私の提言 連合論文募集

第1回入賞論文集
佳作賞

ユニオン居候体験が教えてくれたもの

松井 健(UIゼンセン同盟・千葉県支部・常任)

 2000年10月から、半年ほどアメリカのユニオンに居候のような形でお世話になり、その後、イギリス(1ヶ月)、ベルギー(2週間)、スウェーデン(2週間)、ドイツ(1週間)、フランス(3日)のユニオンをそれぞれ訪問する機会を得た。その後、日本の労働運動の現場に携わっているが、そのときの経験が以外と役に立つ。特に、発想の面で。少し古い情報となってしまったが色んな方に読んでいただけるのでこの機会を利用して紹介したい。向こうでお世話になった人にも少しでも恩返しになればとも思う。(記載の事実は当時のものであることをご容赦願いたい)

●マーケットシェアする

 最初、「マーケットシェアする」といわれて、いったいなんのことやらよくわからなかった。UFCW(小売食品関係の労組)のローカル400の組織局長の部屋には、ワシントンD.C.エリアの大きな地図に、組織化されたフードストア(日本のスーパー)と組織化されていないストアが色分けされてマークされている。90年には97%あったユニオンストア(組織化された店)のシェアが現在85%に落ちてきているという。実際に、店に行ってみると、ユニオンストアの入り口には「UNIONSHOP」のマークが張ってある。「マーケットシェアする」とは、地域市場におけるユニオンストアの占有率を高める活動をいうのだった。

 アメリカではユニオンストアとノンユニオンストアの労働コストは2割から3割は違うという。アメリカには社会保険としての医療保険がないから、ユニオンがないところは健康保険がないことが多い。そのコストが大きい。あるスーパーの協約では月1人当り360ドルにもなる(だからこそ経営者も激しく抵抗する)。マーケットシェアの高い地域では、賃金についても結構な水準にあるようだ。ワシントンD.C.エリアでは多くの公務員がパートでフードストアに働いているというが、パートの稼ぎ方がフルタイムの公務員の稼ぎより高いケースもあるという(実際ローカルのスタッフの2人は元公務員であった)。

 その高い労働条件をどうやって作り、維持するのか?クラフトユニオンの時代は、人に熟練がついていたので、労働市場の独占を追求できた(現在でも建設業関係のユニオンはその伝統を守っている)。技術革新によりそれができなくなった段階でどうするのか。特定産業の企業をすべて組織化し、労働条件を競争の外に置くことしかない。アメリカのユニオンは「管轄」(組織化する労働者の範囲)に敏感だが、市場経済が徹底しているアメリカだからこそ、ユニオンが生き残っていくためにはこの原則に敏感でなくてはならないのだろう。UFCWは70年代中にほぼ完全に組織化していた食肉加工の工場で、80年代にノンユニオンの工場ができはじめ、賃金が半分に下がってしまったという痛い経験をもっている。当時、ウォールマートの組織化に大々的なプロジェクトを作って取り組んでいたが、その体制を作ったのも、ウォールマートが食品を扱いだし、フードストアのマーケットシェアを脅かし始めたことが背景にあるという。

●オーガイナイジングアカデミー

 組織率の低下はどこの国でも大きな問題となっていた。各国で色々な取り組みがされていたが、その中で目を引いたのがイギリスのナショナルセンターTUCのオーガナイジングアカデミーであった。1997年に始まり、2001年時には、90名あまりの卒業者を輩出した。その90名がすでに33000人を組織したという。はっきりいって成功したプロジェクトだと、担当者のマークさんは胸を張っていた。

 最初の年の応募者は4000名を越え、その中から30数名が選ばれた。半数以上が女性で、マイノリティも数人含まれる。「似たものが似たものも組織する」という原則によるものだそうだ。その30数名にそれぞれスポンサーとなるユニオンがつき、1年間、TUCとそのユニオンに共同で雇用される形になる。1年間の研修の後、それぞれのユニオンにオルガナイザーとして雇用される。

 30数名の選考過程で24時間研修というのがあるが、その内容を聞いていても、かなりマネジメントスクールで使われる手法を取り入れており、組織化手法の定式化を試みているようだった。2つのユニオンで卒業生2人に聞いた。1人は教わった手法を生かして成果を上げているといっていたが、もう1人は、「まあ、現実は教わったとおりにはいかない」といっていた。

 イギリスでもナショナルセンターと産別の機能の整理の議論があるようだが、このアカデミーは、ナショナルセンターと産別の共同作業のよい例だと思う。

 スウェーデンのように組織率が80%を超える国でも、業種、職種、地域、性別毎に詳細なデータを持っていて、絶えずチェックしていた。そして少しでも下がると警鐘を鳴らす。組織率については、「組織率が高い→組合の力が強い→組織率が高い」という好循環と、「組織率が低い→組合の力が弱い→組織率が低い」という悪循環の国があるように思えた。日本は後者になってしまったのでは?どうやってこの悪循環を断ち切るか。

 アメリカでは「すべてのユニオンが組合費の30%を組織化に使おう」というスローガンを良く聞いた。この30%という数字は日本と比較すると非常に印象的だと思う。なぜなら、30%というのはちょうど産別組合へのいわゆる「上納金」と同じくらいではないかと思われるからだ。日本で組合費の30%を組織化に使おうと思えば、上部団体がそのすべての資源を組織化に使うか、企業別組合が別の企業の組織化に乗り出すしかないということになる。

●グローバリズゼーションの中のユニオン

 グローバリゼーションにいかに対応するか、滞在中もっともよく聞いたテーマかも知れない。ここでもキーワードは組織化であった。

 UNITE(現在のUNITE・HERE 繊維・ホテル産業の組合)が大々的に取り組んでいたのが、アンチスウェットショップキャンペーン(搾取労働追放)である。運動の主旨は簡単だという。「職場を追いかける」だけだ。我々の先輩は職場がニューヨークからニュージャージに移っていたとき、追いかけていって組織化した。南部に移っていたときもそうした。今度は、中南米に出て行った。同じように職場を追いかける。それが基本コンセプトだ。具体的には、「コードオブコンダクト」(企業行動指針)制定・遵守の運動である。大手小売業をターゲットにし、それらの製品を作っている中南米工場が生活できない賃金しか払っていない、子供を使っているなどの実態をあばき、社会、消費者に訴えていた。

 アメリカのノンユニオンストアの大手フードライオンはベルギーに親会社がある。80年代後半からフードライオンの組織化に取り組んだUFCWはベルギーのユニオンの協力を得て、ベルギーでストをしてもらったり、OECDのユニオンアドバイザリーボードを通して働きかけを行ったりしたという。

 そして、グローバルアグリーメントの取り組み。多国籍企業と国際産別組織がその企業のすべての労働者に適用する協定を結ぼうというものだ。当時、化学関係で2つの企業がその協定を結んでいた。内容は労働基本権と安全衛生が基本だ。いくつかの多国籍企業では世界各地で同じ企業に働く労働者の連絡組織もできていた。

 ユニオンのグローバリゼーションへの対応は職場を守るという視点から来ている。いわば保護主義だ。それはそれで当然の主張だと思うが、相手にしているのは、すでに国家を超えた(実際その規模においても)多国籍企業。UNITEの人もアンチスウェットショップキャンペーンでアメリカの繊維産業が守れるとは思っていない。グローバリゼーションがユニオンの「インターナショナルソリダリティ」を鍛えなおすきっかけになるのはまちがない気がするが、その場合、ユニオンの国家を超えた連携のイメージを改めて作っていく必要があると思った。

●コミュニティと社会正義

 UNITEのランドリー工場労働者の団体交渉戦術の一環としておこなわれたデリゲーションに参加したときのこと。デリゲーション(派遣)とは、ランドリーの取引先であるNY市内のホテル、レストランに訪問し、このままランドリーの経営側がかたくなな態度をとっていると月末にはストライキに入るおそれがあり、その際には別のランドリーを紹介すること、そして、できれば経営側に圧力をかけて欲しいことを伝える活動だ。そのデリゲーションは1組3人で1人はUNITEから、1人はランドリーワーカー、1人はコミュニティ代表という構成になっていた。

 UFCWのローカル400のオルガイナイザーについて老人ホームの経営者に組合承認選挙の実施について説明しに行ったときも、地域の公民権運動の流れを組む宗教団体から2人の男性が同行していた。

 UNITEのアンチスウェットショップキャンペーンは大学生、高校生と連携をとりながら大衆運動を起している。アメリカの大学の多くは、カレッジグッズを作っているが、それらがスウェットショップで作られることのないようにということでUNITEがけしかけて、学生の運動体を作っていったという。当時、多くの抗議行動が学生のイニシアティブで組織されていた。UNITEの担当者もその学生の運動体の出身だが、次はということで高校生の運動を作っているという。12月5日、ナイキタウンから始まり、ロックフェラーセンターのクリスマスツリーまでの抗議行動に参加したが、鼻ピアスの高校生が”What's disgusting? Union busting!(むかつくのはなんだ?組合潰しだ!)”とコールしながらデモ行進をしていた。

 アメリカのユニオンは労働運動再生の努力の中でコミュニティとの連携というのを強く意識し推し進めていた。80年代多くの争議がコミュニティの支持を失い敗北していった痛い経験から学んだようだ。ある面では、労働運動がここまで少数派となったしまった現在、自分たちだけの正義だけでは運動が成り立たたないことのあらわれかなとも思った。昔は自分たちにとっての正義=生活向上がみなにとっての正義だったが、今や、組合員の生活向上は一部の比較的豊かな労働者の生活向上かもしれず、それだけでは、社会的共感をもち得ない。「社会正義に照らしてもユニオンの主張が正しいんだ」ということをパブリックに伝えその支持を得ることが運動のかぎとなっている。

●ワーキングキャピタル

 「年金基金の資金は組合員のお金である、その金は当然組合員の利益になるよう投資されなければならない」、ワーキングキャピタルという言葉が意味する発想は簡単だ。建設関係のユニオンで、年金基金の投資によるビルがノンユニオンの会社によって建設されないようにという運動から広がっていったという。

 実際の例は、IBMの確定給付年金から確定拠出年金への変更に対する反対決議が、多くの株主の賛同を得た(勝ったわけではない)とか、株価が下がった企業の株主総会で、取締役への対立候補を出したとか(勝ったわけではない)、GEの株主総会で、労働基本権とチャイルドレイバーに関する動議を提出した(勝ったわけではない)とか。現実には地道な活動が必要だという。

 アメリカの民間企業で、ユニオンのあるところは、労働協約によりタフトハートレー基金という年金基金を持っている場合が多い。その年金基金は労使同数のトラスティー(日本でいう理事)によって運営される。トラスティーには忠実義務がある。決して、ユニオンの思惑だけで投資できるものではない。それに多くの年金基金のトラスティーたちにはまだまだ年金基金を戦略的に使おうという意識がない。  

 AFL-CIOではワーキングキャピタルセンターというNPOをつくり(ユニオンの一部だとやはり経営側のトラスティーに受けがよくないからだという)、啓蒙と、株主総会での投票の指針、それから投資顧問会社が実際、株主総会でどのような投票をしたのか、それがユニオンの方針にそったものか否かのリストを作り、意識向上に努めている。

 つい最近、日本の厚生年金基金も企業統治ファンドをスタートさせたが、そこに労働組合の意志はどのように反映されることができるのだろうか?

●個人主義と政治活動

 「ちょっと前までは、組合員との間にディスコネクトがあった。組合員はだれそれに投票しろといわれるのを一番嫌う。組合員に選ばせることが大切だ。」、UNITEのニューヨーク市担当のエドバルガス氏は言う。UNITEでは4年前の大統領選挙、それに先立つこと半年前、組合員にイシューサーベイをおこなった。どの課題を選挙に際して重要視するか?回答の上位が、賃金、雇用保障、社会保障、通商問題の4つであった。その4つの課題について、ゴアとブッシュがそれぞれどういうスタンスをとっているのか、それを伝えるのが彼らの選挙運動の基本である。ビラのスタイルもそうなっている。ペンシルバニア州では、9ヶ月間ただ組合員教育のためについやした。「組合員はスマート、彼らにとって重要な課題を伝えること、教育が一番重要な選挙活動だ」、政治局長のクリスはいう。なぜ、ユニオンが支援する党が組合員にとってメリットがあるのか、それを明示できないとすれば、それはユニオンの努力不足だという。

 ドイツのユニオンは、社会民主党を含め特定の政党を組織的に支援することはないという。ユニオンの政治的分裂がナチスの台頭を防げなかった一因となったという反省の上に、戦後の組合運動がスタートしたからという。しかし、当時、社民党政権の大蔵大臣はIGメタルの副会長だった人だし、実際のところはどのようになっているのか?基本的には、個人の政党党員としての活動によるという。

 組合役員にはいずれかの政党の党員になるべきという空気があるのだという。中には、キリスト教民主同盟の党員もいる。が、多くは社会民主党党員であり、彼らが、党員として活動することで、事実上ユニオンの政治力が担保されることになる。社会民主党と社会民主党員の組合委員長の定期協議もあるが、その場合でも委員長が社会民主党員でなければ関係ない。新しくできたドイツ最大のユニオン、ホワイトカラーユニオンの当時の委員長は緑の党の党員なので呼ばれないという。もちろん、結果、特定の政策のための行動をすることはある、その場合、事実上は社会民主党をサポートすることになるが、あくまで政策本位だという。

 労働組合の団体としての力の発揮と組合員個々人の政治的自由への志向の強まり、その流れの中で各国ともそれぞれの歴史を踏まえ再調整を図っていた。

●労使協議制・安全衛生管理体制をフル活用する

 欧米のユニオンは企業の外にある。いくらユニオンの力が強くても、法的な点からみると簡単に職場で自由に組合活動ができるわけではない。ヨーロッパ各国のユニオンは法律上の労使協議制度、安全衛生管理体制を意識的に活用していた。

 有名なドイツの労使協議会(英語ではワークスカウンシルといっていた。従業員代表委員会や事業所委員会と訳されるよう)。法律で定められ、非組合員も含めて選挙でメンバーを選ぶ労使協議会と労働組合は形式上別物だが、実態はずいぶんと重なっている。ロイドという高級靴をつくっている工場では、530人の従業員がいて、9人の労使協議会メンバー、1人のフルタイムの代表がいる。労使協議会の仕事は勤務時間内にできるし、コストはすべて会社もち。もちろん、フルタイマーの給料も事務所も。そして、労使協議会には法律により重要な権利が与えられている。配転、雇用、昇進、教育、従業員の格付けなどの人事事項、労働時間や賃金の支払い方法、ホリディの計画などの労働条件、社宅や従業員食堂などの福利厚生、これらの事項については、使用者は労使協議会の同意を得なくてはならない。ロイドの工場ではブルーカラーの78%、ホワイトカラーの40%が組合員。そして、労使協議会の9人のメンバーはすべて組合員でユニオンの職場委員でもある。フルタイムの代表は同時にユニオンのローカルの執行委員になっていて、靴メーカーの集団交渉の交渉メンバーにも選ばれている。労使協議会メンバーは有給で必要な教育を受ける権利があるが、ユニオンがそれを提供している。また、勤務時間中にユニオンの会議に出席することも事実上可能だという。

 イギリスでは、セイフティレプ(安全代表)が職務中に有給でタイムオフが取れること、有給で必要なトレイニングが受けられることが法律で定められており、T&G(運輸一般労組)はそのセイフティレプの教育に力を入れていて、3段階の教育コースを設けている。セイフティレプはユニオンが任命できるため、多くのショップスチュワードが兼務しているという。

 日本でも労働基準法に基づく従業員代表、安全衛生法に基づく安全衛生委員会の委員、厚生年金や健保組合の理事等々、法律に基づいた権利が、十分に活用されているのか、それに対するフォロー体制が十分か、改めて意識化し点検すべきではないかと思った。

●企業別組合という形

 UFCWローカル400は45,000人という労働者を代表している。組合員の苦情処理担当、ビジネスレプも30名を数え、それぞれが20~30の担当職場を持っている。職務規定に職場訪問の規則が決められていた。各職場を最低,は11時~9時のシフトにして、夕方働いている組合員を訪問すること。3ヶ月に1度は深夜勤務でナイトクルーの組合員を訪問すること。同じ職場に同じ時間帯ばかりいかないこと。職場にいったら、すべての従業員に声をかけること、ショップスチュワードと必ず連絡をとること。朝、昼、夕と1日3度事務所に電話すること、等々きめ細かく決められている。何人かのビジネスレプに同行したが、実際そのとおり行っているようだった(ただ、小さい職場は月に1度くらいの訪問になるようだ)。ビジネスレプはほとんどの従業員を知っている。そして、本当に多くの労働者が質問、相談を持ちかけてくる。

 欧米は、基本的に産別組合に個人加盟し、事業毎に、地域のローカルユニオンに結びつく。日本は企業別組合がベース。組合の組織形態をめぐる議論、特に企業別組合をめぐる議論は昔からのものだが、実際に違う国の組合活動をローカルレベルでみて思ったのは、どのような形態であれ「組合役員」(役員でなくても組合を意識させる人間という意味で使用)が、個別の事業所の組合員にどれくらいの頻度でフォローしに行くのか、というのが単純かつ重要なポイントではないかということだ。戦略は2つある。職場の外から「組合役員」がフォローするか、その職場で自前の「組合役員」を持つかだ。その視点でみると、形は違ってもどこの国でも組合活動の基本パターンは似ている。大きな事業所では自前の組合代表をもって活動し、比較的自立している、小さな事業所は産別組合のスタッフが面倒をみる。

 企業別組合では、同じ企業の人間が事業所を訪問し、経営とも交渉するので、問題もわかりやすいだろうし、密な情報のやりとりができる。欧米で、企業レベルの情報が入りづらいという問題をよく聞いた。そして、職場に近いところに権限とお金があり、それにより自立心が醸成される。ただ、問題は企業別組合がうまく機能していない場合だ。そうした場合、職場の組合員は年に何回「組合役員」とじかに接触する機会をもてるのか?誰がフォローするのか?欧米のように基本的には地域ごとのローカルにつながる組織形態であれば、そこが最終的には責任を持つことになる。日本の企業別組合-産業別組合の体制の場合、そこの責任分担を整理する必要があるのではと考えさせられた。

 まだまだ書き切れないことがたくさんある。それにしても、あれこれのトピックではなく、基本的な組合活動自体について学ぶことがまだまだ多いと痛感した。グローバリゼーションの時代、そうした機会がもっと日常的につくれるようになればと思う。


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