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中北浩爾 |
中央公論新社 評者:照沼光二(連合政治局次長) 本書には、すぐれた政治学者が徹底した聞き取り調査などによって得た自民党に関する情報がつまっている。これだけの情報が歴史的・体系的に整理・分析された本書は貴重である。折りしも、森友、加計学園など安倍総理自身に関係するさまざまな問題が浮上し、また、都民ファーストが台頭する中、都議選で大敗を喫するなど、「自民党一強」に綻びが見え始めている。本書はそれを見透かしていたかのように、「終章」で「無党派層が自民党に失望し、民進党をはじめとする野党、あるいは新たなポピュリスト政党に期待が向かう事態が生じれば、現在の自民党一強と呼ばれる政治状況は、急激に転換する可能性も秘めている」と予測している。自民党がいかなる政党であるか、それと対峙するうえで何が必要であるかを概観するにあたり、欠かすことができない一冊である。 第1章では、自民党の派閥の系譜とこれまで果たしてきた役割、また、その衰退の要因と現代的に有している機能を分析・解説する。本書に書かれているとおり、中選挙区制のもとでは、派閥の異なる候補者が政策を競い合うことで、自民党それだけで幅広い選択肢を有権者に提供してきた面がある。しかし、中選挙区制は金権腐敗の温床との批判を浴びるようになり、加えて、政権交代可能な二大政党制を志向する動きの中で小選挙区制が導入されることになる。 第2章では、派閥が衰退する中で、総理・総裁の権力が人事を中心に増大している現状を明らかにしている。第一次安倍政権は「お友達内閣」と揶揄され、閣僚の辞任が相次ぐ中で短命に終わった。第二・三次政権では、派閥間のバランスをとりながら、一方でライバルになりそうな人材の取り込みをはかるというかたちで、第一次政権の教訓が大いに活かされた、巧みな人事が行われていると著者は評する。 第3章では、事前審査制の仕組みと官邸主導との関係における変化、また、同じ官邸主導でも小泉政権と安倍政権の違い等を明らかにする。実は、民主党の2009年のマニフェストでも「鳩山政権の政権構想」に「各省の縦割りの省益から、官邸主導の国益へ」とある。この構想は、民主党内部の権力争いもあって、うまく機能せず、結果的には財務省主導に終ってしまった感がある。著者は、自民党は3年3ヵ月の野党時代に民主党政権の失敗をよく分析し、その後の教訓にしたこともあって現在の自民党があると分析する。そうだとすれば、民進党もいつか再び政権を担う日のために、安倍政権の官邸主導のどこに問題があるのか冷静に分析・整理しておいた方がよいであろう。 第4章では、国政選挙で4連勝中の安倍自民党の強さを検証する。著者の分析でとりわけ興味深いのは、絶対得票率が低迷している一方で、相対得票率が伸びている点である。小選挙区制のもとでは、投票率が仮に50%前後で推移し続ける場合、常にその半分強の票を獲得すればよいことになる。そのため、弱体化しつつあるとは言え、支持地盤が強く、また、公明党の固定票を当てにできる自民党はやはり強いということになる。もちろん投票率は高いに越したことはないが、民進党はいきなり欲張って100人の有権者から51票を獲得することをめざすのではなく、どのような状況であろうとも“まずは26票を安定的かつ着実に絶対得票できるようにするためにはどうするか”を真剣に考えるべきではないか。 第5章では、以上の点ともかかわって、自民党がいかに友好団体を大切にし、党員の管理・対策を徹底しているかがよくわかる。翻って、自分は民進党のサポーターだが、どのような位置づけとされているのか、正直、代表選以外でサポーターであることを実感する機会はない。厳しい中にあっても支えようという人たちのせっかくの意思をどのように党運営に活かすのか、あるいは一番大事な選挙の時にどのように活用するのか、という点では、自民党の方がはるかに優勢である。 終章では、改めて小泉氏と安倍総理のバックグラウンドや政治手法の違い等を解説する中で、現在の自民党と日本政治の今後を俯瞰する。著者は、テレビ等を通じて劇場型政治を印象づけることで無党派層へのアピールをはかった小泉氏に対し、安倍総理はポピュリストとは言い難いと分析する。安倍総理の主要敵はリベラル色の強い民主党・民進党であり、事実、過去4回の国政選挙における訴えの多くはそれとの対比であった。 |