ気づくことがあるかもしれない。そして、それが、労働組合の、労働の現場の状況改善のヒントとなることを願い、ここに提言していきたい。

1.女性は組合が嫌い!?組合が女性を嫌い!?

(1)女性の止まらない組合離れ

[1]男女別組合員数

 戦後一貫して、この社会で働く雇用者の数は増え続けている。特に女性の雇用者の増加は目覚しく、総雇用者に占める女性の雇用者の割合は1980年と比べると、2004年には7ポイントも増加している。その一方で、労働組合に加入する労働者の数は、1994年までは微量ながら増加傾向にあったが、それ以降ずっと減り続けている(図表【1】)。

図表【1】
  総雇用者 男子雇用者 女子雇用者 総組合員数 男子組合員数 女子組合員数
1980(S55) 39,710,000 26,170,000 13,540,000 12,240,652 8,862,521 3,378,131
1985(S60) 43,130,000 27,640,000 15,480,000 12,319,356 8,925,386 3,393,970
1990(H2) 48,350,000 30,010,000 18,340,000 12,193,396 8,800,053 3,393,343
1995(H7) 52,630,000 32,150,000 20,480,000 12,495,304    
2000(H12) 53,560,000 32,160,000 21,400,000 11,425,804 8,216,682 3,209,122
2004(H16) 53,550,000 31,520,000 22,030,000 10,209,154 7,370,573 2,838,581
出所)・・・「労働組合基礎調査報告」各年版、「労働力調査」各年版
[2]男女別組織率

 労働組合の組織率を男女別に考察すると、以下のグラフに示されたように、
  男性 1980年 34% → 2004年 23% 
  女性 1980年 25% → 2004年 13%
まで落ち込んでいる(図表【2】)。女性の雇用者が著しく増加している中で、女性の組合組織率が低下しているということは、女性の組合離れが特に激しいということを示唆している。

図表【2】
図表【2】労働組合の男女別組織率
出所)・・・「労働組合基礎調査報告」各年版、「労働力調査」各年版に基づき算出した

 では、なぜ、とくに女性において、組織率が大きく低下してきたのだろうか。それは、周知の通り、圧倒的に、パートタイマーをはじめとする非正規雇用という雇用形態をとる女性が増加したためである。今日、働く女性の約二人に一人が非正規雇用者であるのだが、組合は従来、非正規雇用者を組織化してこなかったために、非正規雇用者の労働組合への加入割合は増加傾向にあるものの、組織率は現在わずか約3%と、非正規雇用者の増加スピードにまだまだ追いついていない。
 しかし、中村(2005)によれば、未組織労働者の3分の2は組合が必要だと考えているという。さんざん叫ばれていることだが、とりあえず組合加入者を確保するためには、イオンやジャスコにみられたように、ユニオンショップ化(使用者が雇い入れた労働者は、一定期間を経た後必ず労働組合に加入しなければならず、また、組合を除名されれば使用者から解雇されるという労働協約上の規定)という手段をとることが効果的だろう。

(2)少なすぎる女性役員

 ただし、そうした方法で大勢の雇用者を組合に組織化することは成功しても、組合に加入した女性が、積極的に組合活動に参加するかどうかは別問題である。 女性の組合活動への参加の程度をはかる一つの目安として、組合役員における女性の割合を見てみたい(図表【3】)。下記のグラフから分かるように、女性の参画を強く訴えている連合本部では、さすがに女性役員比率は2000年の10.9%から、2005年には約2倍の22.2%まで大幅に上昇している。しかしながら、組合員のなかで女性は約4割を占めているので、今後、女性の役員比率はさらに上昇することを期待したい。
 より深刻な課題は、女性役員比率の伸びが、連合本部と、地方連合会や単組との間で大きく乖離していることにある。連合の呼びかけが、単組になかなか届きにくい現状があらわれている。
 地方連合についてみると、2000年4.9%から2005年6.3%と微増にとどまっている。ちなみに、民間企業での管理職の比率は、係長レベルで11%(『賃金センサス2006年版』厚生労働省)なので、それよりも低い水準である。
 さらに単組では、2000年には8.2%だったものが、2003年には7.0%と若干低下し、その後2005年に7.4%まで持ちなおした形である。単組レベルで女性役員が減少した理由は、定かではないが、女性組合員そのものが減少したのか、もしくは、この間、組合内リストラにより役員数の減少がすすんだ過程で、女性役員が排出されたこと、などが推測される。

図表【3】
図表【3】労働組合の女性役員比率の推移
出所)・・・「女性の労働組合活動への参画」(連合 総合人権・男女平等局)

(3)意識調査から探る女性組合員の本音

 では、女性たちの組合活動への参加を妨げているものは、一体、何であろうか。ここに、お茶の水女子大学と連合総合生活開発研究所が行った『労働組合に見るジェンダー平等』という調査報告書がある。そこに示されている調査結果から、男女の意識の差を認識し、これからの組合のあるべき姿や組合員の取るべき姿勢を考えていきたい。
 まず、女性労働者たちは、組合に期待していないために、組合に関わらないのであろうか。それは否だろう。先に述べた通り、未組織労働者のなかでも組合の必要性を感じている人が多いことが分かっている。さらに、労働条件が相対的に劣位にある女性労働者にとって、労働組合は強力な味方となるはずである。例えば、同報告書によると、女性組合員の多くが望んでいるであろう家庭と仕事との両立をすすめるにあたって、
  女性 「男女双方対象の育児・介護制度の充実」・・・18.3%
  男性 「長時間労働をなくすための取り組み」・・・19.1%
を労働組合に取り組んで欲しいと回答している。
 では、女性たちは、こうした要望を、どのようにして組合運動の課題にあげていこうと考えているのだろうか。私なら、女性自身が、積極的に、組合の機関運営に携わり、女性労働者の生の声を届け、組合の課題とするのが最も確実だと考える。つまり、女性自身が、組合の執行部となる、ということである。だが実際は、「組合の機関運営に女性が参画する機会を増やしていくために最も必要だと思う課題」という問いに対して、最も多い回答は、
  女性 「組合役員が女性組合員の問題について理解を深める」・・・23.4%
  男性 「三役や執行機関に女性役員の一定枠を確保する」・・・32.1%
となっている。
 つまり、男性は、女性に自らの意見を述べるチャンスを与えようとしており、ポジティブ・アクションや女性リーダーの育成に期待している。にもかかわらず、女性は、自分たちの要求を「組合役員(多くが男性)」に「理解」してほしい、と考えている。残念ながら、女性は、他人(特に男性)に依存的だと言わざるをえない。さらに、同報告書で、組合役員の選出方法では、女性は特に「自らの意思」よりも「順番」で選出されることが圧倒的に多いことが示されており、女性は組合に対して消極的な姿勢がうかがえる。これらのことから、一見すると、女性は、自身の置かれている環境に不満を持ちながらどこか人任せで、女性が組合活動に積極的でないことの責任は、組合にはないように見える。
 だが、そもそもなぜ女性が組合活動を積極的に行わないのかをもう一度検討すると、見解は、少し変わってくる。上述の問い(「組合の機関運営に女性が参画する機会を増やしていくために最も必要だと思う課題」)に、二つ以内選択回答した場合をみると、男女それぞれトップの項目が異なっていて、
  女性 「日常時の組合活動の時間帯を改める」・・・50.1%
  男性 「女性組合リーダーの育成」・・・44.3%
が、最重要課題となる。つまり、女性は、組合活動をしようと思っても、時間帯の都合上、活動が難しいという現状がある。まだまだ、家事や育児が女性の仕事であるという意識が根付くこの社会で、女性は、フルタイムで働くことさえ難しいのに、普段の勤務後に、さらに組合活動に参加するのは物理的にほぼ不可能とも言える。

2.女性と組合の歩み寄り方

 以上の通り、女性は組合への加入率が低く、たとえ加入したとしても組合の活動にあまり参加していない。それには、[1]女性は一組合員という意識に欠け、消極的で男性に依存的であるという理由と、[2]活動時間帯の問題で物理的に不可能という理由が考えられた。
 それでは、これらの問題についての解決策を考えていきたい。

(1)役員になろう!

 まず、どうすれば女性が組合活動に積極的になるかだが、同報告書から、女性は、組合役員を経験し、その経験年数が長くなるにつれ、組合参加意識は高まることも読み取ることができる。これは、組合役員を経験することで、自立した活動の重要性を認識するようになるからだろう。
 「ならば、一人でも多くの女性組合員に役員を経験させればいい。」
必要があれば、役員数を増やしてでも、女性の役員を誕生させてはどうだろうか。役員の数が増えれば、その分、それぞれの仕事が軽減され、次にとりあげる組合活動の時間の削減につながるというメリットもあるのではないだろうか。
 これは、正規雇用者だけでなく、非正規雇用者の組合員にも同様のことが言えるだろう。近年急増している非正規雇用者の抱える諸問題を皆で話し合い解決していくためにも、同様にして三役や執行機関に非正規雇用者の役員の一定枠を確保することもよい効果を生むと考える。

(2)組合活動の場もインターネットの時代へ

 組合時間帯の問題で組合活動に参加するのは物理的に不可能なのであれば、その解決策も導き出さなければならない。この解決は難しいと思われているためか、これまでほとんど議論されてきていないし、同報告書のなかでもあまり触れられていない。しかし、この点が解決されないと、現状では、女性の組合への参画は、限定的にならざるをえない。ここでは、具体的に、いくつかの提案をおこなってみたい。
 例えば、自宅で組合活動を行うことを可能にすることはできないだろうか。インターネットを通しての会議、組合員たちが気軽に自分の意見を伝えることができるように、目安箱のようなシステムを導入するなどだ。実際、企業の取り組み例として、出産・育児休暇で仕事の現場から離れている女性が、スムーズに、さらにはレベルアップして仕事復帰が出来るように、インターネットで会社や仕事の状況が確認できるシステムや、同じくして出産・育児休暇中の人、経験した人と情報交換が出来るシステムが開発されている。これに習い、組合も古い形態に捕らわれず、新しい形態で生まれ変わってみたらどうだろうか。

(3)学生の興味の芽を育てよう

 最後に、私個人の意見としては、女性が組合にあまり積極的にならないのは、組合が、男性中心的な組織だというイメージや、そもそも組合が、労働者のためにどのようなことをしてくれるのか、くれているのか、を知らない人が、とくに女性に多いためだからではないかと思う。女性のみならず、一般の労働者は、果たして、労働組合についてどのくらいの知識があるのだろうか。労働組合が、何を目指して具体的に何をどう取り組んでいるのか。その取り組みによって、過去に何がどう変わったのか。他の誰かではなく、自分が労働組合に積極的に参加することの意義は何であるのか。これらのことを労働者はいつ学んだのだろうか。学ぶ機会は、用意されているのだろうか。
 私は、日本女子大学で『女性労働論』や『女性と労働組合』という授業を通して、実際に組合員の方に講演に来ていただき、女性が働くことの意義、実際に女性が置かれている労働環境、そして労働組合の存在意義や積極的に参加することの大切さなどについて、生の声を聞くチャンスを与えられ、学んでいる。それは、大人たちが考えているよりも大きな感動を私たち学生に与えている。これらの授業を通して、私や友人の多くは、秋から始まる就職活動に不安を抱えつつも、星の数ほどある企業の中で、労働組合が活発に活動しており、機能している企業に就職したいという指標を持つことができた。就職してからでは、忙しすぎて労働組合の存在意義など考える人は少ないかもしれない。だからこそ、学生のうちに、このような機会にめぐりあうことができて、本当に良かったと思っている。これからの社会を背負っていくのは、私たち若者だ。組合員が、より多くの大学や高校に、定期的に足を運んで、一人でも多くの若者に、私が組合について学んだような機会を与えることができれば、若者の労働組合に対する意識は確実に変化するだろう。そしてそれは、将来、労働組合を活性化させ、つまりは、労働の現場をより良いものに進化させていくことに繋がるだろう。

―おわりに―

 私は、学生なので、実際の組合運営の大変さや困難さを理解していないだろう。そのため、ここであげたこれらの解決策は、「言うは易く行うは難し」かもしれない。でも、実際に運動していれば、状況を見て無理だと判断してあきらめてしまうことも、学生だからこそ言える点もあるかもしれないと思い、執筆した。この過程で、私自身、一人の女性として、家庭生活をもち、働きながら、どうやったら労働運動に関われるのかを考えるいい機会を与えてもらった。秋から始まる就職活動の準備として、今から、各企業の労働組合の活動についても調べてみたい。もちろん、労働組合が活発に活動している企業が魅力的だが、もし私が興味のある業種や企業の組合の活動が不活発であったとしても、ぜひ私が変えていきたい。そして、いつか、組合について学ぶ機会を与えてくれた日本女子大学の学生はもちろん、たくさんの人々に、誰よりも活動に積極的な組合役員として、労働組合の大切さ、組合に積極的に参加することの意味を伝えていきたい。そして、労働の現場をより良くしていきたいと強く思う。

【主な参考文献】

  • ・中村圭介・連合総合生活開発研究所(2005)『衰退か再生か:労働組合活性化への道』
  • ・連合 総合人権・男女平等局(2006)『女性の労働組合活動への参画』
  • ・お茶の水女子大学・連合総合生活開発研究所(2006)『労働組合に見るジェンダー平等』
  • ・日本労働組合総連合会(2007)『連合白書』
  • ・『労働組合基礎調査報告』各年版
  • ・『労働力調査』各年版
  • ・厚生労働省『賃金センサス2006年版』

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