呉学殊
『労使関係のフロンティア ~労働組合の羅針盤~』
〔増補版〕

労働政策研究・研修機構
定価3300円+税
2012年11月

評者:鈴木祥司(生保労連局長)

本書のねらい
 労働組合の存在意義が問われるようになってから久しい。労働組合が民主的な職場の形成に果たしている役割は大きいものがあるし、組織規模が減少しているとはいえ日本社会の最大勢力であるにもかかわらず、多くの国民からは正当に評価されていないどころか、その存在さえ意識されていない。しかし、社会の劣化が進む今日、その建て直しの勢力として労働組合に期待される役割はきわめて大きいものがある。
 本書は、過去10年間の日本の労使関係のフロンティア(新地平・最先端)をさまざまな角度から振り返り、労働組合が格闘する姿を描くことによって、労働組合運動のさらなる活性化に向けた羅針盤を示し、ひいては労働組合の復権をめざすものである。
 
本書の概要
 第1部「労働組合組織化と労使関係の深化」では、組合員が減少している中でも新たに結成された組合に焦点を当て、結成の背景や結成後の労使関係の検証を通じて、各所で「組合効果」が認められることを指摘する。パートタイマーの組織化事例を検証する章では、労使がそれぞれパートタイマーを正社員と同質に見ているか異質に見ているかに着目し、職場の一体感の向上、働く意欲や働きがいの向上などの面で、前者(同質化戦略)による効果は「会社、組合、組合員の3者に共通に及び、人件費負担や組合費を超えるものがある」とする。CSRと労働組合の役割に言及する章では、会社の悪しき慣行を是正するため労働組合が悲壮な決意で取り組んだ事例を紹介し、労働組合が組合員の声を背景に経営チェック機能を果たすことの重要性を訴える。
 第2部「企業グループ経営と労使関係の拡大」では、2000年前後の持株会社解禁や連結決算導入を背景とした企業グループ経営の強化が、中核企業・関連企業の経営や人事労務管理にどのような影響を与え、労働組合はそれにどう対応してきたのかを、7つの企業グループ(鉄鋼業2、製造業2、金融業3)を採り上げて検証している。その中で、企業グループ経営の強化に伴い人事労務管理の「波状化現象」(子会社の経営や従業員の処遇が親会社の影響を強く受けるようになる現象)が見られるとし、その影響を労働組合がしっかりチェックしていくことがグループ経営の健全な発展に肝要であると指摘する。そのための組合組織としては、当事者としてグループ全体をチェックしていく観点から「子会社の従業員を組合員とすること(単一労組化)が望ましい姿であろう」と提言する。今後、企業グループ経営が日本の企業経営や雇用慣行、労使関係にどのような影響を与えていくかが注目されるだけに、先見性ある事例研究といえよう。
 第3部「中小企業の労使関係と労使コミュニケーション」では、中小企業における労使コミュニケーションの重要性を指摘する。それを通じて労使の信頼関係を築くことが、従業員の意欲や技能、チームワークを高め、企業業績の向上や経営危機の回避につながる可能性を高めるとする。調査結果によれば、意外にも中小企業の社長の多くが「従業員の意向や要望を十分に把握して経営を行うべき」と労使コミュニケーションの重要性を認識していることからも、一方の担い手として労働組合の存在感を高める必要があるとし、組織化の重要性を訴える。また、コミュニケーションの担い手という意味では、労使の話し合いの場として従業員代表制に関する検討も求める。集団的労使関係構築の必要性がとくに大きい中小企業の実態にかんがみれば、著者が指摘するとおり、労働組合の優位性が担保されることを前提に、労働組合の活性化にもつながるような制度のあり方や、従業員代表の民主的な選出方法に関する検討が一層求められよう。
 第4部「個別労働紛争の解決・予防と労働組合」では、個別労働紛争が増加する中で、コミュニティ・ユニオンなどの合同労組(個人加盟ユニオン)が企業別組合とは異なる役割を担い、その存在感を高めていることを指摘する。行政・司法機関では解決できない紛争を合同労組が解決するケースも少なくないとされ、その背景として、本人の直接行動を求める行政に対し、ユニオンの共闘姿勢が本人に大きな勇気を与えているであろうことは想像に難くない。著者は、こうした公共的役割を果たしている合同労組への公的な支援を提言する。合同労組は総じて組合財政や人材確保など多くの問題を抱えていることからも、早急な実現を望みたい。なお、合同労組の活動実態については十分に掴めていない中で、本書で紹介されている調査結果は非常な貴重なものといえる。
 第5部「地方労働運動の展開・強化」では、地方労働運動の重要な担い手である連合の地域協議会の取組み事例を紹介し、その発展の可能性を探る。当該地協の活動は大きく「自前型活動」と「ネットワーク型活動」に分けられ、その領域は広範囲に及ぶが、連合が求めている活動をすべてこなせている大きな秘訣は「巻き込み手腕」にあると指摘する。ネットワークをフルに活用して、加盟組合・組合員はもとより組合OB・NPOなど地域社会全体を巻き込み、できるだけ多くの人が活動に共感・参加できるように創意工夫することで組合の存在感を発揮しているという。こうした点にこそ、「地域に根ざした顔の見える労働運動」への発展の手がかりが隠されているといえよう。
 
本書から学ぶもの
 このように本書は、けっして一様ではない労働組合がそれぞれのステージで闘う記録であると同時に、日本の労使関係のフロンティアを俯瞰するうえでの恰好の書である。大企業・中小企業の労働組合や企業外(地域・地方)の労働組合が、同じステージもしくは異なるステージの活動から学ぶことで、みずからの課題を相対化するのに大いに役立つものとなっている。
 一例を挙げれば「企業別労働組合と合同労組の関係」についてである。企業別組合の中には合同労組に対する否定的な見方が根強くあるが、合同労組は、企業別組合に活動の改善・充実を促している側面もある。企業内にひきこもりがちで「『社会的公器』よりも『企業内公器』という色彩が強かった」企業別組合だからこそ、社会を意識させる存在としての合同労組を理解する意義は大きい。
 また、冒頭、労働組合の存在感の低さに触れたが、本書で採り上げられているような組合リーダーたちの取組みは、私たちに労働組合の可能性をあらためて感じさせてくれる。ただし、そこには組合リーダーたちの壮絶な闘いがあることを見逃してはならず、こうした覚悟や努力なくして労働組合の社会的な存在感も高まりようがないことを認識すべきであろう。
 本書は、労働組合に対するエールの書である。労使関係に関わるすべての論点がカバーされているわけではないが、労働組合運動に携わる私たちは、本書を羅針盤に労働組合のさらなる社会的役割の発揮に努める必要がある。


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