ゲストスピーカー: | 梅本 修 損保労連 中央執行委員長 |
岡本直美 NHK労連 議長 |
皆さん、こんにちは。損保労連中央執行委員長の梅本です。本日は、「CSRと労働組合の役割」というテーマをいただきましたが、まず本題に入る前に、損保労連について簡単にご紹介したいと思います。
損害保険労働組合連合会(損保労連)は、企業別労働組合の連合体として、1967年2月に結成されました。損保労連は、損害保険会社で働く従業員だけでなく、損害調査や情報システムなどのグループ会社で働く従業員も組織する損保産業を代表する産業別組織であり、現在、損害保険会社労組10単組、損調会社労組6単組、情報システム会社労組5単組、その他1単組の全22単組、組合数6万3千名で構成されています。また、1997年には連合に加盟し、社会的役割の発揮と産別組織としての機能強化に取り組むとともに、世界最大のホワイトカラーの国際労働組合組織であるUNI(ユニオン・ネットワーク・インターナショナル)にも参画し、国際労働運動へも積極的に関与しています。
90年代、金融業界が危機に陥る中、損保業界は、比較的不良債権も少ないことから経営への影響はそれほど大きなものではありませんでした。ところが、2005年11月、費用保険金等の付随的な保険金の支払い漏れが発生したことに伴い、金融庁から26社に対する業務改善命令が出され、また、2006年5月及び6月には、新たな保険金支払いにおける瑕疵等を理由に2社に対して業務停止という極めて厳しい行政処分が下されました。また、その後、第三分野商品においても保険金不払いが明らかになりました。
保険が商品としての価値を唯一発揮するともいえる保険金支払いに瑕疵があることは、欠陥商品をお客様に提供しているに等しく、産業・企業に対する社会・消費者からの信頼を著しく損なうものであり、絶対にあってはならないことです。勿論、今回生じた様々な問題の大部分は、経営や従業員の故意や悪意によって生じたものではありません。ただ、悪意なくこのような問題が生じてしまったことにこそ、損保産業における本質的な問題があるのではないかと私たちは考えました。近年、損保業界でも自由化・規制緩和が急激に進み、かつての事前規制の時代から事後チェック体制の時代へと大きく転換しましたが、こうした変化に十分対応しきれず、旧態依然とした体質から脱却しきれていなかったのではないか、つまり、本当の意味で消費者基軸に立つことが出来ず、供給者側の常識や理屈を中心に対応を進めた結果、産業の常識と社会の常識にズレが生じてしまったことが最大の問題ではなかったかと考えたのです。
一方、社会や消費者からの信頼を損なうことは、モチベーション、プライド、モラール、ロイヤリティなど、従業員の前向きなマインドを大きく損なうことにも直結します。実際に、職場では、度重なる調査に伴う負担感や労働環境の悪化、先行きに対する不安感を訴える声も数多く出され、また、再発防止対策の立案・実行過程における管理強化に悲鳴があげられるなど、働く者一人ひとりが肉体的にも精神的にも相当追い詰められるという状況となりました。
しかしながら、お客様に良い商品やサービスを提供し、顧客満足を高めるのは他ならぬ従業員であり、産業の信頼回復の担い手は私たち働く者であることは忘れてはなりません。
こうした認識のもと、損保労連は、産業の信頼回復を喫緊の重要課題と受け止め、また、職場の実態とも真正面から向き合いながら、産別・加盟全単組、組合員が一体となって不退転の決意で今日まで取り組んできたのです。
1.産業の信頼回復に向けた取り組み
損保労連は、損保産業の信頼回復に向けて様々な取り組みを展開し、幅広く調査・研究、検討を重ねてきました。
一つ目は、損保産業が遭遇したような事態を経験した他産業が、いかにして信頼回復をはかり、その過程で労働組合がどのような役割を果たしたのか、経営者や労働組合の方々との意見交換を行ってきました。
二つ目は、産業の信頼回復をテーマに損害保険各社社長との労使懇談会を開催し、実効性ある品質管理態勢の構築など、様々な提言を行ってきました。
また、消費者代表の方との対話にも努めてきました。損保産業は代理店制度によって成り立っている側面があり、代理店を通してお客様が存在する仕組みとなっています。つまり、損保会社で働く者からすれば、直接消費者と接する機会が少ないわけです。「これではいけない」と考え、損保労連としても、消費者の方と組合員との直接対話の場を各地で設け、日頃、消費者が何を感じ、損保産業にどのような不満を持っているかなど、率直な声に真摯に耳を傾けてきました。
さらに、全都道府県において、組合員との直接対話や組合員に対する啓発活動にも取り組んできました。その中で、今回の問題に対する損保労連としての見解をメッセージとして発信するとともに、「職場ではいったい何が起こっているのか」「何が問題なのか」について、組合員との対話を積み重ねてきました。
2.産業の信頼回復に向けた処方箋
こうした様々な取り組みを積み重ねる中から、産業の信頼回復に向けたいくつかの処方箋が見えてきました。
そして、この五つの処方箋に沿って、産業の信頼回復に取り組む上で決して忘れてはならないのは、「お客様や消費者の喜びは、従業員の幸せのためにある」という考え方を労使双方が本当の意味で深く理解し合うことです。従業員満足を高める鍵は、お客様からの「ありがとう」という感謝の言葉であり、「お客様を幸せにすることは、他でもない、自分のため、自分自身の喜びや幸せのためである」という考え方が不可欠なのです。
【信頼回復に向けた労働組合の役割 ~労働組合が持つ「内部者性」「当事者性」、そして「社会性」の発揮】
産業の信頼回復に向けた労働組合の役割は極めて大きいものがあります。それは、労働組合が「内部者性」と「当事者性」をあわせもつ、ステイクホルダーの中でも特殊な存在だからです。しかし同時に、労働組合は社会という「外部の目」を持つ存在であるということも忘れてはなりません。今まさに、労働組合の本来機能である「社会性」の発揮が大きく問われているのです。産業・企業が行おうとしていることを、働く者の立場、消費者・生活者・社会人の視点からチェックし、いかにこれに魂を入れ、様々な課題を解決していくか-労働組合が今後果たすべき大きな役割であると考えています。
【おわりに】
損保産業はいま極めて厳しい状況にありますが、産業別組織である私たち損保労連としても、単組と一体となって、ともに「遠心力」と「求心力」を働かせながら、産業の信頼回復に全力で取り組み、そして損保産業の明るい未来と、そこで働く者たちの幸せを実現していきたいと考えています。
ご清聴ありがとうございました。
【はじめに~NHK労連と日放労の概要】
皆さん、こんにちは。NHK労連議長の岡本です。本日は、損保労連の梅本委員長とともに、「CSRと労働組合の役割」というテーマをいただきましたが、私からは、公共放送に携わる労働組合の立場からお話させていただきます。
はじめに、NHK労連と日放労について簡単にご紹介しておきたいと思います。
NHK労連には、NHKで働く職員でつくる労働組合である日本放送労働組合(以下、日放労)とNHKの13の関連団体の労働組合が加盟しています。また、NHKユニオンというパート・アルバイトの方などが加入している組合があり、全部で15の組織で構成されています。
ところで、マスコミには単一の産別組織がなく、民放は民放労連、新聞は新聞労連、出版は出版労連に分かれています。これら3つの組織は、いずれも連合に加盟しておらず、NHK労連は連合に加盟しています。また、組合員数が約1万2千名ですから、連合の中では非常に小さな組織と言えます。
なお、その中で、NHK労連の中核組合であるのが日放労であり、NHKの管理職以外の職員が全員加入しています。本日は、この日放労における取り組みについてお話させていただきます。
まず、日放労の社会的責任についてお話しする前に、そもそも公共放送とはどのようなものなのかについて触れておきたいと思います。なぜなら、公共放送を定義しておかなければ、その組織の労働組合の社会的責任を語ることができないからです。
◆「資本の論理」を超えての存在であること
◆放送の自由、独立性が保持されていること
NHKや民間放送など放送局には放送法によって多くの責務が課せられていますが、その中で、NHKは、全国にあまねく放送を普及させ、豊かで良い番組による放送を行うことなどを目的に、放送法の規定により設立された公共放送事業体です。
例えば、民放と異なり、「あまねく電波を届ける」ことが義務づけられているNHKは、コスト的に赤字になっても受信世帯が少ない地域に中継局を作る必要があります。また、「豊かで良い番組を放送する」ということは、民放のように視聴率にとらわれず、営利を目的としないで番組づくりを行うということです。このように、NHKの使命は、公共の福祉のために、全国にあまねく放送を普及させ、豊かで良い番組による放送サービスを行うことにあり、「資本の論理」を超えた存在であることが求められているのです。
また、NHKが行う公共放送というものは、国家の強い管理下にある、いわゆる国営放送といわれるような政府の仕事を代行する存在では決してありません。私は、放送は民主主義社会でなければ存在してはならないと考えています。それは、放送のように非常に影響力の強い媒体が国家の宣伝機関になれば、民主主義社会の基盤は容易に崩れてしまうからです。
公共放送とは、営利を目的とせず、また国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送であり、NHKには、他者、特に政府からの干渉を受けることなく自主的にその使命が達成されるよう放送法にその基本事項が定められており、その自主性が極めて入念に保障されています。また、NHKは、放送法の規定を受けて、「全国民の基盤に立つ公共放送の機関として、何人からも干渉されず、不偏不党の立場を守って、放送による言論と表現の自由を確保し、豊かで良い放送を行うことによって、公共の福祉の増進と文化の向上に最善を尽くさなければならない」とされています。
このように、NHKが自主性、独立性を保持していくためには、財政の自立を必要としますが、これを実現しているのが受信料制度です。民放は、企業等スポンサーからの広告料収入を主な財源として運営されていますが、NHKはそのほとんど全ての運営財源を、視聴者の皆様に公平に負担していただく受信料でまかなっており、政府やいかなる団体の出資も受けていません。このように、NHKは、税金でも広告収入でもなく、受信料制度によって支えられているからこそ、特定の利益や意向に左右されることなく、公共放送としての役割を果たしていけるのであり、受信料制度は、権力におもねることなく不偏不党を貫き、表現の自由を確保するための財源的言論保障制度と言えます。
一方、それだけにNHKには重い責任が生じます。放送法の定めにより、NHKの業務運営については、毎年度の事業計画や予算などについて、視聴者、国民の総意の代表である国会の承認が必要とされ、受信料額についてもこの予算承認によって決まります。これは、公共放送の自主自立、表現の自由を確保する観点から、行政機関ではなく、視聴者の皆様の意向が的確に反映されるようにとの考え方による仕組みですが、反面、NHKは特殊法人であり、こうした機関がジャーナリズムとして機能するのかと疑問を呈する人もいますし、政治からの介入を受ける恐れがあることも事実です。このような中、放送の自由、独立性を確保するために日放労としてもこれを大きな運動課題に据えて長年取り組んできているところです。
◆放送の自由の確保
◆「放送活性化会議」の設置
組合員の処遇や労働条件の改善をはかることも労働組合の大きな役割ですが、公共放送の労働組合の社会的責任として、日放労が最大の運動課題として取り組んできたことは、放送の自由を確保することです。私たちは、放送の自由の確保は、公共放送で働く者のためだけでなく、民主主義社会への責任だと思っています。具体的には、政治家や団体などから放送内容への不当な介入があった場合、労働組合がチェックするなど、現場を抱えるがゆえに様々な情報が寄せられる労働組合の立場から、放送への圧力、介入に対するチェック機能を果たしていくことです。
NHKの番組はいかなることがあっても、番組制作者の良心に基づいて制作されるべきであり、外部や上司の不当な圧力によって企画や内容が変更されることがあってはなりません。このように言論・放送の自由を機能させるためには、職場で自由に発言できる環境が必要であり、放送現場で一人ひとりの取材・制作者が自由闊達に議論を行い、公共性と公益性を踏まえつつ、公正な報道を、自らの良心、職業倫理、市民意識に基づいてのみ行うことができる状態(内的自由)が確保されなければならないのです。とはいえ、一人ひとりの個人はやはり弱い存在です。だからこそ、個人では面と向かって言えないことを代弁する存在として、労働組合・日放労の役割は大きいと考えています。
こうした考えから、日放労が経営側(日本放送協会)に対し1984年に要求し、88年に設置されたのが「放送活性化会議」です。これは、取材・制作現場が、自らのジャーナリストとしての良心に基づいて仕事をする自由を確立するために、日本の放送界では初めて設置されたものであり、旧西ドイツのノルトライン・ベストファーレン州の西部ドイツ放送法の「編集協議会」をモデルとしています。この会議は、職員など取材・制作に携わった者から、取材・制作の「内的自由」の観点から問題があると異議申し立てがあった場合、問題の経緯や原因などを調査し意見を現場に伝える機能を有しています。
◆ジャーナリズム教育の実践
その他、日放労では、ジャーナリズム教育にも力を注いでいます。「ジャーナリズムとは何か」「ジャーナリズムはいかにあるべきか」を組合が日常的に提起するとともに、特ダネ競争、視聴率競争のもとで、人権侵害をしないための教育を行っています。特に、日放労は、放送と人権の問題について何十年も前から色々と議論をしてきました。もちろん、人権の問題だけでなく、ドキュメンタリーやメディアリテラシーの定義など様々な課題について外部のジャーナリストや弁護士と議論をしてきました。また、こうした会議を一年分まとめて冊子化するなど出版活動にもあわせて取り組んできています。
こうした活動は、本来は経営側がやらなければならないことです。しかし、1つの事象について時間をかけて職場段階で議論をするのは時間がなくて難しいことです。そのため、「組合だからこそ時間をとってこうした青臭い議論をしていこう」ということで粘り強く活動を続けてきたのです。
◆放送労使会議の開催
◆新時代の公共放送論の提起(理論活動)
◆地域・海外との連携
日放労では、現場を代表するものとしてNHKの放送番組の姿勢や編成について提言する労使会議の設置を長年求めてきました。そうした経過から現在開催されているのが「放送労使会議」であり、この中で、質の高い番組を提供するための視聴率を超えた番組制作の必要性などあるべき公共放送サービスについて労使双方の立場から論議していますし、こうした提言活動を通して、視聴者の皆様の間に議論を巻き起こしていただきたいと思っています。
また、全国あまねく放送を普及させることがほぼ成就され、NHKにとっても新たな公共放送への展開が求められています。また、多メディア・多チャンネル時代における公共放送サービスのあり方など、新時代の公共放送論の提起といった理論活動にも取り組んでいます。
さらに、放送労働組合だからこそできる地域への貢献、町おこしやその土地の歴史や文化を再発見する事業への協力など、地域文化活動も展開するとともに、カンボジアでのジャーナリスト研修会の開催や、IFJ(国際ジャーナリスト連盟)への加盟を通じた世界各地での取材の自由とジャーナリストの安全の確保への協力など、国際的な組織との連携も深めているところです。
ここ数年、NHKでは不祥事が相次ぎました。これまで述べてきたような「社会的責任」を問う以前の問題が起き、公金意識の向上等について、あらためて取り組まなければならないと考えています。その上で、やはり日放労が果たさなければならない社会的責任は、「放送局の自主・自立の確保のための内部チェックと内部告発」「職場の自由な雰囲気の確保のための活動とジャーナリズム教育」「知る権利を守る立場から公共放送のサービスや受信料制度への提言活動」に集約されると思います。私たちメディアで働く者には、表現の自由が与えられています。だからこそ、表現をすることの自覚を常にもって、表現の自由には同時に責任が伴うことを常に意識した活動を今後も続けていきたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。
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