著者:藁科満治
出版:自費出版
2020年10月
1.わが国における労働運動史-連合結成を中心に-
評者:高木郁朗 日本女子大学名誉教授
著者の藁科さんは、連合結成時の会長代行で、山岸章会長、山田精吾事務局長とトロイカ方式で、連合の成立過程を推進し、その基礎を築いたリーダーである。その藁科さんの活動を中心として、2020年に国立公文書館で聴き取り調査が行なわれた。本書はそのエッセンスである。
本書は、「1.日本の労働運動史の全容」で、労働組合期成会以来の歴史を概観しているが、白眉ともいうべき部分はそのなかにある「1.4.連合結成に向けた助走的活動」と「1.連合結成の事情と背景」である。そのなかでは、「荒野に鉄道を敷く」「3段跳び」など、ユニークな用語を使った、藁科さんならではのエピソードが紹介されている。本書は、労働戦線統一に貢献したすぐれたリーダーの回想とレーバーサミットでのエピソードからなる「3.原点を振り返る」で締めくくられている。
本書のなかで、とりわけ藁科さんらしいと思われるのは、労働戦線統一にあたっては、現代総研、労働問題研究会、労働社会問題研究センターなど、労働組合のリーダーと研究者やオピニオンリーダーが一緒になって活動したシンクタンク組織が重視されていることである。初期の連合の存在感の高さはこうした活動の成果もあった、というのが藁科さんの主張であろう。
本書は全部で37ページの薄いバンフレットであるが、取り扱われている内容や論点は、実に厚いものがある。一読をおすすめする。