ゲストスピーカー: | 逢見 直人連合 副事務局長 |
こんにちは。ただいまご紹介いただきました連合副事務局長の逢見です。本日は、「労働組合と政治―政策・制度の実現に向けて―」をテーマに、これまでの講義とは少し違った視点から、労働組合と政治との関わりについて、連合の政策・制度要求の取り組みを中心に、お話させていただきます。
お手元資料の2ページ目に、3枚の写真を掲載しています。まず1枚目の写真で、「税調は働く者の声をきけ!」「定率減税の廃止・縮減反対」という横断幕が張られた車上で演説しているのが連合の高木会長です。これは、2005年の秋に定率減税の廃止を巡って政府税調で大変な議論が展開されていた当時、高木会長が政府税調に出席する直前に、財務省前で定率減税廃止反対を訴えたときの写真です(2005年10月)。残念ながら定率減税は廃止となり、国から地方への税源移譲も実施された結果、今月(2007年6月)から住民税が一気に上がってしまったことは皆さんもご存じのとおりです。2枚目の写真は、連合が民主党と結んだ共同宣言の調印式の際の写真です(2006年10月)。左側で、高木連合会長と握手しているのが民主党の小沢代表です。いよいよ来月には参議院議員選挙が行われますが、通常、こうした国政選挙の際には連合と民主党との間で政策協定が締結されます。その中で私は、前述の共同宣言や政策協定等の策定作業の責任者をつとめています。3枚目の写真は、公務員制度改革に関して、連合の代表が、当時の小泉内閣の竹中総務、中馬行政改革担当、川崎厚生労働の三大臣との間で政労協議を行ったときの写真です(2006年1月)。
ご紹介したのは、あくまでほんの一例ですが、これらはすべて“連合の仕事”です。本日は、このようにナショナルセンター連合が、なぜ政策・制度要求に取り組むのか、また、具体的にどのような取り組みを行っているのかについてお話を進めていきます。
はじめに、若干自己紹介をいたします。資料の3ページ目に私がつとめる主な公職を記載していますのでご覧下さい。「行政減量・効率化有識者会議」は小泉内閣当時に設置されました。政府の肥大化を防ぐ、公務員を減らして小さな政府を実現する、という小泉政権の方針に加え、「増税を実施する前に、まずは行政改革を」という国民の声を受け、本有識者会議では、公務員の総人件費の圧縮に向けた具体的施策や、独立行政法人の整理・合理化の進め方等について議論しています。次に、「官民競争入札等監理委員会委員」です。2006年に成立した公共サービス改革法に基づき、現在、公共サービスの改革議論を進められています。具体的には、これまで主に国や地方自治体等が独占的に提供してきた公共サービスの世界に市場原理を導入しようとするものであり、競争の導入による公共サービスの改革の実施過程の透明性や中立性、公正性を確保するために設置された当委員会では、公共サービスのどのような分野を市場化テストにかけるべきか等について審議を行っています。「社会保障審議会・同医療保険部会」では、2006年の国会で抜本的見直しがなされた医療保険制度について、働く者の立場から連合の主張の反映に努めています。経済産業省の審議会である「産業構造審議会基本政策部会」においては、日本の経済社会の持続的な活力の向上に向けて、広く経済社会のあり方を調査審議し、中長期的な政策の立案に参加しています。「産業構造審議会環境部会地球環境小委員会」と「中央環境審議会地球環境部会」は経済産業省と環境省が合同で開催している審議会です。ご存じのとおり、京都議定書において、日本に対しては、温室効果ガスを1990年比で6%削減することが義務づけられています。いよいよ来年2008年からは第一約束期間がスタートしますが、現在、わが国の温室効果ガス排出量は、目標である90年比マイナス6%どころか、プラス8%強となっており、実際の削減率は14%以上という大変厳しい状況です。このような中、産業界も自主行動計画における削減目標の引き上げ等に取り組んでいるところですが、本合同審議会の場においては、こうした追加的対策も含めたそれぞれの削減施策の実効性を検証しつつ、議定書目標の達成に向けた各種課題について審議しています。少子化対策の再構築・実行に向けた検討を行う「『子どもと家族を応援する日本』」重点戦略検討会議」の大元の分科会である「基本戦略分科会」においては、子育て支援税制や現金給付など経済支援のあり方や子育て期の所得保障のあり方、子育て支援策の財源等をテーマに審議・検討に参画しています。
(連合の政策・制度要求の前提)
はじめに、なぜ連合が政策活動に取り組むのか、その前提となる考え方についてお話しします。一言で政策活動と言っても、例えば日本経団連が経営者の立場から政策提言したり、日本医師会が医師の立場から医療政策に関する要望を出したりと、色々な団体が色々な立場から政策実現要求を行っています。こうした中で、連合は、働く者の立場から政策・制度要求を行っているわけですが、連合は、単なる自己利益のために政策活動に取り組んでいるような団体と違い、どういう理念を持って政策を要求していくのか、その行き着く先としてどのような社会を目指すのか、といった政策活動に取り組むにあたっての基本的な座標軸をしっかりと持っているところが大きな特徴です。
<労働組合主義(Trade Unionism)に基づく運動>
連合の政策活動の前提となる基本的な考え方の1つ目が、「労働組合主義(Trade Unionism)に基づく運動」です。かつてウェッブ夫妻は、その著作『労働組合運動の歴史』の中で、労働組合について、「労働組合とは、賃金労働者がその労働生活の諸条件を維持または改善するための恒常的な団体である」と定義づけました。これが労働組合主義に基づく古典的な労働組合の定義です。
この労働組合主義に基づく運動を、さらに3つにブレークダウンすれば、その1つ目は、「生活諸条件改善のために、経営者との交渉による労働協約によって獲得するもの」です。つまり、経営者との団体交渉によって労働条件を改善し、これを労働協約化するということです。皆さんにとっては一番イメージしやすい労働組合の姿だとは思いますが、かといって、経営者との団体交渉だけでは、すべての労働生活諸条件を維持改善することはできません。そこで、1つ目の柱とともに、労働組合主義に基づく運動の大きな柱に位置づけられるのが、「政治的要求によって、政府に実現を求めるもの」です。国によってその手法には違いはあるものの、いずれの先進国の労働運動でも、政府に対して政治的要求を掲げその実現を求めるといった取り組みは行われています。本日のお話は、この取り組みに関するものが中心となります。最後に3つ目は、「協同組合や共済活動によって実現するもの」です。労働運動の原点とも言える取り組みであり、わが国の多くの労働組合が様々な共済活動を展開しているところです。
<市場経済を前提とするが、市場原理主義には対決>
基本的な考え方の2つ目は、「市場経済を前提とするが、市場原理主義とは決別する」というものです。そもそも連合は、市場経済や市場原理を否定していません。世の中には、市場経済体制そのものを否定するイデオロギーも存在しますが、連合はそうした考え方とは相容れません。ただし、「市場原理に委ねれば、全てはうまくいく」といった市場原理主義とは対決していくというスタンスであり、社会的連帯や社会的弱者に対する政策的配慮を重視する政策を強く求めています。また、連合は、産業民主主義に基づき、政策決定プロセスへの参加を通じて、働く者の声の反映に努めています。
<「労働の尊厳」を大切にした働き方の追求>
3つ目の基本的な考え方として、連合は、「労働の尊厳」を大切にした働き方を追求しています。「労働の尊厳」とは、働くことを通じて社会に貢献していることに自信と誇りを持つという思想です。連合は、政策・制度要求の取り組みの根底に存在する、この「労働の尊厳」を重視し、労働の社会的意義の昂揚をめざしています。その上で、産業・企業の健全な発展と生産性の向上のために、労働組合として主体的な役割を果し、そのことを通じて国民経済の発展に貢献しようという考え方です。
<社会正義の追求>
4つ目は、「社会正義の追求」です。昨今、「格差はあって当たり前。格差が拡大して何が悪いんだ」といった主張も喧伝されていますが、こうした社会正義を軽んじる風潮には強い危機感を持っています。連合は、人間愛に基づいて、貧困や失業、不平等、格差の拡大、人間疎外といった社会の不条理に反抗していこうと考えているのです。
また、連合は、企業や組織に対して、倫理的行動を強く求めています。元来、企業というものは、市場における競争を通じて利潤を追求する存在でありますが、だからといって、「金儲けのためなら何をしてもいい」はずはなく、法令を遵守しなければならないことなどは言うまでもありません。企業・組織に倫理的行動を求めること-これも連合が重視する社会正義の一つです。
連合は、個人の利己をむき出しにした無制限な競争ではなく、社会的連帯の精神に基づく理性的な社会秩序のもとでの競争を求めています。他人の痛みをわが痛みとして受け止める「友愛」精神というものがあります。私が労働運動の世界に飛び込んで間もない頃、職場の先輩から、この「友愛」という言葉をよく聞かされたものです。人々が今、貧困に苦しんでいる、あるいは職を失い悩んでいる-そうした他人の痛みを、わが痛みとして受け止め、助け合いの手を差し伸べる「友愛」の精神も、連合が大切にしている社会正義の一つです。そして、すべての個人が自由・平等で豊かな生活を送れるような社会をめざし、連合は政策活動に取り組んでいます。
<「雇用社会化」を踏まえた役割の自覚>
5つ目の考え方は、「雇用社会化」したわが国における労働組合の役割を自覚するということです。
「雇用社会」とは、企業などに雇われて働く雇用者が多数を占める社会のことを言います。現在、日本の就業者数が約6,400万人、うち約5,500万人が雇用者です。かつての日本は、自営業者をはじめとする雇用者以外の人たちの比率が高かったわけですが、その後、雇用者の比率が高まり続け、今や全就業者数に占める雇用者の比率は85%を超えています。本日こちらにおられる学生の皆さんの多くも、卒業後はどこかの会社、あるいはどこかの役所に就職して働くという道を選択されるのだろうと思います。つまり、皆さんの多くも雇用者となるわけであり、今の日本社会は雇用を中心とした社会になっているということです。
雇用は、その雇用関係から得られる収入によって、働く本人だけでなく、その家族の生活を支えています。「雇用社会」と言われる社会においては、極めて多くの人たちの生活が雇用によって支えられているのです。また、雇用は、人々が能力を発揮して自己実現を図る最大の場でもあります。人々の人生の中で、職業人生というものは相当大きなウエイトを占めていますが、今後、高齢化の進展に伴い人々の職業生活の期間が延長するとともに、働く場への女性の参画が進展していこうとする中では、これまで以上に、一人ひとり人生と雇用との関わりは大きくなっていくでしょう。そのような意味でも、「雇用社会」と言われる日本において、人々がその職業人生の大部分を雇用関係という枠組みの中で設計するとすれば、そうした雇用関係を巡るルールや労使関係をきちんと律していくことは極めて重要なことなのです。
一方、グローバル化や金融化といった近年の経済環境の変化も、雇用そのものにも大きな影響を与えます。皆さんもご存じかと思いますが、先般、ソース会社である「ブルドックソース」が、「スティール・パートナーズ」というアメリカ系プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)から敵対的TOBを仕掛けられたことが大きなニュースになりました。昨日6月28日は日本国内で株主総会が一番多く開かれた日でしたが、去る6月24日に開催された「ブルドックソース」の株主総会で、「スティール・パートナーズ」の敵対的TOBに対する対抗策(新株予約権の割り当て)が承認され、さらに昨日は、東京地裁において、新株予約権の行使の差し止め等を求める訴訟を提起した「スティール・パートナーズ」の申し立てが却下されました。(※注:その後、「スティール・パートナーズ」は東京高裁に即時抗告を行ったが、7月9日、東京高裁は「ブルドックース」の対抗策を正当なものと認め、逆に「スティール・パートナーズ」を濫用的買収者と認定し抗告を棄却された。また、最高裁においても、8月7日、「スティール・パートナーズ」の特別抗告・許可抗告はいずれも棄却された。)現在、多くの企業が導入を進めている、こうした買収防衛策に対し、「経営者の自己保身だ」と批判する声もありますが、企業の経営と市場における公正なルールが未整備なわが国の現状を踏まえれば、こうした企業行動には一定の価値があると言えますし、本来であれば、産業や企業の持続的な発展を危うくするような企業買収を規制する仕組みは、法律や市場のルールの枠組みの中で解決が図られるべきと考えています。
さて、プライベート・エクイティ(PE)とは、投資のために集められた共同資金で民間企業に直接投資することを目的に運用されるものであり、PEファンドとは、この資金を積極的に管理するファンド・マネージャーあるいは管理会社のことです。PEは、短期的な収益を目的にして動くハイリスク・ハイリターン型のファンドであり、一般的に、PEファンドは買収から2年~3年以内に投資から撤退していきます。また、私募債を発行し私的に資金を募るという性格上、PEの投資家たちの正体は公にされません。PEファンドの主たる目的はあくまでも短期間で投資を回収することであり、一般的にファンドに買収された企業は、長年営々と築いてきた利益や内部留保を短期間で吸い取られる恐れがあると言われています。また、被買収企業で働く労働者にとっても、従業員削減や賃金引き下げ等が行われることも多く、さらには経営者が労働組合に敵対心を持つ傾向があるなど、雇用や労働条件、労使関係の不安定化が懸念されます。今後、例えば、皆さんが就職する企業が、突然何の予告もなく、どこかの見知らぬファンドに買収される可能性だってあるわけです。そのときに、「自分たちの雇用や労働条件はどうなってしまうのだろうか」と、そこで働く人々が不安を抱くことは当然です。
このように、近年、PEファンドやヘッジファンドなど投資ファンドが関与する企業合併や買収の増加が、経済と雇用に大きな影響を与えており、国際労働運動においても大きな課題となっています。こうした投資ファンド台頭の背景には、原油価格の高騰に伴うオイルマネーの流入や新興国の外貨準備高の増加など、世界的な“カネ余り”があると言われています。また、かつては一部の資産家が投資対象としていた投資ファンドについて、最近では、金融機関や年金基金等がポートフォリオに組み込む傾向も見られます。つまり、労働者たちが拠出した資金が、一部の投資ファンドを経由し、結果的に、労働者たちの雇用や労働条件を不安定化させているという側面もあるのです。
ところで、株式の過半を所有すれば会社を支配できるといった株主至上主義の考え方に立てば、「会社」は売買の対象物に過ぎず、そこで働く生身の労働者たちのことなどは埒外に置かれてしまうでしょう。会社の企業価値は、あくまで株式の時価総額や保有資産の評価額でしかなく、また、株主が株価の上昇や高額の配当を求めるあまり、経営者たちは、そうした期待に応えるためにも、短期の業績や利益を重視し、人材育成や基礎研究など長期的視点に立った投資には消極的になってしまいます。一方、私たち連合が考える「会社」とは、「ヒト」である従業員の集団が、「モノ」や「サービス」を提供することによって事業を発展させ、知的財産を生み、社会に貢献するという“社会の公器”であり、「ヒト」としての会社(コミュニティ)です。労働力を費用と考えるなら、コストは安ければ安いほどよいでしょう。しかし、私たちが考える“コミュニティとしての会社”においては、労働力は、企業価値を高め、その持続的発展を実現させるための人的資源なのです。
私たち連合としても、投資ファンドや投資行動自体を否定しているわけではありませんし、将来性ある企業への資金供給や経営が行き詰まった企業の再生など、企業や経済の持続的発展や労働者の雇用確保等を資金面から支える高い社会性の側面があることは理解しています。私たちが問題視しているのは、こうした投資ファンド本来の意義を歪曲し、企業の持続的成長や、そこで働く者たちの雇用を犠牲にしてまでも、投資家への高配当を追求する一部の投資ファンドが存在していることです。連合は現在、企業の経営や市場における公正なルールを確立し、規律ある健全な資本市場へと発展させるとともに、投資ファンド等による企業買収から労働者の雇用や労働条件を守るため、その政策的課題の整理と労働組合としての対応策の策定に向けて議論を加速させています。また、投資ファンドが世界中の市場で活動している中では、一国だけで投資ファンドの規制や対策を実施することには限界があり、各国が連携を図りながら、グローバルな視点で取り組まなければなりません。そのためにも、連合は、ITUC(国際労働運動総連合)などグローバルユニオンとの連携も強化していかなければなりません。(注:連合はその後、2007年9月に「ヘッジファンド、PEファンド等に関する政策的課題と対応の考え方」をとりまとめている。詳細は、http://www.jtuc-rengo.or.jp/kurashi/kinyuu/index.html を参照)
これまでお話ししてきた投資ファンドによる企業買収等による雇用や労働条件の不安定化も、グローバル化、金融化や規制緩和によって引き起こされた雇用への大きな影響の1つであり、「雇用社会」と言われる日本においては、なおさら、その影響は深刻です。このような中、働く者の利害や主張を反映し、実現していく役割を担っているのが労働組合なのです。私たち連合は、労働組合に加入する組合員という範囲にととまらず、労働組合に加入していない、あるいは労働組合が存在しない企業で働く人たちも含め、すべての働く者の代表として、政策・制度要求に取り組んでいます。政治には、様々な利害関係者の政治パワーの調整の場という側面がありますが、連合は、こうした政治の場においても、全就業者の85%にものぼる雇用者の声を代弁する社会集団という立場から発言しているのです。
<理念・目的が一致する政党・政治家を支援>
6つ目の前提として、政党・政治家との関わりについてお話しします。連合は、「理念・目的が一致し、政策・要求が一致する政党、政治家を支援する」という立場をとっています。つまり、単に一つひとつの個別政策が一致すれば、即、支持・支援関係を結ぶというのではなく、まずは、各政党・政治家が有する理念・目的がそもそも一致していなければならないという考え方です。
もとより、労働組合と政党とはその機能が異なり、相互に独立し不介入の関係にあります。連合は、一部の政党が労働組合の活動に介入したり、自らの下部機関の如く位置づけることを決して許しません。逆に、連合は、政党に対して政策・制度の実現を要求したとしても、政党の組織運営や人事に介入したりすることはありません。
また、連合は、政権交代可能な二大政党的体制をめざしています。政権交代が起こらないまま、ある特定の政党が長期に政権を担当し続けることは政官業の癒着などの数々の腐敗をもたらします。そうした意味で、民主主義が健全に機能するためには、政治の場に政権交代の可能性という緊張感が必要です。ところが、残念ながら日本では、ある時期を除いては、ほとんどが自民党の一党あるいは連立政権が長期間続いてしまっています。私たち連合としても、大変歯がゆい思いを持っていますが、自民党に変わる政権担当能力を有した勢力を伸ばし、真の二大政党制を日本に定着させたいと考えています。
その上で、現在、連合は、民主党を基軸に支援することとしています。民主党は、そのめざすべき社会として「自立した個人が共生する社会」などを掲げており、その基本理念・姿勢は、「自由・公正で平和な社会づくり」を掲げる連合の理念や目的と多くの点で共通しており、また、政策についても、その方向性や基本部分の多くを共有しています。また、民主党は、自民党に対抗して政権を争いうる政党としての実力と可能性を有した唯一の政党と言えます。こうした理由から、現在、連合は、自らの政策・制度要求を実現させるために、基軸政党として民主党支援を運動方針に明記しているのです。
(連合が政策活動に取り組む目的)
以上、連合の政策・制度要求の取り組みの前提となる考え方についてお話しました。ここで、連合が政策活動に取り組む目的についてまとめます。
まず1つ目は、労働組合主義の発展を通じて、働く者の雇用を守り生活諸条件と権利を向上させることです。そのためには、立法化に向けた運動、政策・制度の見直し議論にも、労働組合として影響力を行使すべきと考えています。またその際は、議会制民主主義を堅持し、法秩序を守り、現実的改革を推進することを基本に取り組んでいます。さらに、労働組合の国際連帯を通じて、人権や労働基本権の擁護に取り組むこととしています。
もう一つの目的は、労働組合として、働く側のニーズに応えていくことです。「産業・経済の発展」や「雇用機会と公正な労働条件の確保」「安心して暮らせる社会」「公正・公平な社会」「持続可能な社会」「国民重視の政治・行政・司法」-こうした働く人々の期待に応えていくため、連合は政策・制度要求に取り組んでいるのです。
(労働組合の政策活動の歴史、連合の政策・制度要求の領域)
次に、連合の政策・制度要求の領域と視点についてお話します。
実は、日本の労働組合にとって、政策・制度要求の取り組みの歴史はそれほど古くはありません。そもそも日本のナショナルセンターが、政策・制度要求の重要性を強く意識するようになったのは、1973年から1974年にかけた異常インフレとその後の不況がきっかけでした。1976年10月には、民間労組16単産1組織が様々な労働団体の枠を超えて「政策推進労組会議」を発足させました。当初は、経済政策、雇用、物価、税制の4つの分野から政策要求をスタートさせました。その後、82年12月に発足した「全民労協」が、民間先行による労働戦線統一を展望しつつ、民間部門に共通する政策・制度課題の改善に取り組み、そして、87年10月の民間「連合」結成を経て、89年10月に官民統一体として「連合」が結成されました。政策・制度要求に向けた労働者の団結の必要性がその大きな原動力の1つとなって、こうした労働界の統一が成し遂げられたのです。「政策推進労組会議」当初は4分野でスタートした政策・制度要求の領域も、年金・医療や土地・住宅、資源エネルギー、女性、行政改革、さらには教育、食糧、環境など、労働や生活を取り巻くあらゆる分野にまで拡大していきました。現在、連合が取り組む政策・制度要求は、「経済」「雇用」「社会保障」「住宅・社会インフラ」「人権・教育」「環境・食の安全」「国民重視の政治・行政・司法」「国際」という8つの柱で構成されています。
(連合の政策・制度要求の視点)
こうした広範な政策・制度要求の基本的視点は、何と言っても「公正・公平な社会の実現」にあります。また、「国民生活の安定と向上」も重要な視点です。さらに、「国民生活に関連の深い諸課題に対する政策立案と合意形成、立法化に向けた運動」を加えた3つを基本的視点に据えて取り組んでいるのです。
連合は、その政策立案能力の向上の観点から、どこかの団体に政策づくりを丸投げしたりするのではなく、まずは“手作り”の政策立案にこだわっています。また、連合のシンクタンクとして基礎的研究を行っている「連合総合生活開発研究所(連合総研)」との連携も充実させながら、連合の政策立案に反映させています。
また、要求内容の策定にあたっては、組織内の合意形成に向けて、まずは組織内の討議を尽くし、合意されたものから積極的に取り上げていくというスタンスをとっています。まだまだ合意できない政策課題もありますが、合意が形成されるまで議論を続けるということには手間を惜しみません。
さらに、連合の中央本部だけが政策活動に取り組んでいるのではなく、地方連合会においても、対応する地方自治体に政策・制度要求を行うなど、中央における活動と合わせて、地方レベルの運動の展開にも努めています。
(連合の政策・制度の実現手法)
<政府との協議、政党との協議、国会対策>
ところで、連合は、策定された政策・制度要求を、実際に実現させるために、どのような取り組みを行っているのでしょうか。まずその手法の1つが、政府との協議です。政府の最高責任者である内閣総理大臣との間で、原則として年2回、政労会見を行っています。首相官邸において、内閣総理大臣、官房長官に加えて、関係大臣として厚生労働大臣が同席して行われます。その他にも、関係各府省(内閣府・総務省・法務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省・最高裁判所)に対して政策・制度要求の申し入れを行っています。
次に、政党との協議や国会対策です。先ほど申し上げたように、現在、連合は民主党を基軸に支援することとしており、理念・目的や政策においては、民主党との距離が一番近いわけですが、政策協議については、民主党以外の政党、つまり、現在の与党である自民党と公明党、野党では民主党以外にも社民党、国民新党との間で、定期的あるいは必要に応じて政策協議を行っています。なお、連合と理念・目的が異なる日本共産党とは政策協議は行っていません。
また、国会で公述人・参考人として意見陳述も行っています。ちなみに私は、昨年と本年の国会において、衆議院の予算委員会の公述人として、主に格差問題について意見を述べました。予算委員会以外の常任委員会等の場においても、審議されている個別法案に関する連合の考え方等について、参考人として意見を述べる機会もあります。他にも、民主党の政策調査会や各部門会議、自民党の政務調査会や各調査会・政策部会等に招かれて、各種政策に対する連合の考え方について発言しています。
さらに、国会運営や法案審議に関わる各種情報の収集に努めるとともに、民主党の国会対策委員会との連携をはじめ、連合と支持・協力関係にある政党および議員を通じた国会対策、法案対策にも取り組んでいます。例えば、民主党の議員に対して、国会における法案審議にあたって、「委員会でこういう質問をして欲しい」「こういう政府答弁を引き出して欲しい」といった打ち合わせを行ったりもしています。
<審議会等への参加と意見の反映、経営者団体との定期協議>
審議会等への参加と意見反映も、連合の政策・制度要求の重要な手法の1つです。先ほども触れたように、連合は政策決定過程への参画を大変重視しており、現在も「財政制度等審議会」「税制調査会」「産業構造審議会」「社会保障審議会」「中央教育審議会」など数多くの重要な審議会の場に、連合の代表が審議会委員として議論に参加しています。とりわけ、労働法制制定に向けた公労使三者構成による審議の場には、連合が労働側を代表し意見を述べています。他にも、冒頭の自己紹介でも一部触れた「行政減量・効率化有識者会議」や「子どもと家族を応援する日本」重点戦略会議、「成長力底上げ」重点戦略会議など、最近増えている官邸主導の各種有識者会議や戦略会議にも連合の代表が議論に参加しています。
次に、経営者団体との定期協議です。連合は、日本経団連や日本商工会議所、経済同友会との間で定期的に政策協議を行っています。さらに、双方で意見一致をみた内容については、必要に応じて共同宣言や共同行動を行ったりもしています。近年の事例としては、連合と当時の日経連の共同による「NR住宅協会」(首都圏で低廉で良質な共同賃貸住宅供給を実現するためのもの)の設立があります(1990年)。また、1998年の「政労使雇用対策会議」、2002年の「ワークシェアリング政労使懇談会」、2004年の「社会保障のあり方に関する懇談会」などは、いずれも労使合意からスタートし、政府に持ち込んだものです。
<国際機関との連携>
連合は、政策・制度要求の実現のために国際機関との連携にも力を注いでいます。なお、ILOの活動に関しては、第5回講義でILOの中嶋労働側理事から詳しく説明されたと思いますので本日は割愛させていただきます。
世界30カ国の先進国が経済問題を中心に政策協議を行うOECD(経済協力開発機構)には、労働組合の参加の場としてOECD労働組合諮問委員会(OECD/TUAC)が設置されています。連合は、このOECD/TUACにおける意見反映を通じて、OECDの政策決定過程に参画しています。また、ITUC(国際労働組合総連合)やITUC-AP(ITUCのアジア太平洋地域組織)との連携や、G8労働組合指導者会議(通称「レイバーサミット」)、G8労働大臣会合でのソーシャルパートナーとしての参加等を通じて、国内だけでなく、国際的な舞台で連合の意見の反映に努めています。
<職域、職場における運動>
もう一つ、政策・制度要求の実現手法として重要なのが、職域、職場における運動です。労働組合の原点は何と言っても職場であり、連合は、政策・制度要求の取り組みにおいても、職域、職場との連携を重視しています。具体的には、アンケートや地方ブロック会議、対話集会等を通じて、職場の“生の声”を、連合の政策づくりに反映させることに努めています。
ところで、皆さんにとっては、「政策」と耳にすると、何となく生活感が乏しく感じたり、とっつきにくい印象を持ったりするかも知れません。そこで、ぜひこの場で「お医者さんにかかったら領収書をもらおう運動」についてご紹介したいと思います。この運動は、連合として1996年から継続して実施しているものです。例えば、皆さんが町で買い物をされたらお店で領収書をもらうのは当然です。しかし、医療機関を利用した時に領収書をもらうというのは、実は当たり前ではなかったのです。仮に医療機関で診断・治療を受けたり、薬を処方された後、窓口でお金を支払っても、自分がどのような検査や治療を受けて、それぞれにいくらお金がかかったのか、その明細もわからないというのが実情でした。
しかしながら、一人ひとりの患者には、それらが正しく請求されているかを知る権利があります。おそらく皆さんの多くは、まだご両親の扶養家族だと思いますが、健康保険証を持参して病院に行く場合、診察後に窓口で負担するのは、医療費の3割であって、残りの7割は健康保険や国民健康保険など医療保険によってまかなわれています。皆さんが診察を受けた医療機関は、診療報酬を請求し、その請求に基づいて医療機関に対して、残りの7割が支払われるのですが、おそらく大部分は正しく請求されているのでしょうが、中には医療機関からの水増し請求や不当請求も見受けられます。それは、結果として、皆さんのご両親をはじめ働く者たちが日頃から負担している医療保険の保険料を横領しているようなものであり、決して許されるものではありません。
それを防ぐためにも、私たち一人ひとりが、医療機関を利用した場合は、必ず明細書付きの領収書の発行を求め、後日、健保組合等から送られてくる医療費の通知書類と内容をつきあわせてみる、というのが「お医者さんにかかったら領収書をもらおう運動」なのです。当初は、日本医師会にも非常に抵抗されました。また、運動の取り組み主体である組合員の皆さんからは、「窓口で自分の口からは、なかなか言い出しにくい」といった声もありましたので、連合として、「領収書をください~合計金額だけではなく明細のわかる領収書を!」という医療機関向けのカードを作成し、組合員の皆さんに窓口で保険証と一緒に提出してもらうという取り組みを行いました。こうした具体的な行動を粘り強く展開し続けた結果、2006年の医療制度改革において、医療機関による領収書発行の義務づけを法制化することができました。今では、皆さんが医療機関に行かれた場合、それが大病院でも小さな町の診療所でも明細書付きの領収書が発行されているはずです。連合の地道な取り組みが、こうした成果につながったということを、皆さんにもぜひ知っておいてもらいたいと思います。
その他には、例えば「連合エコライフ21」という運動も行っています。地球温暖化防止は喫緊の課題であり、これまでの「大量生産・大量消費・大量廃棄」の社会経済システムを循環型社会システムに変革する必要があります。こうした中、地球環境に優しいライフスタイルを実行する運動が、1998年にスタートした「エコライフ21」であり、まずは連合組織全体の取り組みとするために、産業人であり生活人である連合加盟組合員とその家族を中心に、まさに足元から運動の浸透と定着を図りながら、徐々に国民的な運動への発展をめざしてきました。今では町で普通に見かける夏季の軽装運動(政府が提唱する「クールビズ」)などは、連合内では随分昔から当然のことと認識されてきましたし、他にも、地域における「連合の森づくり」や「列島クリーンキャンペーン」、NPOが主催する6月の「ライトダウン行動」や環境省の「チームマイナス6%」への参加など、取り組みは内外に広がりを見せています。最近では、「レジ袋削減・マイエコバッグ利用」運動も本格的にスタートさせました。買い物に行ってもレジ袋をもらわないで自分で持参した買い物袋に詰めて帰ろう、という取り組みであり、連合でエコバッグを作ったりもしています。こうした職域、職場とのつながりをもった運動も、連合の政策・制度要求実現のための大変重要な取り組み手法の1つなのです。
<大規模キャンペーン>
さらに、大規模なキャンペーンを展開するというのも、政策実現のための取り組み手法の1つです。2005年~2006年には「サラリーマン増税反対キャンペーン」を展開しましたが、その中で、「シンク・タックス~増税について考えてみませんか」というサイトを連合のHPに立ち上げました(「think-tax.jp」プロジェクト)。インターネットでHPにアクセスしてもらい、所得や家族構成など必要なデータを入力するだけで、その人の増税金額が一目でわかる、というものです。これには非常に多くのアクセスがあり、内外から大変高い評価をいただきました。他にも、皆さんも新聞等で見聞きしたことがあると思いますが、「ホワイトカラー・イグゼンプション」に反対するキャンペーン、さらには、現在も継続中の「STOP!THE格差社会キャンペーン」では、宣伝カーを回して街頭で演説したり、ビラやチラシを配布するとともに、大々的に新聞広告をうつといったことにも取り組んでいます。
(これまで実現した主な政策・制度)
こうした多岐にわたる取り組みを通じて、連合は数々の政策・制度要求を実現してきました。いくつかの主な成果を挙げれば、「育児休業法の制定(1991年)」や「介護休業の制度化(1995年)」、「地価税(大土地保有税制)の創設(1991年)」や「6兆円の大型所得減税(1994年)」、「労働基準法改正をはじめとする労働時間短縮のための制度的改善」「パート労働法の制定(1993年)」、「解雇権濫用法理の労働基準法上の実定法化(2003年)」「介護の社会化としての介護保険法制定(1997年)」「基礎年金の国庫負担1/2の法制化(2004年)」「倒産法制の見直しによる労働組合関与の強化と労働債権の地位向上」、そして先ほどお話しした「医療機関の領収書発行の義務化(2006年)」などです。
このように、連合は数々の政策・制度を実現させてきましたが、私たちは、こうした成果に決して満足しているわけではありません。やはり、一時期を除いて、支援する政党が政権担当政党ではなかったことも大きな壁の1つだったと言えるでしょう。
本日の講義を締め括るにあたり、今日的課題である「格差問題」についてお話したいと思います。
連合が2006年末に行ったインターネット調査によると、現在、9割の人が格差の拡大やその固定化を実感しています。また、同調査によれば、こうした格差の最大の要因は、正規労働者と非正規労働者による所得格差であると認識されています。近年の正規雇用から非正規雇用への置き換えを背景として、民間給与は90年代後半から低下し続けています。中でも、年間所得200万円未満という世帯が約2割を占めており、貯蓄なし世帯も過去最高水準に達しています。OECDの2005年の調査によると、相対的貧困率(可処分所得が全人口の中央値の50%以下の人の割合)において、OECD加盟先進国中、日本は下から2番目に位置しており、さらに年齢別の相対的貧困率では、高齢層とともに若年層の貧困率が深刻化しています。また、生活保護世帯は増加し、可処分所得が生活保護水準以下という世帯の割合も増え続けています。昨今、日雇い派遣やネットカフェ難民といった「ワーキング・プア」が社会問題になっているように、わが国において現在、格差と貧困が広がり続けているのです。
また、正規労働者の減少と非正規労働者の増大により、今や非正規労働者数が全労働者の1/3を占める中、労働者の働き方の二極化も進行しています。正規労働者の年間総実労働時間は2,023時間(2006年)と高止まりしており、国際比較においても、週50時間以上働く人の割合はダントツで世界一です。特に、週60時間以上働く労働者は600万人にのぼり、しかも、これが子育て期の世代に集中してしまっています。一方、パート労働者や派遣労働者など非正規労働者の増加の主たる理由は、コスト競争の激化による人件費削減にありますが、その結果、例えば、厚生労働省の調査(2005年)によると、パート労働者の賃金(時給)を一般労働者と比較した場合、男性で52%、女性で69%という水準にとどまるなど、非正規労働者と正規労働者には大きな賃金格差が生じています。また、国民年金第1号被保険者の内訳を見てみると、約6割が雇用労働者であり、2割を超える人たちがフルタイムで働いている実態にあります。本来であれば、厚生年金に加入していなければならない人たちが、国民年金にシフトしているのは大変大きな問題であり、連合は現在、すべての労働者に対する厚生年金の適用拡大 に向けて取り組んでいるところです。さらに、解雇や労働条件の切り下げを巡る個別労使紛争も増加の一途を辿っています。
近年、金融化・市場化・情報化が、地球の距離を短くし、グローバル化を促しています。ヒト・モノ・サービス・資本・情報などが国境を越えて自由に行き交う中で、わが国の産業構造も大きな変化を余儀なくされています。こうしたグローバル化の進展、ポスト工業化社会という中で、労働の分野においても、専門化・プロフェッショナル化と、単純労働・随時的労働の拡大が同時進行しています。かつて、クリントン政権時に労働長官をつとめたロバート・ライシュという経済学者は、その著作『勝者の代償』の中で、「従来の大量生産型工業社会(オールドエコノミー)では、安定的に雇用される大量の労働者がいたが、ニューエコノミーでは、豊かになればなるほど、生産者・労働者は不安定になり、所得格差が拡大し、二極化が進行する」「勝ち組も、さらに勝ち続けるためには、個人生活を犠牲にして働き続けねばならない」と述べています。格差と貧困が拡大するわが国の状況を見ると、ライシュが指摘した「ニューエコノミーの矛盾」というものが、現在、わが国でも現実化してきているのではないか思われます。
こうした中、連合は、格差是正のための政策的枠組みとして、「機会の平等の確保」「再挑戦できる社会の実現」「ワーク・ライフ・バランスの実現」「セーフティネットの強化」「再分配機能の強化」「新しい公共の創造」を掲げ、取り組みを強化しています。
具体的施策について何点かご紹介すると、まず、「セーフティネットの強化」として、賃金底上げ機能を発揮する最低賃金制度の確立に向けて、最低賃金法の改正と最低賃金水準の大幅引き上げを要求しています。最低賃金については、政府の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」において議論が進められるとともに、現在開会されている通常国会(第166回通常国会)に改正最低賃金法案が上程されました。当初、今国会は「労働国会」と銘打たれていたわけですが、皆さんもご存じの年金記録問題の煽り等を受け、残念ながら改正最低賃金法案は継続審議となり、次回以降の臨時国会(第168回臨時国会)に先送りとなりました。連合としても、秋以降、政党との協議や国会対策など、さらに取り組みを強化していきたいと考えています。(注:第168回臨時国会において、最低賃金改正法案は2007年11月28日の参議院本会議で可決成立した)
また、パートや派遣といった非正規労働者の雇用の安定と均等待遇の確立にも全力で取り組んでいます。今国会においては、13年ぶりに「パート労働法」が改正されました。ただ残念なことに、均等待遇の適用範囲が極めて限定的なものとなってしまいました。連合は、引き続き、均等待遇の実効性を高めるための取り組みを進めるとともに、労働者派遣法の見直しや、偽装請負・違法派遣の一掃に向けた監督強化にも取り組んでいきます。
さらに、「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けた公正なワークルールの確立の観点では、時間外・休日深夜労働の法定割増率の引き上げや労働時間管理の適正化、長時間労働の是正など労働時間法制の見直し等も格差是正施策の柱の1つです。
その他、公的制度としての無償給付奨学金制度の創設や就学困難な学生への支援など「機会の平等の確保」、若年者・高齢者の雇用促進や離職した女性の再就職支援の拡充など「再挑戦できる社会の実現」、給与所得を狙い撃ちにする増税の阻止や不公平税制の見直しなどによる「再分配機能の強化」、市場万能主義によらない規制改革のあり方の確立など「新しい公共の創造」を、それぞれ格差是正のための具体的施策として掲げ、「STOP!THE格差社会」を旗印に、深刻化する格差問題の是正に取り組んでいるところです。
また、年金など社会保障制度の一体的改革や、雇用保険をはじめとしたセーフティネットの確立に向けた取り組みも極めて重要です。その意味で、最後に、現在、連合が提案している「積極的雇用政策と新たな最低生活保障制度の確立のための社会的セーフティネットの再構築」についてご紹介します。まずは、第1ネットである既存の雇用・社会保険ネットの整備・充実です。そのための具体施策として、正規労働者の拡大や非正規労働者の均等待遇、最低賃金の大幅引き上げ、母子世帯等への就労・自立支援の充実や障がい者雇用の促進など積極的雇用政策を推し進めながら、それらと連携し、非正規労働者への社会保険・労働保険の完全適用に取り組みます。しかし、それだけでは不十分です。長期失業者や「ワーキング・プア」、母子世帯等を対象に、雇用保険と生活保護制度との間に、就労支援プログラムと連携した新たな「就労・生活支援給付」制度を創設し、経済的支援を行う仕組みを整備します。これを第2ネットと位置づけた場合、さらに第3ネットとして、住宅手当の単独給付化など現行の生活保護制度の再編を図ります。連合は、現行のセーフティネットについて、ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)の視点から、こうした新たな3層構造の仕組みに再構築することを、格差是正政策の大きな柱として提案しています。
以上、本日は、「労働組合と政治」と題し、ナショナルセンター連合の政策・制度要求の実現に向けた取り組みについてお話してきました。「人間の顔をした経済」「公正・公平で安心して暮らすことのできる社会」の実現のために、私たち連合は、引き続き全力で取り組んでいくという決意を申し上げ、本日の講義を終わりたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。
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