同志社大学「連合寄付講座」

2006年度“働くということ-現代の労働組合”講義要録



第3講 (4/28)

「第3次産業で働く人びと」

ゲストスピーカー 山崎通人  大丸グループ労働組合連合会会長

はじめに


 ただ今ご紹介いただきました、大丸グループ労連で会長をしております山崎と申します。本日は、よろしくお願いします。本題に入ります前に、先ずは、私が働いております大丸と大丸グループ労働組合連合会の概要についてお話をしておきます。

I 大丸グループと大丸グループ労働組合連合会について

  大丸グループは、札幌から博多まで全国に16店舗ある百貨店、スーパーマーケットの大丸ピーコック、通販会社の大丸ホームショッピングなどの小売事業を中核とし、小売事業以外では、人材派遣事業やクレジット事業、建装事業なども展開するなど、年商約8200億円のグループ企業です。また、大丸グループ労働組合連合会とは、大丸グループ企業の百貨店、スーパー、建装を中心とした9労組で構成されており、「人と企業の成長」をテーマに活動しています。組合員数については、8760名の労働組合です。
  今回の講義テーマ「第3次産業で働く人びと」については、大丸という百貨店の事例を通して、「仕事」と「働き方」の2つの視点から百貨店業界の特徴的な働き方や抱える課題、そして、それらの課題に対して労働組合がどのような取り組みを進めているかについてお話させていただきます。また、もう一つのテーマである「パートタイマーの組織化」については、後段でお話をさせていただきたいと思います。

II 大丸の組織形態と雇用形態について

  1. 組織形態
      百貨店業の基本は「仕入れて売る」ことであり、企業活動としてはいたってシンプルです。ただし、基本となる仕入・販売系の仕事以外にも、人事・総務・経理の管理部門、サービス力強化を推進する部門、販売促進を担当する宣伝・販売企画部門、店舗管理や改装、店づくりを担当する営業企画部門など、1つの店舗だけでもこれだけ多くの役割があり、それぞれが店頭販売活動を支えています。組織体制はどの百貨店もほぼ一緒であるため、この組織を「どのような人員体制やオペレーションで効率よく運営をするのか」、そして、「最小のコストで高い生産性をいかに実現していくのか」といった点が、各社の腕の見せ所、知恵の出し所になるということです。

  2. 雇用形態
     大きくは社員と有期契約社員といった2つの雇用形態が中心になっており、当社の場合、有期契約社員は1年契約になっています。
    有期契約社員については役割や業務によっていくつかの雇用形態に分かれています。例えば、「キャリア契約社員」は有期契約でありながらも店頭管理の役割を担う雇用形態です。また、店頭販売専任の「セールスパートナー」、外販専任の「アウトセールスパートナー」については、販売専任の雇用形態として基本月例給プラス販売実績に応じたインセンティブ給制になります。その他、販売補助や定型業務を担う時間給制の「パートナー」という雇用形態もあり、それぞれの担当業務や役割に即した給与体系設定をしており、これらの雇用形態をミックスして運営をおこなっています。

III 百貨店の仕事と求められる成果の視点

  1. 大丸の人事制度と労働組合の取り組み
      大丸では、18年度3月から職務型の人事制度を導入しております。基本的には成果主義をベースに年功的な要素を廃止し、年齢に関係なく実績・実力があれば、それに応じた配置と処遇が実現できる制度という位置付けでスタートをさせています。数値目標と課題成果に分けて、半期ごとに達成すべき目標を設定し、その達成度に応じて評価・処遇・配置・昇級・降級が決定される仕組みになっています。また、ポストによって価値=処遇が決まっていますので、配置そのものが処遇のアップダウンを決定することになります。   
    職務型人事制度というものは、年齢や経験年数に関係なく誰でも実力・実績があれば高い処遇を受けるチャンスがあるという意味で、企業の活力や個々人の働くモチベーションアップに繋がる制度です。しかし一方で、半期という短い期間での成果が求められ、成果によっては賃金が下るという現実があることから、短期成果を発揮した人と中長期的に積上げたキャリア、つまり、今期頑張った人と今まで頑張ってきた人の処遇バランスを取ることが非常に困難な制度であることも事実です。
    この制度を構築する過程で労働組合としては、「人と企業の活力に繋がる」人事制度の構築にむけて、「仕事と処遇のミスマッチによる不公平感を是正する」「より高い成果を上げた人が高い処遇を受ける制度」「透明性があり、個々人に納得性・公平性があるフェアな制度」と、それに必要な「公正公平な配置・評価・処遇の実現」「結果ではなく、プロセスを正しく評価される制度」づくりのためのツールやシステムづくりをはじめ、根底となる「評価のあり方」「処遇のあり方」について、労使論議に相当な時間を費やしました。

  2. キャリア・配置などへの取り組み
      2つ目の視点としては、「従業員自らが新しい配置やキャリアへアプローチできる」人事制度を目指して、FA制度や公募制度を導入しました。個々人が自分自身でキャリアを見つけていく機会を作りたかったというのが労働組合の考え方です。
    また、ライフスタイルと仕事のバランスをとりたいという方への対応についても重要視しており、「自分の生活をある程度尊重しながら仕事をしたい」といった個々人にあった就業環境が選択できる仕組みとして再雇用制度・勤務選択制度を作ってきました。さらに、「社内の中で自分のキャリアが見つからない」「社外に新しい活路を見出して活躍の場を見つけたい」といったケースに対応するため転職支援制度を導入しています。ポスト数は限られており、全員が希望ポストに配置されるわけではないなかでは、社外も含めた「自己実現」のための仕組みをつくることも労働組合の責任だと考えて制度設計をおこないました。具体的な仕組みを制度に織り込むことで、個々人が失敗を恐れずに前向きに仕事・キャリア形成にチャレンジできる制度、そして、個々人の働くことへの多様なニーズや選択に応えられる制度の構築に向けて労働組合として取り組んできました。

  3. 賃金のセーフティネット
      職務型で成果主義の制度ということですので定期昇給がないため、家庭を持ち、子供が成長し、といった年齢を重ねるにしたがって変化する生計費と賃金のバランスを欠く可能性があります。これは、組合員の生活を守る立場の労働組合としては納得できるものではありません。そこで、大丸では「成果主義という原則は理解しつつも、従業員・組合員の生活を保障するのは雇用した会社の責任である」との考えから、賃金と生計費が逆転をした場合はその差額を自動的に補填するという仕組みを設計し、最低保障賃金水準について労使で協定しています。(4)能力開発支援への取り組み
    自らが望むキャリア形成や職務選択の機会は作りましたが、これをチャンスに変えていくためには従業員・組合員自身の努力が不可欠です。ただ、「がんばれ、がんばれ」といった掛け声だけでは、この制度を設計してきた労働組合と会社としては非常に無責任です。   
    従業員・組合員個々人がチャレンジ精神やモチベーションを高め、自らの自己実現やキャリア形成に向けて意欲を持ちチャレンジしていくための気付きの機会、成長の機会への具体的なサポートとして、労働組合は「能力開発事業基金」を設立し、個々人の資格取得費用一部を補填、各種セミナーへの資金援助、メニュー開発などの支援を実施してきました。また、より充実した支援制度にするため、「人の成長」の重要性を労使で共通の価値観として確認し、ヒト・モノ・カネを効率的に投下して、キャリアアップに向けてより高いレベルのサポートが実現できるよう労使で「キャリア自律宣言」をおこない、各種支援・教育活動を拡充しています。さらに、取得した資格や参加したセミナー内容などをキャリア情報として蓄積し、配置への反映や本人が新たなキャリアに挑戦するための判断材料として活用する取り組みも進めています。

  4. コンプライアンスについて
      コンプライアンスは、企業で働く上で非常に重要な要素であり、企業だけでなく、個々人に問われる問題です。企業、個人を問わず、社会正義に反して目先の利益を追求するようなことがあってはならないことです。一方で、企業倫理を問われる問題が後を絶たないことも事実です。これは企業のルールや運用というものが、あたかも世間一般の常識であるかのように企業内部でまかり通ってしまい、社会のルールをルールとして認識できない企業風土や倫理観の欠如がもたらしたものです。
    経営は全従業員を1つに束ねて企業行動としての責任を果たしていく役割が求められますが、労働組合は経営・現場に対して十分なチェック機能を果たしていく責任があります。 
    しかし、この問題解決に最も重要なことは、現場で働く一人一人がその重要性を理解することであり、普段の仕事や日常の働き方の中で、「守るべきルールは守る」「そのために自身が果たすべき役割を果たす」「周りにも間違ったことはさせない」ということを当たり前の価値観として認識することです。そういう意味で、皆さんが働く上での責任というものも非常に重くなってきていると言えます。

IV 百貨店の働き方からの視点

  1. 営業形態と勤務形態
      現在、大丸の各店の営業日は元旦を除く364日、営業時間は各店10時から7時半ないし9時までの営業形態をとっていますが、顧客ニーズへの対応や他店との競争要件から、こういった営業形態を選択せざるをえないのが小売業・百貨店業の宿命です。だからこそ、いかに労働時間を正しく管理し、悪条件の中で、個々人の仕事と生活のバランス、仕事と自分時間のバランスをどう図っていくかといったことが、どの業種よりも重要且つ高度化が求められる課題であると認識しています。
    大丸の年間所定内労働時間は1848時間であり、時間外も含めた年間の実質労働時間は1869時間です。一日の労働時間は原則7時間20分、休日は週休二日制と連休制度をあわせて年間112日が休日です。勤務形態は2交代制や3交代制という交代制勤務を基本にしていますが、企画部門など、自由裁量の業務が多い部門についてはフレックスタイム制を活用しています。また、外販担当については、訪問販売活動が中心となるため、自由度の高い事業場外みなし労働時間制をとっています。つまり、個々人の働き方や生産性に合わせてそれぞれの勤務形態を決定しているということになります。

  2. 労働時間管理への取り組み
      先ほど説明しました通り、営業時間と所定内労働時間、営業日数と勤務日数に大きな差があります。店舗は常に営業しているため、営業時間に引っ張られて時間外労働増加やサービス残業発生の要因になっています。
    このような状況において、労働組合としては、「営業時間と労働時間の分離」「時間外労働の適正処理」といった2つのテーマにウェイトを置き、時間管理の適正化への取り組みを推進しています。取り組みの柱として、「所定内労働時間で業務を完遂させる仕組みの構築」「業務運営・人員体制・働き方などの検証と見直し」「時間外処理を始めとした時間管理ルールの再徹底」「時間管理に対する意識風土の改善」の4つの基本的考え方にもとづいて課題解決を図っています。課題解決への具体的アプローチとしては、以下の3点をあげることができます。
    1点目は時間管理システム整備です。ICカードの活用により、従業員の勤務時間が自動的にカウントされて、それがダイレクトに給与に結びつく仕組みを導入しました。また、人事考課の評価項目として「部下の時間管理」をあげるといった取り組みもおこなっています。2点目は業務改善です。これは、会議の削減、会議・業務計画の早期スケジュール化、資料削減などの具体的な改善に着手をしています。3点目は意識風土改革です。管理者の意識として、あるいは、本人の意識として、「長時間労働が美徳である」といった風土がまだまだ根強く残っており、そういった価値観・マネジメントはマイナス評価であるといった意識・風土へ改革していかなければなりません。所定内労働時間の中で業務をしっかりと終わらせ、最大の生産性を上げていくことが、これからのマネジメントの本質として求められるということを経営が理解し、しっかり現場に落とし込んでもらうことが非常に重要になってくると思います。
    意識風土を変えていくことは、システム改善や業務改善以上に重要ですが、労働組合が毎年実施している働き方に関するアンケートでは、休日取得はほぼ100%となり、交代制実施率も着実に向上してることからも、着実に改善していると認識しています。
    小売業は「休みたくても休めない」といったイメージが強い業種であるため、時間管理の適正化については、労働組合として取り組まなければならない最重要課題です。今後も、両輪である時間管理と生産性をリンクさせながら、よりよい働き方を構築していきたいと考えています。

  3. その他の休暇制度
      休暇制度については、その他にも、10日連休制度からボランティア休職、自己研修休職まであり、就職してからも自分がチャレンジしたいことがあれば、これらの制度を活用することができます。また、出産・育児に関する休暇制度と短縮勤務制度は、非常に女性が多い業種ですから法定以上の仕組みをつくっています。

  4. 育児のための短縮勤務における課題
      現在の制度としては子供が小学校入学まで取得できますが、ニーズとしては「小学校の低学年まで拡大して欲しい」という意見が非常に多くなっています。ニーズに対応して拡大すればいいのでしょうが、これには大きな問題があります。短縮勤務であるがために、他の部署に異動することが多々発生しています。一日の労働時間が短くなったとしても、「現在の職務を継続したい」「自分が求めているキャリアでの経験を積みたい」といったニーズは高いのですが、仕事と家庭の板ばさみになり、ご本人がまいってしまうケースもあります。売場で短縮勤務を継続しようとすると、上司をはじめとしたメンバーの理解も重要になってきます。企業としても組合としても、女性には出産をしても働いてもらいたいという思いがありますが、こういった実態をふまえた上で、バランスよく制度運営していくことは非常に難しい課題となっています。

  5. 安全衛生・健康管理の取り組み
      夜9時まで営業している店舗で働く人にとっては、通勤時間を含めると相当な負担になる上に、出退勤の時間が固定されていないので、生活がとても不規則になってしまいます。こういった環境においては、個々人の健康管理が重要になってきます。
    また、最近の傾向ですが、成果主義の元で職務・仕事に関するプレッシャーの影響もあるのか、メンタルヘルスについての課題も増えつつあり、「心の健康管理」に対する取り組みも同時に進めています。メンタルヘルスや健康の問題も含めて最も重要なことは、それぞれの取り組みをどうやって現場のマネジメントに落とし込んでいくかということです。現場ではメンバーがそれぞれどんな仕事をしているかも把握できますし、本人の顔色も会社の中では一番見えます。ですから、現場のマネジャーが「声をかける」「全体の仕事のバランスがおかしければ修正する」というように、対応方法を現場のマネジメントレベルにまで落とし込むということが、メンタルへルスの発生を抑制したり、また、復帰された方のケアをするという意味でも非常に重要になってきます。現行では、新任の管理職・マネジャーを対象におこなっているマネジメント教育のカリキュラムとして健康管理やメンタルヘルスを織り込み、知識を習得させています。労働組合としては、従業員・組合員が心身ともに健康でいきいきと安心して働ける職場環境の整備というのは不可欠な取り組みであるので、今後も積極的に推進していきたいと考えています。

V パートタイマーの組織化

  1. 組織化の目的と必要性
    最近、パートタイマーの組織化が労働組合の1つのテーマになっていますが、これは当然、労働組合の組織率低下の問題もあります。一方、百貨店で働く立場からすれば、「定型業務から販売・店頭管理業務などへの職務領域の拡大」や「それを担うだけの人材としての質の高さ」から考えると、パートタイマーの方々の存在を抜きにして企業活動が語れない状況になっています。そのような状況にも関わらず、「働き方に見合う処遇条件が確立されているか」「働く環境にパートタイマーの声が反映されているか」といったことを考えると、まだまだ不十分な面も多く、現場に近い単組からすればその改善は労働組合にとって果たさなければならない役割であり、組織化の必要性は現場実感として持っています。
    組織化の目的は、パートタイマーの方々の働くモチベーションを向上させ、企業の生産性向上に結びつけていくということになると思います。そのためには、「職場の環境整備」「処遇体系・処遇水準の見直し」「福利厚生の標準化」など、公正公平な処遇の実現にむけた取り組みを進める必要があり、それを推進する労働組合としてパートタイマーの組織化が必要であるということです。
    現在、大丸の販売・店頭業務において、有期契約社員の比率は66%に昇ります。さらに、後方部門では70%以上が有期契約社員になります。つまり、大丸では、百貨店の生命線である店頭での販売サービスレベルを維持・向上させていくことは、有期契約社員の方々の肩にかかっていると言っても過言ではなく、有期契約社員の活性化と戦力化は、企業の将来を大きく左右する戦略課題となっています。

  2. 組織化のハードル パートタイマーの方々の理解
    しかしながら、一言で組織化といってもハードルは非常に高く、他労組から話をお伺いしても、各労組とも苦労されています。労働組合はもちろんのこと、経営にとっても必要性が高いと考えていても、肝心のパートタイマーの方々がその必要性やメリットを感じないというケースが多いようです。なぜ組織化が必要なのかという話よりも、あの手この手で一生懸命アプローチをおこない、やっと加入してもらうというのが実態だそうです。ただ、そういった地道な取り組みの積み重ねにより、流通業界では約70%程度が組織化され、さらに増えているということは、組合員になった上でのメリットは感じていただいていると考えています。

  3. 組織化のハードル 経営の理解
      また、組織化にむけては、経営の理解も必要です。「組合だから勝手に組織化したらいいのではないか?」と思われる方も多いと思いますが、労働条件や処遇条件の問題など、労使のテーブルで協議し、決定していくことになりますので、会社と組合のルールである労働協約を締結しなくてはなりません。そこで合意が得られないと、どんな案件も話が先に進まないという現実問題がありますので、そういう意味で経営の理解も必要になるということです。

  4. 組織化以降の課題
      私たちが組合員を対象に実施したアンケートによると、有期契約社員からは、「均等・均衡処遇の実現」「やりがい・働きがいの醸成」あるいは、「能力開発へのサポート」への取り組みに対する組合への期待が高いという結果がでております。こういったニーズにしっかり応えなければならないということが、組織化してからの大きな課題となっています。そのなかで、現在進めている取り組みが5点あります。
    1点目は「同一労働同一賃金、均等・均衡処遇の確立」にむけた取り組みです。私たちがアプローチしたいのは、社員と有期契約社員といった雇用形態という枠組みを一旦捨て、純粋に「仕事と賃金の関係」を整理し、その上で、働き方・職務と賃金・処遇のアンバランスや不公平感を是正するといった取り組みを進めていきたいと考えています。経営にも人件費=コストといった発想を一旦キャンセルしてもらい、ニュートラルな立場から労使で論議していきたいと考えています。
    また、現状は、有期契約社員=ローコストといった発想ですが、仕事と賃金の関係を整理していくと、ミドルコストやハイコストになる可能性もあるわけです。そういった場合、「従業員の会社に対するロイヤリティ」いう意味で、「有期契約」で本当にいいのかといった、雇用形態そのもののあり方ということも考えていく必要があります。均等・均衡処遇の課題については、そういった視点で考えていきたいと考えています。
    2点目は「社員への登用ルート」ということです。大丸には、この仕組みがあるのですが、非常に狭い間口であることから、なかなか機能していない状態です。この課題については、労働組合の責任として整理していきたいと思っています。
    3点目は「有期契約社員の職務領域を拡大する」ということです。社員化を推進するだけではなく、有期契約社員のまま、一定の職務やポストを担っていただいて、職務に見合った賃金を支払うということです。労働組合としては、有期契約といった雇用形態の中でジョブホップ出来る仕組みを作っていくのも1つの方法だろうと考えています。
    4点目は「賃金水準の向上」です。採用・人材確保のための初任月例給や初任時間給の水準アップ、継続勤務・リテンション、つまり頑張ろうという気持ちにさせるための昇給額のアップといった、水準向上へ取り組んでいく必要があります。これらについては、今回の賃金交渉で一定の解決をはかることができました。「有期契約社員=企業にとって中核人材である」ということを、経営と労働組合で共通認識を確認してから交渉に入りました。経営側も、企業運営をどうしていくのか、戦力である有期契約社員のモチベーションをどう上げるのか、といった金銭とは違うところで反応がありました。
    5点目は「能力開発支援」ということです。社内でのジョブホップを実現したいというニーズは社員同様高いこともあり、現在は、概ね社員と遜色ない形でほとんどのカリキュラムに参加でき、受講できるようにしています。

VI 最後に

 本日は、「第3次産業で働く人びと」というテーマについて、大丸という百貨店を題材に仕事と働き方の視点、抱える課題、そして、その中で労働組合の果たすべき役割と取り組むべき課題についてお話をさせていただきました。
最後になりますが、小売業とは昔から言われている通り人的集約産業です。店頭販売まで機械化、システム化するのは困難であり、人がもっとも重要な経営資源です。経営の戦略が正しくても、改革の考え方が正しくても、それを実践する人が育っていないと絵に描いた餅になりますし、実践するためには、その力を最大限発揮できる環境というものを作っていく必要が労働組合にはあります。大丸は「人と企業の成長」あるいは、「人が成長することによって、企業も成長していく」というコンセプトを労使共通のテーマとして企業作りを進めています。この労使の共通の認識が表わす通り、まさに百貨店は人の力に尽きるわけです。その意味では皆さんの働く場として百貨店という業種は面白いかもしれないということを、最後に少しだけ付け加えさせていただきます。
  ご清聴いただきました皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。
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