『私の提言』

講評

第21回「私の提言」運営委員会
委員長 相原 康伸

 本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承して、2004年から「私の提言・連合論文募集」として衣替えし、スタートしました。第8回から「私の提言・働くことを軸とする安心社会」として、連合がめざす社会像実現のための提言の募集を、組合員のみならず幅広く呼び掛け、実施してまいりました。「山田精吾顕彰会」から数えて27回目、連合の事業となってから21回目となる今回は、テーマを前回と同じ「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-の実現に向けて連合・労働組合が今取り組むべきこと」といたしました。

 連合はもとより、教育文化協会HP、公募ガイドなどを通じて、今回は44編の応募をいただきました。「どなたでも応募できます」という呼びかけに呼応頂く形で、労働組合役職員のみならず、公務、民間問わず様々な職場で働かれる方々、さらには、自営業、学生、定年退職された方々など、実に幅広い皆さま方から応募いただきました。感謝申し上げます。これからはどのような社会、どのような働き方をめざすべきか、労働組合に何を期待するのかなど、時宜を得た多岐にわたる提言が寄せられました。どれも豊かな経験と高い問題意識を基とした意義深いものでありました。また、労働組合役職員からの応募が17編となりましたが、労働組合の現場から今後さらに多くの提言をいただけるよう、運営する側として一層の周知に取り組んでまいります。

 提言の選考にあたる運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言度」「自身の経験を踏まえたオリジナリティ性」などを様々な角度から最終選考を進めました。その結果、委員の総意で「優秀賞」1編、「佳作賞」1編、「奨励賞」1編、「学生特別賞」1編を選定しました。「優秀賞」には、労働組合の可能性に言及された提言が入賞を果たされましたが、ご自身の経験をもとに政策提言にまで高められたご努力に敬意を表したいと思います。なお、今回、寄せられた提言は「これからの社会、労働組合活動の姿」、そして、「その実現に向けた具体的取り組みは如何にあるべきか」等、その高い問題意識は、いずれも労働組合の未来を予感させる力作揃いとなりました。

 最終選考にあたっての議論経過は以上ですが、入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の橋元秀一さん、金井郁さん、大谷由里子さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。今回の44編の提言に託された思いを受け止め、いかにして連合運動に生かしていくかがわれわれの使命であると思います。来年2025年に、教育文化協会は結成30周年の節目を迎えます。連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」の実現に向け、ますます多くの皆様からの提言をいただきたいと考えております。

 また、最後になりますが、応募いただいたすべての方に感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に御礼申し上げます。


寸評

國學院大學教授 橋元 秀一

 夫婦別姓問題、看護人材、労働組合の情報セキュリティや地域社会との関わり方など、様々な重要問題の提言が寄せられた。受賞には至らなかったものの、優れた作品もあった。また、それぞれの人生経験を通じて得てこられた貴重なご意見も応募くださった。しかし、提言としては理解しにくいものもあった。提言審査の観点からすれば、提言する問題に関して、現状はどうなっているのか、何が問題か、その解決策としての提言を具体的に示すことなど、提言内容の明快さが求められる。
 審査結果として、優秀賞には、久保明日香「LGBTQ+の包摂をリードし、職場を変えられる実感のある労働組合へ」が決まった。作品構成がしっかりとしており、文章表現としても読みやすかった。内容としては、近年進みつつある動きの中で、「連合を含む労働組合がLGBTQ+の包摂をリードすることを提言」している。しかも、「個々の組合員や労働者が実際に行動することができるよう、日々の労働現場である職場から変えられる」観点にこだわり、提言の焦点が明確とされていることは評価できる。権利が法的に保障されている労働組合が取り組むことの意義が強調され、「組合員へのニーズ調査、意見集約、経営側への提言・要求、解決に至る一連のサイクルを回す必要」などを提言している。これは組合活動の大原則であり、それを職場からどれほど丁寧に実施できているかは、組合員の参画を左右するものであろう。「本提言を実行すれば、LGBTQ+の当事者の職場環境を改善することができるだけでなく、労働組合が実際に職場を変えているという実感を与えられる。・・・労働組合の存在意義が明瞭になり、若手を含む熱意のある組合員を労働組合に引き付けることも可能になるだろう。」と言う。まさしく、職場活動の活性化が問われていよう。
 佳作賞は、田中寛乃「地方連合会として労働組合の専従役職員のメンタルケアやサポートにどう関わるべきか~専従役職員を守るために地方連合会は何が出来るか~」である。表だって議論されてこなかった専従組合職員が抱えているメンタルヘルス問題への対応策を論じている。インタビュー調査にも取り組み、現状と問題点を踏まえ、地方連合会の役割として具体的提言を明快に示している。政策論としては、原因や要因のさらなる分析が望まれるものの、今後の取り組みに期待したい。
 奨励賞は、白鳥優一「組合役員の人材確保と人材育成への対応 ―「組合役員の隠された魅力」と「労働組合としての失策」とは―」である。今日の組合にとって深刻な問題を、データに基づきかつ調査も実施した上で、提言している有意義なものであった。ただし、組合は社会的産業的な役割も担っているので、単組に限定して論じる意義と限界が関説される必要があろう。なお、学生特別賞は、豊田真由「学生が安心して羽ばたける労働環境のために―学生目線だから言えること―」であった。アルバイトや就職活動経験から、ワークルール講習・認定を利用した制度の提言をしており、学生の状況や感覚での提案が評価され選ばれた。
 次回には、これからの労働組合、次代の姿へのいっそう多くの提言を期待したい。


寸評

埼玉大学教授 金井 郁

 2023年春闘2024年春闘と、個々の単組や産別の取組みが奏功し、賃上げを勝ち取る組合が多く、高水準の賃上げを達成し、組合員にとっても社会的にも労働組合の存在感が高まっているといえる。近年、インフレ、人手不足など急速に労働市場環境が変わり、ハラスメントやジェンダー平等、LGBTQ+への社会的な認識も高まる中で、生活者、労働者、組合員、学生といった様々な立場からの思いや提言も集まった。今回は44件の応募があり、労働組合関係者からの応募が多く、またその内容も多様で斬新なテーマが多かったのが特徴であった。
 優秀賞は、久保明日香さん(NECソリューションイノベータ労働組合)が執筆した「LGBTQ+の包摂をリードし、職場を変えられる実感のある労働組合へ」が選ばれた。同提言は、労働組合が労働環境を改善するために行ってきた組合員へのニーズ調査、意見集約、経営側への提言・要求、解決といった取組みを、LGBTQ+に関する領域にも適用することを提案する。会社や行政には、これらの職場の課題を解決するには限界があることを認識したうえで、労働組合は歴史的にも職場の課題を解決してきたことに期待をしている。また、もしLGBTQ+の当事者の職場環境を改善することができれば、労働組合が実際に職場を変えているという実感も一般組合員含めて持てるようになるという。どの提案も具体的で、こうしたテーマに労働組合が取り組む必要があることを改めて読者にも訴えかけるもので、その構成、着眼点、文章力などが高く評価され、優秀賞となった。
 佳作賞は、田中寛乃さん(連合東京)の「地方連合会として労働組合の専従役職員のメンタルケアやサポートにどう関わるべきか~専従役職員を守るために地方連合会は何が出来るか~」が選ばれた。労働組合の役員の過重労働やそれに伴うメンタルヘルスの問題は様々な場面で指摘されてはいるものの、真正面から組合員自身が取り上げることはなかったテーマである。また、それに対してインタビュー調査を実施し、それに基づいた分析がなされ、提言は極めて具体的であった。テーマの独創性、重要性をもつ提言で高く評価された。
 奨励賞は、白鳥優一さん(電力総連)「組合役員の人材確保と人材育成への対応 ―「組合役員の隠された魅力」と「労働組合としての失策」とは―」が選ばれた。どこの労働組合でも課題となっている組合役員をいかに確保し、育成していくのか、調査を実施しそれに基づいた分析が行われ、具体的で実現可能性の高い提言であることが高く評価された。
 学生特別賞には、豊田真由さん(中央大学経済学部4年)「学生が安心して羽ばたける労働環境のために―学生目線だからこそ言えることー」が選ばれた。学生の立場から、等身大にアルバイトと就職活動を通して感じた日本の労働現場の疑問についてまとめ、ワークルール認定資格を管理職が率先して取る仕組みづくりを提言している。書式や文章表現など粗削りだが、学生としての実感ある経験からの提言が高く評価された。
 来年も生活者、労働者、組合員といった様々な立場からの多くの提言が寄せられることを期待しています。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 今回、学生の応募が例年より少なかったこともあって、学生特別賞からの話し合いになりました。学生たちのテーマは、「子育てとの両立」や「非正規雇用労働者を取り巻く課題」があり、それぞれ労働組合への提言がありました。その中で、今回は、中央大学経済学部経済学科4年の豊田真由さんの「学生が安心して羽ばたける労働環境のために―学生目線だからこそ言えること―」が学生特別賞に選ばれました。「論文としては、書式や文章力が未熟」という意見もありましたが、本人の体験から伝わる内容に説得力やリアル感や説得力があり、豊田さんを推す審査員も多く、彼女が選ばれました。わたし自身、内定をもらったのち不安になる「内定ブルー」などという言葉も学びになりました。
 一方で、優秀賞は、ほぼ満場一致でNECソリューションイノベーター労働組合の組合員である久保明日香さんの「LGBTQ+の包摂をリードし、職場を変えられる実感のある労働組合へ」が選ばれました。わたしもこの論文を強く推しました。理由は、「LGBTQ+」が、現代社会において避けて通れないところまで来ているにもかかわらず、労働組合や企業が包摂に果たすべき役割を全うできているとは言い切れない現状があります。そこに、しっかりと切り込んだ論文であったからです。また、「労働組合の上部組織でノウハウを共有する」など提言もしっかりとなされています。
 佳作には、連合東京の田中寛乃さんの「地方連合会として労働組合の専従役職員のメンタルケアやサポートにどう関わるべきか」が選ばれました。「労働者がストレスを感じる要因について」、「労働組合専従役職員を取り巻く状況」などインタビューも含めてよく調査もされていて文章表現もレベルが高く、このまま講演などの資料としても使えそうな論文です。また、「労働組合の専従役職員のメンタルケア」に注目というのも興味深かったです。
 奨励賞には、電力総連の白鳥優一さんの「組合役員の人材確保と人材育成への対応」が選ばれました。こちらは、現実に労働運動に携わっているメンバーが感じている切実な課題であり、とても大切な内容です。サブタイトルが―「組合員の隠された魅力」と「労働組合としての失策」とは―となっていて、興味も惹かれました。何を認めて、何に向かい合わなければならないか、そして、どんなことを伝えていかなければならないかが書かれていて個人的には、執行部にしっかり読んでいただきたい論文です。
 どの論文も読みやすく、現実感と具体性があります。ぜひ、この4編をたくさんの労働運動に携わる人に読んでいただきたいです。


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