『私の提言』

講評

第22回「私の提言」運営委員会
委員長 相原 康伸

 本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承し、2004年から「私の提言・連合論文募集」としてスタートしました。第8回からは「私の提言・働くことを軸とする安心社会」を掲げ、連合がめざす社会像実現のための提言を連合組織内外に広く呼び掛けてまいりました。「山田精吾顕彰会」から28回目、連合の事業として22回目を数える等、年々、多くの応募をいただきながら、その定着を図ることが出来ました。

 また、教育文化協会設立30周年の節目にあたる今回は、「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-の実現に向けて連合・労働組合が今取り組むべきこと」をテーマに、新たに「ILEC30周年記念・組合特別賞」を設ける等、労働組合が織りなす様々な日常に迫る工夫も凝らしました。

 今回、全国から寄せられた応募件数は計57編。連合加盟の労働組合役職員はもとより、「どなたでも応募できます」という呼びかけに呼応頂き、労働組合の無い職場で働かれる方々、また、学生や定年退職された方々など、幅広い皆さまから貴重な提言を賜りました。心より感謝申し上げます。また、労働組合役職員から19編の意味ある提言をいただきました。主催者としては、労働組合の現場の取り組みが提言の源であることをより一層、周知してまいります。

 提言の選考にあたる運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言度」「自身の経験を踏まえたオリジナリティ性」などを様々な角度から最終選考を進めました。その結果、委員の総意で「優秀賞」1編、「佳作賞」2編、「ILEC30周年記念・組合特別賞」3編、「奨励賞」1編、「学生特別賞」1編を選定しました。
 今回寄せられた提言は、「これからの社会と求められる労働組合の姿」、そして、「その実現に向けた具体的取り組み」等、高い問題意識と実践に裏打ちされた読み応えのある、また、労働組合の未来を感じさせる力作揃いとなりました。
 その中で、「優秀賞」には、SNSを活用した若年層が労働組合を知る機会の創出を求めるという学生からの提言が入賞を果たしました。若者の目線から、労働組合は「待つ存在」から「出会いに行く存在」に変わるべきという新鮮、かつ、具体的な提言は、多くの示唆に富んでいました。入賞おめでとうございます。

 入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の橋元秀一さん、金井郁さん、大谷由里子さん、吉川沙織さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。今回の57編の提言に託された思いを受け止め、連合運動に活かしていくことが私たちの使命です。連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」の実現に向け、次回以降もより一層多くの皆様からの提言をいただけるよう取り組んで参ります。

 結びに、応募いただいたすべての皆様、そして、公正なる審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に心より御礼申し上げます。


寸評

國學院大學名誉教授 橋元 秀一

 本年度の応募は、昨年より13篇も増え、過去最多に迫った。労働組合員・組合役員や学生からの応募が目立った。30周年記念として「組合特別賞」が設けられたり、教育文化協会による冠講座など大学で労働組合について受講できる数が増えたりしたことや広報努力の影響と思われる。
 しかも、例年以上に力作が多かった。組合員の作品では、指定管理者制度導入に伴う組合活動の教訓と現場からの課題提起、フードロス対策の経験、女性委員会での集団的検討による提言など、組合活動の成果が寄せられた。また、実務を担う組合役員調査による組織運営の改善提案、キャリア支援やリスキリングを重視するものなど、今後の組合のあり方や課題について提言されている。学生の作品では、学生や若者に労働組合の存在を理解してもらう方法の提言、非正規雇用労働者やフリーランサーの労働組合・協同組合への組織化、学生のインターンシップの中で生じている問題や組合の関与を期待する提言などがあった。それ以外の一般応募者からは、非常勤講師や障害者としての経験を踏まえた問題の指摘と組合への提言や、深刻化する地域社会の脆弱さに対する労働組合が取り組むべき課題を提示するなど、「まもる・つなぐ・創り出す」ことを通じて「働くことを軸とする安心社会」をめざす連合への熱い期待と有意義な提言がさまざま寄せられた。これらの作品の中には賞に漏れたものの、授賞に値するレベルの作品もあり、個人的には絞り込みにここ数年で最も苦しんだ。
 優秀賞は、大学3年生の大山佳祐氏、吉村透真氏、大崎康平氏の共同執筆による「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会~SNSを活用した労働組合を知る機会の創出~」である。「現代の日本では、「不満があっても言えない」労働環境が常態化しつつ」ある。とりわけ「現代の若年層労働者は「参加しない⇄見えない」のスパイラルに陥って・・・「低組織率→交渉力の低下→組合の見えにくさ(低可視性)→さらなる組織率の低下」という悪循環を生み出し・・・「教育機会の不足」「影響力の希薄化」といった要因と相まって、若年層の労働組合離れを加速させている」とする。それゆえ、「「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会」の実現を目指し、労働組合が果たすべき新たな役割として、SNS(ショート動画等)を通じた情報発信を推奨」している。こうした情報発信が非常に重要となっており、労働組合にとって急務である。本作は、簡潔ながらデータを踏まえて説明しており、より具体的な提言内容が望まれたが、若者自身からこうした情報発信を強く期待する提言が寄せられたことは重く受け止める必要があろう。
 佳作賞は、廣田一貴氏「「人材の流動化」による労働市場や職場への影響~今後の企業・労働組合に求められるもの~」、前田充康氏「外国人特定技能者100万人の受入れが進む中、適正な受入れと人間尊重に基づく共生社会実現のため連合の果たすイニシアティブの重要性」が選ばれた。それぞれが取り上げた論点は、近年ますます重要となった問題であり、組合として取り組むべき施策を提示している。
 次回には、これからの新時代における連合・労働組合に対するさらに積極的な提言を期待したい。


寸評

埼玉大学教授 金井 郁

 2025年春闘も、個々の単組や産別の取組みが奏功し、賃上げを勝ち取る組合が多く、高水準の賃上げを達成し、組合員にとっても社会的にも労働組合の存在感が高まっている。しかし、労働組合が取り組むべき課題は多様化しており、生活者、労働者、組合員、学生という様々な立場からの思いや提言が今年も集まった。今回は57件の応募があり、労働組合関係者からの応募が増え、またその内容も多様で斬新なテーマが多かった。
 優秀賞は、大山佳祐さん・吉村透真さん・大崎康平さん(國學院大學3年生)が執筆した「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会~SNSを活用した労働組合を知る機会の創出~」が選ばれた。同提言は、労働組合との接点を作ることの重要性、知ってもらうことの重要性をうったえ、それをいかに実現するのか具体的に提言している。労働組合が従来、不得意としてきたSNSの活用方法などの提案が具体的で、こうしたテーマに労働組合が取り組む必要があることを改めて読者にも訴えかけるもので、その構成、着眼点、文章力などが高く評価され、優秀賞となった。
 佳作賞は、廣田一貴さんの「「人材の流動化」による労働市場や職場への影響~今後の企業・労働組合に求められるもの~」と前田充康さんの「外国人特定技能者100万人の受入れが進む中、適正な受入れと人間尊重に基づく共生社会実現のため連合の果たすイニシアティブの重要性」が選ばれた。労働組合の視点から労働市場の流動化や共生社会をテーマとして取り上げ、具体的な提言を行っている点が評価された。
 組合特別賞には、石原崇弘さんの「“まもる”から“そだてる”へ ―フォー・ユーキャリアが描くキャリア支援型ユニオンの未来」、橋本英幸さんの「声を届けるだけでは、もう足りない ─指定管理者制度と現場からの提言─」、前田藍さん・楳田博之さん・田原孝次さんの「「食べ残しのない集会」への挑戦 ―しまね自治研におけるフードロス対策の実践と意義―」が選ばれた。とくに前田さんらのフードロスの取組みは、組合活動のなかでの弁当の廃棄をいかに減らせるのかといった独自の取組みで、フードロス対策だけでなく「廃棄労働」といった労働の側面につながる広がりのあるテーマにとして高く評価された。
 奨励賞は、長谷川麻紀さんの「誰一人取り残さない安心社会のために―労働組合が「すべての働く人の応援団」であることを目指して―」が選ばれた。未組織の小企業で働く立場から、賃上げ交渉を行った自らの体験を執筆したもので、未組織者が増える中で、今後の労働運動を考える上でも示唆的な内容であった。
 学生特別賞には、村松優さん(中央大学3年生)「すべての若者に公平なスタートラインを」が選ばれた。企業のインターンシップと採用のあり方がいかに変化しており、学生を「労働者」ではないまま、労働者のように扱い、それを学生がどのように受け止めているのかがよくわかる内容であった。インターンのあり方を労働組合としても検討していく必要性を感じさせるものとして、学生としての実感ある経験からの提言が高く評価された。
 来年も生活者、労働者、組合員といった様々な立場からの多くの提言が寄せられることを期待しています。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 今回で22回目ともなりました連合への「私の提言」論文の募集ですが第1回目から関わらせていただいているのはわたしひとりになりました。テーマも最初の頃には無かったSNSに関する論文やリモートワークやハラスメントなどに関する論文もあり、時代の変化を感じさせていただいたり、世の中の変化を気付かされたり、また変わっていないものもあることなどを改めて感じたり楽しく審査させていただきました。
 私が住む岐阜県大垣市は25人に1人が外国人と言われています。結果ゴミ問題や学校や地域でのコミュニケーションの問題もあり、今回、個人的には国際行政書士事務所の代表である前田充康さんの論文、「外国人特定技能者100万人の受け入れが進む中、適正な受け入れと人間尊重に基づく共生社会実現のため連合の果たすイニシアティブの重要性」を推させていただきました。結果は、佳作賞でしたが、非常に現実的な論文だと感じて評価しています。
 もちろん、他の論文も興味深いものがたくさんあり、毎年のことですが、審査するメンバーもいろいろ悩みました。結果、優秀賞に選ばれたのは、國學院大學3年生の大山佳祐さんを含む3人で執筆された論文、「SNSを活用した労働組合を知る機会の創出」が選ばれました。学生ですが、論文の形式もしっかりしていて、また、組合への提言としても大切なことが書かれていて論文としての評価も高かったです。
 また、今年は教育文化協会(ILEC)設立30周年ということもあり組合活動のリアルを知るための「組合特別賞」も設けられました。そのためか、組合の現場で活躍されている方々の論文も多く運営メンバーにとっても学びになりました。その結果、選ばれたのは、キャリア支援型ユニオンについて書かれたファイブスター労働組合中央執行委員長の石原崇弘さん、指定管理者制度と現場について書かれた自治労松阪市民病院職員組合の橋本英幸さん、フードロスの取り組みを書かれた自治労本部総合政治政策局の前田藍さんを含む自治労しまね自治研フードロス対策チームの3人が選ばれました。いずれも現場の活動を踏まえた提言で他の組合にも展開できる内容でもあります。
 「人材の流動化」について書かれた電力総連の廣田一貴さん、佳作ですが職場調査もされていて評価も高かったです。また、学生特別賞の村松優さんは論文形式としては難があったものの内容は連合も取り組むべき問題でもあり受賞に至りました。  奨励賞の長谷川麻紀さんの論文は実体験をもとによくまとまっていました。
今回は、全体として現場を踏まえての提言などしっかりした論文も多く、わたしとしては読み応えがありました。これからもこれらの提言をきっかけに組合活動に興味を持ってくださる人が増えることを期待しています。


寸評

参議院議員 吉川 沙織

 連合「私の提言」募集の運営委員として、第7回以降選考に携わる機会をいただき、評者にとって16回目を迎えた。すなわち、運営委員として15回以上携わってきたことになり、提言内容は当然ながら時代や社会の変化を反映していることが興味深い。  今回の第22回においては、教育文化協会の設立30周年記念として、「組合特別賞」を設けており、応募者が所属する組織で実績のある取り組みで、他の組織でも展開が可能なものが対象となったことから、応募者所属組織の取り組みについての紹介や提言が多かったことは特徴の一つである。
 そのような中、各運営委員が個別選考結果を持ち寄り、本審査となる運営委員会において活発な議論がなされた結果、優秀賞1編、佳作賞2編、組合特別賞3編、奨励賞1編、学生特別賞1編を選出した。ただ、その本審査において議論となったのは、優秀賞を学生の提言にするのか否かということ、組合特別賞うち1編については運営委員間で大きく意見が分かれたことなど、特に後者についてはこれまで15回以上の運営委員会の中で経験しなかったような議論もあったことは付記しておきたい。
 優秀賞に選出された大山氏(共同執筆)の提言については、SNSを活用した労働組合を知る機会の創出として、憲法・労働法などを含む法教育授業の実態を示し、労働法単独で授業が行われるケースがほとんどないこと、知識不足が労働組合のイメージを硬直化させること、高校や大学の正課に組み込むことは理念として望ましいものの、指導要領の改訂にはハードルがあることをデータを明らかにして示しつつ、非正規雇用や短期雇用といった不安定な働き方であればあるほど、労働組合を「知る機会すらない」ことの常態化を改めて示しており、問題意識や課題も明確、提言内容も具現化しやすいことから、運営委員の個別審査段階でも高い評価を得ていたことから優秀賞に選出されたものである。
 次に、佳作賞に選出された廣田氏については、労働市場の人材の流動化に着目した上で、より良い労働条件の構築に当たって労働組合の存在意義が非常に大きいことを論じ、人材の確保・定着に向けて果たす役割と、転職してきた社員の前の職場に労働組合があったということは基本的に考えない方がよいということを述べた上で、身近な存在として認識し共に活動してもらうため、他には見られないアプローチから提言をまとめており佳作賞に選出された。もう1編の前田氏については、昨今特に議論になることの多い外国人労働者の問題について論じており選出されたものである。
 奨励賞に選出された長谷川氏については、出典などは少ないものの、実体験に基づく説得力ある提言となっていることから選出され、学生特別賞については学生インターンシップについて論じており、社会的問題の提示でもあることから選出された。
 最後に、従前より指摘し続けていることでもあるが、提言の内容で実現可能なものについては連合等には活用して欲しいと切に願うものである。


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