- トヨタ社員の労働観
まず、トヨタの社員の意識実態調査において、働きがいを感じる項目は何かということを聞きますと、仕事を通じてのコミュニケーション、そして良い人間関係の中でチームとして自分の能力を発揮していくという項目が一番に上がっており、これが特徴です。これは、僕は日本のある意味でよき文化でもあると思っています。一応こういう勤労観があることをご紹介しておきます。
- トヨタの雇用形態
次に、雇用形態についてですが、トヨタでは雇用形態はこれだけあります。大体正社員が67,000人で、非正規は20,000人います。正社員は技術系、事務系、技能系に区分され、技術・事務は大体大学卒業の皆さんが中心です。技能系は現業系ですから、高卒の皆さんが中心です。それぞれ業務内容は、技術系は先端技術とか生産技術とか、事務系は調達や人事、技能系は現業系と間接系の両方があります。これが正社員ですが、それぞれ課題があります。
技術系の場合は、短期開発進行、要はスピードです。例えば、私どもの作っているbBという車は、設計から本当に製品が出てくるまで1年弱かかりました。5年前は1年半でした。1年弱で車をつくってしまうのです。もうひとつは先端技術開発です。これは、将来の雌雄を決するもので、凄いプレッシャーがかかってきます。ハイブリッドがまさにそうです。そういうことから、正直言って大変な仕事量です。仕事は増えています。
事務系は、中核人材を育成することが課題です。
技能職での課題は期間従業員です。これは直接短期雇用の人たちで10,000人います。この中で、生産性をあげてよい車をつくって、チームワークをよくするということは大変なことです。そして海外支援は、物凄い勢いで増えています。しかし、日本人が行かないと動かないから、優秀な人間が、中核人材が多数、海外へ行っています。この中で、国内の生産もきちんとやらなければなりません。この両方を成り立たせるということは大変です。間接技能系でも同じ現象が起こっています。間接技能系をひとつ紹介しておきましょう。業務が高度化していますから、いままで大学卒がやっていた生産準備なども、技能系の高卒の方が行なっています。ですから、仕事がどんどん上にあがってきています。
非正規では、60歳以降の再雇用に関して、我々も取り組んでおります。希望者は全員雇用するということで、今年の春闘で取り組みました。結果として、希望者の9割が採用になります。約600人います。これは65歳までの5年間ですから、600人×5で、将来、60歳以上の人を3000人雇用するわけです。働く場を探すことが大きな課題となっています。
次に約20,000人の期間従業員、パートタイマー、派遣社員がいます。それでよい車をつくらなければならないのです。ですから、こういう人たちをどれだけ一定の技能レベルにまで短期間で引き上げて、現場に入ってもらうかが物凄く重要になってきています。そしてチームワーク、これも極めて重要です。ただ労働条件の差もあり、難しい問題です。
そういう状況の中で労働組合の対応についてですが、どのような項目について取り組んでいるのかというと、年間の業務計画、月間の業務計画など、会社の計画全部を出してもらいます。人員計画も全部出してもらいます。採用計画も全部出してもらいます。そして、労働時間も全部出してもらいます。安全衛生は当たり前です。そして、これについて現場の状況を見て無理がないかどうかを判断し、会社と交渉します。今一番こだわっていることは、残業360時間以内で仕事が終わるように会社としての何らかの対策を進めることを要求しています。
期間従業員の方は組合員ではありませんが、放置しておくというわけにはいきません。何をやっているかというと、受け入れとか教育が本当によいのかとか、あるいは職場の環境をもっと改善することで素人でもやれるような環境をつくっていこうとか、会社といろいろな委員会で協議しています。期間従業員の方には、組合の組織を通じて何か困ったことがないかを聞いたり、苦情の相談ダイヤルを設けて苦情を受け付けて、それをベースに会社と話をしています。要は、何が問題かと言いますと、多様な雇用形態の方々が一緒に働く中で、しかも仕事が拡大、業務の範囲も広がっている中で、どうやって健康で健全で、モチベーションの向上・一体化をどうやって保っていくか、労働組合の役割としてはこのように認識しております。
- 海外展開にともなう課題と対応
次は、海外展開についてです。これは皆様もご興味があるかと思います。海外の生産台数、海外拠点数、それから出向者数の推移についてみますと、05年は01年と比較して、海外生産台数は倍です。出向者数も1500人を超えています。その方々の働き方はどうなのかというと、指導・育成、品質確保を行なっています。さらにもうひとつ。新しい工場を建てる、あるいはモデルチェンジをやる時には、残念ながら現地の人だけではまわせません。必ず日本から行って立ち上げます。問題は長時間労働です。日本の中での労働条件は適用できないですから、正直、相当長い時間の残業をしています。課題は、少ない日本人でどうやって指導育成するか、あるいは、海外で通用する人材をどうやって育成するか、そして、時間をどうやって管理するか。これは今労働組合の大変大きな課題です。それとあとは衛生、治安面ですね。これは極めて重要な問題です。そこで働く人たちの安全をどう守るかっていうことも労働組合の課題です。
もう一点は国内の空洞化です。現地化が進めればトレードオフの関係で国内から「ものづくり」がなくなってしまいます。けれども、我々は国内の空洞化は発生させない、すなわち、雇用問題は絶対発生させません。6、7年前の海外進出が拡大する時に海外進出の考え方、要件について、会社と相当議論をして確認しています。その確認事項とは今の輸出台数を減らして海外へ持って行くことはしないということです。そうしないと国内空洞化が起こるからです。その時のレベルが300万台でしたので、300万台はなんとしても維持して雇用問題を起こさないと話し合っています。
したがって、そういうことを前提としますと、国内事業はグローバルトヨタのものづくりの「マザー工場」であるということです。他に、労働組合としてどういう取り組みをやっているかというと、現場は当然現場の実態を踏まえた上で、「こういう問題があるぞ」「こういう対策をやっぱりせなあかんのじゃないか」という話を常に行なっています。特にこの二つだけは紹介しておきます。国内での柔軟な生産弾力性の確保策で、Aのラインの生産が落ちた時に、生産の上がっているBのラインへAのラインの人を移動させるということを頻繁にやっています。それは我々も協力してやりました。雇用問題を発生させないための我々の積極的な対応なのです。少し省略して乱暴な言い方もしましたけれど、一応大体の概略はご理解頂けたと思います。
最後に口はばったいことを言います。企業を愛する心、ロイヤリティーというのはすごく大切だと思います。「企業のために」とか、「この企業で頑張ろう」とか、「だからこの企業をよくしよう」という気持ちがあるかないかは物凄く大きいです。それがなかったら、企業に力はつきません。「何でわざわざ、何で人の仕事まで好き好んでやらないかんの」ということになってしまいます。けれども、それをつくるために企業が何をすればよいかというと、企業が自分の生活を守ってくれる、常に自分のことを思ってくれて、少しでも生活をよくするように企業は頑張ってくれている、というような信頼関係があって初めてものになると思います。以上です。
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