私の提言 連合論文募集


第1回応募論文 講評

第1回論文募集運営委員会
委員長 草野 忠義

 昨年まで6回にわたり実施されてきた「山田精吾顕彰会」による論文募集を、同会の解散に伴い連合がその事業を継承した。そして教育文化協会へ募集業務を委託して「連合運動への提言 第1回論文募集」を実施することになった経過はすでにご案内の通りである。
結果は、「目線は低く、理想は高く」の顕彰会精神を引き継ぎながら、連合運動の今後に生かすことのできる職場、地域の現場からの具体的な体験や提言という連合としての第1回論文募集の主旨に沿って、16編の力作論文の応募をいただいた。

どの論文も、その底に共通して流れているのは、常に目線を働く現場や地域、組合員、すべての働く仲間から離さない。そして一人でも多くの仲間をつくろう、頼りにされる労働組合になろう、そのために何をどうすべきか  という姿勢。あるいは、わが国でも実践できるものはないかという視点で、諸外国の労働組合の好例を鋭く見つめる観察力。このことこそ「連合運動への提言」に期待していたものだった。いずれの論文も甲乙つけがたく審査は大変、難航した。運営委員会には、まず各委員が事前の個別の審査結果を持ち寄ったが、「優秀」も「佳作」も全員一致というものはなく、各委員が一人ずつ自分の選考基準や視点、感想を述べあい、論文ごとに検討を重ねたすえに、苦しみながら選んだ次第である。

 優秀賞の鈴木論文「CSRに向けた労働組合の課題」は、個別審査段階から最も高得点をあげていた。CSR(企業の社会的責任)は労働組合にとって大きな、しかも時宜を得た課題であり、何をしなければならないかを的確に、具体的に、説得力を伴って訴える内容が共通に評価された。

 優秀賞の永井論文「キャリア形成のサポート組織としての産業別労働組合の可能性」は、組合出身ではない運営委員からとくに推された論文で、3人の先生の寸評でも触れられている通りである。筆者自身の決意表明も高く評価された点だ。

優秀賞の原論文「障害者雇用と労働組合」は、これも個別審査段階で優秀賞候補論文として評価が高かった。ただし障害者雇用に積極的な組合出身の委員からは「とくに目新しいものではない。すでに行われていること」として、評価が分かれた点もあった。しかし
「一般的にはまだまだその取り込みが遅れている。労働組合としても今後の重要な課題である」として推す意見が多数であった。
佳作賞の小畑論文「労働組合、何ができるか、何をすべきか」と、山口論文「私と労働組合」は、自らの役員体験のなかで直面した雇用形態、賃金問題、サービス残業などきわめて現実的な問題への対応に苦慮する姿が多くの共感を得た。それをどう具体的に解決するかという点にもう少し触れてほしかったというところか。

 さらに林論文「緊急対応型ワークシェアリングの普及に向けた提言」と、松井論文「ユニオン居候体験が教えてくれたもの」は、内容がユニークで、その評価は運営委員会のなかでかなり論議になった。林論文は、その理論を組み立てる数式やシミュレーションの前提が多少、恣意的であるという見方もあって、佳作とした。松井論文は、単なる海外体験談を超えて、鋭い観察眼からくる問題提起が高く評価され、優秀か佳作かで意見が分かれたところである。

 論文集の発行にあたっては、優秀、佳作に入賞しなかった論文もいずれも力作であり、全応募論文を掲載することも検討したが、ページ数の制約等もあって、入賞論文のみとした。ぜひ多くの皆さんにご一読いただきたい。大変、示唆に富んだ論文ばかりで、これからの運動を進めるうえで多くの点で参考になること間違いなしである。




寸評

東京大学 社会科学研究所 教授 中村 圭介

 僕は調査屋である。いずれも見事な応募論文の中から、とにかくどれかを選ばなければならないとなると、どうしても、調査屋というバイアスから逃れられない。欧米の組合の日常を冷静な眼で観察し、軽妙洒脱な文章にまとめた松井論文が、僕としては一番気に入っている。こうした草の根の海外交流こそが必要だ。この知見を仲間に広め、自分の活動にも活かして欲しい。障害者雇用への組合の対応を、障害者側から見た原論文も、僕は好きだ。良質なルポルタージュを読んでいるような感じがした。なんとか、地方に残って、今のスタンスを持ち続けて、さまざまな情報を中央に発信してもらいたいと切に願う。職場の組合が残業問題へ取り組むことが、これほどまでに困難だとは僕は知らなかった。山口論文が教えてくれた。この経験を自覚的に広げる必要があるのではないか。そうしなければ、不払い残業はなくならない。そうも思った。永井論文は、離職を迫られた組合員に、産別が何ができるか、あるいは何をすべきかをつづったものである。この論文から滲み出る、明るさ、希望が僕は好きだ。最近、僕は組合の広報活動が重要だと思うようになっている。その意味では、読んでもらう機関誌(紙)をいかに作ってきたかをまとめた雛=平山論文も興味深く読んだ。僕のお薦めは「長崎消息」(長崎県職)である。是非、一読を。


寸評

日本女子大学 人間社会学部 教授 大沢 真知子

 いま、日本は曲り角に立っているのだと思う。いままでうまくいっていたことがうまくいかなくなっている。その時代の変化を組合活動という実際の現場でどのように感じているのだろうか。新しい時代のニーズにあうように、組合はどのように変わっていけるのか。具体的な提言がある論文に高い評価をした。
それでは日本の組合が直面している時代の変化とは何か。それは、雇用保障の責任が会社から個人に移ってきたことではないかとおもう。優秀作品に選ばれた永井論文「キャリア形成のサポート組織としての産業別労働組合の可能性」は、そういった時代の変化を的確にとらえ、新しい組合の役割について考えている。
日本が成長・拡大至上主義から脱却し「新しい豊かさ」を構想する時代になったのだから、労働運動もパラダイムチェンジが必要だと訴える鈴木論文「CSR推進に向けた労働組合の課題」には、深く同感した。
組合運動が大きな曲がり角にきているときには、組合員の声に耳を傾けることが必要だ。連合は何をしているのか?これは、労組の経験を買われて、障害者の自立と就労を進めるための団体に採用された原さんが論文のなかで、(障害者雇用の推進に)連合は本当に真剣に取り組んでいるのかと問いかけている。
組合運動が正社員の既得権益だけにこだわる集団から、非正規労働者や障害者や外国人にも目を向け、広く働くものの権利を守る集団へと変わらなければならない時代がきている、という提言なのだと受け止めた。
労働時間に関する論文も数点あった。ひとつは、ワークシェアリングのメリットを理論的な解明した林論文、もうひとつは現場で、サービス残業を減らす取り組みをしたところ、管理職の意識改革だけではなく、働く側の意識改革にも取り組む必要があったという、時短のむずかしさを指摘する山口論文。長く働くことが高く評価される日本の社会。しかし、大切なのは長さではなく効率になりつつある。そのための制度と意識の両方の変革が求められている。
海外の組合を訪問し、そこでの体験から日本が学べることは何かをまとめた松井論文も印象深かった。組合運動の経験者だからこその観察が随所にあって、興味深く読んだ。国境を超えたグローバル化が進展する21世紀は、労働運動も海を超えて共闘する時代になるのだとおもった。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 個人的には、いろんな視点からのいろんなテーマの論文を楽しく読ませていただいた。障害者雇用、成果主義、青年活用など、様々なテーマがあったけれど、本当にみんなが、いろんなことを思い、いろんなことを伝えたいのが、ひしひしと分かった。そんな論文に優劣をつけるのは、きっと、みんな忍び難かったんじゃないだろうか?
でも、何作かを選ばなければならない。と、いうことで、わたしは、UIゼンセンの永井幸子さんのキャリア形成に対しての論文を一番に推させていただいた。理由は、わたしも連合がキャリア形成に対して、もっと、意識を持って欲しいと常々感じていたからである。そして、パートや中途採用者を多く抱えるサービス業が多く加盟している組合からの意見や見方に耳を傾けて欲しいと強く感じているからである。
研修会社を経営する我が社の顧客は、ほとんどが、上部団体でも何でもなく、一番末端の単組である。職場委員、支部長クラスに持ち込まれる組合員の相談を見ていると、「頼むから意識をもう少し高く持って自立してくれ!」というようなものが山ほどある。そんな中で、数年前から、組合と会社と一緒になってのキャリア形成や気づきや自立をテーマにした研修が増えた。そんな研修の中には、パートや派遣も参加OKなものもたくさんある。
そこには、賃金や労働条件だけでなく、キャリア形成を通して組合と関わるという形も増えている。さらなるその必要性をこの論文は、テーマにしている。
その他として、個人的にゼクセル労組の山口正人さんの論文が、労組の苦労、「なぜ、うまく行かないのか」がひしひしと伝わってきてかなり興味を持って読ませてもらった。優秀賞には選ばれ無かったけれど、とても読みやすく考えさせられる論文だった。
これを機会に、次は、もっと若手の論文も読んでみたいと思った。


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