同志社大学「連合寄付講座」

2006年度“働くということ-現代の労働組合”講義要録



第10講(6/23)

グローバリゼーションと労働組合

ゲストスピーカー  古賀伸明  連合事務局長

I.プロローグ:労働運動を通して学んだこと

 私は長い間、松下電器で労働組合活動に携わってきました。私がなぜ労働運動に足を踏み入れたかですが、入社当時、松下電器の労働組合は面白いことをやっているなと感じました。職場をよくしようと思えば、会社をよくしていかねばなりませんが、松下電器では、労働組合が経営参加制度を通じて経営をチェックするだけでなく、経営に対して提言もしていました。また、社会運動としての労働組合、労働運動にも魅力がありました。松下電器の労働組合は、企業内の活動だけでなく、地域活動や、社会全体にかかわる政策・制度に関する活動にも積極的に取り組んでいました。そうしたことが組合運動に足を踏み入れるきっかけになりました。

 私が労働運動に携わるなかで学んだことのいくつかは、私の労働運動の基盤になっているだけでなく、私自身の今の生き方の基盤にもなっております。さらに、これらは皆さんの生活にとっての基盤にもなるのではないかと私は思います。

 一つは、徹底した話し込み、対話の重要性です。私は松下電器の系列会社の労働組合結成を支援したことがあります。系列会社と言っても、松下電器とは資本関係にない会社もありました。それに、当時は、労働組合は会社経営の敵だと言うオーナー社長も多く、労働組合を作ることが知れたら、その指導者は即刻クビになるという会社もありました。そんな会社での労働組合づくりをお手伝いしました。最初は、従業員にほとんど話しを聞いてもらえませんでした。「古賀さん、あんたはでっかい会社の労働組合だから、身分を守られた人だからそんなことが言えるんじゃないか」なんて言われました。しかし、何回も話し込むうちに信頼関係ができ、最後は、「古賀さんが言っていることやったら、1回やってみようや」ということになっていきました。本当の意味での話し込みとか、対話の重要性を経験しました。ただ単に報告、会話をするだけじゃなく、感情から話し込んでいくことの大切さを教わりました。

 二つ目は、一人の人間の弱さです。1980年代前後、サラ金が大きな社会問題になった時期がありました。その時、労働組合の役員として、サラ金に大きな借金ができた何人かの組合員の相談にのりました。しかし、私が相談にのった人たちは、なぜサラ金なんかに手を出したんだろうと不思議に思える人たちばかりでした。そのとき、一人の人間というのは弱いな、魔が差して自分の考えとは違う所に踏み出してしまうのだなということを私は痛感しました。そんなときこそ、職場におけるコミュニケーション、連帯、絆といったものが重要だと思います。

 三つ目は、労働組合も政策能力を強化しなければならないということです。なんでも反対と言っていては全く先に進めない、ということを強く感じました。やはり、私たちなりの視点から政策をきちっと持ち、例えば、経営側との労使交渉であれば、私たちの政策も交渉テーブルにあげて、経営側の政策と闘わせていく。相手から出た政策に反対する、あるいは枝葉末節のデメリットをあげつらうだけでは本当に近代化した労働組合とは言えないと思います。ですから、労働運動として自らの政策を持つ必要があるし、それを強化しなければならないということを学びました。

 最後は、何かを決断、判断するときに重要なのはそのタイミングだということを学びました。「労働組合は民主的なボトムアップの組織なんだ、みんなの合意形成をはかりながら色々なことをやるのが労働運動、労働組合なんだ」と労働組合役員は常に組合員にも一般の人々にも言ってきました。しかし、これだけ価値観が多様化してきた今、何か行動を起こそうとすると必ず反対意見が出てきます。もちろん、合意形成をはかるという努力は労働組合ですから徹底的にやっていかなければなりません。しかし、リーダーは右に行くか左に行くか、やるかやらないのかをどこかの時点で決断しなければならないのです。ここで重要なのがそのタイミングです。決断のタイミングがずれると、無用な混乱、困難を引き起こしてしまう。決断のタイミングが非常に重要であるということを学びました。こうしたことが今の私の労働運動のベースになっていると、最近でもつくづく思うことがあります。

II.取り巻く環境の変化と時代認識

取り巻く環境の変化

 グローバリゼーションが進むなかで、労働組合はどのような役割を果たすべきかを考えるためにも、まず、私たちの職場、生活を取り巻く環境の変化についてお話してみたいと思います。 

 まず一点目はグローバリゼーションの激化です。1980年代後半から90年代前半にかけて東西冷戦が終焉しました。それまで、異なる政治体制、経済体制の下で進んでいた世界が、この冷戦崩壊によって、資本主義、自由主義という同じ経済体制の下で単一の市場と化しました。時を同じくして、インターネットを中心とするIT社会が急速に進展し、人・物・金・情報がボーダレス化しました。グローバリゼーションは80年代後半から90年代前半にかけての東西冷戦の終焉とIT社会化によって引き起こされたと私は考えています。

 それに伴い雇用構造も変化しました。パート、派遣など非典型雇用労働者が、今、日本の雇用労働者全体の35%にもなっています。経済のグローバル化が激化するにつれて、経営者はできるだけコストを抑えて付加価値を生み出さなければ、企業は国際競争に勝てなくなるという主張で、非典型雇用労働者を増やしています。しかし、雇用・労働条件の面で様々な課題が生じています。

 もちろん一人ひとりの就業意識も変化してきています。昔は「滅私奉公」、とにかく、会社人間として会社に身をささげて働く。その代わり、会社は社宅を準備し、家族手当も支給する、企業福祉も充実させます。言ってみれば、会社は死ぬまで従業員の面倒を見る、その代わりに、従業員もわが社のために懸命に働きました。今でもそういう人はいますが、確実に少なくなってきています。自分のやりたい仕事をやるためなら今の会社を辞めて、転職するという人が出てきています。また、非典型雇用労働者の中には、正社員として就職するよりも、パートや派遣など非典型雇用のほうが自分らしい生活ができると考えている人も確かに出てきています。就業意識が多様化してきています。

 また、今の日本の最大の問題は何かと言えば、それは人口減少、少子高齢化です。社会保障制度をどうするのか、労働生産性をどうやって高めるのか、住宅政策・街づくりをどうするのかなど、すべての問題が人口減少、少子高齢化とかかわってきます。加えて、地球規模で環境保護、循環型社会への要請がますます強まってきます。戦後一貫して、私たちは物質的に豊かな生活を追い求めてきました。労働運動も食える賃金をよこせ、と主張して賃金交渉をしてきました。しかし、物質的に豊かになったことの代償のひとつが環境破壊でした。この美しい地球をどのように守っていくかにも私たちは思いをはせねばなりません。

時代認識:この時代をどう捉えるのか?

 グローバリゼーションへの対応を議論する前に、私たちを取り巻く環境がこのように変化している中、今の時代をどう捉えるべきかが非常に重要だと思います。それから、具体的な政策の議論がなされるべきだと思います。

 一つ目は、これまでの経験則では答えが出ない時代だということです。歴史は大事です。経験も大切です。したがって、私たちは歴史から学ばなければなりませんし、先輩方や私たち自身の経験を常に振り返りながら、そこから学んでいかなければなりません。しかし、今は、歴史や経験を見つめているだけでは、次のステージへの答えは出てこない時代です。歴史や経験から学んだことを私たち自身がどう消化していくか、そして、そこに新しい知恵や行動をどう付け加えるかということが非常に重要な時代になってきました。

 二つ目は、あらゆる仕組み、システムを組み替えねばならない時代だということです。もちろん、今ある仕組み、システムはそれらがつくられたときの経緯があります。つまり、仕組みやシステムは、それらを支える前提条件、取り巻く環境に適合するよう、つくられるのです。しかし、前提条件が変われば、当然、その仕組みやシステムを組み替えねばなりません。今、私たちを取り巻く環境が大きく変化し、前提条件が大きく変わってきていますから、仕組みやシステムを組み替えていかなければならないということです。

 三つ目は、私たちが働き方や暮らし方を変化させねばならない時代に入っているということです。高度成長社会を経て、今、日本は成熟社会に入ってきています。今の時代は、低安定成長と少子高齢社会の中で、私たちはどんな働き方、どんな暮らし方をするのかを、一人ひとりが模索している大きな踊り場ではないかと思っています。

 しかし、変わらないこともあります。働くことを通じて世の中に参画すること、働くことを通じて自らを鍛え、人格を形成していくことは変わりません。こうした働くことの意味は変わらないけれども、働き方は変わっていく、変わっていかねばならない時代に入っているのだと思います。

 人や組織の新しい可能性を探し出す絶好の機会だと受け止め、私たち一人ひとりが新しい時代に適合した連帯とか絆をつくるそんな時代ではないかと、今の時代を私は捉えております。その基本は、経済性、効率性という競争概念だけでなく、それと、社会性、共生、あるいは協同という概念とのバランスをうまく取っていくことであると思います。優しさとかいたわり、あるいは連帯とか社会性というのは、もともと労働組合運動がその実現を目指していたものです。しかし、本当の意味でそれをまだ実現しえていません。そうした社会を私たちは、労働組合、労働運動を通じてつくっていきたいと思っております。

III.グローバル化の進展と日本

マクロ経済情勢と海外投資の状況と雇用情勢

 図1はGDPに対する貿易の比率、及び、海外直接投資(FDI)の比率の推移を表しています。図から分かるように、海外直接投資は90年代前後から大きく伸びています。そして、海外直接投資が、中国など少数の国に集中していることも特徴の一つです。

 また、日本をみても、製造業の海外生産比率は、全法人ベースで16.1%、海外進出している企業だけで見ると30.8%です。この10年間で2倍になっています。

 次に、雇用状況を見ましょう。日本の製造業の就業者数は90年代初めまでは1500万人いました。しかし、今は1000万人ぐらいになっています。一方、日本企業の海外従業員数は2003年で300万人弱です。つまり、日本の製造業が雇用している従業員のうちほぼ25%は海外の従業員です。これを、電機、自動車、鉄、船、工作機械など金属産業に限ってみると、日本国内の従業員数はこの10年間で700~800万人から500万人に減少する一方、日本の金属産業が雇用する従業員のうち37%は海外の従業員です。この比率もこの10年で2倍強になっています。

図1:拡大する世界貿易
図1:拡大する世界貿易

海外生産との棲み分け

 日本の製造業は、高機能、高品質、高付加価値製品に活路を見出す以外になくなっています。単純組立作業はほとんどが海外に拠点を移しています。今の日本と東アジア、東南アジア諸国の関係は、かつてのアメリカと日本の関係です。日本がアメリカから製造業をどんどん奪ってきました。それで、アメリカはどうしたかというと、サービス業やIT産業に活路を見出しました。しかし、労働条件を見ると低賃金層が大幅に増え、格差が拡大していきました。一方、ヨーロッパはどうかというと、格差は拡大しませんが、失業が増えました。でも失業者にはセーフティネットを張りましょうというのがヨーロッパです。日本は、どちらかというとアメリカ型になっており、グローバルスタンダードと称してアメリカ型の新自由主義的な政策をどんどん実施しています。私たち労働組合は、「少しまずいんじゃないの」「もう少し落ち着いた社会をつくるべきじゃないの」と主張しているのですが、現実はアメリカ型になっています。

 海外生産との棲み分けということから言えば、標準化された部品を簡単に組み合わせていくモジュラー型の製品は中国や東南アジア、一方、製品全体のバランスをとりながら個々の専用部品を擦り合わせていくインテグラル型の製品を日本は生産していかなければなりません。また、日本の消費者は品質に厳しい目をもっており、そして、消費が高度化しています。したがって、日本人に満足してもらえる製品をつくれば、世界中どこに持っていっても大丈夫だと言われています。また、電機産業などではセル生産方式といって、お客さんの細かなニーズに対応して多品種少量生産ができるよう、ベルトコンベアーを取っ払って、部品の組み立てから最終完成に至るまで一人の従業員が全部やるようなしくみが広まっています。こうしたことも、日本の製造業の強さです。

国内生産の課題

 国内にも課題をかかえています。とくにものづくりの現場で、技術や技能の継承がますます困難になってきています。その一つが2007年問題です。これから数年間、団塊の世代と言われる、日本経済の高度成長を引っ張ってきたベテランの人々が退職していく時代に入っていきます。若年人口が減少していく中で、ベテランの人たちの技能や技術をどう継承していくのかという問題があります。この問題に、労働組合としても取り組んでいかねばなりませんが、パートや派遣など非典型雇用労働者が増えていく職場の中で、技術や技能がうまく継承していけるかどうか、問題です。

 もう一つは、人々の就業意識の変化です。額に汗してものをつくることだけが働くことではありませんが、ホリエモンや村上ファンドに象徴されるような働き方、お金を転がしてお金を増やしていく、そうした働き方をする人ばかりがどんどん増えてきていいものでしょうか。皆さんには、働くことを通じて社会とかかわっていく、自分を磨き鍛えるという気持を持ってほしい、そうした気持の若者たちがいて、先輩方が蓄積してきた技能や技術を継承していくことができるのでしょう。もう一つ私が心配でならないことは、最近のどのアンケート調査をみてもわかりますが、人々の仕事に対する熱意が落ちてきていることです。私の出身の電機連合は、自分のキャリアは自分で考えようという取組みをしているところですが、仕事に対する熱意の低下は労働組合としても心しておかねばならないことです。

IV.中国の台頭

グローバリゼーションにおける中国の重要性

 13億人の民を抱える中国の一挙手一投足は世界全体に影響を与えます。最近10年間の中国の名目成長率は年10%を越えており、驚異的な経済成長を続けています。そして、2004年には、中国の輸出額、輸入額はともに世界第3位になりました。また、2001年、中国はWTOに加盟しました。つまり、中国も世界貿易のルールに従って行動する、世界経済における正式なプレーヤーとして世界から認知されたことを意味します。まさに、21世紀のグローバル市場において巨大な存在感を示す、それが中国です。日中貿易は、2000年から2005年の6年間に日本の輸出ベースで2.6倍、輸入ベースで2倍に拡大しています。また、日本の製造業の海外直接投資の半分は中国であり、中国の日系企業で働く従業員は2003年で90万人だと言われています。この比率は10年前の7倍です。また、生産技術、製品の品質も急速に向上してきています。さらに、13億の人口を持つ巨大なマーケットしての魅力もどんどん上がってきています。したがって、企業が中国に対してどのような戦略を取るかは、企業の命運を左右するほどの重要な課題となっています。日本のみならず、世界の国々にとって、経済大国、中国とどのように付き合っていくかが、政治面でも経済面でも重要になってきています。

中国が抱える問題

 急速な経済成長を続けている中国もいくつかの問題を抱えています。一つは、共産主義という政治体制のままで市場経済を維持・発展させていくことができるのかどうかということです。2つ目は、中国国内における都市部と農村部の格差です。これがどんどん拡大しており、農村部から都市部へと大量に人口が流入しています。3つ目は、13億の民を抱える中国がこのまま成長を続けると、深刻なエネルギー問題、環境問題に直面することです。4つ目は、現在の固定為替相場が突然、大きな調整をせざるを得なくなるのではという懸念です。ちょうど、1997年に生じた東南アジア諸国の通貨危機と同じことが中国にも生じる危険性があります。

国際労働組織と中国全国総工会

 最大の労働組合の国際組織が国際自由労連(ICFTU)です。ICFTUは1949年に「パンと自由と平和」をスローガンに結成され、2005年現在、154カ国の236組織が加盟しており、組合員総数は約1億5500万人です。主要組合は、アメリカのAFL-CIO880万人、ドイツのDGB720万人、日本の連合680万人(連合の髙木会長はICFTU副会長)、イギリスのTUC640万人などです。さらに、キリスト教系の労働組合の国際組織(WCL)があり、今、組合員数は1700万人です(今年、ICFTUとWCLは合併して新しい組織をつくる予定になっている)。また、産業別労働組合の国際組織(GUF)もあります。それともう一つ、OECD-TUACという国際組織があります。これは、OECDに加盟している先進諸国の労働組合の国際組織です。OECD-TUACには30カ国56組織が加盟をし、組合員総数は約6600万人になります。もちろん連合も加盟しております。
 ICFTU、GUF、OECD-TUACの3つをグローバルユニオンと呼んでいます。
  ところで、中華全国総工会は組合員数約1億3000万人、ICFTUと肩を並べるほどの組合員数です。しかし、中華全国総工会は共産党の支配下にあり、共産党幹部がその主席になることが恒例になっています。それゆえ、ICFTUは中華全国総工会を労働組合とは見なしていません。ただ、連合は、中国の人権問題や労働基準の適用状況には大きな問題があるけれども、何とか対話を通じて中国の労働者の雇用の安定、労働条件の向上なども含め、これらの諸問題を解決できればという立場から、定期的に中華全国総工会と意見交換を行なっております。

V.グローバル化の負の側面

 グローバル化は労働者と労働組合に多くの課題を突きつけています。たとえば、国際競争力の確保という錦の御旗の下、社会的側面を置き去りにして行き過ぎた規制緩和が各国で起こっています。働く者が負担を強いられています。発展途上国の政府も労働法規の適用を緩和したり、労働組合の活動を制限したりして、輸出加工区を設けて直接投資を呼び込もうとしており、そして、これらが各国間のrace to the bottom(底辺の競争)に拍車をかけているのではないかと思います。

貧困と格差の拡大

 貧困と格差の拡大を世界的にみると、国連開発計画が発表した人間開発報告によれば、アフリカ南部のサハラの乳幼児死亡率は、1990年には富裕国の19倍でしたが、2001年には26倍になりました。ミレニアムサミットで合意された「ミレニアム開発目標」では2015年までに貧困と飢餓に瀕する人口を半減させようという目標をたてました。しかし、1996年に8億4000万人だった飢餓人口は2004年には8億5200万人。減少するどころか、むしろ増えているのが実態です。また、ILOによれば、世界全体で14億人の労働者が1日2ドル以下の収入で働いています。これは世界全体の労働者の半分になります。そして、1億9200万人が失業し、2億1800万人が児童労働に従事させられているのです。

 私たち連合もICFTUも、グローバル化そのものが悪いとは考えておりません。グローバル化はこれからも進みますし、貧しい国に企業が進出してくることによってそうした国も豊かになっていくという側面もあります。しかし、グローバル化にともなう数々な課題に対して、労働運動として手を打っていかなければならないことを2004年のICFTU世界大会でも確認しましまた。

VI.公正なグローバル化の実現のために

中核的労働基準の遵守

 公平なグローバル化を実現するためには、中核的労働基準をきっちり遵守して行くことが最も重要であると考えております。ILOは1998年に「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」を採択しました。そこでは、結社の自由と団体交渉権、強制労働の禁止、児童労働の実効的な廃止、雇用及び職業における差別の排除が宣言されており、この中核的労働基準の遵守に向けて、世界各国が1998年のILO宣言を批准することが重要です。また、1944年の第26回ILO総会は、労働は商品ではない、表現と結社の自由は不断の進歩に欠かせない、世界の片隅にでも貧困があれば、それは全体の繁栄を脅かす、労働者及び使用者の代表が政府代表と同等の地位において、これらのことを遂行することを宣言しています。このフィラデルフィア宣言の実現を、労働運動として徹底して追求していかなければならないと思います。

 また、OECD多国籍企業ガイドラインというのがあります。そこには、労働問題も含めて、海外に進出する多国籍企業が遵守すべきガイドラインが示されています。日本だけでなく、各国政府がそのガイドライン遵守に取り組むよう、連合もICFTUと協力して働きかけていかねばなりません。

 そして、今、ナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)というしくみがあります。これは、日本ですと、厚生労働省、経済産業省、外務省によって構成され、OECDの多国籍企業ガイドライン上何か問題が生じたとき、その問題解決を図ります。そして、連合、日本経団連、在外公館と連携しつつ、問題解決をはかっていくしくみになっております。このNCPなども利用しながら、尊厳ある働き方をそれぞれの国で実現することが重要だと思います。

  また、多国籍企業と産業別労働組合の国際組織が、中核的労働条件を実現するための国際枠組み協定を結ぶよう取組みを強化していかねばなりません。ヨーロッパには、積極的にこうした枠組み協定を結んでいる企業があります。たとえば、ダイムラー・クライスラー社は、中核的労働基準を守っていないサプラーヤーとは取引をしないということにしています。そうすることで企業イメージが向上し、会社としても非常にメリットがあります。こうした取組みをぜひ日本でも進めていかねばと思います。

連合としてのこれからの労働運動

 私たちも、グローバルな視点で児童労働の問題、差別の問題、格差の問題など、少しウィングを広げながら、地球市民として労働運動をやっていかなければならないと思います。その意味でも、ICFTUの運動に積極的に参画していくことが重要です。それとともに、連合はナショナルセンターとして、日本の企業別労働組合は企業内に閉じこもってしまいがちなので、企業内労働組合の組合員だけでなく、働く者全体の幸せを考えるという立場から、企業別労働組合と協力しながら、アウトソーシングや非典型雇用の問題等にも、取り組んでいきたいと考えております。

 また、アジアなど発展途上国に進出している日本の多国籍企業でも現地で労使紛争が起こっております。それらの課題解決のためには、私たちと現地の労働組合との労働運動としての日常的な対話が必要ではないかと考えております。

 

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