緊急対応型ワークシェアリングの普及に向けた提言林 倹一(電機連合・富士電機機器制御労働組合・組合員)
いま、ワークシェアリングが求められている職場で働いていると、不思議に感じることがある。世間では高失業率が大きな問題として取り上げられているのに、自分の仕事は減るどころか、むしろ増えている。仕事を求めている人がいるはずなのに、自分はこれ以上働けないとうギリギリのところまで残業している。 そして人員は増えるどころか逆に減らされ、ますます自分の仕事が増えてしまう。 さらにこの状況は自分だけでなく、職場の仲間も同じである。 でも、これ以上働けませんと言った途端にリストラされそうだし...。日本には死ぬまで働くか、仕事を失うかの二者択一しかないのか? 普通に考えると、一人あたりの仕事量を減らして職場に働く人を増やせば、日本の失業率はもっと低くなるだろうし、自分もこんなに疲れきるまで働かなくてもよくなるはずである。 しかし、苦しくても働く職場がある間はまだましと思うべきかも知れない。総務省統計局の労働力調査によると、日本の製造業の就業者数は1993年までは、年度ごとに増減はあるものの、増加傾向を示していたが、1994年より減少に転じている。 もちろん、新規採用抑制や定年退職などの自然減少もその理由であるが、工場の海外移転などにより人員削減の対象となり、退職せざるを得なかった人も少なからずいるのではないかと考える。 さらに日本の完全失業率は、高度成長時代は2%以下であったが1990年代に入って上昇を続け、最近では恒常的に5%を超えている。 雇用の流動化が進む中での失業率の増加であれば経済の活性化の一環とも受け止められるが、現在のように不況が長期化する中において非自発的失業が増加していることは、まさに深刻な雇用情勢と受け止めなければならない。 人は働くことで収入を得るとともに、仕事を通じて社会に貢献し、自己実現を図ってゆく権利を持っている。自らが望まない形で仕事を失うことは、生活の基盤を失うとともに、人生を否定されてしまうことに等しい。 本人が望まない形での退職、いわゆるリストラは何としても食い止めることが、日本社会の最大の課題である。このため、一時的な景況の悪化を乗り越えるために緊急避難措置として従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する、いわゆる緊急対応型ワークシェアリングが求められている。 ワークシェアリングが求められている第2の理由は需要変動への対応である。 電機産業では半導体製品に代表されるように、需要が短期間に大きく変動するようになってきている。企業のリスクマネジメントという観点からは需要変動は大きなリスクであり、企業には需要変動リスクへの対応が求められているが、職場での業務負荷への対応力は以前よりも失われてきていると懸念している。 その理由は、職場では恒常的に体力が続く限界まで残業して業務に対応している。そして業務負荷が少なくなると一人当たりの働く時間を短くするのではなく、人員を削減している。業務負荷が多くなると、社員がもうこれ以上働けないという限界ぎりぎりになって始めて人員を増員するか、それでも増員しない場合もある。 従来は残業時間の調整で業務負荷の変動に対応していたが、現在では恒常的に残業過多の状態であり、人員の増減によって業務負荷変動に対応せざるを得ない。 人を増やしても業務を覚えるまでに時間がかかることから、すぐに増えた業務の処理能力が増える訳ではない。そして、増員されたメンバーが仕事を覚えるまでは、従来からのメンバーは多忙な業務に加えて新人の教育という負荷が増えることとなる。 このように短期的な需要変動への対応としての人員増減は、有効な対策とは言えないのである。 日本での需要変動への対応策としては上記の他に、変形労働時間制度と休業制度が挙げられる。 一般的に日本企業では短期の需要変動には残業時間の調整で、1年以内の需要変動には変形労働時間制度や休業制度で、3年以上の需要変動には人員の増減で対応してきたように感じている。 しかし1~3年程度の中期的な需要変動へ対応できる有効な人事制度が欠けているのが現状であり、ワークシェアリングにより対応できることが期待されている。 ワークシェアリングが求められている第3の理由は、人材の維持である。 総務省統計局の非正規・非正規職員雇用の増減状況調査によると、正社員など正規雇用が減少する一方でパートなど非正規雇用が増加した結果となっている。 これは人件費の削減だけを追い求めて、本来企業内に残すべき正規雇用までを切り捨て、非正規雇用に置き換えているのが現実である。 日本は本来、中国や東南アジア諸国と人件費のコスト競争で勝ってゆくのではなく、付加価値の高い労働市場を持ち、付加価値の高い製品、サービスで勝ち残ってゆかなければならない。しかし、目先の人件費削減だけにとらわれ、企業の競争力の源泉である人的資源を失い、非正規雇用が増加することになれば、企業競争力だけでなく、日本の国家としての競争力まで失ってしまう。 不良債権処理が進まず、中国の追い上げが著しく、今後の日本経済の成長の方向性が見えない現実において、労働環境を無策のまま放置すれば、働く場所はさらに失われ、国家としての競争力がますます低下する懸念が大きい。 小子化、高齢化、国際化といった日本の将来を見越した長期的な視点からの日本の雇用政策が望まれるのはもちろんであるが、当面の厳しい雇用環境を乗り切り、社会が再び成長軌道に乗るまでの期間、貴重な人的資源を失わないような緊急対応的な雇用政策も大いに望まれる。 さらに、このことは政府だけが考えるべき問題ではなく、日本を代表する企業や労働組合は、自社の維持発展を考える上で、それぞれが雇用政策を真剣に考えなければならない。 企業でも現実的な問題として、人的資源が失われることへの危機感が高まりつつある。安川電機では、6年間で3割の人員を削減した結果、生産現場では請負社員が増え、不良品の増加、新製品生産立ち上げの遅れなどの弊害が発生している。目先の利益を優先させたリストラのツケが、生産現場に大きな歪を生む懸念が現実のものとなろうとしている。 このような課題に対して多くの効果が期待されるワークシェアリングであるが、日本での導入は始まったばかりである。 ワークシェアリングの普及、推進を目的として,政府は「緊急雇用創出特別奨励金制度」を2003年2月より創設し、さらに全都道府県にワークシェアリング推進本部を設けている。 自治体自らの導入として、兵庫県や大阪府では短時間勤務の非常勤職員を雇用する取り組みを始めている。非常勤職員として経験を積むことで、将来の就職に有利となることを狙っている。 電機メーカーにおいては、三洋電機が北条工場にて家電製品の生産落ち込みを理由に03年1月よりワークシェアリングを実施している。 しかしながらワークシェアリング推進の動きは、限定的で、本格的な効果を上げるまでには至っていない。 緊急雇用創出特別奨励金制度への応募は04年1月までの利用はわずかに2件であり、自治体のワークシェアリングは、非常勤職員の機関終了後の就職先が決まらないケースも多い。 三洋電機北条工場では、中国や韓国メーカとの競争激化により生産中止に追い込まれ、従業員の配置転換、希望退職が行なわれた。 このようにワークシェアリングの導入が進まない原因として、責任ある仕事は短時間勤務では無理といった考え方や、短時間勤務に対応した労務管理の煩雑さなどがあげられている。 また、最近になって日本経済が回復の兆しを見せ、企業リストラの進展によって企業の雇用過剰感が薄れてきたことも原因である。 三洋電機のようにワークシェアリングが効果を上げない原因としては、生産量の落ち込みがワークシェアリングで対応できる範囲を超えてしまった、一定期間の後に生産の回復が見込めないことなどが原因と考えられる。 ワークシェアリングの課題ワークシェアリングへの反対意見で最も大きいのは、「ワークシェアリングは企業の競争力を失わせる」というものである。 言い換えれば、「ワークシェアリングは本当に雇用維持に効果があるのか」という疑問である。 仕事量が一定で、一人当たりの労働時間を減らせば確かに雇用を維持創出できるはずである。しかし緊急対応型ワークシェアリングの実施がコスト高を招き企業の競争力を失わせてしまえば、仕事量が減ってしまい、結果的に雇用の維持ができない懸念がある。 企業側からのワークシェアリングの捕らえ方を2003年に甲府商工会議所が山梨県内企業を調査した結果、ワークシェアリングに関心がない企業があげた短所として、労働時間短縮ほど人件費は低下しないことが最も多数を占めている。 また、緊急対応型ワークシェアリング導入に対する企業、組合間の交渉においても、ワークシェアリングの制度化を要求する組合に対し、経営側は、ワークシェアなど悠長なことを言っていられないほどの厳しさを強調する経営者が多く、賃金カットなどリストラに走っているのが現状と報告されている。 企業としても、売上が減少して苦しいときに、人件費コストの上昇を招きかねないワークシェアリングには積極的になれないのが本音であろう。 緊急対応型ワークシェアリングは雇用不安を解消する切り札として労働者側から期待する声が大きいが、それでは緊急対応型ワークシェアリングは本当に企業の競争力を失わせてしまうのだろうか。 緊急対応型ワークシェアリングが成功するシナリオとしては、図1左に示すように、経営環境が悪化して売上が減少した場合に労働時間を緊急的に削減して雇用を維持しながら売上減少に対応し、経営環境の好転に伴って労働時間を元に戻し、結果として雇用維持に成功するというものである。 しかし、このような成功パターンを描くためには労働時間を削減したことが人件費コストの上昇を招かないこと、売上がある期間の間に回復することが条件となる。 このような条件を満たさなかった場合、失敗パターンとして図1右にあるように、労働時間を削減すると売上に対する人件費の比率が上昇し、製品コストを押し上げ、利益を圧迫することが売上をさらに減少させてしまう。より減少した売上に対応するためには、労働時間をさらに削減せざるを得なくなるが、生活できないレベルまで賃金が削減されるなど、負のスパイラルに陥ってしまう。結局、より厳しい経営環境の中で人員削減をせざるを得なくなり、ワークシェアリングを実施したことが悲惨な結果を招くことになってしまう。 図1.ワークシェアリングの成功パターンと失敗パターン
このようにワークシェアリングが成功するかどうかは、労働時間の短縮が売上高や利益にどの程度影響を与えるかによって決まるといっても過言ではない。ワークシェアリングが、企業が耐えられる限度を超えて売上高や利益に悪影響を及ぼすのであれば、ワークシェアリングの社会的意義をいくら訴えても成功は期待できない。 ワークシェアリングはコストアップになるか?それではワークシェアリングは本当にコストアップにつながるのだろうか。労働組合としてワークシェアリング導入を推進するに際して、ワークシェアリングが企業経営にどのような影響を与えるかを把握しておくことは、非常に重要である。 そこで、需要変動への対応策として、下記の2つの対策を実施した場合を想定する。 [1]緊急対応型ワークシェアリングにより、労働時間を変動させる [2]生産量の増減に応じて人員を増減する 上記[1]、[2]どちらが企業負担が少ないかを検討してみる。 図2に示すように、例えば3年間急激に需要が減少し、3年後に回復した場合、緊急対応型ワークシェアリングを実施すれば、実施期間中は時間短縮によって人件費負担が増加する可能性がある。一方、生産量の増減に応じて人員削減と新規採用を行った場合、割増を含んだ退職金と、採用コストさらには採用した従業員の教育訓練コストが発生することになる。 図2 ワークシェアリングと人員増減のコスト比較
どちらがコスト負担が少ないかは一概には言えないが、ワークシェアリングの方がトータルのコストで見れば、負担が少ない場面も出てくると予想される。 しかし、現実には教育コストや採用コストは見積りが難しく、ワークシェアリング実施期間中において人件費負担がどの程度重くなるかが、導入の判断基準となるであろう。 言い換えれば、ワークシェアリングを実施すると、売上高に対する人件費の比率が上昇するのであれば、企業の固定費負担上昇を招き、導入しても成功につながらないと判断されることを覚悟しなければならない。 それでは本当にワークシェアリングの実施が、人件費負担増につながるのであろうか。 ここで下記の仮説を立てて、それぞれ検証してみることとする。
仮説[1]:労働時間と時間当たり賃金の関係 企業は社員を雇用すると、社会保険料、寮社宅費など労働時間によらず発生する固定費が発生する。このような固定費が存在すると、労働時間を短縮すると1時間あたりの人件費負担は増加することとなる。 図3はある電機企業の人件費について、1時間あたりの人件費を計算した結果である。 ワークシェアリングにより1日あたりの労働時間を短くすると、時間当たりの人件費は増加することがわかる。これは、ワークシェアリング実施による企業負担の増加につながる。 図3.一日の労働時間と時間あたり人件費の関係
仮説[2]:労働時間と生産性の関係 人間は機械ではないため、長時間労働すると疲労がたまり、効率が落ちてくる。長時間働かなければならない時は、すこしペースを落としながら働き、短時間で仕事を終わらそうとするときは集中して効率を上げて働くものである。 このように1日あたりの労働時間により、作業効率は変化する。生産量=労働時間×従業員数と単純に決定できない。 図4.一日の作業時間と作業量の関係
(G.Lehmann,1953:E.Grandjean,1969) 図4は工場での作業について、1日あたりの作業時間と、生産量の累計についての調査結果を、8時間労働の場合を100として表示した表を引用したものである。重労働と軽作業で違いはあるものの、作業開始時は準備等があり効率は低いが、作業開始2~4時間が最も効率が良く、5時間を過ぎると効率が低下してゆく傾向にある。このため、図4のように長く働いたほうが仮説[1]の議論のように時間あたり人件費は低下しても、作業効率が低下してしまうために一概に長時間働いたほうがコストが低いとは言い切れない。 仮説[3]:労働時間と生産量の関係 労働力を二割削減すると企業の生産量は比例し二割減少するのであろうか。 ワークシェアリングを実施する場合の状況では、労働時間を削減して、投入される労働力(労働投入量)を減らしても、土地や設備などはそのまま維持されることが多いと予想される。 生産量は労働力、設備等様々な要因により決まるため、労働力の減少ほどには生産量は減少しない可能性がある。 企業の生産量は機械設備や労働力などの生産要素および原材料の投入によって決定されると仮定する。原材料は生産要素の投入にあわせて最適に投入されるとし、生産要素として投入される労働量Lと、設備投資のような資本Kを定義すると、生産量Yは関数によって表示できる。 fはYとK、L間の関係を示し、生産関数と呼ばれている。ここでは、はコブ・ダグラス型とよばれる生産関数を用いた。 式(2)においてYを売上高、Lを従業員全体の年間労働投入量、Kを年間設備投資額とし、代表的な電機企業をモデルに過去のデータを示すと、図5,6となる。 図5より、設備投資と売上高は相関が非常に低く、設備投資額から売上高を推測することはできない。しかし図6より、売上高と労働投入量の相関は、 と高く、労働投入量から売上高の推定が可能である。 式(3)では、売上高は労働投入量の0.442乗に比例しており、労働投入量が減っても売上高はそれほど減少しないことを示している。この傾向は他の電機会社でも同様である。 これは1990年以降の売上高と人員が減少する時期におけるデータを基にしているためと考えられる。バブル崩壊後は土地や設備を維持しながら人員が減少したため、人員の減少ほど売り上げが減少しなかったと想定される。
緊急対応ワークシェアリングを実施するような環境においては、土地や設備を維持して労働時間だけを削減することが予想されるが、この場合は同様の傾向が示されると予想される。 すなわち、売上高は、労働力だけでなく土地や設備などの経営資源にも大きく影響するため、労働力だけを減少させても、売上はそれほど減少しないのである。 ワークシェアリングのコストアップ試算ワークシェアリングの企業負担について、3つの仮説を立ててそれぞれ検証し、仮説が妥当であることが確認された。仮設にはコストアップ要因と好転要因があり、実際にワークシェアリングを実施した場合のコスト試算をシミュレーションしてみた。 シミュレーションは図7に示すように、仮説[1]で検証した労働時間と時間当たり人件費の関係、仮説[2]の労働効率の関係、仮説[3]の求めた労働投入量と売上高の関数を用いている。 シミュレーションの流れは、人件費、売上高等の企業データをベースとして、1日あたりの労働時間を変化させた場合の企業売上高、人件費等を計算予測する。シミュレーションを行う際の条件を下記に示した。
表1は、仮説[1]、[3]で用いた電機企業をモデルに、来年度売上高が今年度よりも10%減少する見込みとなった時、人員を維持しながらどの程度労働時間を短縮すれば、売上減少に対応できるかをシミュレーションにより計算した結果である。 図7.シミュレーションフロー
表1.シミュレーション結果
計算では、1日あたり労働時間を現在の8.5時間から6時間まで削減すると、売上高10%減少に対応することができる。 労働時間の短縮により1時間あたりの人件費は16%増加するが、労働時間効率が13%向上したことによる生産性向上により総人件費は13%低減される。その結果、売上高人件費比率は4%低減する。 計算からは、1日あたり労働時間を現在の8.5時間から6時間に削減しても売上高に対する人件費負担は増加せず、むしろ低減する結果となった。 労働時間を短縮すると人件費負担が軽減されるという結果に違和感を覚えるかもしれない。 しかし人は機械と違い、ワークシェアリングで働く時間が短くなれば、短時間で効率よく働こうとして生産性が上がる。また、設備や土地を維持したままワークシェアリングを実施すれば、労働時間を3割短縮しても、売上高の減少は3割以下となる。 これらの効果が労働時間短縮による時間あたり賃金の増加による負担増を補ったため、ワークシェアリングは経営を圧迫しないという結果となった。 提 言シミュレーション結果は非常に単純なモデルであり、実際にワークシェアリングを実施した場合には、シミュレーションで考慮していない影響も想定され、ワークシェアリングの実施がコストアップにつながる可能性は否定できない。 しかし、仮説[2]、[3]で示した生産性好転要因が最大限発揮できる経営環境を実現できれば、ワークシェアリング実施によるコストアップを低減させることができる。 仮説[2]の効果を発揮するためには、例えば始業時の業務立ち上がりを早くする、間接業務の効率化、短時間勤務に対応した休憩時間などを検討する必要がある。 仮説[3]の効果を発揮するためには、短時間勤務に対応した交代勤務シフトの設定など、設備稼働率を維持する働き方を検討する必要がある。 このような課題を検討する必要があるが、シミュレーションで検討したような効果が得られるのであれば、ワークシェアリングは労使協議の場面で、「雇用の維持のため労働組合に譲歩してしかたなく行うもの」ではなく、「需要変動に対応し、貴重な人材を維持するための有効なリスクマネジメント手段」として積極的に導入する施策へと企業の意識改革を迫る必要がある。 しかし、表1より、売上高一割の減少に対応するために労働時間を三割削減する必要があるという計算結果になっている。三割以上の労働時間削減は労働者の負担を考慮すると不可能に近いことを考えると、ワークシェアリングによる需要変動への対応幅は売上高一割の減少までとなり、それほど広くないことが分かる。 このようにワークシェアリングはすべてに万能の施策ではなく、需要減退の大きさ、期間によって従来の対応方法と区分けしながら重要な役割を果たすことができると期待している。 表2に示すように、1~3年程度需要の減少が見込まれ、残業時間の調整や休業制度では対応が困難な場合にはワークシェアリングは貴重な人的資源を社内に維持するための有効な需要変動へ対応した雇用維持策となりうる可能性が大きい。 表2.需要減少による雇用維持施策としてのワークシェアリングの位置付け
まとめ緊急対応型ワークシェアリングの雇用維持効果について、仮説を基にシミュレーションを実施し、ワークシェアリング実施に際して条件整備を行えばワークシェアリングがコストアップ要因とならないこと、需要減少期間、幅に応じて今までの労務管理手段と切り分けて実施が可能であることを示した。 今後は様々な産業分野で需要変動が大きくなることを想定すると、現在景気が上向きつつあるからといって、ワークシェアリング導入に向けた動きを減速させてはならない。 最後に、ワークシェアリングの効果についてシミュレーションにて定量的に検討したが、ワークシェアリングには、数字では表すことのできない効果も得られるはずである。 働く者にとって、雇用不安は最大の不安であり、ワークシェアリングにより雇用の不安が解消されれば、安心して仕事に打ち込むことができる。 私は優れた会社の条件として、苦境に強いということも重要であると考えている。会社が苦しくなった時に従業員がさっさと見切りをつけて転職してしまうか、苦しいときこそ頑張ろうという従業員を抱えているかが、苦境に立ったときの会社の強さを決めると考える。 ワークシェアリングはまさに、苦しいときに頑張る制度である。ワークシェアリングにより会社は雇用維持に努力し、従業員は会社の業績回復に努力した結果は、その後の経営に必ずプラスとなると期待している。 緊急対応型ワークシェアリング実施のための検討課題は多く、成功させるためには多くの苦労があることが予想されるが、労働組合は率先してこの課題に取り組み、安心して働ける社会を築き上げることに大いに期待している。 以 上 |