双葉新書
800円+税
2013年4月
評者:西野ゆかり(連合連帯活動局次長)
<はじめに>
私たちが、今日、世界中で起きている出来事をどうやって知るのかと言えば、テレビか、新聞記事か、ラジオ、あるいはインターネットであろう。いずれにせよ、その殆どは「誰か」が発信した「情報」であり、自分が実際に見聞きしたものではないだろう。
では、はたしてその「情報」は本当に正しいものなのだろうか。おそらく多くの人が、テレビから流れるニュースや新聞報道に疑いなんてもっていないだろう。しかし、もしもその情報が間違っていたら、あるいは意図的な操作がなされて情報が改ざんされていたら…、もっとテレビの視聴率をあげたいがために、人々が飛びつくように脚色されていたら…。その上、そんなことに全く疑いすら持たずに、私たち国民がそれらの情報を全面的に信頼しきって受け止めていたら…。テレビや新聞などマスコミの持つ力の大きさは計り知れず、マスコミが国の将来を左右するほど強大な力をもっているといっても過言ではないかもしれない。
本書はこのような状況に警鐘を鳴らしている。テレビが政治をダメにする、すなわち国をダメにしていく…私たちは一体どうしたらよいのか。本書を読み進めて考えていきたい。
<本書の概要紹介>
本書は「政治家とテレビの距離感が危ういものになっている」との書き出しで始まり、その実情を次のように語っている。
テレビ局は広告収入を稼ぐために視聴率至上主義に走ってしまっている。いつしかニュース番組はワイドショー化し、政治報道も「本質」を伝えることよりも、「面白くて画になる内容」だけが報じられるようになってしまった。一方、政治家に目を向けると、一部の政治家はテレビに媚を売り、たくさん出演すれば名前が売れ、選挙も安泰と考え、国会ではなくテレビ優先の行動をとる。本来、政治家の役割とは、「複雑な世の中の課題に優先順位をつけること」であり、多くの人の利害がからみ、多様で多岐にわたる選択肢がある複雑な課題の中から、この国にとって現在に必要な解決策の優先順位を提示し、進めていくことである。矛盾や葛藤を抱えながら苦渋の決断さえもする必要がある。それでもその優先順位の選択からもたらされる結果については、政治責任を負うことで、政治家の信頼が確保されるのである。ところが「TVタックルに出れば選挙に強くなる」現象が起きていて、比例復活の鍵はテレビ露出であったと本書は指摘している。後援会が最も充実し、地域とフェイス・トゥ・フェイスで活動している候補者が比例復活できずに落選しているのだ。こうした利益の一致で、政治家とテレビの距離感は危うく、テレビが政治をダメにしている。もっとも地域利益優先の政治家もいいとはいえないが。
<ではどうしたらよいのか。責任は私たち国民にもある>
本書は、日本が先進民主主義国の中で、異例なまでにテレビへの信頼度が高く、「国際プロジェクト世界価値観調査2005によると、その信頼度の高さは80か国中4位であり、テレビが世の中に与える影響の大きさがわかる」と指摘している。つまり、前項で記したようなマスコミと政治家の距離感の危うさは、実はテレビと私たち国民との距離感の危うさからくるものであり、私たちの責任も大きいのである。テレビに踊らされず、「この情報は本当なのか?」「この評論はあくまでもこの評論家の考え方であり、自分自身はこの問題をどう捉え、どう考えようか」という姿勢でのぞまなければならない。ましてや選挙において自分たちの代表である政治家を選ぶときに「この人はよくテレビでみるから…」なんて、とんでもないことである。
視聴率至上主義も何とかならないものか。国民に強い影響力のあるテレビが、多様な情報を報じるよりも、視聴率を上げるため、ヤラセ、煽りも辞さず、編集技術が発達した現在ではテレビ局に都合の良いように編集することが可能になった。ジャーナリズムよりも視聴率至上主義が圧倒的な力を持っている。こうした番組を「断固見ない」とする毅然とした姿勢も大事である。
<おわりに>
本書が記述する報道番組に限らず、実はテレビドラマにも罠は仕掛けられているのではないだろうか。「多様な働き方」としてパートや派遣社員などの非正規雇用者が急増する中、2007年には人気女優主演による「ハケンの品格」というテレビドラマが瞬間最高視聴率28.9%を稼ぎ出した。この番組では、派遣社員の心の悲鳴を代弁することを意図していたかと思われるが、私は「派遣で働くことは恰好いい」という思いが視聴者の潜在意識に埋め込まれてしまったのではないかと懸念した。スポンサーはある大手派遣会社であった。これらのすり込みも危うい。
あらためて「マスコミの品格」を求めたい。
と言いながら、このテレビの力を利用して、労働組合のことをもっと世の中にアピールすることはできないものだろうか・・・多くのビラを撒いたり、デモ行進するよりも、労働組合のドラマを人気俳優主演でやる方が、ずっと世の中に大きいインパクトが与えられるのでは・・・などと思ってしまう今日この頃である。
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