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藤田孝典 |
講談社現代新書 遠藤和佳子(連合 広報局次長) 今、学生の二人に一人が奨学金を借りていて、大学を卒業しても四人に一人が非正規雇用にしか就けない。その上、いわゆるブラックバイトやブラック企業によって、劣悪な労働環境にさらされている。そんな若者は「社会の監獄」に閉じ込められていて、貧困状態にあるのは若者の努力不足ではなく、社会の仕組みの問題ではないか。本書では、このような問題意識から、貧困状態にある若者の現状や、なぜ若者が貧困から抜け出せないのかといった社会の仕組みを示すとともに、必要な施策についても提言している。 はじめに、第1章「社会から傷つけられている若者=弱者」で、著者が関わった貧困状態にある若者の事例を5つ紹介している。仕事中の怪我が原因で仕事と住居を失った21歳の男性、生活保護を受けながら不安障害を治療している34歳の女性、ブラック企業でうつ病を発症し退職した27歳の男性、正社員だが賃金が安いためアパートの契約更新料が払えず脱法ハウスで暮らしている24歳の男性、働きながら夜間定時制高校に通う17歳の女性。いずれも特殊な事例なのではと思いがちだが、珍しいことではないという。生活保護を受けている人もいれば、貯蓄を取り崩して生活している人もいる。このような若者たちを放置しておけば、社会保障の担い手になれないばかりか、福祉の対象となっていくことは明らかだ。 第2章「大人が貧困をわからない悲劇」では、若者に対する大人の指摘がいかに現実とかけ離れているかを明らかにしている。「1.働けば収入を得られるという神話」では、非正規雇用やいわゆるブラック企業によって、普通に働いて生計を維持することが困難になっていることが指摘されている。そして父母世代や祖父母世代も自分たちの生活だけで精一杯であり、「困ったら家族を頼る」ことが当たり前でなくなっていると「2.家族が助けてくれているという神話」で述べている。「3.元気で健康であるという神話」には、長時間労働やハラスメントで精神疾患を発症する若者が急増しているというデータが示されている。「4.昔はもっと大変だったという時代錯誤的神話」では、裕福な時代に生きる若者は昔に比べれば大変ではない、という指摘に対し、皆が貧しかった時代に比べて今の人間関係は豊かだろうか、連帯感が醸成されているだろうか、と問いかけている。さらに、劣悪な労働環境で働く若者の努力は報われるのかと「5.若いうちは努力をするべきで、それは一時的な苦労だという神話」で疑問を呈している。こういった神話がまだ信じられているから、政府も社会福祉も若者支援は必要ないと思っているのだという。 これらの「悲劇」をふまえて、第5章「社会構造を変えなければ、貧困世代は決して救われない」で、著者は5つの提言を行っている。 提言1・新しい労働組合への参加と労働組合活動の復権 提言の最初に労働組合について書かれていることに、労働組合への期待の大きさを感じる。「新しい労働組合」と書いてあるものの、その内容は、労働問題を個別に救済するだけでなく、業界や社会へ働きかけ社会化することである。それらはすでに連合全体として取り組んでいることであり、連合だからこそできることではないだろうか。また、最後の提言では、世論や政治・政策を変化させるために、ブラック企業、子どもの貧困、ワーキングプア、そして貧困世代といった言説を密につなげながら政治や政策に訴え続けていく必要があると訴えている。直接的にも間接的にも、若者の貧困に対して労働組合ができることはたくさんあると感じる一冊だ。 |